無限転生 ~LOST REQUIEM~ 作:とんこつラーメン
強大過ぎる力に盲目的になって、自らの可能性を無意識の内に閉ざしてしまっているケースが多々見られるような気がするからです。
同時に、神の力で刻まれた力はそう簡単には覆せないとも思っています。
話の途中で食堂に入ってきた女性陣。
一気の場が華やかになりましたな。
「噂をすれば何とやら…か」
「響さんに未来さん。それに他の方々は……」
他に人がいないのも相まって、彼女達はすぐにこちらの存在に気が付いた。
特に響さんはこちらの顔を見た途端に表情が明るくなったほどだ。
「ナナシちゃん! 師匠と話をするって言ってたけど、ここにいたんだね」
「先程振りですね、お二人とも」
まずは頭を下げてからのご挨拶。
例え、別れたのがついさっきだとしても礼儀は大切だ。
「もしや、他の方々も響さん達と同様に先程の話に出てきた『対抗する手段』を持っているのですか?」
「その通りだ。我々は彼女達の事を『装者』と呼んでいる」
「そうしゃ?」
「装備の『装』に『者』と書いて『装者』だ」
「あぁ~…」
装者…ね。漢字の意味合い的に考えると、装者は世界中にいそうなイメージだが、そう言う意味ではないんだろうな。
「おい。ナナシって、オッサンと話してる奴か?」
「そうだよ。今日退院してきて、そのままここに来て貰ったの」
「ふーん…」
あの銀髪っぽい子は、なんだかこちらにはあんまり興味は無さげ。
別に興味を持って貰いたいとは思ってないけど。
「あの少女は…あの時の……」
「そうみたいね。元気になったようでなによりだわ」
で、あの青髪の女性とピンク色の髪の女性は私の事を知っている様子。
というか、あの二人ってどこかで見た事があるような気が……。
(あ。思い出した)
病院で読んでた雑誌に二人の事が記載されていたっけ。
デカデカと記事があったから割と覚えてる。
「マリア。あの人の事を知ってるデスか?」
「そっか。あの子を救出した時には他の皆はいなかったものね」
「どういう事?」
「ほら、覚えてない? 少し前にパヴァリア光明結社の残党の拠点に踏み込んだ時に……」
「あぁ…思い出したぜ。確かあの時、奴らの研究材料にされてたと思われる人間を先輩とマリアが見つけて救出したって言ってたな」
「それが彼女だ。当時は本当に一刻を争う状況だったからな。皆に報告する前に病院まで運んで貰ったんだ」
「結果として事後報告にはなっちゃったけどね」
…成る程。彼女達が私を救いだしてくれた張本人って訳か。
もうこの時点で、この世界で生きている間に絶対に返せない程の借りを作ってしまってない?
本当なら、適当に理由を付けてから一般人に戻らせて貰いたいところだが、何の礼もせずに去ってしまっては私自身が落ち着かない。
(にしても……)
あの黒髪ツインテールの子と、金髪で元気いっぱいそうな子…明らかに他の子達よりも年下…だよね?
中学三年生か、もしくは高校一年生ぐらいか?
どっちにしても、常識的にはどえらい事だな。
まぁ…世の中にはウッソ・エヴィンという13歳でMSのパイロットになってトップエースになった子もいれば、ジュドー・アーシタという弱冠14歳で最強クラスのニュータイプの一角にまで上り詰め天才児もいるわけで。
それに比べれば、まだまだマシな方なのかもしれない。
「弦十郎さん」
「どうした?」
「労働基準法って知ってますか?」
「うぐ…! 君の言いたい事はよく分かる……」
あ、其処ら辺の自覚はあるんだ。ちょっとだけ安心した。
宇宙世紀とは違って、ここはまだ西暦の時代だ。
しかも、ここは国連の下部組織的な存在な訳なのだから、例えそこにどんな事情があるにしろ、ちゃんとすべき所はちゃんとすべきだと思うのです。
「もしや、あの青い髪の女性は『風鳴翼』さんで、あのピンク色の髪の人は『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』さんですか?」
「私達の事を知っているのか?」
「翼さん達は有名人ですからね!」
「いや…病院で暇潰しと情報収集を兼ねて読んでいた雑誌にお二人の記事が載っていたので……」
「そういうことね」
あれ? なんか落ち込ませるような事言った?
