わたしの命は想像、演じるのは姉さま   作:ひゃ

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作者の黒歴史に立ち会った皆、心配かけてごめんね。


巣立ちの条件

 

「ご丁寧にごめんなさいします。」

 

 夜凪命が倒れた翌日のこと。俳優やスタッフたちが泊まっていた施設の、姉が昨日まで寝込んでいたベッドから身を起こして、彼女は星アリサと話していた。

 

 映画化の話を、断っていた。

 

「……何故?「家庭の事情」という話なら、こちらで話を付けられるわ。」

「そこらへんは姉さまとお話ししてください。ですがそれ以前に、「天使遊び」は外に出す予定の無かった話なんですよ。

 だらだらまったり更新のお話なんです。書籍化どころか、完結の予定すらあやふやなんですから。」

「そんなもの、貴女が修正すればいい話でしょう。」

「それはそう。……んー、でもですねぇ、んーーーー。」

 

 まだ顔色の悪いまま、ベッドの上で髪をくしゃくしゃとひっかきながらぶつぶつと何か考え事をする『よるのいのち』。

 言葉を探すように、考えを纏めるように目を閉じて話し出す。

 

「天使には、いいえ、天使だけではないですが、我が子には愛されていて欲しいんですよ。作品は、永遠に息をしているものですから。死なない、死ねない以上、この子たちの命が幸福な物であって欲しい。

 

 ……ほら、アニメや漫画の、二次元の『実写化』を絶対に拒絶する人たちっているでしょう?わたしもかなりそれ(・・)なんですよ。

 

 空想は理想ですから。それに、読者の想像も自由ですから。千差万別の『解釈』があって、その全てに一致する『実写』なんてありえないでしょ。

 

 がっかりさせたくないし、失望させたくない。ましてや嫌われてしまったらどうしよう。

 

 ……なんてね。コホン、で、あるからして、わたしの作品を実写映画化することには同意できません。」

 

「…………私を、スターズを馬鹿にしているのかしら?そんなことは有り得ないわ。スターが大衆を失望させることは、決してない。」

 

「じゃあ『デスアイランド』はどうなんだよ。」

 

 命は唐突に、ごっそりと表情をそぎ落として対等な口振りで話し出す。

 

「ねえちょっと、デスアイランドですよデスアイランド。手塚監督が姉さまたちとつい昨日まで撮影していたあの漫画原作映画だよ。

 

 きいていいかな?一番撮りたかったのは、撮る必要があったのはなに?オリキャラのケイコ?そのラストシーン?主人公のカレン?千世子さんの素顔?

 

 さぞ素晴らしい映画(・・・・・・・)になったんでしょうけど、それって本当に『デスアイランド』???」

 

「何の事かわからないわ。……事実の確認を急ぎます。」

 

 星アリサ社長、撤退!!!

 

 

 

 

 

 ふう、ひとまず一勝、でいいのかなぁ?

 

 こんにちは、命ちゃんです。昨夜は失態を晒した座敷童です。ところでお腹がすきました。

 

「命!おかゆ作ってきたわよ。食べられる?」

「姉さま、おかえりなさい。喜んでいただきます。」

「あれ?アリサさんは?来てると思ってたけど。」

「さっき退室されました。今日は仕事をしに来た皆さんが帰られますからね。最高責任者はさぞお忙しいのでしょう。ふみゃ、あつい……。ですわ。」

 

 ふうふうしながら美味しいお粥を食べる。美味しい。勝利の美粥である。まだ敵地だが。

 目覚めてすぐ、姉さまに映画撮影で何があったか詳しく聞いていたから勝利できた。それが無かったら勝てなかった。

 手塚由紀治、昨日「叱られる」という顔をしていたのはそういうわけか。わたしは解釈違いには厳しいぞ。

 

 そして推しへの侮辱にはもっと厳しい!お前の推しがチヨコエルなのは理解した!だがデスアイランドと姉さまを踏み台にしてんじゃねえよ!

