無限転生 ~LOST REQUIEM~ 作:とんこつラーメン
主人公の特性上、疑問を抱かれるのは仕方がない事なのです。
私の身の上話が一通り終わり、さてこれからどうしましょうかと考えていると、いきなりエルフナインさんからの質問が来た。
「あの…一ついいですか?」
「どうしました?」
「前にナナシさんが僕に教えてくれた『洗礼名』ってなんなんですか?」
「……それ、聞いちゃいます?」
「はい。ずっと気になっていたもので」
本当は話したくない。絶対に話したくない。
普通に話が長くなるのと、純粋に面倒くさい。
けれど、エルフナインさんから発せられる純粋無垢な視線には勝てそうにない…。
こんな私に誰がした。あ、私自身か。
「洗礼名?」
「なんだそりゃ?」
ほら~。他の皆も食いつき始めてるよ~。
なんかもう説明しなくちゃいけない空気になってきてるし~。
「ははは…別にいいんじゃないかい? もうとっくの昔に終わった事だし、別に話してはいけないって事でもないだろう?」
「それはそうですけど……」
あの時の戦いは後に『天獄戦争』と呼ばれ、歴史に名を残しているらしい。
あんなにも大規模な戦いは、後にも先にも無いだろうしな…。
「だったら、マーリンも説明を手伝って下さいね。どうせ、千里眼で全部見てたんでしょ?」
「バレたか」
「当たり前です。どれだけ頭が良くて、魔術師としての腕前が超一流だとしても、マーリンの行動は単純すぎるんですよ。だからガレスちゃんに怖がられるんです」
「え? 僕って彼女にそんな風に思われてたの? うーん…円卓の騎士最年少の女の子に怖がられたってのは普通にショックだな……」
将来有望間違いなしの美少女騎士を怯えさせるだなんて、世界中のオタク達を敵に回すの同義ですよ?
そこのところ、ちゃんと理解してます?
「はぁ…仕方がありません。どうせ、いつかは話さないといけなかったでしょうしね……」
ここにいる人達ならば、遠からず私のスフィアである『夢見る双魚』の事も看破してみせそうだし。
その時に慌てて説明するよりはずっとマシか。
「俺もずっと気にはなっていた。話してくれるか?」
「えぇ…いいですよ。けど、その前に飲み物を取りに行ってもいいでしょうか? 長話し過ぎて喉が渇きました」
「そうだな。小休止の後にナナシ君の話の続きを聞こう」
さて…少し頭の中を整理する時間は稼げたか。
一体どこから話そうかしら……。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
手元にあるアイスココアをチビチビと飲みながら、私はスフィアの事に付いて話す事にした。
因みに、マーリンはしれっと昼間からビールを飲もうとしたので拳骨を一発お見舞いしておいた。
飄々とした顔の頭の上にタンコブがあるギャップが普通に面白い。
「さて…洗礼名に付いて話すにはまず、スフィアに付いて話さないといけませんね」
「スフィア…? なにそれ?」
「直訳すると『球体』という意味になるけど……」
マリアさん。そのものズバリなんですよこれが。
「…スフィアとは別名『十二の至宝』と呼ばれる存在で、基本的に一つの並行世界に一つしか存在していません」
「並行世界に付き一つ…か。そりゃまた凄いレアな物なんだな」
「実際には、そんなにいい物じゃありませんけどね」
これを持ってから、私の不幸体質に更に磨きが掛かってるし。
名前とは真逆に、私には全く夢を見せてくれません。
「実際、私もとある世界に転生した時に偶然に近い形で手に入れたんですけどね」
「アレに関しては誰も予想は出来ないだろうね。スフィアの動きに関しては僕の眼でも観測は不可能だ」
「それは初耳ですね。マーリンでも覗けない物があるだなんて…」
「僕だって言うほど万能じゃないって事さ」
マーリンで万能じゃなかったら、世界中の人間が不自由って事になりますね。
いや…普通にそれで間違ってないとは思いますけど。
「スフィアにはそれぞれ『黄道十二星座』に対応した名前が与えられているんだ。そして、それに対応した人間の精神に呼応する形で発動する」
「星座の名前って聞くとロマンチックだけど……」
「なんだか、それだけじゃ済まなさそうデスね……」
あら鋭い。
切歌さんには本質を見極める能力があるのかもしれませんね。
「スフィア自体は大人の人間よりも一回りぐらいの大きさを持つ緑色の球体で、次元力と呼ばれる特殊なエネルギーを引き出そうとすると翠緑の光を放つんです」
「そんなにデカいのかよ…。ってことは、そのスフィアってのはオッサンの体よりも大きいって事なのか?」
「そうですね。弦十郎さんが丸々一人入るぐらいの大きさはあると思います」
「俺よりも巨大なのか……」
弦十郎さんも相当の大柄だとは思うけど、実際のスフィアは機動兵器のコクピットと同等の大きさがありますからね。
それぐらいないと意味が無いんですよ。
「因みに、次元力とは簡単に言うと、異次元から引き出される強大なエネルギーと思っていてくだされば結構です」
「割と大雑把なのだな」
「そうとしか言いようがないんです。まだ次元力が厳密にどんな存在なのかは判明していないので」
今のところは『巨大なエネルギー』ぐらいの認識しかない。
私だってずっとそう思ってるし。
「けど、どうして星座の名前で呼ばれるんだろう?」
「いい質問ですね、未来さん。お答えしましょう」
なんか地味に楽しくなってきたぞ。
これまでの転生先では教師も何回かやってきたせいかもしれない。
「どうしてスフィアが星座の名を冠しているのか。それは、太陽に集約されている、それぞれの星座の次元力を効率よく引き出す為なのです。その為には地球上にあるのが最善であるので、スフィアはよく地球のどこかにあるとされています。実際、私だって地球で見つけましたし」
「『地球で見つける』って時点で、話のスケールが違い過ぎるだろ…」
クリスさん。これで驚いていては、ここから先の話に付いていけませんよ?
