無限転生 ~LOST REQUIEM~ 作:とんこつラーメン
戦闘シーンなんかは殆ど無いかもしれませんが。
赤いシャツの大男さんのげん…なんとかさんと会った次の日。
あれから何回か看護師が来て私の様子を見ていった。
その時に今回の私の名前でも分かるかと思ったが、こっちの事を呼ぶ時に限って何故か『えっと…』とか『んと…』とか言って言葉を濁した。
もしかして、今の私って名無しの権兵衛さんになってる?
これまでの転生で最初から名前が無かった事が無かったわけじゃないが、それはそれで色々と面倒なのだ。
他の名前ならばいざ知らず、自分自身の名前を考えるのは本当に難しい。
変な名前でも名乗ろうものなら、自分の墓にその名が刻まれるのだから。
こればかりは幾ら無限の転生で精神が極限まですり減っている私でも僅かながら気を使う。
「ふむ……」
そして、私の名前を呼んでくれなかった看護婦に頼んで、備品である手鏡を貸して貰った。
転生をして一日経過し、ようやく自分の顔を拝む事が出来たのだが……。
(この顔って…何回見ても『彼女』と同じ顔…だよね…)
ずっと昔…確か、24608回目の転生の際に訪れた『ムーンセル』とかいう場所で行われた聖杯戦争に参加した時に出会った『岸波白野』っていう女の子にそっくり…というか、完全完璧に瓜二つなんだよな…。
このゆるふわな感じの茶色い髪に、まるでリスを彷彿とさせる顔。
うん。どこから見ても『はくのん』そのものですわ。間違いない。
因みに、月の聖杯戦争に参加した時の私のサーヴァントは『アーチャー』のサーヴァントである『ケイローン』だった。
惜しくも4回戦で敗れてはしまったが、それまでの間にめちゃくちゃ勉強させられたお蔭で、引き継ぎ不可の対象外である知能指数がかなり向上したのをよく覚えている。
(どうする…? まんま『岸波白野』って名乗ってしまうか…?)
その方が面倒が無くて助かりはするのだが、仮にも出逢った人物の名前を借りるというのは流石に気が引ける。
そんなのは、9674回目に転生したアフターコロニーの世界で出会ったトロワ・バートンだけで十分だ。
(あの子には色々と世話にもなったし…異世界とはいえ、その名を貶めるような真似だけはしたくないしな……)
同じ死ぬでも、どうせなら誰にも迷惑を掛けない形で死ぬのが理想だ。
贅沢かと思われるかもしれないが、私に出来るのは本当にそれぐらいだから。
(まぁ…名前に関しては追々、考えていくことにしよう。今は、看護師さんに持って来て貰った新聞を読んで情報収集だ)
転生をした際には真っ先に新聞を読む。
色々と間違った情報も交じってはいるが、細かい所までは気にしない。
基本的な情報、今の年代、国などが把握出来れば大丈夫だから。
(昨日会ったマッチョマンの名前を聞いた時から想像はしていたけど、やっぱりここは日本だったか)
日本人がいるから日本だとは限らない。
海外に渡航してきた日本人なんて、それこそ探せば腐るほどいるんだから。
なので、ちゃんとした確認作業が大切なのですよ。
新聞に使われているのは平仮名と片仮名と漢字と英語。
実に立派な日本の新聞ですね。
けど、問題なのはその年号にあった。
(近未来…ってやつなのかな…)
窓から見る外の様子を見る限りでは、21位世紀前半と大差がないような気がするが、それはそこまでこの世界の文明が発達していないって事だろう。
別の世界の同じ年代ぐらいでは、普通に車が空を飛んでたし。
(まぁ…MSやHM、ATやWMやAB、KMFなんかが存在している世界よりはずっとマシか……)
人型機動兵器がある世界に転生した時には必ず、それらの操縦方法を一から学ばされる。
そして、なし崩し的にパイロットになって、そこから兵士になって、あっという間に戦死。それが毎回のパターンだった。
(取り敢えず…最初の死亡フラグは回避できた…と思っていいのかな)
私が今、ベッドの上で読んでいる新聞は今日発行された物なんだけど、出来れば昔の新聞とかも読んでみたい。
何事も無く退院できたら、まずは図書館にでも行ってみるか。
過去の情報を探るのに、これ以上の場所は無いからね。
「ふぅ……」
もうこの新聞は一通り見てしまった。
これ以上、ここから得られる情報は何も無いだろう。
(そういえば……)
昨日からずっと気になっていたけど、私が今いる病室って個室だよな…。
見ず知らずの人間の為にここまでできるだなんて、あの男が相当な金持ちなのか、それとも今まで私が沢山見てきた『度の過ぎたお人好し』なだけか。
……その両方って可能性は無い…と思う。
もしもそうだったら、私はこの世の中の理不尽さってのを久し振りに憎まなくちゃいけなくなる。
「………寝よ」
まずは体力を取り戻す事を最優先に考えよう。
といっても、もう立って歩くとかは普通に出来るんだけどね。
可能であれば、散歩とかして体を動かしたいんだけどな~…。
「失礼する。む?」
ノックの後に昨日の大男がはまたやって来た。
どうしてこの男は、私が寝ようとした時に限って来るんだ?
