わたしの命は想像、演じるのは姉さま   作:ひゃ

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恋愛要素のアンケート結果、過半数が「要らない」、4割が「どちらでもいい」とのことでしたので、とりあえずは無しの方向性で行きたいと思います。

「欲しい」の方もいましたし、感想欄で「百城千世子との百合が見たい」とのご意見もありましたので、番外編かIFルートとしてそちらもいつか書こうかな。


変人の相性、実証

カタタ、カタカタ、

 

 パソコンを打つ音を立てながら、続きの文章を考える。……『天使様』、流石にエタれないよなぁ。千世子さんに刺される。

 

 夜凪命、じゅうごさい。執筆中である。

 

 今日は休日。姉さまは公園で一人でお稽古。レイとルイは雪さんとクロヤマに連れられて、釣り堀に行っている。

 

 そしてわたしは、図書館で創作作業中です。最近いろいろあったので、書くのもちょっと憂鬱。

 ちなみにエタったことは無い。無いったら無い。未完結で(ちょっとだけ)放置している作品()たちはいるけど。

 

 この図書館はご近所で、そこそこ大きく、人の近寄らない自習室がたくさんあるので、わたしにとってはちょっとした秘密基地なのである。

 パーカーを着た座敷童 IN 図書館である。

 

 姉さまもここなら「一人で行っていいよ」って言ってくれますしね!!(ただし年に一、二度例のあの人(父親)と遭遇する)(姉さまには言えてない)

 

 最近は、姉さまが役者さんになったり、何故か南の島に誘拐されたり、大黒天の事務所という夜凪家の新しいたまり場が出来たり、南の島に誘拐されたり、わたしの天使に口説かれたりして、本当に、ほんとうにいろいろあったので、一人でゆっくりできるのは久しぶりな気がしますね。

 いや本当に。しみじみと噛みしめますよ静けさを。

 

 図書館の職員のお姉さんたちは可愛がってくれてるし。ノートパソコンも持ち込みオッケー。自作品のための参考資料を選んで持ち込んで、読み耽りながら書き綴る。

 

 少しの憂鬱さもだんだんと和らいで、二時間、三時間と時が過ぎて、頭は我を忘れるほど作業に集中して行ってしまう。

 だいじょうぶ。水分補給さえ気を付ければ、食事抜きでもなんてことはないのだ。

 

 あらかじめ考えていたノルマは達成した。『天使』のストックも増えた。推敲は明日にまわそう。おけおけ、今日めっちゃ調子がいいですわ。

 

 いま何時?三時、おやつの時間?ちょっと時間あまった、から、新しいネタでもかんがえよ~。

 

 花言葉の本ってパワーワードの宝庫ですよね。すき。でも恋愛系に偏りありよりのありでは?次ラブロマンスにしようかな~?やめとこ。ラブロマンス前提の復讐劇~沈没船を添えて~にしようかな?そうしよう。

 

 ノーパソをわきに除けて、紙のノートにガリガリとメモする。ほわ~今日まじで調子良いですねー!はかどるー!

 

バタン!

 

「あれ?なんだ人がいるんだ。はあ……って気持ち。」

 

 自習室のドアを開けて、気だるげな黒髪の男が入ってきた。

 

 急な雑音。物理的な意味でも精神的な意味でも。ノイズがはいる。うるさい。

 

「おいコラ、貴方様、集中力泥棒さんが。手前の罪を数えて下さい。さあさあさあ、どうかご理解ください。あなたは酷いことをしました。つぐなえ。」

 

 言い訳しておくと、わたしは何時間も集中して執筆していて、つまりはラリっているのである。

 

 そうじゃなきゃ初対面の殿方にこんな無礼な変人ムーブはしない。

 

 

 

 

 

 

「昼寝にちょうどいいんだよ。この図書館。」

 

 そう言いながらも、彼の手元には一冊の本がある。図書館だろ、読書してください。

 

「自習室を利用するなら、受付に名前と利用時間を書く義務がありますよね?書きましたか?」

「してない。……別に、怒られるわけでも無いんだし、いいじゃん、って気持ち。」

 

 ははぁん?

