ダンボール戦機 -アクセル-   作:鵜飼 ひよこ。

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第Ⅲ話:そういう・・・問題?

HAL(ハル)、メールチェック。」

 

 タクミは帰宅すると着替えを済ませ、ふぅっと溜め息をついた後、ベッドに腰掛けながら机の上にあるパソコンの横にいる存在に命令する。

彼の声に反応して、ブンッとモニターに通電する電子音がしたかと思うと画面に次々とウィンドゥが現れてゆく。

命令を実行したのは、四角い箱を積み重ねた彼の曽祖父の時代に流行ったマイコンロボットだ。

勿論、それはデザインの事であって、中身は最新の物に換装してある。

 

「-分類終了 迷惑メール1件 添付メール3件 通常メール12件-」

 

 機械工学、通信手段が発達した現代、こんなメールのチェックなどたとえそれが大容量でもポケットサイズの携帯端末で済むのだが、タクミはそれを好まなかった。

彼に送られてくるメールの内容にも原因があったが。

 

「-リーディング?-」

 

 彼は自分のポケットに入れていた携帯端末、CCMをパソコンに繋ぐ。

 

「いや、迷惑メールを削除、通常メールもアドレスに登録されていないものは削除。登録されたモノは差し出し人を読み上げてくれ。」

 

「-了解 添付メール3件アリ-」

 

 迷惑と通常のメールに関しての指示を出して、すると指示していない添付メールの件数を報告して処理が止まる。

この辺りは融通が利かないなぁと、ぽりぽりと頭を掻く。

命令された事だけしか出来ないのは、ファジィ理論時代以前の問題だ。

 

「添付メールはウィルスチェックをして、CCMに転送。」

 

「-了解-」

 

 早速、言われた事を実行する人工知能に満足しながら、彼はぽかんと部屋の天井を眺める。

HALがそのまま、言われた通りにデータを転送しながら、メールの差し出し人の名前を淡々と朗読してゆくのを聞き流しながら。

 

(こんなのばっかだな・・・。)

 

 変わり映えのしないメールの差し出し人の羅列。

恐らく内容も変わり映えしないだろう。

見なくても解る。

 

「僕なんか(・・・)気にしなくてもいいのに・・・。」

 

「-アンドリューから、コネクト要請-」

 

 想像したメールの内容(恐らくそう間違っては無いだろう)をすぐに頭の片隅に押しやる。

 

「バトから?」

 

 友人からのコンタクト要請にきっとロクな事がないんだろうなと当たりをつけながら、それでもハルに許可を送る。

 

「やぁ、タクミ、元気だったかい?」

 

 開いた小さなウィンドウと底抜けに明るい音声。

そういえば、昔持っていたU国人の紳士的でお堅いイメージを見事に叩き壊してくれたのも彼だったなとタクミは思い出す。

それくらい、一日の学業を終えたタクミの疲労感を増す口調だ。

 

「元気も何も昨日の夜も話しただろ?」

 

「あれ?そうだっけ?ほら、時差があるからよく解らないなぁ。」

 

 時差も何も、話した時刻は変わらないだろうにという突っ込みは入れるのを止めた。

ちなみにU国とタクミの住む日本との時差は9時間。

昨日は深夜の2時くらいまで話したから、向こうは17時くらいだったはずだ。

今度は、こちらが夕方を過ぎようとしているくらいなので、あちらは午前中となる。

 

「あのさ、バト?わざとらしく陽気にするのヤメてくれない?」

 

 ネットで出会って音声チャットをするようになってから、彼のこの中途半端な陽気さはキャラだという事は薄々タクミにも理解出来るようになってきた。

お陰で彼の言う事、成す事、全てが胡散臭く感じてしまう。

 

「ん?だって、この方が意外性があって面白いだろう?」

 

 どうやら彼の中ではU国人は世界で2番目にお堅い人間だというイメージを彼なりに払拭したいらしい。

お堅い=つまらないという構図が構築されているのも原因だ。

そしてバト曰く、世界で1番目はN国人だそうだ。

 

(きっと本当は無口で根暗なヤツなんだろうな・・・。)

 

 タクミは彼を12時間おきに音声チャットを、しかも男の自分とするぐらい程度には引きこもりのヤツなんだろうしと勝手に結論づけている。

ただ、それに付き合う自分も同類という事を認識しつつ。

 

