わたしの命は想像、演じるのは姉さま   作:ひゃ

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続けられるかは未定。書いていいのかも正直分からん。

一話から変に暗くなってしまった。けど基本的にコメディの予定。


ほんもかぞくもだいすきでした

 夜凪(めい)は幸福者だ。家族が好きで、本が好き。

 

 

 

 わたしが小さなころ、「だいすきなかぞく」は3人いた。ままとぱぱとおねえちゃん。でも、わたしにとっては沢山ある書籍や映画も家族みたいに大好きだった。

 

「いきてきたなかで、いちばんだいすきなじかんは、ねるまえのえほんのよみきかせ!!」

 

 いつもままが読んでくれた。ままはとても優しい。優しくてにこにこでカレーもおいしい。でも、「毎日カレーが食べたい!」っていってもダメって言うのだ。「今日は野菜炒めよ」って言ってカレーじゃないゴハンを作ってしまう。

 ままは優しいのに優しくなくて、ピーマンも食べなさいって言う。

 

 おねえちゃんはわたしの1つ上。でもわたしは背の低い女の子で、おねえちゃんは背の高い女の子だから「とってもおねえちゃん」なのだ。

 ままみたいに「ダメよ」っていっぱい言う。走っちゃだめ、手をつながなきゃだめ、もう寝ないとだめ、そんな風にままの真似みたいに。

 ごっこ遊びが大得意で、お母さん役もお姉さん役もとっても上手。お人形さんを持って劇をしても上手。おねえちゃんと一緒に遊ぶのはとても楽しい。

 

 ぱぱはあんまり遊んでくれなかった。ゴハンも作らない。でもままはぱぱがすきみたい。おねえちゃんも、あの頃は好きだったんだと思う。わたしも好きだったけど、その分嫌いだった。

 好きな人が遊んでくれないってことは、ちょっと嫌いになっちゃう。

 

 遊んでくれないぱぱが遊んでくれるようになったのは、「ある日突然」という感じだった。わたしがまだ小学校にも入らないような小さな頃、絵本を読み聞かせて貰っていた時に。

 読み聞かせが大好きだった。世界で一番楽しい事だと思っていた。いつもままが読んでくれる、たまにぱぱが読んでくれる。

 それなのにぱぱはズルをしたのだ。えほんのなかのあの子たちがけんかするのは、もっと長いはなしなのにひとことですませちゃった!!

 

 ……当時の私は字が読めなかった。平仮名も駄目。幼女だったからしかたない、けど、何十回も何十回も読んで貰っていた絵本の内容ははっきりと覚えていた。

 

「あ、解んのか?字が読めるなら自分で読めよ。読み聞かせは子供が思うよりも面倒なことなんだ。」

「よめないもん!よんで!」

 

 いくらか押し問答を繰り返すうち、ぱぱはちいさなわたしが家にある全ての絵本を一言一句余さず諳んじていることに気が付いた。

 

「なあ、パパに絵本を聞かせてくれよ。いいだろ?今までのお返しに。だが、絵本を見ないで(・・・・・・・)読み聞かせてくれ。」

「いいよ!なにがいい?」

 

 愚かにも、というべきか、わたし(幼女)は言われるがままに何冊も何十冊も諳んじて見せた。だが、世間を見渡すと意外と「絵本を暗記してしまう幼児」というのはたくさんいるものだ。

 だから何も特別ではない。はずだった。

 

 急激に娘に興味が湧いたらしい彼は、次の要求を出した。

 

「自分で話を考えろ。いいだろ?」

「いいよ!!!」

 

 未就学幼女、全力の全肯定である。言い訳をさせて貰えば、当時のわたしは嬉しかったのだ。いっぱいかまってもらえて。いっぱいあそんでもらえて。

 

 いっぱいいっぱい考えた。

 

「いじわるなピエロがいじわるにしっぱいしたらとってもおかしくて(滑稽で)人気者になる話」

「シンデレラが魔女にいたずらをしてツイホウ(追放)されてしまってうつくしい旅人になる話」

「女の子がおじいちゃんのふりをして神様と口ゲンカをする話」

 

