ダンボール戦機 -アクセル-   作:鵜飼 ひよこ。

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第Ⅳ話:決して誤植ではありません。

「ふぅ。」

 

 ようやく常識的な手段で帰ったメグミに溜め息をつき、少し長く伸びた自分の髪をかきあげるタクミ。

中学校生活も後半に入っているのに、一向に成長期も声変わりも来ない中世的な顔立ちにさらさらとした黒髪が揺れる。

 

「なんだかね。」

 

「あぁ、まだ接続(いた)んだ。」

 

 パソコンの画面から聞こえてきた言葉に対してのタクミの返答は、素っ気無さと通り越し、冷たいモノだった。

 

「やめたんじゃなかったかな?」

 

「何が?」

 

 画面の向こうでニヤニヤとほくそ笑むバト。

勿論、タクミにもその光景が容易に想像出来たのはいうまでもない。

 

「LBX。」

 

「やめたよ。もうLBXは創らない(・・・・)。たとえそれが既製品の改造だとしても。」

 

 うんざりだと吐き捨てるようにLBXの置かれた自分の机に座る。

 

【挿絵表示】

 

 

タクミの重さを受け止めた椅子がキシっと鳴り、部屋にいやに響く。

その音がタクミの拒絶の音にも聞こえて・・・。

 

「勿体無い。ひっじょ~に勿体無い。何処かの教授だか博士だかが褒めてたよ?君のまとめた【複合型コアスケルトンにおける新フレームの構想とそれに伴う変異結合型電磁石の有用性】だっけか?」

 

「今更なんでそんなコト・・・。」

 

「いやね、つい最近、英語翻訳版が出てね。まぁ、なんていうか翻訳的には70点くらいだけれど、実に面白かったよ?」

 

 なんというか、真っ当な研究者がその論文を読んだら、一瞥してから読むのを放棄しただろう。

『こんな論文、絵空事だ、茶番だ。』だと。

しかし、それはタクミの年齢や人格をよく知らない人間だ。

バトからしてみれば、非常に自由と創造性に富んだ、まるで宝の山のような論文だった。

 

「何より、誰もが研究にかかる採算性ばかり気にして手をつけてなかった分野を、新たな技術を次々と取り込む事で解決しようとした所がいいッ!」

 

 興奮して鼻血が出そうなくらい。

この論文の原文を読んで、書いた本人の年齢を聞いて本気で鼻血が出るかとバトは思った。

 

「あの論文は失敗だよ、事実、あの論文に書かれた事は何一つ実現してないんだから。」

 

「そりゃ、そうだよ。変異結合型電磁石とか、原材料がそう簡単に揃える事なんて出来ないんだから。」

 

 なるべく安価にという観点は、当然商品化する事を前提としているLBXにとっては重要だ。

だから、タクミ自身も出来るだけ安価に安価に製作しようとは考えた。

 

「・・・でも、もう僕は作らないよ。もう新しいLBXを生み出す事はしない。」

 

 机の上に置かれたクノイチの腕を肩の部分から、手慣れた手つきで解体しながら、何度目かの溜め息をつく。

 

「ふぅん・・・。」

 

 互いに普段の会話よりヒートアップした事に気づいたのか一気に盛り下がる。

バトにしてみれば、LBXに関して久方振りのワクワクした感情だっただけに、この件に関すると少々熱くなってしまう。

譲れないだけに。

だが、それもタクミにしてみれば同じで、彼にとっても譲れないのだ。

それは彼に内在している確固たるもの。

 

「・・・メグのヤツ、一体どう動かしたら肩にこんなに負荷がかかるんだ?」

 

 戦闘で肩にかかる負担の数値は、半端じゃない値を示していた。

いくら細身のストライダーフレームだからといえ、逆立ち程度なら余裕で可能なくらいの耐久性はある。

そもそも対戦をし、がしがしと動かす事が前提のLBXに製作メーカーが、耐久性を考えないはずがない。

 

「金属疲労じゃないかな?遠心力などがかかっている状態で捻れば相当の負荷がかかるよ?」

 

 タクミの呟きに対して、バトはなんとなく想像を交えて私見を述べてみた。

どちらかといえば、バトはLBXプレイヤーに分類される。

LBXを使ううえで自分で整備しなければいけないと思ったのが、LBXの構造に関する知識を学び始めたきっかけだ。

その途中で、バトはタクミとチャットまでする仲になっていった。

 

「ジャイアントスイングとか?」

 

「一本背負いを前宙伸身ひねりで回避とか?」

 

 ちなみに前者がマトモに答えたタクミで、後者が半分だけマトモに考えたバトの答えだ。

 

「減点20点。」 「酷いッ!」

 

 正直どうでもいいやりとりなのだが、それでもタクミは律儀にリアクションを返し、それに対してバトも更に律儀にリアクションを返す。

タクミの律儀さに甘えてバトが彼をからかっているようにしか見えないが。

ぶつぶつと文句を呟きながら、次々とクノイチの外装を取り外し、コアスケルトンを露出させディスプレイの数値と睨めっこし始めるタクミ。

呟きの内容は、メグミに対する文句と理不尽さを訴えたものがほとんどだ。

 

「ふぅむ・・・。」

 

「今度はなに?」

 

「ん?いやさ、未完成とはいえ、全然足りないなぁ~と思って。」

 

「バト。」

 

 先程のメグミとの会話とは違った、静かだ強い口調。

それでも、バトは何事も無かったかのように言葉を続ける。

 

「ミスタに、僕に、アイツに・・・。」

 

 タクミの目の前でゆっくりと指が折られてゆくのに、更に眉間に皺が寄っていく。

 

「バト・・・いい加減に・・・。」

 

「は~い、はいはい。何もしない、何もしない。」

 

 タクミが言い終わるか終わらないかのうちに、ぱっと両手をタクミに向かってハンズアップ。

そして片目を瞑ってウィンクする。

 

「・・・もう切るからね。色々やらなきゃいけない事が増えたし。」

 

 そしてバトの返事を待たずに、一方的に通信が切られた。

 

「ふぅ。ね?なかなかに気難しいだろう?ウチの"お姫様"は。」

 

 通信画面が切られて、デスクトップ画面が表示されたままのそれに見向きもせず、バトは傍らに佇んでいた人物に声をかけた。

 

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