わたしの命は想像、演じるのは姉さま   作:ひゃ

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天使の素顔

 夜凪命、とても久しぶりの外食である。

 

 姉さまがデスアイランドのオーディションに合格し、お祝いに雪さんとクロヤマが食事に連れ出してくれたのだ。

 クロヤマの奢りである。くるしゅうない。

 

「こんなんじゃ私、役者なんて名乗れない。役者じゃなかったら私は一体何者なのよぉ……。」

「うんうんそうやって大人になんだよ。夜凪、飲め飲め。」

 

「コラァア!高校生に何してんじゃあ!!」

 

 オレンジジュースである。とても美味しい。ごくごく。

 

「おねーちゃん映画出れるってほんと?」

「てゆーか何飲んでるのよ……。」

「ジュースですよ、レイ、ルイ。」

「オレンジジュース。一緒に飲も。黒山さんがおごってくれるって。」

 

「何はともあれお祝いはしようよ結果オーライなんだし。」

「柊、こいつ雰囲気で泣き上戸になるぞ。もっと飲ませようぜ。

 ま、今後の課題が明確になって良かったじゃねーか。欠陥だらけのお前の芝居に足りないもの。その一つが”自分を俯瞰する力”だ。」

「フカン?」

「幽体離脱みたいなもんだよ。演じてる自分を外から見下ろしコントロールする技術だ。」

 

「比喩表現つかうなら、使うってあらかじめ言いましょう?クロヤマただの電波か、突然ファンタジーなことを言い出した変な人みたいになってますよ。」

「ひどいわ。私本気で相談してるのに宗教勧誘なんて。」

「クロちゃんまだオバケ信じてるの?」

「もしかしてまだトイレ一人で行けないの?」

「夜凪家このやろう。」

 

 まあわたしはオバケ信じてますけどね!説明力は大切ですが、その前にまずこの人は信用がない気がいたします。

 

「荒唐無稽な話に聞こえるかもだけど、役者さんにはそういう技術があるんだよ本当に。」

「雪ちゃんまで酔っぱらい?」

 

 まあしかし、たまの外食は美味しい。オレンジジュースは美味しいし、普段と違う味付けの揚げ物もおいしい。

 自分で作らなくていいのもしあわせだし(ほぼ主婦のJK)。

 

 外出するとあの人に捕まる恐れがあるけど、まあちゃんとした大人が一緒にいてくれるし。雪さんの事だけど。クロヤマの事ではないけど。

 不審者に不審者をぶつけたら、ゲームみたいにぽこんと両方消えたりしないかな……?あれ、ぷよぷよ?

 

 クロヤマの解説は、「スターズには技術があるから盗んで来い」という結論だった。まあそれに異論はない。

 言うことは正論なんだよな、この男……。

 

 まあ、わたしたち家族も、大黒天の人間も一緒にいけないのである。姉さまの、いや、女優 夜凪景の初めての一人でのお仕事だから。

 

 

 

 

 

「「私達、俳優の使命は観客を虜にすること。素顔を晒してありのままに演じることを人間というなら、

 だったら私は人間じゃなくていい。

 

 これでいいかな?夜凪さん。」」

 

(”天使”の顔が、一瞬視えた、とても怒っている。)

 

 

 

 

 

 

 天使の素顔は 誰も知らない

 

 産みの親(製作者)を除いては、の話ですけど。

 

 姉さまがとても怯えて帰ってきた。誰ですかわたしたちの大好きなおねーちゃんをおどかした奴は。え、百城千世子?

