「マズったなァ・・・。」
学校に登校して、メグが呟いた第一声。
それは朝のHRが終わってからの事。
同じクラスのタクミが登校して来なかった事にある。
理由も原因も・・・いや、どちらも同じだが、それはどう考えても自分のせいだ
勿論、その内容とはメグと今日中に必ずLBXを修理すると約束した手前、修理を終えるまでメグと会わない。
イコール、学校に登校しない。
「メグちゃん?」
自分が原因で起きた事象に困り果て、机に突っ伏していたメグに声をかけてくる人物。
セミロングで前髪をぴったりと横一文字に揃えた少女が、心配そうにメグを見ていた。
「あぁ、ミユ、解ってる。大丈夫、タクミは今、アタシのLBXを直してる最中だと思うから。」
あくまで思うという言葉にして述べる事によって、少しでも責任を逃れようとしようという悪足掻きが見てとれるのだが、ミユという少女はタクミの名が出た途端に顔を赤らめている。
「わ、わた、私は、別にアケシロ君の事を聞きに来たわけじゃっ・・・。」
「聞きに来たワケでしょ?」
非常に解り易い態度だ。
今の彼女を見れば、他の誰もがそう思うだろう。
その愛らしさといったら・・・。
「あぁ、ミユは可愛くていいなぁ~。ミユもLBXを始めればいいのよ。」
「・・・私は、そういうの向いてないって解ってるから。」
そこで小さくゴメンなさいと呟かれては、どう考えてもメグの方が悪者である。
「アタシもさ、考えたんだよ?無い脳ミソ絞ってさ。まぁ、元々LBXは好きだったケド。」
だからといって、タクミに自分のLBXの全てを任せる必要はなかったのだ。
「アケシロ君、あんなにLBX好きだったのにね・・・。」
それがある日突然、LBXのLの字すらも口から出なくなった。
携帯通信機としてのCCMは所持したままだが、それ以上でもそれ以下でもない。
「アタシは幼馴染だったってだけ。別にミユが頼んでもよかったんだし?」
ジト目でミユを見た後。
「案外、ミユに可愛く頼まれたら、タクミも簡単にLBX作ってくれたかもよ?」
LBXが誰よりも大好きだったタクミ。
なのに、これまでの一切合切を捨ててしまったタクミ。
彼に何があったのか、メグもミユも解らなかったが、それまでのタクミの様子を見れば大異変に違いないのは明らかだ。
だから、メグは一計を案じた。
多少強引だろうがなんだろうが、タクミが完全にLBXから離れてしまわないように、何時でも戻って来られるように、メグは自分のLBXをタクミに押し付けたのだった。
もっとも、自分がメカが苦手な不器用さんだというのと、LBXを始めてみたかったのの一石三鳥だったが。
「そんなっ、私、そんなに可愛くないしっ・・・アケシロ君だって・・・。」
「僕が何だって?」
「はひっ?!」
刹那、ミユの背に電撃が奔る。
と、ギッギッギッと油の切れたブリキの人形のようにミユが振り返ると、そこには憮然とした態度のタクミが立っている。
ミユにとって、タクミの声を間違うはずがないのだ。
見ようによっては、彼女がタクミの姿に怯えているようにも見える構図。
「お~、タクミ早いね。もう直ったの?」
蛇に睨まれた蛙のように硬直したままのミユを気にする事になくタクミに問う。
「まだ応急処置の段階だけど、持っては来た。」
懐から出したクノイチをメグに渡す。
渡された方のメグは、クノイチの全身を宥めすかしつつするのだが、彼女には応急処置と修理の区別はつかなかった。
「これの?」
「肩関節さえ直せば良いんだけど、また壊しそうだから装甲を追加して左右の重量バランスを新しい武装に合わせてセッティングし直した。」
「追加装甲と新しい武装?で、それはどこに?」
「まだ出来てない。」
「ありゃ。」
そういう意味での応急処置だという事らしいと理解する。
しかし・・・。
(武器と装甲だけだとしても、タクミが新しいパーツを作るのって、久しぶり・・・。)
それはメグにとっても嬉しい事だ。
そうなる事を望んでLBXに触れさせていただけに。
「帰る頃にはあらかた出来てると・・・・・・思う。」
「思うって・・・。」
「ハルに残りを全部任せてきたから。」
「大丈夫なの?」
「だから、多分。」
不安たっぷりである。
以前のタクミなら考えられないアバウトさだったが、それでもタクミが作ってくれるのだから、そこはヨシとせねばならない。
そもそもタクミ(と、そして自分)の為なのだし、そこは我慢だ。
「ま、いっか。うん、解った。」
どうせ、今ここで何を言ったとしても状況が変わるわけでもない。
その辺、あっさりしたもので、ある意味でメグの美点ともいえる。
「あぁ、それと・・・。」
ここでようやく置物化して固まっているミユに向き直る。
「僕は十分可愛いと思うよ?」
「ふぇっ?・・・うえぇっ?!」
驚きで絶叫するミユをよそに何事もなかったかのように、タクミは自分の席へ向かってさっさと行ってしまう。
残された、ある意味投げっ放しのミユは、タクミの背がこれ以上何も言わない事が解ると、その意味するところを今度はメグに求めようと視線を彷徨わせる。
「いや、え~と、その、そのまんまの意味だと思う・・・よ?」
逆にそれ以上、なんと説明すればいいというのだろう?
幼馴染という称号は、そこまで万能でも偉いものでもないのだ。
そういう重要な事を振られても困るし、タクミの考えている事や思っている事が解かればメグとて苦労はない。
クノイチ1体の整備を頼むのに、どれ程の労力を使った事か。
「ッ?!」
メグのその答えを聞いたミユもまた、何も言わずに自分の席へと戻ってしまう。
ただ、タクミと違って自分の席に着いた彼女の横顔は耳まで真っ赤だった。
そのうちに頭のてっぺんから湯気でも出るじゃなかろうか?
「かっわいいなぁ~。」
机に頬杖をつき、片膝を立てたままという、女の子には些かハシタナイ格好でそれを眺め、自分の席からはその背中しか見えないタクミを見る。
(だからなのかな・・・アタシには言ってくれないの・・・。)