始めよう、始めよう。まるで意味のない語らいを。

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たとえ話その1

 ――語らおう、語らおう。

 

 日が沈みかけ、空が藍色と茜色に染まり始めたころにその催しは唐突に始まる。

 

 ――思い思いに語らおう。互い違いな主張を繰り返そう。

 

 青い色の空を背負う影と、茜色の空を背負う影。

 互いが互いの形を認識しただけで彼らは語り合いを始める。

 

 ――結局のところ、分かり合えなんてしないんだから。

 

 どちらからともなく発せられた"例えば"という一言から語り合いは幕を開ける。

 

『ヒトが君自身を責め立てる』

 

「キミ自身に人相手に責め立てられるような覚えはない」

 

 なんてことはない、日常を顧みればよくあるともいえるような状況。

 二つの影をより多くの、色のない影が囲む。

 

「悪いことなんて何もしていない」

 

『きっと知らないうちに何かをしてしまった』

 

 茜色の影と、藍色の影が順に口を開く。

 

『皆、自分を見てくれている』

 

「みんな、勝手に押し付けてくる」

 

 藍色の影は恨めしそうに、茜色の影は嬉しそうにそれぞれの声を広げる。

 互いを言い負かせようなんて考えずに、ただただそれぞれの考えを口にする。ただそれだけがこの時間の目的だというように。

 

「勝手に希望を押し付けて、勝手に失望して」

 

『自分を信用してくれて、自分に任せてくれて』

 

 一歩、藍色の影が前に出る。一歩、茜色の影が同じだけ後ろに下がる。

 互いの主張に妥協点はない。お互いがお互いに、極論であり続けるために。

 

『託されたんだからいつまでも大切にする。失くしてしまうことはない』

 

「勝手に押し付けたものを持ち続けるはずがない。無くすのなんて当たり前だ」

 

 藍色の影がまた一歩、歩みを進める。今度は茜色の影が二歩、後ろに下がった。

 ここは色のない影が消えて、空を藍色が覆っている。

 

『それはきっと、愛おしいことだ』

 

「それはとても、哀しいことだ」

 

 最後の最後まで、互いが譲ることはなく。けれど空は藍色が覆っていく。

 ほんの少しだけ残っていた茜色が身を潜めて、影は一つだけが残る。

 

 バランスを取るような器用なことはできなくて、互いに歩み寄ろうとしてもそれは互いの主張を蝕んでいく。

 藍色と茜色の境目は混ざり合うことはなくて、どこまでも二つの色が隣り合わせに居るだけだった。

 

 どちらもを抱えることはできないから、どちらか一つに決めていく。

 決められたらそれを持って、決められなかったほうを捨て置いて。そうやって時間が過ぎていく。

 今日の空は晴れ模様。藍色の空がとても鮮やかに世界を塗りつぶしていた。

 

 ――語らおう、語らおう。

 ――答えなんてどこにもないことを語らおう。


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