序
-かつて、世界を揺るがす大事件があった。-
密やかに世界に浸透し、変容させていく存在とそれに抗う子供達の物語。
確かに、それはそれは盛大な物語であったろう。
だが、時に大人達はそんな出来事すら、忘却という時の彼方へと追いやってしまう。
無論、悪い事ではない。
忘却は人に許された
それは1人1人にとってはちょっとした出来事なのかも知れない。
取るに足らない事なのやも知れない。
世界を守った者達、力を貸した者達は心奥底で誇ればいい。
貸すべき力なくとも、祈った者達は隣人と微笑みあえばいい。
だがしかし、全ての責任を誰かに押し付け合い、或いは全てを忘却の彼方へと押やる者達がいた事も確かだ。
無論、大多数を占めたというわけではないだろう。
割合にすれば、ほんのちょっと、ほんの一握りだったかも知れない。
ただ、それが、それだけでも、少年達が絶望するのは充分だった。
【ダンボール戦機-アクセル-】
彼は今でもその夢を視る。
冷たい雨の中、必死に天を睨みつけていた自分を。
何の事はない、涙が流れ落ちてこないように、ただ負け惜しみのように上を向いていただけだった。
悔しくて、悔しくて・・・。
それまでの時を、自分のLBXへの愛を否定された事が。
声すらも上げられず、何も出来ず、ただ堪えるだけ。
そして、アテもなく歩くだけ。
雨に濡れて、雨に濡れて。
自分の夢を笑って受け入れてくれた
大切な
そして少年は
LBXを
捨てた・・・。
1.
「なぁ、今日Lマガ買いに行こうぜ。」
放課後。
そういうクラスメートの会話を聞いて、あぁ、そういえばもう今月も残り少ないのか。
Lマガとは、CCMという携帯端末で操作する小型のロボット、LBXの専門誌の名だ。
一応、ホビー用とされているこの手のひらサイズのロボットは、今や爆発的なブームを起こしているのだが・・・。
「帰りに買いに行くか。」
「明白~、オマエも行く?」
「おい、やめとけよ。」
「何でだよ、仲間はずれはよくねぇべ?」
何か、先月もこんなようなやり取りをしたな。
タクミはそう思いながらも、口を開く。
「いや、僕はいいよ。みんなで行ってくれば?」
勿論、先月も同じような返事を返したのだが。
確かに、LBXは子供だけでなく大人も虜にしているロボットだが、タクミにとっては無縁のモノだった。
だからクラスメートの言うような仲間はずれという事はない。
「じゃ、また明日ね。」
お決まりの挨拶をクラスメートにして、教室を出て行く。
「アイツ、LBX持ってないんだってさー。イマドキいねぇよな、そんなヤツ。」
背中にかかる言葉に対しても、タクミは反論がなかった。
彼等の言う通り、LBXは今や国の機関ですら運用している程の知名度と普及率で、LBXを所持していない子供などは皆無だったからだ。
それでも特に気にならない。
ただ一つ。
ただ一つだけ、彼等に訂正を入れるとすれば、LBXを持っていないのではなく、"LBXを持つのをやめた"という事だ。
「はぁ・・・。」
別にタクミはLBXをやめた事に後悔はしていない。
なければないで、なんとかなるもので・・・まぁ、確かにクラスメートの会話に乗れないというのもあったが。
それにクラスでもLBXをやっていない人間は少なからず存在している。
・・・大半が女子なのが困ったものだが。
お陰で最近の悩みは、それに付き合って歩いて少々太った事くらいだろうか。
一体、華奢で可愛い彼女達の胃袋の構造はどうなっているのだろう?
(エネルギーの吸収率が大きければ太るんだろうから、消費率が多いんだろうか?でも、それだけで済むかなぁ?やっぱり、廃棄率?)
そこまで考えて、色んな意味でいかんいかんと首を振る。
なんでもLBXに置き換えて考えてしまう事も含めて色んな意味で、はっきりいってこれでは変態さんである。
溜め息を再びついて、自宅への近道となる商店街を抜ける帰路を歩く。
そこにもキタジマ模型店というLBXを扱う店があるのだが、タクミは一瞥もくれずに通り過ぎる。
この商店街にタクミの気を引くような店は、もうほとんどなかった。
スイーツやテイクアウトの店は、既に制覇していたし。
(・・・もう再開しないのかな。)
ちょっと昔、LBXを使ったテロ事件の影響でキタジマ模型も閉店の危機に晒された事も以前はあったが、それよりもこっちの店の方がタクミには気になっていた。
商店街の一角にある小さなコーヒーショップ。
ここがタクミとって数年前まで憩いの場だった。
数年前といえばタクミはまだ小学生。
そんな小学生がコーヒーショップを憩いの場にするなど全く以って不釣合いだったが、この店の当時の店主はそれを笑わなかった。
『子供だって背伸びしたい時も、苦いコーヒーを飲みたい時もあるさ。』
そういって、苦笑しながらカプチーノを入れてくれた。
但し、キャラメルソースとミルクたっぷりの。
勿論、それに対して文句は言わなかったし、当然きちんと代金も支払った。
ただその店主は、タクミを子供とはいえ一人の人間として扱ってくれた初めての大人だった。