どこかでこの部屋を見張っていて、タイミングを見計らって来てるんじゃあるまいな?
「もしかして、寝ようとしていたのか?」
「…大丈夫ですよ」
ここで『そうですよ』というのは簡単だ。
だが、それで彼に帰られてしまっては意味が無い。
今の私にとって、この男は数少ない情報源なのだから。
「どうやら、昨日よりは回復しているようだな」
「お蔭様で」
単純に疲労していただけみたいだし、一晩眠れば良くなるのは道理だろう。
試しに自分の身体を調べてみたが、どこにも外傷の類は見当たらなかったし。
「新聞を読んでいたのか?」
「暇だったもので」
こう言っておけば取り敢えずの誤魔化しは利くだろう。
別に嘘って訳でもないし。
「その歳で新聞を読むとは、立派なものだ」
「はぁ……」
そこまで感心するような事だろうか?
子供でも新聞を読むような奴は今までにも沢山いたし。
「昨日に引き続き、またここにやって来たって事は、何か大事な用事でもあったんじゃないんですか?」
「む…分かっていたのか」
「試しに言ってみただけですけどね」
大人の男がこんな真昼間から堂々と病院にやって来るだなんて、それこそ暇を持て余している無色の人間か、もしくは何か私に対して大事な話がある『あっち側』の人間か…そのどっちかになるだろう。
私の予想が正しければ、彼は間違いなく『あっち側』の人間だ。
「……どうやら、君には下手な誤魔化しはしない方が良さそうだな」
そう言うと、彼はベットの傍にある椅子にドカっと座ってから、力強い目でこっちを見てきた。
「病院側に許可を貰って、この部屋の鍵は閉めさせて貰った。これである程度の踏み込んだ話も出来る」
(踏み込んだ話…ね)
一体どこまで話す気なのやら。
一先ずは聞き手に回るとしますか。
「…まず、俺はとある部隊の司令官のような立場にいる人間だ」
「……で?」
「少し前の事になるが、我々は既に壊滅したある組織の残党が日本に密かに渡って来て何かを企んでいる事を知った」
『とある部隊』とか『とある組織』とか、踏み込むとか言いながらもかなりぼかした表現をするんだな。
万が一に備えて、敢えて固有名詞を言わないようにしているのだろう。
「その連中の拠点に踏み込んで、大きな被害も出さずに連中を捕縛出来たまでは良かったのだが……」
あ…なんかもう話が読めてきた。
恐らく、その謎の組織の残党共の拠点に掴まっていたのが私でした…とかって言うオチなんだろ?
「……………」
「私に遠慮なんてしなくてもいいですよ。気にしませんから」
「すまない……」
苦虫を噛んだかのような表情をするだなんて、私の予想は当たっていると見ていいのかな。
「その拠点の中に、なんらかの人体実験が行われていた形跡があってな……そこに……」
「私がいた…ですか?」
「あぁ……。俺が実際に発見をしたわけではないが、見つけた時には君の体は培養液が入れられたシリンダーのような物に入れられていたらしい……」
ふーん……今回の私の出生はそんな感じなのかー。
どこからか浚われてから実験されたのか、もしくはこの体自体が人工的に生み出された物なのか。
「拠点内には君の身分を示す物が一切発見出来なくてな。そこで尋ねたいのだが……」
「私の事を教えてくれ…ですか?」
「鋭いな」
「いや、話の流れで予想は出来るでしょ」
1438回目に転生をした世界にいた子供にされた高校生探偵クンなら、もっと早くに答えに辿り着いていただろうね。
しっかし、私の事について…か。いつかは聞かれるだろうとは思っていたけど、まだこっちの答えが準備できていない段階で問われるとは……。
久し振りのベッド生活で鈍ったか?
「うーん……」
なんて答えよう? さっきからずっとこっちを凄い目つきで見てきて、下手な答えじゃすぐに嘘だってバレそうだ。
まだ自分の名前すらも考え付いてないのに、バックボーンなんて何にも思い付いてないッつーの。
「何も…思い出せない…か?」
「えっと……」
思い出せないと言うか、答えたくても答えられないと言うか。
いっそのこと、このまま記憶喪失で貫き通すのも手か?