 こいつか。職員のお姉さま(おばさま)たちが夢中の、色っぽくてかっこいい「アラヤクン」って人は。確かに素敵な殿方、確かに怒られないだろう。

 

 わきに除けていたノートパソコンの画面を見られないように、パタンと閉じて紙のノートも片付ける。さっきは怒り心頭でしたが、頭が冷えました。この人もそんなに悪い事したわけじゃないですし、かえろ。

 

「ルール違反は褒められたことではないですけど……、まあわたしが文句を言うことでも無かったですね。因縁をつけて申し訳ありませんでした。

 わたしはもう帰ります。さようなら。」

「待って。」

 

 ぐいっと手を引かれて、わたしの体がぽふりと彼の胸元に飛び込む。なんというセクハラ。初対面の小さな女の子にしていいことではないでしょう。

 ちっちゃくて悪かったな!!!

 

「ひえ、セクハラ。普通に会話してくるタイプの不審者……!?」

 

 動揺するわたしに構わず、すんすんと匂いを嗅ぐ不審者の男。さてはマイペースか?落ち着け……!もちつけ。森で熊と出会ったら、背中を見せずにゆっくり逃げる……!

 

「やっぱり、臭い。けど、違和感あるよね。」

「……キレたいですけど、わたしは自分のマイナス点を受け入れられる女。改善いたします。続けて、どうぞ。」

「………………。」

 

 聞いてないですね、この変質者……。

 

 クサイ?わたしが?毎日お風呂に入ってるし、服装も清潔にしてるし、まさかそんなはずは……!ヘアワックスの匂いはそんなにキツイものでも無いし、うう、やはり思春期になるならば、制汗剤とか使うべきなのでしょうか……!?

 

「何の匂いもしないな、って思ったんだよね。最初。それって逆に珍しいくらいなんだけど、最近そういう人(星アキラ)と良く会うからさ、またか、って気分になったんだけど、でも違うだろ。

 お前、匂いがしないわけじゃない。俺が匂いに気づかなかっただけだった。」

「うわ、男版座敷童。」

「なんて???」

 

 変な人だぁ。変な人がいるぅ。

 うわぁ、我ながら急激に興味関心が湧いてくるのを感じます。父親に似たのでしょうか、ヤですね。仲良くなって小説のネタにしたくなってしまう。

 ホントにヤです、この衝動。

 

「とりあえず確認しますが、貴方の言う「ニオイ」は物理的な、つまりは「誰にでも嗅げる」匂いの話では無く、他と違う感性を持った一握りの方々にしか理解できない匂い、ということでよろしいですか?」

「うーん、……うん?うん。そうだね。俺と巌さんだけしか「臭う臭わない」って感覚は無いみたい。」

「そうですか。ではもう一つ確認させてください。わたしの匂いについて色々と思うところがあるようですが、良い悪いで言うならどちらですか?」

「え、知らないけど……。でも俺は、……俺も確認したい。知りたいな、って気持ち、です。」

「ええーー……。とりあえず、手、放してくれませんか?」

「嫌だけど。」

「どうしても、です。」

「ええ、しょうがないな……。」

 

 やった、解放されました。いえい!

 

 選択肢1、逃げる。わたしは姉さまと違って脚力には自信がありません。むり。

 選択肢2、叫ぶ。逮捕されたら変人が惜しい。図書館の評判ももったいないです。却下。

 

 うーん?わたしが考えあぐねている間にも、不審者も匂いを嗅ぎながら何やら考え事をしている。無表情だが視線がゆらゆらしているし、なんとなくそんな気がする。

 

 二人で目を合わせて顎に手を当て、揃って首を傾げる。はてなのポーズ?鏡写しでおんなじ仕草、かわいいですねこの男。

 

「……強すぎる匂いは人に嫌われる、でも、匂いに気づけなかったら、嫌われない、って考えていいのかな。

 巌さんにも聞いてみたいな、って感じ。ねえあんた、ちょっとついて来てくれない?」

「ごめんなさいですが、知らない人について行っちゃいけないよってお約束なので……。」

「誰との約束?」

「家族と雪さんとお世間様のお約束です。」

 

「俺の名前、明神阿良也。これで知らない人じゃないでしょ。来て。」

 

 みょうじん、みょうじん……?明神阿良也!?