もっとスケールは大きくなっていくんですから。
「スフィアには『ステージ』と呼ばれる段階が存在していて、それにより引き出せる力の大きさが変わってきます」
「勿論、決して無条件という訳ではないけどね」
マーリンの一言で皆が緊張した要に唾を飲む。
そこまで仰々しく構える必要はないんですけど……。
「ファースト・ステージ。この段階ではスフィアは普通の動力源であり、その気になれば誰でも使う事が出来ます」
「それは私達でも?」
「はい。ですが、問題はここから…セカンド・ステージからです」
はぁ…やっぱ話さないとダメ? 地味に鬱になるから嫌なんですけど…。
あ、話さなきゃダメ。はぁ~い……。
「セカンド・ステージに至るには、それぞれのスフィアが司る感情を根幹に持つ…即ち、スフィアに適合した資質が必須になってきます」
「感情が資質…? どういう事だ?」
「そのままの意味ですよ。十二のスフィアにはそれぞれに司っている『感情』が存在していて、それを強く発現させることでセカンド・ステージへと至れるのです。一応、参考までに教えておきましょうか」
『嘘』を司る『偽りの黒羊』
『欲望』を司る『欲深な金牛』
『矛盾』を司る『いがみ合う双子』
『虚無』を司る『沈黙の巨蟹』
『忍耐』を司る『傷だらけの獅子』
『悲哀』を司る『悲しみの乙女』
『意志』を司る『揺れる天秤』
『憎悪』を司る『怨嗟の魔蠍』
『反抗心』を司る『立ち上がる射手』
『好奇心』を司る『知りたがる山羊』
『慈愛』を司る『尽きぬ水瓶』
『夢』を司る『夢見る双魚』
「…これで全部です」
「名は体を表す…か」
「そうなりますね。そして、これらの名前はセカンド・ステージに至ってから初めて判明するのです」
「それまでは、自分が何のスフィアを持っているのかも分からないってことなのか……」
「はい。なので、何が覚醒のトリガーになるかは、その瞬間まで本人にも判別のしようが無いんです」
こればかりは本当にランダム性が高いと思う。
まぁ…スフィアの種類にもよるんだけど。
「けど、スフィアの覚醒は良い事ばかりではありません。セカンド・ステージに至ると、スフィアを持つ者は『スフィア・リアクター』と呼称されるようになります」
「ということは、ナナシさんも『スフィア・リアクター』なんですか?」
「えぇ。私は現在進行形でスフィア・リアクターです。スフィアとはそう簡単に離れられませんからね」
スフィアが離れる方法は…別に言わなくてもいいか。
今、重要なのはそこじゃないしね。
「セカンド・ステージに至ったリアクターには、スフィアが司る感情に応じた『反作用』が発生します。そのいずれもが、下手をしなくても死に至る可能性が非常に高いものばかりです」
「大半の場合は、その反作用に耐えきれずに脱落…即ち『死』を迎える者達ばかりだったようだ。実際には、意図的にリアクターを殺そうとしている訳ではなく、スフィアからリアクター達に対する試練のような物らしいが」
ここで案の定、全員が黙り込んでしまう。
そりゃ、下手したら死んでいました的な話を聞かされて平気な顔をしてられるのはマーリンぐらいだ。
「けど、その反作用に耐えつつ、司る感情を維持し続けると…そこから更に上の段階、サード・ステージへと至ります」
「サード・ステージに至ると、反作用は完全に無くなるばかりか、完全にスフィアと同化して『スフィア・アクト』と呼ばれる事象干渉能力を使えるようになる」
「ナナシくんも、その…スフィア・アクトが使えるのか?」
「勿論、使えます」
これもまた、いつも突発的に発動する能力で困ってるんだけどね。
けど、これに助けられたことがあるのもまた事実なわけで。
「ナナシちゃんは何のスフィアを持っているの?」
「私が持っているのは『夢見る双魚』…つまり魚座のスフィアです。スフィア・アクトは『未来予知』ですね」
「未来予知! それって本物の超能力じゃないデスかっ!?」
「そう…なるんですかね?」
あの頃の私の周りには、超能力の類を使える人間なんて山ほどいたしな~。