 

 でも助かった。あんがとう手塚さん。

 

「今日一緒に帰ろうね、命。そういえば、その浴衣どうしたの?」

「はっ、忘れていました!姉さま、至急電話を貸してください!雪さんに衣装を借りたまま遠出してしまいました!謝らねば!」

 

「はい。私のスマートフォンで良かったら、使ってください。」

「千世子ちゃんありがとう!!!」

 

 ふぉあ!?……姉さまが、ねえさまが天使を部屋に連れこんでる!人間の気配はなかったのに!

 

「命、雪ちゃんに電話繋がったわよ?」

「……お、お借りいたします……。」

 

 ふええ、天使さん(女優)にスマホ借りちゃったよぉ。あもしもし?雪さん?心配かけてごめんなさいです~。

 

 電話をしながら、そわそわする。なんだか肌がひりひりする感じがするのは、視られているからだ。めっちゃ見られているからだ。

 めいには理解できます。百城千世子、人間観察をするタイプの芸術家。

 

 だって今みられてるもん。

 

「はい、はい。ちゃんと無事に帰りますよう!ハーイ。ちゃお(またね)。」

 

プツッ、

 

「貸してくれてありがとうございました。ご用は済んだのでお返しします。」

「ううん。どういたしまして。夜凪さんの妹さんだよね?まだ挨拶してなかったから、話しておきたくて。」

「あっ、ほんとだわ。ごめんなさい千世子ちゃん、この子は(めい)。私の一つ下の妹なの。」

「夜凪命です。初めまして。」

「初めまして、百城千世子です。」

 

 ふ、不穏!なんだこの静かすぎるご挨拶タイムは!嵐の前の静けさですかね!?それはそうとしてマジ天使!

 

「まだまだ伸びしろのある天使だから、よろしくね。よるのいのち先生?」

「ふえ?」

 

 ぎゅうっと、小柄なわたしをまるで人形でも抱き締めるように。ぎゅうっとしてきた。アイエエエ!?天使!?天使ナンデぎゅうするの!?

 

 あ、わたしか。わたしがさきにハグしたんだ。

 

「ち、千世子さん。ちょ、ちょっと待ってください。いま現在のわたしは正常です。昨夜は錯乱していたのです。今が正気なのです。

 なので、言わないといけないことがあります。映画化は」

「ダメ。」

「ホワット?なんと?」

「だめだよ。断っちゃダメ。絶対に映画化するから。私が。」

 

 最後まで言わせてくださいまし。天使って未来予知もできるの?それとも女優はみんなできるの?もしかして姉さまもこれから覚える?

 

「何故、でしょうか。どうして断言なさるのですか?」

「私が演りたいから。それだけじゃだめ?」

「構いません。……構いませんが、それだけではないのでしょう?演技っぽいですし。心当たりがあるなら、全て知ってみたいものです。」

「第一に、私が演りたいから。それから、第二じゃなくて最大の理由は、大衆がそれを望んでいるから。

 

 わかってるでしょ?今の貴女の読者は、特に「天使を演じるのは、ただの子供の遊びで済むだろうか」の読者さんたちは、皆がそれを望んでいるよ?

 映画して欲しいと思ってて、私に(天使に)天使を演じて欲しいと思っていて、そしてそれが実現すると確信している。思い込みみたいなものだけどね。愛するものは自分の希望を叶えてくれる、っていう無意識の傲慢。

 

 ファンって、そういうものでしょ?天使は愛されているんだから、貴女の天使様(作品)はとっても愛されてるんだから。期待に応えないと、がっかり(・・・・)させちゃうよ?」

 

 

 ……まさしく、仰る通りで。

 

 実写映画化することで嫌われる。それが二次元のよくあるパターンだ。だけど、わたしの天使はすでにそのルートを外れている。

 

 初めから、実写映画化期待作として人気に火が付いている。だから、映画化しないと失望させる。嫌われる。

 

 つい先刻、星アリサ社長に告げたお断りの理由。あんなのは詭弁すぎる。断れない理由ははっきりしているのに、それをそのまま断る理由として述べるなんて。

 