「ま、それはいいとして、昨日はあの後インフィニティネットには接続してみた?」

 

「なんで?」

 

 インフィニティネットとは、様々な大容量のネットデータが介在する量子ネットサーバーの事だ。

基本的に一般人には非公開のサーバーだが、ある程度の腕のある者にとっては公然の情報源となっている。

以前だったら、そこにアクセスしてやろうという者は、よっぽどの猛者か馬鹿しかいなかったが、とある一件からワームホールのような抜け道が出来ていた。

 

「なんでって・・・昨日、面白いLBXの設計図データーが転がってるって話題になったじゃない?」

 

 バトのこの発言にタクミは溜め息をつくしかなかった。

彼は自分を、このデーターの宝庫ともいう場所に導いた存在でもあり、面白い情報があると教えてくれて、そこは確かに感謝した時期もある。

しかし、今のタクミにとってもうソレは必要のない情報なのだ。

 

「だから言っただろう?僕はもうLBXはヤメたんだ・・・。」

 

「ふぅん・・・。」

 

 このやりとりは、今まで何度もやった。

本当に、出会ってから何度も。

LBXをタクミが手放す前から、そして手放した後も。

唯一、一通りこのやりとりをした後はこの話題は終了するのだが・・・。

この時だけはいつもと違った。

 

「タクミいるー?」

 

 突然に窓がガラっと開いてにゅぅっと足が入ってくる。

そのまま太ももにスパッツとタイトなミニスカート、そして少女の顔が覗き込む。

 

「メグ、いるもなにも勝手に窓から入ってきて、はしたないよ。」

 

「(はしたないとかいうレベルの問題なんだろか?)」

 

 タクミのハルが送ってくる音声画像を眺めながら、無言でバトは突っ込みをする。

しかも、バドの記憶が確かなら、タクミの部屋は地上階では無かったはずだ。

 

「はしたない?スパッツ履いてるよ?」

 

 タクミの言っている事が理解できない少女は首を傾げる。 

そしておもむろに自分の履いたミニスカートを腰元近くまでめくり上げた。

勿論、彼女の言うとおり黒のスパッツがタクミの視界に広がる。

それだけで、タクミは頭痛が痛かった。

頭が頭痛でもいい。

 

「そういうレベルの問題じゃない。」

 

 先程、バトが思った事をほぼ同じ事を口にすると、頭痛を振り払うようにして窓から入ってくるメグことメグミに手をさしのべる。

 

「ありがと♪」

 

 濃紺のおだんごを頭部の横に二つ作ったメグミが、片手に靴を持ったまま、よいしょっと入ってくるとおもむろに持っていた小さな箱を机の上に置く。

 

「また?」

 

「うん、また♪ 壊しちゃった♪」

 

 てへっと舌を出して謝るメグミに、ほとほと呆れる。

主に"また"の部分に。

 

「今度は何処を壊したの?」

 

「ん?えっとね、腕?肩?」

 

 メグミの微妙な返答を聞きながら、タクミは目の前の箱を開いて中に鎮座しているその物体を眺める。

上下左右斜め、様々な角度から。

 

「外見上は解らないなぁ、CCM貸して、ダメージ係数が出てるはずだから。」

 

 中に鎮座している物体、LBXから目を逸らさずにメグミに向かって言い放つタクミに渋々自分のCCMをパソコンに接続。

 

「ハル、戦闘データとダメージ係数を表示。」

 

「-了解-」

 

 バトのチャット画面をタスクの端へとよけて(律儀に声を出さずに潰されてゆくようなパントマイムをしていたのを無視して)、ハルが次々と表示するタイムテーブルとダメージの値を眺める。

 

「ここだね、このダメージとその後の動きが肩の関節に負担をかけ過ぎたんだ。メグ、僕はなるべく君の好みを聞いてLBXを組んだけれど、でもそれは好き勝手やって壊していいって意味じゃないよ?」

 

 無駄だと解っていても、人間は、いや人間だけでなく、学習能力があるのだと信じて。

 

「解ってるんだけど、でも、どうしても勝ちたいって思っちゃって・・・。」

 

