続くかは分からないです
・・うくん・・とうくん・・・さとうくん
「んあ。」
やや気の抜けたような感じで返事をする。名前を呼ばれたような気がした。隣を振り向くと、気の悪そうな顔の少女が恐る恐るといった感じで見ていた。
「佐藤、お前ここ分かっているのか?」
高圧的な態度でものをいうのは黒板の前に立つ先生。寝ていたのだからもちろん分からない。
「・・・分からないです。」
寝る前の記憶を照合して、一か八か答えてもよかったが、合っていてもいい展開にはいかないだろう。
「・・・今度から寝るなよ。」
あまり問題児ではない自分に対するあたりはこんなものだ。いつも寝ているわけではないのでこれくらいのあたりでいいのだろう。
「はい。」
そう返事をし、自分のノートを見る。ミミズが張ったようなシャーペンの後を消し、板書を写す。勉強というより作業をしている感じが否めない。
そんな感じで授業は終わり、昼休みの時間に入る。
「珍しいね、佐藤君。」
話しかけてきたのは隣の少女、美月早紀。綺麗な顔立ちで優しい性格の大和撫子を体現したような美少女であった。同じクラスもそうだが他のクラスの男子からも熱のこもった視線が投げられているが彼氏がいるというのはまだ聞いていない気がする。
「まあ、そうだね。起こそうとしてくれて、ありがと。」
美月さんとの関係は同じクラスメイトというだけで丁度いい。付き合いたいと思わないわけではないが、自分は眼中にないだろう。
「佐藤君っていつも一人だけど、友達いるの?」
「・・・ちゃんといるよ。」
ときどきよく分からない質問してくる以外はいい隣人関係だが、人の心を抉り出す質問を不意に聞いてくる。いつも一人で弁当を食べているからそう言われても仕方ないかもしれないが。
高校二年、佐藤隼人の日常はこんな感じだった。毎日が楽しいわけじゃない。だからといって苦痛というわけではない。
そんな日常はすぐに崩れ去った。
「佐藤君、何か床光ってない?」
「床?」
下を見ると、ちょうど自分のところが発光していた。しかもこれはよくあるファンタジーなどで見る魔方陣のようなものだ。
そしてそれは美月さんの下にも同じようにあった。
光は一層強くなり、飲み込まれるような感覚に陥り、気を失っていた。
騒々しい声に目を覚ます。西洋風の大きな広間のような場所、あたりに見えるのは見たことあるような顔ばかりだ。40人ほどだが自分の高校の学生、教員であった。ここはどこだ、何が起こったのなど困惑の声から、勇者召喚来たー!といった歓喜の声が聞こえてくる。
「・・・佐藤君?」
「美月さん、なんだろこれ?」
知っているはずもないだろうが聞いてみる。だがその答えはすぐに返ってきた。
「異世界の住人よ!静まれ!」
見るからに偉そうな人が広場の奥の台座に座って声を上げた。周りには武装のようなものを身にまとっている人たちがいた。
「突然、こんなところに呼び出して申し訳ない。すまないが、異世界の住人たちよ、私たちに力を貸してはくれないだろうか。」
それを聞いてみんなガヤガヤと話す。
「異世界?力?佐藤君、あの人たち大丈夫かな?」
「どうだろう、だけど、さっきまで教室にいた俺や美月さんがここに連れてこられて、他のクラスメイトが全員いないのも不自然だ。誘拐という点なら間違いなくここにいる誰かが気づくはずだ。」
でたらめというには不自然な点が多すぎる。バラバラの位置にいる人をこうもうまく捕らえられるものなのか。周りを見渡してみても、困惑してる人が多いという印象を受ける。制服だけでなく、体操服姿の人もいる。チョークを持っている人も見受けられる。
(今の時間、昼休みじゃなかったか。位置だけじゃなく時間帯が違う?だめだ、よく分からん。)
「・・・よく考てるね。」
どこか感嘆したような言い方な気がする。普段、あまり考えないように見えているのだろうか。
「だからといって説明できるわけじゃないが、あの人の言う事を聞かないことには何も分からない。」
偉そうな人はこちらが収まるのをじっと見ているようだった。
「すみません、聞きたいことがあるのですが、聞いてもよろしいでしょうか?」
教員の一人が意見をまとめて何かを言うようだ。その方がいいだろうな。
「よかろう、何なりと申せ。」
「ありがとうございます、まずここはどこでしょうか?それとあなたの名前も伺いたいのですが。」