 ヤダ、わたくしペテン師。

 

「わたしの大切な作品に、大好きな我が子に、しあわせに愛されて欲しい。それは当然の想い。

 

 ……ですが、その為に自作品を籠の鳥にするつもりはありません。わたしの作品ですが、映画化すれば、アニメ化すれば、漫画化すれば、他の誰かの作品にもなる。

 独り占めしたい、そんな気持ちはありますが、それでは毒親というものです。創り出した以上、巣立ちを見送る義務があります。

 

 確かに、千世子さんの言う通りですよ。映画化のおはなし、断ってはいけません。」

 

「……そう思ってたなら、どうしてアリサさんに断るなんて言ったの?」

「……命、私のせいかしら?」

「いいえ!いいえ、姉さまのせいなどではありません!確かに家庭の事情というのもありますが、それ以前の問題、信用の問題です!」

 

「信用の問題って、なにかな?」

「ですからつまり、そう、初対面の御方にうちのこをお嫁にやれるものですか!?お婿にだってだめです!そういうおはなしです!

 

 『デスアイランド』先輩の件だってまだ納得できていません。信頼の無いかたに、わたしの作品の、わたし以外の製作者にはさせられません!」

 

 うちの子が侮辱されたら、無視されたら、虐げられたら、貶められたら?そんな心配が付きまとう。信頼できる相手なら、喜んで巣立ちを見送ろう。

 

 いやゴメン嘘。泣きながら見送る。

 

 百城千世子さんは、信頼できる。わたしの天使様を任せられる。でもスターズは?手塚由紀治はどうだ?

 

 姉さまとデスアイランド先輩を蔑ろにするような、そんな相手にはとても我が子を任せられない。

 

「つまり、私のことは信頼してくれてるんだね?」

 

 

「なら、私にすべて任せて。天使様は主人公じゃない。けど、私は主役だから。だから、監督も、脚本も、スタッフも、他の俳優も、もちろんスターズも、全部に私の影響が届く。

 

 『よるのいのち』先生が認められない雑音(ノイズ)が入ってたら、私が責任をとってなんでも貴女の言うことを聞くよ。

 

 だから、私が天使を貰っても良い?」

 

 わたしを抱いたまま、天使が耳元で悪魔みたいに囁いた。

 

 

 

 

 

 

 一方東京、無人の舞台劇場にて。二人の男が、舞台演出家と映画監督が話していた。

 

「感情ってのは臭うもんだからよ、俺が欲しいのは(くせ)ぇ役者だけだ。確かにこの女は俺の舞台に出る資格があるかも知れねぇ。

 気に入らねぇのはお前だよ黒山。俺を利用して良いとこだけ持ってこうってか?

 

 潰すぞコラ。」

「ウィンウィンでしょうが。夜凪はきっとあんたの最後の舞台に相応しい役者になる。……その妹も、あんた無き(亡き)後の天球の、心強い仲間になるかもしんねぇしな。」

「新人の家族を、稽古期間中見学自由にしろって?おいおい、授業参観じゃねぇんだぞ。一、二度様子を見に来るとか、差し入れに来るってんならともかくだ。稽古は見せ物じゃねえ。本番じゃねえんだ。」

「あんたんとこの役者(ガキ)がネットに上げてる、あの芝居。あれの原作はその『妹』の書いた話だぞ。」

「……なんだと?」

 





爆死のダメージは、スランプのダメージを吹っ飛ばした、気がする。良い物を書きたいの気持ちが溢れたので。だけどこれも爆死したかもしれんと不安に思う。いきるってつらいんだなぁ。by作者


今話の命ちゃんは、いつもオールバックにまとめてある髪が解けています。なので髪を掻いたりもしています。(普段はしません)
そして天使にハグされながら(あっ、シャワー浴びたい。しにたい。)とかこっそり思ってたりします。

クロヤマはたぶん命にまたキレられる。
未成年の個人情報!ですわよ!?

手塚監督がデスアイランドでしたことは、命ちゃん的には理解はするが絶許案件。

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