実際、この世界で過ごした時間なんてまだ24時間程度なんだし、記憶が無いのは間違いない。
「では質問を変えよう。自分の名前は分かるか?」
「名前……」
どうしよう…自分の転生する前の名前なんてとっくの昔に忘れてしまったし、前回の転生時の名前をそのまま流用するか?
なんか、それが一番妥当なような気がしてきた。
えっと…前の名前は確か……。
「矢張り…記憶喪失か……」
あ…なんか向こうが勝手に結論出しちゃった。
言い出すタイミングを失っちゃったよ。
喉の所まで思い出しかけてたのに。
「酷な質問をして申し訳なかった。この通りだ」
「頭を上げてください。本当に気にしてませんから」
まだ二回しか会ってない相手に頭を下げられる者の気持ちを少しは考えろよ。
逆にこっちの方が困ってしまうわ。
「ところで、少しだけ気になった事があるのですが……」
「なんだ?」
「私を発見した時って、どんな格好をしてました?」
「そ…それは……」
今度はバツが悪そうな顔でそっぽを向いた。
その反応を見れば一発で分かる。
私ってば、見つかった時には真っ裸ーニバル状態だったのね。
そりゃ、そんな反応にもなりますわ。
(けど…これは本格的に参ったな……)
まさか、本当に一文無しどころか着る服すらない状態だったとは。
金が無いだけなら、なんとかなっていたかもしれないが、服まで無いとなるとな……。
目覚めた場所が病院じゃなくて街中とかだったら、適当にそこらを歩いている不良やヤンキーをどうにかしてから服や金をかっぱらうのに。
流石に病院でそんな事をすればタダでは済まない。
一発で牢獄行きになってしまうだろう。
(いや…待てよ? 刑務所の中なら、着る服にも食事にも困らないのでは?)
しかも、あそこ以上に安全な場所もそうあるまい。
そう考えると、態と犯罪を起こして捕まるのもアリなような気もしてきた。
「けど、どうして司令官さんが直々に私の所まで足を運ぶんです? そう言うのは普通部下などに任せるものでは?」
「司令官だからこそ、足を運ぶんだ」
あー…この人、馬鹿正直で絵に描いたような実直な人だ。
今までにも、こんなタイプの人って沢山いたっけ…。
「本部に来て貰えば、君の体の本格的な検査も、ここでは言えなかった事も全て話せるんだがな……」
「では、どうして病院に?」
「君の体調回復を最優先させた結果だ。本部でも治療などは行えるが、専門機関の方がより確実だからな」
……今、ハッキリと分かったわ。
この人…司令官向きの性格をしてないわ。
寧ろ、前線に立って仲間を鼓舞するタイプの人間だ。
宇宙世紀に沢山いたタイプだわ。
「……別に、そちらの『本部』とやらに行っても構いませんよ?」
「い…いいのか?」
「はい。その代り、条件がありますけど」
「何でも言ってくれ」
「情報端末…パソコンの類を使わせて下さい。今は少しでも情報が欲しいもので」
「そんな事でよければ喜んで。もしや、新聞を読んでいたのもその為か…?」
「それもあります。けど、暇を潰していたのも本当です」
「そうか…何か暇を潰せる物を持ってくれば良かったな……」
どこまでこっちに親身になる気なんだ?
お人好しもここまで来れば勲章物だな。
「改めて確認するが、こちらに同行して貰うという事で構わないんだな?」
「はい。今の私は文字通り、右も左も分からない状態なので。まずは行動の指針となる切っ掛けを見つけたいんです」
「いいだろう。だが、流石に今すぐには無理だから、また後日にでも迎えに来よう。その時は着替えなども持ってくるようにする」
「ご迷惑をかけします」
「それこそ気にしないでくれ。当然の事をしているだけなのだからな」
当然の事をしているだけ…ね。
それが言えるだけでも立派だとは思うよ。
世の中には、その『当たり前』が出来ない人間が山ほどいるんだから。
「では、今日はここら辺で失礼する」
「お疲れ様でした」
椅子から立ち上がり、弦十郎さん(たった今思い出した)が病室から出ていく。
終始、彼はずっと私に対して申し訳なさそうにしていた。
あれだけじゃ詳しい状況は分からないけど、どうやら相当に酷い状態で私は発見されたぽいな。
それはそれで気になる所だが、今は取り敢えず……。
「寝よ」
話をしている内に疲れてしまったのか、いい感じの眠気がやって来た。
これならば気持ちよく眠る事が出来るだろう。
そんなわけで……おやすみなさい。