 そうか……、そんなら、しょうがないな……。

 

 場所はスタジオ大黒天。クロヤマが姉さまに目を閉じさせて、”客観的な視点を想像させる”稽古をしていた。

 この男、いろいろ手段を選ばない故にすこぶる傍若無人。のくせにやる事は有能なんだよな……。

 

「客観的に手前を俯瞰できないお前が、芝居をコントロールできないのは当たり前だわな。千世子とは違う。奴は自分の目玉を捨てたんだ。その代わりに、自分を俯瞰する複数の目玉を選んだ。客観的な美しさだけを求めて、自己を排除した。お前の言葉を借りるなら「綺麗なのに顔が見えない」だ。

 まぁ、プロだな。……(後略)」

 

「(前略)……私も千世子さんみたいに「商品」になればいいの?」

 

「なりたいか?」

 

 千世子さんはなりたくてなったんだろうな、と思います(小並感)。

 姉さまは役者の素顔は見えるのが当然、という前提の感性を持っている。そして百城千世子の顔が見えないことに違和感を抱く。

 つまり姉さまが普段見ている名作古典映画の役者さんたちは、「自己排除」においては彼女以下ということだ。姉さまは”画面の向こう側の彼ら”のことが好きなのだから。

 

 でも、百城千世子の素顔は、百城千世子の天使を愛しているんだと思う。自己を排除した作品は、故に創り手の”性癖”がモロに出る。

 彼女はきっと、天使が好き。天使を愛する大衆が好き。わたしの子(シャイン君)とおなじで。

 

「私は私のまま天使みたいになる。」

「だから「盗め」つってんだ。全部吸収して取り込んで来い夜凪。」

 

 結論が出たみたいですね。

 雪さんの説明によると、もうすぐ泊まり込みで撮影が始まるらしい。姉さまと久々に離れ離れになってしまう。妹弟は寂しいです。

 

 

 

 

 昆虫と、他人の横顔が好きな変な子供だった。そうしたら他人の目が怖くなって、現実の世界が生きづらくなって、逃げるように作り物の世界に没入した。

 

「役者に向いてる」

 

 アリサさんがそう言ってくれて嬉しかった。私のすべてをコントロールして、寝る事も忘れて、観客の望む仮面を作る作業に没頭した。

 生きづらかった世界ががらりと色を変えた。女優は天職だと思った。

 

 ある小説を読んで、私に、ほんとうに翼が生えたとすら感じた。私にまだ、沢山の可能性があることに気づいた。

 もう一度世界が色を変えて、演りたい事がたくさん増えた。

 

 作り物を演じてみて、男の子を演じてみて、男装してる子を演じてみて、悪い子を演じてみて、素直じゃない子を演じてみて、黒幕を演じてみて、賢すぎる人を演じてみて、愚かな人を演じてみて、

 

 そんな貴女が天使だと、もっとファンに愛されたくなった。

 

 世界が文字通り広がったけれど、そのきっかけを与えてくれた作品は思い通りにはならなかった。

 

 作者の家庭の都合で書籍化、映画化が断られてしまった。直接交渉することも出来なかった。メールだけのやり取りで、こちらの人間と直接会話すらしてくれなかった。

 

 未成年なのはしょうがない。どうにもならない。家庭の都合は、どうにかできたかもしれない。スターズを信頼して、頼ってさえくれれば。

 

 諦めたわけじゃないけど、行き詰ってしまった。そんな状況でも、他にも仕事がたくさんある。私頼りの酷いホンでも、完璧に演じたいから。

 

 

 明神阿良也がネット上に動画をアップした。すごく珍しいことだったけど、その内容がわたしにとっては問題だった。

 

 「天使遊び」の……、ファンアートって言えばいいのか、「演じてみた」って言うのかな?無許可で許される範囲なのか、私にはわからなかったけど。

 

 主人公のシャインを一人芝居で演じる、明神阿良也。その動画は、非常に注目されていた。「天使」は全く登場しないその演技が。

 

 舞台装置もまったくなく、本当にただの一人芝居だった。なのに、天使様の幻が画面の前にいる私達にも視えてくるような、そんな、表現力によるパワープレイ。

 

 奪われる、と思った。負けたくないと初めて思った。天使は、私の(モノ)だ。

 

 

 デスアイランドは私が思っていたよりも面倒くさい仕事だった。監督はウソツキだし、夜凪さんは制御不能で暴走しちゃって、みんなまで無茶な演技をしだして。

 私まで巻き込まれちゃった。でも案外、私の横顔も綺麗だった。

 

 夜凪さんはああいうのを”芝居”と呼んでいたんだ。私の芝居はもっと上手くなるよ。それ、盗んじゃったから。

 

 

 

 

 烏山武光と源真咲がそれを見つけたのは、偶然だった。それ、というか……夜凪似の座敷童?