「ここはアルトリリカ王国。私の名前はブレイ・アルトリリカ。アルトリリカ王国の現国王である。」
そのことを聞き、またざわめく。だが、教員の一声で静寂に戻る。
「・・・そのような国は聞いたことがございませんが、日本からどのくらい離れているのでしょうか?」
「私は最初に言ったであろう、ここはおぬしたちにとっては異世界という風になっているはずだ。」
「・・・冗談ではありませんか?」
はいそうですと言って納得できるものではないのだろう。
「では、誰か魔法を見せてみよ。」
その声と共に側近の人たちが何かを唱えだした。上空に炎や水などが発言し、生き物のようにうねっている。
「・・・にわかに信じがたいですね。」
「ふむ、まだ受けきれていないようだな。しかし、どうしたものか?」
互いに沈黙しあった時、生徒から声が上がる。
「国王は俺たちに力になってほしいっていっていたが、俺たちはそんな魔法なんて使えねーよ。」
そんな声がどこからか聞こえる。
「そのことだが異世界の住人は潜在能力がこの世界の住人よりも高いとされている。おぬしたちも例外ではないだろう。簡単な儀式で魔法は使えるようになるはずだ。それに固有の能力を持っておる。試しに誰かおらぬか?」
「じゃあ俺が行く。言ったのは俺だからな。」
そういって出ていったのは整った顔の男子生徒だ。三年の先輩であるサッカー部のエースだった気がする。体操服姿でいることから体育の時間後であることが分かる。
「木島君、何言ってるの!」
そうだった木島先輩だった。当たり前だが教員の立場としては止めるのは当たり前だ。
「これは誰かやらないと納得しないでしょ。だから言い出しっぺの俺が行けばいいんじゃないですか。」
そういって木島先輩は教員の制止を押し切り、王様の前まで行った。
「勇気ある少年よ、名は何という?」
「木島慧人、ここではケイト・キジマっていう方がいいのか?」
「ふむ、ケイトよ、よくぞ名乗り出てくれた。では、みな始めよ。」
そういうと側近の人たちは木島先輩を取り囲み。何かを唱え始める。すると木島先輩の体が光だし、強く発光する。眩しい光で一瞬視界が奪われるが、すぐに収まった。木島先輩は一見変わっていないように思われる。が、その手には物騒だがどこか神々しい剣が握られていた。
「これは、想像以上魔力だ。固有能力もあるが、その剣はおそらく神からの贈り物だ。能力は迷宮(ダンジョン)の奥に眠る主を倒すことで得られることがあるが、その剣は別だ。ケイトにしか使えないものだろう。」
木島先輩はじっと剣を見ている。だが、何かに気づいたように不思議そうに自分の体を見ている。
「魔力ってのはなんとなく感じるが、こうも体を巡ってるような感じがしてるのか?」
「それはケイトの魔力量が膨大だからだ。試しに火を手で起こすようにイメージしてみよ。」
その言葉を受け、片手を伸ばす木島先輩。すると、ボワッと炎が手から噴き出したかのように発現した。
「うお!なんだこれ、これが魔法ってやつか。」
流石にこれには木島先輩も驚いただろうし、あの先生も未だに木島先輩の手で燃え盛る火炎を見て納得しただろう。
「・・・まだ不明な点は多くありますが、二つ聞かせてください。何を目的に連れてこられたのかという事と、元の世界に帰れるのかという事です。」
元の世界に帰る。俺が一番聞きたかったことはこれである。別にファンタジーに興味がないわけではないが、少なくとも安全なら問題はないのだが、こういう場合は大抵危険な状況だろう。それに俺にはしなければならないことがある。
「今、この世界では魔王という存在が魔族たちを従え、各国を襲っている。それにより各国では人間の死者が多数出ており、このままでは他の国だけでなくこの国までもが戦火に巻き込まれることになる。我が国の兵で討伐に行ったとして、負ければ国の守りは無くなる。そこで太古の昔、魔王に対抗するための手段として勇者の召喚という魔法がある。」
「・・・戦争に巻き込むという事ですか?」
やや怒りを含めた声で聞き返す先生。よっぽど生徒が大事なのだろう。
「それに関しては本当に申し訳ない。しかし、もうそれしか手が残っておらぬ故、協力してくれないだろうか?元の世界に帰るためにも魔王の討伐は必要なのだ。文献によれば魔王を倒せば、世界に均衡が訪れ勇者たちは元の世界に帰還されるよう記されてある。」