記事によると、この二人は非常に有名な歌手らしいが……。
(歌手…歌ね……)
バルキリー乗りをしていた頃は頻繁に色んな歌を聞いていたっけ。
伝説の歌姫『リン・ミンメイ』に、『シャロン・アップル』も聞いてたし、当然のように『ファイアー・ボンバー』も嗜んでた。
『ランカ・リー』と『シェリル・ノーム』の二人は特に凄かった印象がある。
そういや、マリアさんってどことなくシェリルと似ているような気がするな。
髪の色とか、出してる雰囲気とか。
(にしても、なんだか皆揃っていい汗を掻いてるな。ついさっきまで運動してましたって感じだ)
体を動かす事は、心身ともに健康でいるためには必須の事だ。
どこの世界で軍人になっても、共通して教官から真っ先に教わっていた。
「ところで、おっさんはコイツと何を話してたんだ?」
「主に我々の事についてだ。今回の事で、彼女も部外者とは言い難くなってしまったかな」
「そっか……」
正確には『部外者になる前に関係者にされてしまった』と表現した方が正しい。
もし仮に何事も無く転生をしていたら、絶対に彼女達と関わり合いにはなろうとしなかっただろう。
けど、こうなってしまった以上は仕方がない。
自分にやれることを精一杯するだけだ。
「話したって、どこまでですか?」
「この部隊の事や、後は彼女を救出した時の様子。それから、装者のことだな。これに関しては、俺よりもエルフナインくんの方が詳しいからな。後で紹介がてらに説明して貰おうと思っている」
「エルフナイン…? その人が先ほど言っていた『専門家』なのですか?」
「そうなる。この時間ならまだ自身の研究室にいると思うから、後で機会を見つめて会せよう」
「よろしくお願いします」
どんな人物なのかは分からないが、装者達を見る限りは大人なイメージはしない方が良さそうだ。
兜十蔵博士や弓博士、早乙女博士たちのような根っからの研究者気質の人間ではない事を祈る。
「あの…そろそろ皆さん、ナナシちゃんに自己紹介をした方がいいんじゃ?」
「「「「「あ」」」」」
「なんだか流れで普通に会話してましたけど、まだナナシちゃんは私と響を除けば、マリアさんと翼さんしか知らない訳ですし……」
ここでまさかの未来さんからのナイスアシスト。
こっちとしては、ここで無理をして自己紹介をする必要はなく、生活の中でそれとなく知る事が出来れば何の問題も無い。
だが、こうして機会を設けてくれたのであれば話は別。
手間が省けるに越したことはないのだから。
そんなわけで、突如として始まった自己紹介タイム。
勝ち気で銀髪の少女が『雪音クリス』さんで、黒髪ツインテールの子が『月読調』さん、金髪元気っ子が『暁切歌』さんね。
よし、後はこっちが覚えるだけだな。
「私の事は『ナナシ』とでも呼んでください」
「ナナシさん…ですか?」
「はい。お恥ずかしながら、今の私には過去の記憶が無いものでして。自分自身の素性すらまだ分からない状況で下手に凝った名前を付ければ却って後で困ると判断して、適当に『名無し』と呼んで貰う事にしたのです」
「「「「「………」」」」」
…あれ? なんで急に暗い雰囲気になるの?
ちゃんと名前も言ったし、その理由も説明したよね?
もしかして、説明不足と思われた?
