その日、姉さまの目はグルグルしていた。わたしのほっぺはニコニコしていた。
「……大金が、振り込まれている。一体食費何か月分……、何のお金?」
「これはあれではないでしょうか、姉さま。初めてのお給料というやつでは。おめでとうございます。」
場面転換。時は進んで、その日の夜。銭湯でのこと。
「CMのギャラを受け取りたくない!?そんなのダメに決まってるでしょ!来月ネット配信だって決まってるのに!」
「ほらー、雪ちゃんの言うとおりだよー。貰っときなよー。」
「ですです。」
「受け取れないわ……。あの時私は父親じゃなくて、この子たちのためにシチューを作る芝居をしてたの。台本無視よ。役者失格だわ。」
「おねーちゃんはマジメ過ぎだよ!カフェのバイトクビになって今新聞配達だけなんでしょ!」
「……うん。」
「最近おねーちゃんだけオカズ一品少ないでしょ!?」
「そ、そんなことないわ。」
「誤魔化さないでください、姉さま。ちゃんと食べて下さらないなら、わたくしお姉さまよりも少ないお食事しか食べないことにいたします!」
「ルイもアッチが良かったのにー。」
「ヤダ。俺寂しい。……お前ら4人暮らし?」
「うん。おかーさんは昔死んでー、おとーさんはどっかにいてお金振り込んでくれてるんだって。でもおとーさんのお金は嫌だから使わないんだってー。」
「ふーん。……夜凪ー!!あれを商品として満足して買った会社がいんだぞ!お前そいつらに「価値ないもの売ったから金はいらねえ」って言えるのか!ケジメのつけ方間違えんなよ夜凪!!」
クロヤマの怒鳴り声が女湯まで響き渡る。うるせえですわ……。ところで銭湯の名前が「黒の湯」だったけど身内?
いちおう社長と新人の関係にあるクロヤマと姉さまであるが、力関係的にはクロヤマは双子たちにも負ける。でもお仕事関連では姉さまよりも強いからややこしいのだ。
ジャンケンみたいな三竦み?
社長からのお説教が「分かったかなど素人さん!!バーカ!バーカ!」で締めくくられたところで姉さまがフライアウェイ。
「ちょっと沈めてくるわ。」
仕切り壁を越えて男湯に乗り込もうとする様は、とても格好いい。カッコイイけどね!
「コラァア!」
「姉さま、子供が真似をいたします。お風呂場では走ったりしちゃダメなんだぜ……?ジャンプなんてもってのほかですわ!」
「う、ごめん、命……。」
優雅に着地した(すごい)姉さまがすう、吐息を吸い込み素晴らしい
「分かったわよ!次からちゃんと演るから早く仕事させてよ!」
「ハハッそろそろ自分の仕事は自分で持ってこい!」
「うるさいんだよ黒山ァ!!!家賃あげるよ!!!」
「ごめんなさいもうしません」
!?おばあさんの声、男湯から?ここからは声しか届かない。猫被りのお猫様よ、どうか我が声に宿り給え!
「あっ、大家さんでしょうか?騒がしくしてしまってごめんなさい。すみません、挨拶が遅れました、夜凪と言います。姉が最近こちらの大黒天さんに雇われて…。これからお世話になります。あとで改めてご挨拶に伺ってもよろしいでしょうか……?」
「なんだコイツ急に……。」
「クロちゃん静かにして。命ねーちゃんがヨソユキモードだから。」
その後、菓子折り(雪さんに経費で落としてもらった)を持って挨拶に赴きました。まる。
菓子折りが三倍になって帰ってきたぜ。クロヤマの家賃安くしてくれるって!(老人ハンターの本気)
「良くやった夜凪妹座敷童!」
「不審者卒業生の分際で上から目線が過ぎますわよ。刺してもよろしくて?」
「現役不審者だったことは過去一度もねーよ!」
「「自覚がなかったの……!?」」
姉さまと雪さんの驚愕の声が見事なハーモニー。
大人女性陣とクロヤマがいくらか揉めたのち、話題が「お仕事の勝ち取り方」のお話にそらされ(卑怯なりクロヤマ)、なんかテレビを見ることになったのである。場面転換。
クルクルと、
くるり、くるりと天使が踊っている。幼く無邪気で悪戯で、それでいて美しい。まるで人間じゃないみたいに、二次元みたいに。
”スターズの天使”百城千世子
『意地悪してごめんなさい。もう撮ってもいいですよ、好きなだけ。』
「女優百城千世子。今一番売れてる若手女優だな。お前たちの世代の代表格だ。夜凪、こいつをどう思う?」
「べ、別に好きとかじゃないかな。フツーかな。」
「フツーに天使。CGみたい。」
「二次元みたいな完成度です。それはそれとして映像に酔いました。いつもよりはましですが……。」
(あ、こいつらも夜凪だった。……酔う?今ので?)
「……一瞬で私たちを夢中にさせた。綺麗……。
ニヤリと小さく、クロヤマが笑ったのが見えた。この人、やっぱりあの人やお爺ちゃん達に似ている。
老人か、もしくは芸術家。
「無理ですよ!墨字さん一度、スターズに審査員として潜り込んでけいちゃん見つけて来たんでしょ!?もう目つけられてるし、オーディション受けてもどうせ落とされ―――」
「私この人に会ってみたい。」
姉さまがそういうのなら、わたしは応援しますけど。努力が報われない事も多いですし。……ところでプロジェクターってテレビ?ほんとに?