一方的に呼び出し、戦争させる。ろくでもないものだ。本当に手が残ってないのかと疑いたくなる。
「・・・なぜ、私たちが呼ばれるのですか?」
「素質のある人材を選んだ結果だ。おそらくケイトのように優秀な能力を持った人が多くいたからそこの座標から選ばれたのだろう。」
生徒たちの手前、大人のように振舞わざるをえない先生は何だか辛そうだった。
「魔王さえ倒せれば帰れるってことなら、分かりやすい。清水先生、これだけの人がいるですからすぐに倒して帰りましょうよ。」
「木島君、あなた戦争なのよ!死ぬかもしれないじゃない!」
「だからって何もしなかったら帰れない。生憎、俺には帰る理由があるので一人でも戦いますけど。」
何かと葛藤している清水先生。そんな先生をよそに何人かの生徒が王様の前に駆け寄る。みんな木島先輩について行こうとしているようだ。
「分かったわよ。私も行くわ、生徒だけ危ない目に合わせるわけにはいかないから。」
そういって清水先生も王様に前に並ぶ。続々と生徒が並び、他の先生方も二人ほどいるが並んでいるようだ。
「どうする佐藤君?」
「んー、行くしかなさそうだ。」
そういい、二人で並ぶ。どうやら俺たちは最後だったらしく、美月さん、俺という順に最後となった。
魔力量が多い、強力な固有能力、特殊な武器、強そうな使い魔であるなど、みながみな優秀だと言われているようだった。
そして美月さんに順番が回ってきた。美少女という事もありみんなの目線が集まっている。
「そなた、名は?」
「サキ・ミツキといいます。」
どうやらこれも儀式の一環らしく、誰もかれもが最初に名前を言っている。
これまで木島先輩のような眩しい光が見えたのは3,4人ほどだった。それでも木島先輩の光には負けている気がした。光によって潜在能力が分かるのかもしれない。
そんな木島先輩と同格な光を美月さんが発していた。目を開けると、傍らには神々しい角の生えた白い馬が佇んでいた。
「ユニコーンだと、伝説の聖獣を使い魔にするとは、それにその魔力量、どの勇者よりも多い。固有の能力は、『聖女の癒し』、癒しの魔法だけじゃなく、死なない限りはどんな傷も治すと言われておる能力だ。」
歓声が沸き起こる。美月さんの能力があれば死の危険性がぐっと少なくなる。
「なんだかよく分からないけど、すごいらしいね。よかった、役に立てるみたいで、佐藤君もいいものだといいね。」
「ほどほどくらいがいいな。」
実際、美月さんほどの能力を持ったら周りの期待が高くなってしまうので、目立たないほどほどが丁度いい。
そんなほどほどの能力を願い王様の前に行く。いざ前に立つと、王の威厳というべきか、漠然とした権威に少し緊張する。
「おぬしで最後か、名は?」
「ハヤト・サトウ。」
名前を言うと、周りを側近の人が取り囲む。そして発光しているのが分かる。自分自身なので分からないが誰よりも輝いている気がする。
光が収まると、手に何か掴んでいる感覚もない。ただ足元にひんやりした感覚がある。目を落とすと、青い液体と固体の中間のような状態の物体が転がっていた。
「・・・魔力量は並、固有能力は『譲渡』、魔力や能力などを渡す能力だが、魔力が高ければ、供給できるがそうではないのが残念だ。使い魔は、スライムか?」
足元に転がっている存在は見た目通りのスライムらしい。自分の頭と同じくらいの大きさのスライム、目や口のようなものが確認できるが、目が回っているようだった。持ち上げてみると意外に軽い。可愛らしいのだが、このスライムもしかしたら強いスライムなのだろうか。ほどほどでいいとはいったが使いづらい能力だし、魔力量は普通くらいなのでせめてこのスライムだけは違うと思いたい。そんな希望を胸に王様に聞いてみる。
「王様、このスライムは?」
「・・・普通のスライムだ。魔獣の中では最弱の存在だ。」
期待は淡く砕け散った。周りの目がどこか憐れみを含んだような目になっていくのが悲しかった。
「・・・そうですか。」
腕の中でもぞもぞと動き出したスライムは、こちらと目が合った。つぶらな瞳は何かを訴えかけるような感じにも思えた。少しの時間見つめあった後、スライムは叫んだ。
「ピー!!!!」
耳に響く高い声だった。