 頑張れば頑張るほど、褒めて貰えた。遊んでもらえた。愛して貰えた。

 ティッシュで蜂のおもちゃを作って人形劇をしようとしたときもあった。もっと褒めて欲しかったから。「ナマハチ」って名前を付けると、ぱぱはびっくりするくらい大笑いしていた。

 

 わたしは「怠け者の蜂」のつもりだったのに、ティッシュなのに「生の蜂」なのは洒落が利いてる、らしい。

 

 

 わたしはどんどん成長した。幸いなことに、私は生まれながらの本狂いだった。おかしな英才教育は苦ではなかった、それどころか、とても楽しかった。

 

 おねえちゃんと一度だけケンカをした。ぱぱがおねえちゃんと遊ばないのが悪いのだ。

 

 それでもわたしは成長した。小学校に入り、文字が読めるようになり、『溺愛』にはますます拍車がかかった。わたしは海外のファンタジー長編に傾倒した。わたしの作品は紙に書くようになり、どんどん長いものを書くようになった。

 わたしは『父親(小説家)』の書いた作品を読んだ。

 

 そこにはわたしのお話が混ざっていた。

 

 

 盗作ではない。プロと小学生では筆力が違う。リアリティも悲哀も、迫力も、美しさも、複雑さも、とてもわたしでは書けない、あの人の小説だった。

 ただ、その内容の元ネタがわたしの子供じみた作品だった、というだけの話だ。

 

 裏切られたとは思わなかった。嘘つきだとも思わなかった。ただ、私が勘違いをしていただけだと気が付いた。

 

 ただ、「愛されてないんだな」と思った。

 

 

 その日、家に帰ったらお母さんとお姉ちゃんとお父さんがいた。「今日は何にもできませんの日です」と断ってお夕飯も食べないで眠った。お母さんとお姉ちゃんは心配したけど、お父さんはどうでもよさそうだった。

 

「どうしたの?具合悪い?」

「具合は悪いけど大丈夫だよ。ドグラマグラを読んだだけ。」

 

 そんな嘘をついた。あの人は納得したような、嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 

 夜凪(めい)はそれでもしあわせ。家族が好きで、本が好き。

 

 家族が増えた。双子のレイとルイが産まれたので。わたしとお姉ちゃんは年子だけど、ずいぶん年の離れた弟妹ができたものだ。とてもとても可愛くて、双子を抱いたお母さんとお姉ちゃんは世界で一番幸福で美しい人たちに見えた。

 

 あの人はどうだったかな。それに、……わたしはどうなんだろう。ひとでなしのように見えていたかもしれない。

 

 お母さんとお姉ちゃんはとても優しくて美しい。それによく似てる。わたしはきっと父親に似ている。それがとても恐ろしい。

 

 お母さんが病気で死んでしまった。お姉ちゃんはずっとお母さんのそばにいて励ましていた。わたしはレイとルイの面倒を見ながら、お母さんとお姉ちゃんの着替えを持って来たり、料理をしたり、看病をしたり、お姉ちゃんを寝かしつけたりしていた。

 

「お父さんがきっとすぐに来るから、きっとちゃんとくるから!だいじょうぶ、大丈夫だから」

 

 お姉ちゃんがそう言っていたとき、来ないよ、と、わたしはそう思った。でも、わたしもわかっていなかった。

 

「景、命、ごめんね。お父さんを許してあげてね。」

 

 お母さんはわかってた。わたしよりもわかっていたんだ。あの人は来なかった。お葬式には来たけど……、あの時のことは思い出したくない。

 

 

 あの後、お姉ちゃんがレイとルイとわたしを抱きしめてくれた。カレーを作ってくれた。焦げててみんなで笑っちゃったけど、家族が大好きだと思えた。寂しくなってしまったけど、わたしはまだ幸福だと思える。

 

 

 

 家族が好きで、本が好き。愛している。

 弟妹は可愛い。お母さんは偉大だった。姉さまは偉大。わたし自身のことは……、ちょっと嫌いだけど。

 あの人のことは今でも好き。姉さまには言えないけど。愛されていなくても、与えられたものは消えなかった。わたしは本当に生まれながらの本狂いだった。読むことも創作も、やめられなかった。