 実は今回のような事は初めてじゃない。

この説教も何度目だろう、そして毎回毎回顔を俯きメグミが叱られるこの光景は。

机の上に置かれている細身のLBXクノイチは、LBXをやめたと言っているタクミが一番最後に彼女にせがまれて渋々作ったモノだ。

 

「何度も言うよ?LBXは勝ち負けじゃない。そりゃあ勝てたら嬉しいけれど、それで自分の大切な相棒を壊したらそれは勝ちとは言えないし、僕は認めない。」

 

「うん。」

 

「僕が、アングラ系のルールが嫌いなのもそれなんだ、解っているでしょ?」

 

 LBX同士を戦わせるバトルは、確かにLBXの醍醐味だ。

大抵のバトルは、開始時にLBXの各パーツからはじき出された耐久値の合計が算出され、ダメージ係数を上回った場合に機能停止。

勝負が決まる。

肝心の数値は、そのLBXの耐久度を超えない範囲の値で。

つまり、戦わせると言ってもLBXが完全に破壊される事はまずない。

 

「知ってる・・・。」

 

 タクミの言ったアングラ系のルールというのは、そのダメージ係数やLBXのリミットを度外視して戦うもので、下手をするとLBXが完全に破壊、二度と使い物にならなくなる場合もあるのだ。

そして、それが彼がLBXに興味を失った原因の一端でもある。

正確には、そんな事をしてまで、LBXをそんな風にしてまで戦いを求めるその風潮に。

 

「はぁ・・・もう、本当に解ってるのかなぁ・・・。」

 

 それでも根っからのLBXビルダーであるタクミには、壊れたLBX、しかも自分が造ったモノを放置する事は出来なかった。

彼の性状と言っても過言ではない。

 

「このコは今日はここに置いて行って。明日には直しておくから。」

 

「ホントっ?!」

 

 先程までしゅんとしていたメグミの表情に花が咲く。

逆にタクミは憂鬱になった。

大体、何時もこのパターンなのだ。

このパターンで彼女を許し、このパターンでまたLBXを直す事になる。

学習能力がないのは、自分の方ではないだろうか?

 

「いい?壊すのも壊されるのもバトルなんだから仕方ない。でも、絶対にアングラ系のルールではやらないコト。」

 

「うんうんうんうんうんッ!!絶対絶対、ぜぇ~ったいっ、しない!約束する!」

 

 高速に上下に振られる首にドン引き。

もういいやとタクミはまた偏頭痛のようなものを感じながら、ひらひらとメグミに向かって手を振る。

 

「絶対直してね!楽しみにしてるから!」

 

 既に専属のLBX整備士になった気分だ。

普通は自分のLBXの整備や組み立て、改造は持ち主自身がやるもの。

専属の開発者がプレイヤーとは別に整備士を兼任する事はあるが、そんなものは大きなチーム・組織がほとんどで、こんな組み合わせはない。

第一、彼女のLBXはタクミが組んだとはいえ、一般に販売されているLBXだ。

完全ハンドメイドのLBXとは違うし、外見上の仕様の変更がしてあるわけでもない。

 

「ちょっと待って。」

 

 意気揚々と去ろうとするメグミをタクミは遮る。

とりあえず、無駄と解っていても、だ。

 

「ちゃんと玄関から帰って・・・。」

 

 そこはある意味で譲れない。

こう見えてもタクミはそういう基本的な礼儀に厳しいタチなのだ。

それでもメグミが窓から入ってくるのが直っていないのは、ある意味メグミの学習能力の低さ。

タクミはそう思う事にしている。

が、それとこれとは話が違う。

何度だろうが言い続けるのである。

 

「はーい。ちぇ、楽なのになぁ、窓移動。」

 

 ちなみに窓から窓へと渡ってくるわけではなく、窓の外側に梯子がかけてありそれを昇ってメグミはこの部屋へと辿り着く。

結局、一端地階に出てから来るのだから、実質的な距離は変わらないのだが、タクミには彼女の行動は理解出来なかった。

一度、距離と使う労力を数値化して突きつけてみるのもいいかも知れないとは思っている。

人工知能のハルなら、条件数値さえ提示すれば計算を全てやってのけてくれるだろう。

それ以前に、梯子を外してしまえばいいのだが、結局それもイタチごっこになるだけで、徒労を感じてやめた。

良くも悪くも、結局、自分は幼馴染に甘いのだ、と。

 

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