スフィア・アクト程度じゃもう驚くに値しないって言うか…。
私以外にもリアクターが4人もいたから、もっと驚かないと言いますか…。
「…で、セカンド・ステージ以上に至ったスフィア・リアクターに『とある連中』から勝手に『洗礼名』が与えられるんです」
「ここで洗礼名が出てくるんですね」
「因みに、洗礼名は基本的に『黄道十二宮を守護する天使』と『リアクターを表す単語』から構成されているんだ」
「成る程…だから『バキエル』だったんですね……」
やっと話の本筋に至れた…。
だから、スフィア関連の話は嫌いなんですよ。
そこに至るまででも凄く長いんですから。
「正確には『バキエル・ザ・ローズ』だけどね。確か意味は……」
「言わなくていいです! 黙りなさいマーリン!」
「『暗闇の中でも美しく咲き誇る薔薇のように、決して夢を諦めない心』…だったかな?」
「黙れって言ってるでしょうが!! その口を縫い付けるわよ!!」
完全に調子に乗ってる、この花の魔術師を黙らせる為に頬をビヨーンと伸ばすが全く効果が無く、結局は全部言われてしまった。
「薔薇…ねぇ……」
「お願いします…それだけはマジで忘れてください…。私にとっての黒歴史なんで……」
「えぇ~? 『ローズ』なんて綺麗で素敵だと思うけどなぁ~」
「それを実際に言われた方は溜まったもんじゃないんですよ……」
はぁ…どうして、ランドの『ウェルキエル・ザ・ヒート』みたいにカッコいい名前じゃないんでしょうか……。
もしくはセツコの『ハマリエル・ザ・スター』みたいに可愛い名前でもよかったし、クロウの『ズリエル・ジ・アンブレイカブル』みたいなクールな名前でもよかった。
ヒビキくんの『アムブリエル・ザ・オーバーライザー』は王道で好きだ。
「ところで、洗礼名を付けてる『とある連中』ってのは誰なんだ?」
「それを話し出すと、今日一日じゃ済まなくなりますよ?」
「…マジで?」
「マジです。それを話し始めるたら、スフィアのルーツから説明しなくてはいけなくなりますし……」
「奴らは、生きとし生ける者全てにとっての天敵であり仇敵だからね。話が長くなるのは当然だろう」
もしも話す機会が出てきたら、その時こそは全ての説明をマーリンに委ねよう。
絶対にそうしよう。うん。今決めた。
「そんなのがいたのかよ……」
「いました。壮絶な苦労と死闘の末に倒すことには成功しましたが」
「あの時の君達の功績は本当に大きい。なんせ、全ての並行世界と全宇宙の平和を見事に護ってみせたんだからね」
「そんなに大きなことをした自覚…私達には全く無かったんですけどね…」
あの時は兎に角、みんな必死に戦っていただけだ。
『御使い』の横暴を許せなかったってのもあるが、それ以上に引く事が出来なかった。
そうするにはもう私達は先に進み過ぎた。
色んな人達から希望を未来を託されて、私達は最終決戦の地まで降り立ったのだから。
「最後に一つだけ教えてくれ。ナナシくんが持っているというスフィア…それは今どこにあるんだ? さっきの話では相当に巨大だったという事だが…」
「確かにスフィアのサイズ自体は巨大ですが、だからといってサイズ変更が出来ない訳じゃありません。アレ自体が次元力の塊みたいなものですからね。紆余曲折あって、今では私の体内…というか正確には私の魂と完全に同化しています。なので、取り出すとかは絶対に不可能ですね」
「魂と同化…か。複雑な心境ではあるが、誰かに奪われたりする心配が無いだけマシか」
あぁ…成る程。弦十郎さんはそれを懸念していたんですね。
他のスフィアならばいざ知らず、私の『夢見る双魚』に関しては奪われる事は絶対にないんですよね。
寧ろ、譲れたら喜んで差し上げますよ。いやマジで。
これでようやく、私の無駄に長ったらしい説明は終わり。
そもそも、私はこんな説明キャラじゃないんですよ。
自分から言い出したこととはいえ、もう二度とこんな事は御免こうむります。
はぁ…今日はもう…本当に疲れた。別の意味で。
説明ばかりで申し訳ありません。
次回こそはシンフォギアっぽい話に出来たらいいなと思います。