 それに「あの人の事をわかっていて、それでも愛する」というのはわたしがお母さんに似ている証明みたいだから。

 

 

 

 姉さまはあの人が大嫌い。振り込まれるお金にも手を付けない。一生懸命アルバイトして、家族みんなを支えてくれてる。

 あの人はたまにわたしに会いにくる。でも近づけたくないみたい。いつでも守ってくれる。姉さまは、あの人に似ているわたしをレイやルイと同じように可愛がって愛してくれる。

 

 小説から離れることが出来なかった。家族から離れることも出来なかった。

 

 

 

 そしてわたしはまた成長して、小説でお金を稼げるようになった。オリジナルの同人作家だけど。収入がすこしある。運が良い事に。

 

 

 そしてもっと幸運なことに、姉さまが役者さんとしてデビューしましたっ。すごい。姉さまに才能と技術があるのはわかっていた。あの人はわかっていなかったと思うけど、いやでも気が付いていたかもな。

 才能があって綺麗な姉さまでも、成功できるかどうかには運も関係している。姉さまの凄さを世間が理解したのは素晴らしい事だ。

 

 姉さまは華々しく出世して、これから自分のやりたいことが出来るようになる。レイとルイにも余裕ができるし、ちょっとした贅沢も出来るようになる。

 

 

 しかし何よりも、大好きな家族が夢を一つ叶えたことを祝福しなくては!今日はわたしが料理します!姉さまの好きな物なんでも作るよ!

 

 

「ねえ命、命も欲しいものとかないかしら?いつもとってもいい子だし、私たち女子高生だもの。かわいい服とか買ってみようかしら?」

「姉さまとおそろいならば嬉しいけど、わたしは着飾るのには興味関心が向きません。わたしが求めるのは姉さまとレイとルイの笑顔と、美味しい食事を作ったり食べたりすることと、本を読んだり書いたりすることです。」

「そう……。でも、たまにはわがままを言ってね。……ごめんね。あの人が近づいてこなければ、もっと外出できるのに。」

 

 そう、あの人はかなり熱心にわたしに会いに来るのである。姉さまが守ってくれているが、おちおち散歩も出来ないくらいに。

 というか外に出してもらえない。姉さまに。

 

命姉(めいねえ)ー。命姉もおとうさんのこときらいなの?」

「もうルイ!その話だめ!」

「いいんだよレイ。でもね、大切なのは好きか嫌いかじゃなくて、似るか似ないかなんだよ。」

「きらいじゃないの?」

「命お姉ちゃん、おとうさんに似てるの?」

 

「似てるかもしれない。だけどそれは嫌なの。お姉ちゃんとレイとルイに嫌われたくないしね。だからね、大切なのは『もっとずっといいお手本』を見つけることだったんだ。

 お母さんとか、姉さまとか、テレビに出てくるウルトラ仮面とかね。」

 

 それに、小説の主人公たちとか。彼ら彼女らは誠実で魅力的な価値観の持ち主ばかりだから。それをお手本にして人間性を磨くのだよ!

 

 

 

 

 

 これは、天才女優と鬼才監督が出会って、とんでもないことをたくさんする話、……ではない。

 

 これは、姉に似ず芝居の出来ない妹が、異才の小説家の少女が、優しさとか慈悲とか義理とか人間として大切なことを大切にしながら、芸術家として成長する話。

 愛に飢えた彼女が、世界からの賞賛を受けて、けれど絶対に実写化したくないというこだわり(固定観念)を持つが故に、彼女の作品を絶対に演じたい姉や、絶対に映画にしたい舞台にしたい業界人たちから逃げ回ることになる喜劇(コメディ)でもあります。

 

 夜凪景は可愛い妹の小説の主演を、掴むことが出来るでしょうか?

 

 

 




夜凪命(よなぎめい)

景のひとつ下の妹。かわいい。黒髪おかっぱで500円のヘアワックスでオールバックにしてる。背は小さいほう。
空想してる時は視線がなかなか合わない。社交的で人に好かれるがけっこう猫かぶり。
家族大好き。本大好き。インプットもアウトプットも大好き。褒められるの大好き。承認欲求高め。役者の才能は無い。




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