「あ~…ナナシくん。君の方から何か質問はあるか?」
「でしたら一つだけ」
「なんだ?」
「私の身柄を確保していたという残党の人間はここに捕えているのですか?」
「捕えてはいるが、ここにはいない。ちゃんとした収容所にて身柄を押さえている。だが、どうしてそんな事を聞くんだ?」
「いえ。単純に私がその人と直接話をすれば、自分の正体やらなにやらが分かるのではないかと思いまして」
単純明快かと思われるかもしれないが、こんな時は回りくどいやり方なんてせずにストレートに行くのが一番確実だ。
特に、今のような右も左も分からないような状況の時は。
「…分かった。今すぐには流石に無理だが、ちゃんと会えるように手配はしておこう」
「ありがとうございます」
予想通り、この弦十郎と言う人物は基本的に話せばわかるタイプの人物だ。
自分でも相当に無茶な頼みと分かっていたのに、それでも手配はすると言ってくれた。
一部隊を預かる司令官として、これは相当な覚悟が無ければ出来ない筈だ。
「よろしいのですか? 叔父様」
「あぁ…実際問題、俺達では奴から情報を聞き出すのに限界が来ていたからな。ならばいっそのこと、彼女に掛けてみるのも悪くは無いと思ったまでだ。勿論、最大限の安全を確保した上でだがな」
最大限の安全? 防犯ブザーでも持たされるんだろうか?
それとも、護身用の拳銃か?
一応、ハンドガンとライフル、マシンガンの撃ち方は知識として覚えてるけど…体の経験が完全にリセットされてるからなぁ…そこら辺は要練習かな。
ここに射撃練習場ってあるのだろうか?
「取り敢えず、今日はここに泊まっていくといい」
「それは有り難いですが、ここには宿泊部屋もあるのですか?」
「勿論だ。響くん達も時にはここに泊まっていくことがあるくらいだしな」
「そうだったんですね」
本当に、至れり尽くせりの潜水艦だな。
これを開発、設計した人物はどんな事を考えながら製造していたのだろうか?
「それじゃあ、私が案内してあげるよ!」
「私も一緒に行くデース!」
「切ちゃんが行くなら私も」
「なんとなく心配だから、私も着いていくね」
…完全に未来さんが保護者ポジションだな。
あの歳にして既に気苦労が多そうだ。
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響たちがナナシを連れて行ったあと、食堂に残ったマリアと翼、クリスの三人は弦十郎と彼女についての話をしていた。
「三人から見て、あの子…ナナシくんはどんな風に見えた?」
「なんつーか…感情の起伏が無さすぎだろ。話してる時も表情筋をピクリとも動かしてなかったし……」
「そうね。あくまで私の主観だけど…あの子はとても疲れているように見えたわ」
「疲れている…か。私も似たような感じだが、それ以上にあのナナシという少女からは『諦め』のような感情が見えたような気がする」
「諦め…か」
三人それぞれから意見を聞き、弦十郎は渋い顔をしながら腕を組む。
「おっさんはどんな風に感じたんだよ?」
「…俺が彼女の発見された状況の時の事を話すと、ナナシくんはいきなり自分自身の事を考察し始めた。人体実験でもされたか、人工的に作られた存在かもしれない…とな」
「マジかよ……」
幾ら自分の事が分からないとはいえ、そんな可能性を真っ先に思いついて平気な顔をしてられるだろうか?
少なくとも、クリスは自分には無理だと思った。
「しかも、それに対してナナシくんは何も思わないと言っていた。世界中を探せば似たような事例は幾らでもあると。自分だけが特別ではない…とな」
「確かにそうかもしれないけど…でも……」
過去に同じような体験をしているマリアは表情を暗くして俯いた。
どれだけ割り切っていても、自分の口からそんな事を言えるのはかなり異常だ。
「叔父様。彼女は一体何者なのでしょうか?」
「分からん。今は兎に角、情報が少なすぎる。ついさっきナナシくんが提案してきたように、捕えた錬金術師と彼女を会わせる事で僅かでも情報を手に入れられることを祈るしかない」
「だな……」
謎が謎ばかりを呼ぶ少女『ナナシ』。
警戒をする…とまでは行かないが、それでも注視しておく事に越したことはない。
「彼女の正体は不明ではあるが、たった一つだけハッキリとしている事がある。それは、ナナシくんは間違いなく『被害者』であるという事だ。三人共、彼女の事を頼んでもいいだろうか?」
「勿論よ。私としても、なんだか放ってはおけないし」
「あいつらに任せておいたら、どんな事になるか分かんねぇからな」
「了解しました」
ナナシを取り巻く状況は刻一刻と変わっていく。
これから先、彼女にどんな運命が待っているのかは誰にも分からない。
ナナシちゃん、早くも衣食住を確保。