 

 コイツ、姉さまにセクハラした男か!!??

 

 舞台役者の明神阿良也、どうりで色男なわけです。そして職員さんたちにモテるわけです。既婚者さんも独身さんも皆できゃあきゃあ言っていたのも、同じ男にお熱なわりにギスギスしてないことも、変だと思っていたんですよね。

 なるほど、芸能人。

 

「行きません。良い子は家に帰る時間なので。」

 

 パソコンとノートを鞄にしまって、早急に帰宅の用意を整える。

 わたしはすべてを理解しました。この男は姉さまの共演者、姉さまにセクハラした男。そして、姉さまは最近お稽古場から鬼ごっこをして帰ってくる。

 つまり、わたしと彼は出会うべきではなかったのです。姉さまがわたしを守ってくださっていた。

 

「もう?まだ昼間じゃん。その年なら朝帰りぐらいはするべきだろ。」

「あなたもしかして、不健全な男ですね?」

 

 そして何才に思われているのでしょう、わたし。通常なら小学生か中学生くらいに勘違いされることも多いのですが。

 

「どうしても、だろ。俺はアンタの手を離した。なら、次はそっちは意見を聞いてくれる番じゃないの?って思うんだけど。」

「レディに無理強いする男性は嫌われますよ。」

「それがそうでもないんだよね、案外。というかレディって名乗れる年齢じゃないでしょ。」

「ではリトル・レディを名乗ります。」

 

 くるりと踵を返して、追ってこないことを祈りながらその場を立ち去る。

 

「待って。……どうしても一つだけ。銀河鉄道の夜、の、理解が深まるやり方って、何かないかな?って疑問を持ってるんだけど、どう?」

「……不思議の国のアリスだと思いますよ。それではごきげんよう。」

 

 銀河鉄道、銀河鉄道の夜、ですか……。

 

 それがあの人と姉さまが創り上げる舞台。小説は読んだことがありますが……。

 

 列車が宇宙を走り、鳥はお菓子で出来ていて、死者が乗り、ジョバンニの切符があればどこへでも行けるはずなのに、「本当の幸せ」を見つけなければ親友の居る場所にもいけやしない。

 

 まるで「不思議の国」だけど、アリスの旅よりもずっと哲学的で、そして悲しい。

 

 アリスが目覚めるとそこにはお姉さまがいる。ジョバンニが目覚めるとそこにカムパネルラはいない。

 

 まあ、あの明神阿良也がアリスを読んでどう理解するか、そして銀河鉄道にどう繋げるかは、神のみぞ知る、といったところでしょうが。

 

 

 はあ、疲れました。驚きの出会いでした。おうちかえりたいな、かえろ。あ、自習室に持ってった本、まだ返してない。

 

「あ、メイちゃんもう帰るの?はやくない?」

「こんにちは、はい、あの、実は知らない男の人が自習室に突然入ってきて、逃げてきちゃったんです。たぶん皆が言ってたアラヤさんだと思うんですけど……。」

「ああー。あの子勝手に入ってって昼寝していくんだよね。ごめん、ちょっと怖かったでしょ?大丈夫?」

「平気です。でも、借りた本をたくさん自習室に残してきてしまって。どうしようかと。」

「うんうん、大丈夫大丈夫。私たちが戻しておくよ。」

「ありがとうございます!!」

 

 おうちかえろ。

 

 

 




明神阿良也
 「顔が似ている」という感覚を持たないタイプの人。命が夜凪景にとても似ていることに気付かなかった。
 不思議の国のアリスを読む前に巌さんに相談する。「やめとけ、余計混乱するぞ」って言われた。


夜凪命
 毎日なにかを書くが、たまに一日中集中してめちゃくちゃ大量に書く。そんな日の後は体調崩しがち。

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