 

「は?」

「ん?……座敷わらしは本当にいたのか……!」

「いやそんなわけないだろ。」

 

 スタッフのトラックの背後に浴衣を着たおかっぱ頭の少女。そして夜凪似。この状況は何だろう、と二人は思った。

 打ち上げとはいえ、デスアイランドの関係者以外がここにいるとは考えにくい。スタッフにしては若い、というか幼いし、共演者にはこんな少女は居なかった。

 

「いやマジで座敷童じゃ……。」

「俺に君の幸運をわけてくれないだろうか。必ずブロードウェイに立つ男になるぞ!」

「いや聞けよ。ありえないだろやっぱ。」

 

 この間ざしきわらしちゃん無言である。

 

「しかし夜凪に似ている気がしないか?」

「ああ、確かに…」

 

「わたしのことは秘密にしていてくださいね。」

 

 座敷童はそれだけ言って、夜の闇に紛れて消えた。二人の俳優は、なんかこう、場の空気に酔ったのかもしれない、とか、どうせ言っても信じてもらえない、とか考えて、忘れることにした。

 

 マジの座敷童だったら、俺たち売れるといいな、と思った。

 

 

 

 

 夜凪命は夜に隠れて、俳優たちの団欒を盗み見ていた。姉さまに友達ができるなんて、いったいいつぶりの事だろうか。

 姉さまの、いつもの偽らない横顔。知らない俳優たちの、観られてる事に気づかない気の抜けた横顔。知ってる女優の、観られることを意識した、天使の横顔。

 

 生身の人間しかいないんですが、何故か映像酔いが回ってきますね……。

 

 知らない大人たち。多分あの変な人が監督。クロヤマといい、映画監督って不審者ぶるのがノルマなのですかね?

 花火を手に持ってくるくるまわる、無邪気な姉さま。呆れたようなご友人たち。もっと爆発的な背の高い男。

 

 さっきのやつだ、とぼけた方。楽しいことするな……。

 

 和気あいあいとはしゃぎあう、芸術家たち。そう、役者も、演出家も、スタッフも、みんなが芸術家らしく楽しそうに見える。

 姉さまの「無地」字入りTシャツが、無秩序なサインにより前衛的なオシャレなTシャツになっていく。

 

 それをわたしは、じっと観ていた。夜に隠れて眺めていた。

 

 気配を消すのは得意分野なのです。

 

 でもそんな時間はそう長くは続かずに、なんだか騒がしくなって、星アリサが姿を現した。

 

 監督(たぶん)が何故かヤバイ叱られるという顔をして(クロヤマと同じ表情)、スターズの人たちが「何故ここに!?」という顔をして、他の人たちが「サプライズかな?」という顔をしていた。

 姉さまがきょとんとしていて、天使が天使の表情をしていた。

 

 ワレ、大ピンチ。捕まってしまう……。

 

「夜凪景、あなたの妹を捜しているのだけど。」

「……え?命?レイ?」

 

 ええい、ままよっ。ダッシュ!!

 

 隠れていた命は、走り出して姉に飛びついた。おなかに頭をぐりぐりするのである。

 

「え!?命!?どうしてここに!?」

「やはり此処に辿り着いていたのね……。捜したわよ。」

 

「さっきの座敷わらし!?」「夜凪さんの妹?」「どうして星アリサと?」「妹さん?なんで来たの?」「似てる~。」「誰だ今座敷わらしって言ったやつ。」

 

「姉さま、姉さま……。」

「命?どうしたの?どうしてここにいるの?レイとルイは?」

「姉さま……。で、死愛(デスアイ)原作漫画家のサインに釣られクマー。座敷童の誘拐は犯罪ですわ……。」

 

 うるうる。全力で媚び媚び。涙目で訴えかけるわたしはそう、確かに合意で連れてこられたのである。

 

 サインは!漫画家のサインは反則だろうがよ!オタクにとって!

 

 




【悲報】「夜凪命、出版社に対してちょろい」

描写の無いところは原作通りに進んだ模様。
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