その頃は、タクミもまだLBXをやっていた。
やっていたといっても、LBXプレイヤーとしては同年代よりも大分劣るレベルだ。
大会に出ようと思わなかったし、思えるような事もなかった。
「お兄さんは、LBXって知ってる?」
「あぁ。」
何となく聞いてみた。
何処か知的でいて、温かな目をした店主なら、こんな子供の話を聞いてくれる気がした。
後に、このカフェの地下にLBXのバトル場があるなどという事はこの時タクミはまだ知らない。
「あれを作った人は何を考えたんだろう?」
あまりにも漠然とした問いだった。
「何を、とは?」
当然、その漠然とした問いの意味を問われる。
幼い脳ミソをフル回転して、どう述べたらいいかを考え直す。
折角、子供の自分の相手をしてくれるのだから、きちんと会話を成立させたい。
「どうして、その人はLBXを
僕達にくれた。
それが当時のタクミの認識だった。
「LBXを?オマエ達に?」
「だって、LBXは凄いよ?LBXは宇宙飛行士にも、潜水士にもなれる・・・軍隊だって作れる・・・なのに・・・。」
何故、このLBXを作った人間は、子供である自分達に玩具としてLBXを届けたのだろう?
それがタクミがLBXを手にした時から持っている最大の疑問。
そして、永遠のテーマとなり、今も彼の傍らにある。
「さぁな。頭の良い科学者の考える事は俺みたいのには解らん。」
そう言って面白そうに微笑む店主。
手持ち無沙汰だったのだろうか?
他に客もいない店内で、カップを磨きながら答える。
「坊主、名前は?」
「タクミ。アケシロ タクミ。」
答えなくても良かったが、そうでないと坊主と延々呼ばれてしまう気がして。
それは本意ではない。
「タクミ、これを見てみろ。」
店主が指し示したのは、バーカウンターの上にあるサイフォンだった。
ガス式の火を灯すタイプのサイフォン。
「これが何かは解るな?」
面白そうに言う店主に頷く。
今、自分が抱えているカップの中の液体を作る道具だ。
「これは何故、こんな形をしていると思う?コーヒーが人類に発見され、これが発明されたのが何時かは解らないが、1841年には今と全く同じものが存在していた。200年以上時が経っても仕組みは変わってない。」
200年以上と言われても、その10分の1の年齢にも満たないタクミにとっては、想像もつかない。
「えぇと・・・使いやすいから?・・・か、美味しいから?」
質問に対して答えられないのはともかく、答えないのもどうかと考えて発言をするくらいには昔は捻くれていなかったのかも知れないと、今にしてみれば思う。
「使おうと思えば電気式のものもある。インスタントだってな。それは非常に簡単で楽だ。人類の歴史は人が火を手に入れた時から、それを突き詰める為の繰り返し。それでも変わらないのは、これがある意味で最高の形なのかも知れん。」
「あ、自転車とかも?」
頷く。
「案外、LBXを作った人間は、それをオマエ達に考えて欲しいのかも知れないな。」
「僕達が・・・?」
「火を手に入れた人類は、こう進化してきた。LBXを手に入れたオマエ達は・・・さぁ、どう進化してみせる?」
ここにきて進化という単語を出されては、更に壮大過ぎてとうとう答えに窮する。
必死に脳ミソを回転させても、そうそう答えが出るものじゃない。
「言い方を変えよう。タクミ。オマエはLBXを自由に、好きなように使えるとしたら・・・何をしてみたい?」
店主は今にも頭から煙を出しそうなタクミの様子に、噛み砕いて少しだけ助け舟を出してきた。
それでも、タクミが頭をフル回転させて考える事には変わりはなかったのだが。
もともとLBXは互いにバトルをして競わせるものだ。
世界大会もある。
LBXを作る各メーカーもそういう目的で生産・販売しているというのに、目の前の男はそんな事を聞いてくる。
まるでLBXはそんな事をする為に生まれたわけじゃないと言っているかのようだった。
「僕は・・・"空を飛びたい"・・・空を飛んでLBXと何処までも行ってみたい!」
当時、空を自由自在に飛ぶLBXなどは存在していなかった。
強化ダンボールで囲まれた専用のフィールドで遊ぶLBXにそんな機能は必要なかったし、それを確立する技術もない。
後年、LBXは完全飛行能力を獲得するが、一般販売されたLBXはクリスター・イングラム社のオリオンしか存在しなかったのだ。
(注:後年開発された、オメガダインのバスター・プロトIは軍事用、タイニーオービット社のアキレスディードはシールドブースターを使用しているので、完全飛行能力とは分類されない。)
「成程。タクミにとってのLBXは何者にも囚われない自由の翼か・・・。」
普通の大人が聞いたら、いや、普通の大人がタクミの話しをこんなにも真剣に聞いてくれる事はない。
しかし、目の前の大人は彼の言う事をそれこそ1ミリも疑わず、笑う事もしなかった。
「飛べるといいな、大空を。」
だから、タクミはLBXビルダーという自分のLBXに対するスタンスを確立出来たのだと今でも思っている。
「にがっ。」
男の炒れたカプチーノは子供の舌では、それでもほろ苦かった。
それ以前に、カプチーノというメニューがコーヒーショップであるこのブルーキャッツには存在しなかったのだが。
正直、子供にとってカプチーノだろうがカフェラテだろうが、大した違いも解らないし苦い事には変わりない。
「まずは、コーヒーの味に慣れる進化をするところからかな?」
「むぅ。お兄さんだって最初からコーヒーを美味しいって思ってたわけじゃないでしょ?」
「まぁ、そうだな。それと俺の名は蓮、
その人物が、タクミの人生で最大の壁で、最大の目標として"立ちはだかってくれた存在"だった。