……それはそれとして、次女 命は姉さまと大人さんたちにご相談があります。
その映画「デスアイランド」は、集A社の人気コミックが原作である。制作は、というか主催はスターズ。
芸能事務所主催の映画。スターズの監督が撮り、映る役者の半分(ほぼメイン)はスターズ。それ以外の役者のオーディションもスターズが行う。
……どういうことなの?
ちょっと命は映画業界に詳しくないのでどういうことなのか理解できないんですが、映画って映画の製作会社が作るものなんじゃないの?
芸能事務所って芸能人の管理とかフォローとか、マネージメントをするところじゃないの?
よくわからない。よくわからないが、星アリサ、やばいひとです。
デスアイランドは超テキトーに言えば、集A社とスターズだけで完成する映画だ。だからつまり、……とってもなかよしなんだね!
「は?集A社でネット小説を書籍化?いやまあ、ありえなくはねえんじゃねえの?知らねえけど。あそこも今web小説大賞とかいろいろやってるだろ。」
声かけてくれたのは集A社。その後ろ(ほぼ隣)にスターズ。おはなしを要約すると、こう。
「「天使を演じるのは、ただの子供の遊びで済むだろうか」を集A社で書籍化して、そのままスターズで実写映画化しませんか???
映画公開日と書籍発売日を同じ日にして、世間の注目を集めましょう!うまくいけば、一躍時の人ですよ。
ご了承いただけない場合にも、一度お話させてください。つきましては、
(作者が未成年であることは公開してる)
夜凪命は良くご存じである。愛しのお姉さまの、触れてはいけない「龍の逆鱗」を。
「……命。どうしても「親御さん」が必要なの?」
「えっとね姉さま、わたしは今15才でしょ?」
「だからどうしたっていうの?命はあの人よりもずっと立派な人間よ。」
「わあい褒められた。でも姉さま、未成年者にはどんな法的契約も一方的に取り消すことが出来る、魔法のクーリングオフ特権があるの……。」
世界観的にはあまりにも早過ぎた羅刹女の登場。いや命には「姉さまが不動明王の表情をしている」と感じたが、しかし、必死に冷静さを保とうとする夜凪景は、むしろ逆にこれ以上なく怒りを表現しきっていた。
先程のシーンから誰も退室していないが、現在おしゃべりをする能力が維持されているのは、景と命だけである。
「だからね、出版社の人たちもクーリングオフされると困るから、親を「法定代理人」に指名してわたしの代わりに契約を結ぶの……。」
「あの人じゃなくて私じゃダメなの?」
「姉さまも未成年です……。」
「私には法定代理人なんていないけれど、それでも女優の仕事が出来ているわよ。」
「それは、雪さんとクロヤマが魔法のクーリングオフで「えいや」される覚悟で姉さまと直接契約してくれてるからです。」
だからたぶん、どこか余所の会社から引き受けた仕事に姉さまが未成年特権でブッチした場合、クロヤマが責任をとらされる。たぶん。
「それで、…………命はどうしたいの?」
「わたしは、今はデビュー出来なくてもいいです。もしかしたら、またチャンスが来るかもしないし。もうチャンスが来なくても、もっと大事なものが此処に在ります。」
「そう。……助かるわ。ごめんなさい、命。いつも負担を掛けて……。私の我儘に付き合わなくてもいいのよ?」
「いいえ姉さま!わたしはこう見えて、反抗期が制御できない悪い子なだけです!」
「……気に入らねえな。」
「言いたいことがあるなら、はっきり言ってくださいクロヤマ。」
「チャンスが来て、それが貴重なもんだって解ってんだろ?それを諦めてんのが気に入らねえ。」
「クロちゃんあんち?命ねーちゃんのあんち?」
「もっかい切る?カチンコソードつよいよ?」
「ちっげえよ!つかアンチじゃねえし!あー!文句は読んでから言ってやる!貸せ!読ませろ!」
「前々から思ってたけど、クロヤマって時々語彙力がJKよね。」
「おい!カチンコソード俺によこせ!コイツを斬る!」
わたしは個人的には、この話は受けたかった。集A社、つまり週刊少年ジャンプ、その沼に永住することを誓ったにわかオタとしては、自作小説が憧れの出版社から書籍化されるなら、正直まじに死んでもいい。
でも、でもでもでも、正直めちゃくちゃ未練があるが、夜凪命まだ15才、これからの可能性に賭けて!姉さまの笑顔のために!
チャンスの神様!見逃します!
夜凪景の雇用状態
おそらくたぶん、法定代理人を立てていない状態。だと思いたい。
もしもスタジオ大黒天が父親と繋がっていて、これまでも女優としての活動がすべて法的には親の庇護下で行われていたら、作者は黒山墨字を恨み、原作者をもう一度恨む。
自己解釈です!法律にも正直自信は無いです!
命ちゃんは本当は書籍化したかった。でもお父さんに頼らずにどうにかする方法がわからなかったので相談した。でも空気で「だめかも」と思ったので日和った。
実写映画化はイヤ。でも書籍化はしたい。でも親は頼れない。……流石にワガママが過ぎますわ、わたくし。今は牙を研ぐ時ですのよ。
今までの同人活動はほぼ自営業みたいな感じだったのかも。わからん。
「作品を家族より優先する」というのは夜凪命にとって禁忌。絶対に堕ちたくない悪への道、みたいな。ゲッシュに反することはしないのだ!