毎日ひたすら纏と練   作:風馬

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はい。もう一話です


跳躍と足場

レツやゴン達が護衛軍と接敵する少し前。ビアーとネテロはキメラアントの王を相手に未だに無傷で攻撃を凌いでいた

 

正確には無傷でなければとっくに死んでいただろう

 

たとえ食事中に不意打ちを受けても拳銃の弾丸どころか音速の3倍のライフル弾だろうと箸で摘み取る事すら可能な二人が未だ1分に満たない攻防で何度走馬灯を強制され、綺麗な川辺に居る死神の前で回れ右をしたか分からない

 

ビアーもネテロもまだまだ勝負を諦める訳にはいかないのだ

 

((乳デケェな))

 

寝っ転がってるサボり勝ちな死神の豊満な胸部にダイブしたい衝動には駆られるが流石にそれをしたら向こうも気付いて仕事をせざるを得ないだろう。ここは我慢の時である

 

そんな天運も味方してか怪我も無く王に攻撃を加え続けている二人だが王は王で無傷を貫いている

 

レツ達とぶつかる護衛軍(プフ)とは違い単純に身体が頑丈でオーラが莫大だからだ。ある意味ビアーが目指す通過点(さき)の戦法と云えるだろう

 

そんなある種の膠着状態であったがその危うい均衡が早くも崩れんとしていた

 

戦闘が始まったばかりの頃はひたすら力任せに戦っていた王だがそれでも仕留められないビアーとネテロに対してより効率的な動きを模索し始めたのだ―――すなわち『武』の修得である

 

目の前のエサは小賢しくも王よりも理に適った動きをする事で指先が引っ掛かるだけで弾け飛ぶような脆弱な命を繋ぎ止めている

 

ならば王もより理に適った動きをすればエサの命に手が掛かるのは道理であった

 

ビアーとネテロの攻撃を受けるたびに衝撃の殺し方、地面の蹴り方や重心移動のミリ単位以下での調整、視線や筋肉やオーラの微細な変化からの行動予測、『流』の速度などなど

 

本来ならば達人が気の遠くなる程の反復練習と試行錯誤の末に徐々に無駄を削ぎ落とし洗練させていく作業を1秒の攻防で才有る者の数ヶ月分にも匹敵する成長率で駆け抜けていく

 

まさに怪物

 

スーパーコンピューターもかくやと云うスピードで体術、戦術の両側面で最適を更新し続ける王は既に戦闘開始前の(じぶん)と戦えば9割方勝利出来る程の実力を身に着けている。しかし―――

 

(何故だ?何故余の手が未だこの者共を刈り取れない?)

 

産まれて初めての実戦の経験値を十全以上に吸収する王であったが相対するビアーとネテロとは必死さの度合いの違いが危うい均衡をギリギリで繋ぎ止めていた

 

真剣勝負が(もたら)す経験値は修行で得られるそれを凌駕する

 

ビアーもネテロも飛び抜けた才でほぼ修行だけで最強クラスへと至ってしまった者達だ

 

ネテロは実戦経験こそ豊富だが【百式観音】会得前ならいざ知らず、本当に成長に必要な会得後は敵無し状態だ

 

幻影旅団捕縛後、ビアーとネテロが行った試合は両者に十分な成長を(うなが)したが命懸けの決闘の密度に比べれば薄味である

 

しかし今、王を前にして迫りくる死の圧に生物としての生存本能が潜在能力と成長速度を常に上振れ値で固定させ続ける

 

王が神速で放つ唐竹割(からたけわり)の手刀をビアーは視覚だけでなく全身の感覚を総動員させて半歩ズレる事で躱すと彼女の産毛が宙を舞う

 

ビアーはその密着状態とも云える間合いを活かしてゼロ距離から王の懐に押し当てた拳の寸勁で吹き飛ばすが、吹き飛ばされつつ王の放った反撃の蹴りがビアーの前髪数本を切り飛ばす

 

確かに攻撃は避けたが直接攻撃が当たった訳でもないのにビアーの額には赤黒い痣が残っている

 

もはやミクロン単位での身体操作技術が無ければ今のように反撃もままならないのだ

 

事実としてビアーの足下には遥か後方まで肉眼で見るのも難しい1本の線が奔っており、これは王の手刀の鋭利さを物語っている

 

戦い始めの頃に王が放った別の手刀はクレバスの裂け目のように大きな破壊痕を残しているので王の体術がどれだけ洗練されているかは一目瞭然だ

 

そこへビアーの背後から【百式観音】の巨大な掌が王に掌底を繰り出し、今度こそ王が大きく吹き飛ばされた

 

ネテロの【百式観音】も進化もとい深化を遂げている

 

王に当たった観音の掌の内、敵を捉える設置面にのみオーラを『凝』で集めて攻撃力を倍加させたのだ

 

やっている事は『流』と大差無いので特別には感じ辛いが、ネテロの【百式観音】はネテロの動きと連動している為にもしも敵の反撃が観音のオーラの薄くなった箇所にヒットして弾け跳ぼうものならネテロの身体にも少なくない反動が入るだろう。しかし強化された王の前では普通に【百式観音】を繰り出しただけではダメージどころか最大の強みである巨大質量から成るノックバック効果すらも相手のオーラで衝撃そのものを吸収されてしまう

 

戦闘の大部分を勘に委ねる激しい攻防の中で実質『硬』のみで戦う事を強制されているのだ

 

今のネテロは【百式観音】の超高速超連撃技である『九十九(つくも)の掌』を全て高精度の『凝』で繰り出すようなラクダが針の穴を通るが如き難易度の繊細極まるオーラの操作技術を要求されており、回転数を上げた脳みそが激しく熱を持って今や溶けた鉄のようになった感覚が彼を襲う

 

(悪くねぇ。久しく感じてなかったぜ。このヒリつく感覚はよぉ。自分で自分を追い込んで得られる紛いものじゃねぇ本当の窮地ってやつだ。出来れば1人で()りたかったが、これも巡り合わせか。いや、コイツ以上の巡り合わせにはもう出逢えていたな)

 

ネテロはほんの僅かな落胆を感じながらも直ぐに些細な事と切り捨てる

 

ビアーとの出逢いが無ければ自分はとっくに死んでいた

 

ビアーはまだ若く伸び代も十分。この場で死ぬまで闘って至れる武の高みよりもビアーと云う良いクソガキ(ライバル)を意識した研鑽(けんさん)の果ての方がより高みへと辿り着けると感じたからだ。無理にビアーを排除してここを人生最後の舞台と決め付けるにはまだ時期尚早なのだ、と

 

―――何歳まで生き続けるつもりだこの妖怪(ジジイ)

 

しかしそれもこの死地を切り抜ける事が出来ればこそ

 

吹き飛んだ先の王の首に観音の水平チョップを見舞い、ビアーもネテロのチョップの逆側から挟む形で水平蹴りを放つ

 

一撃でビルのような巨岩も粉砕出来る弾道ミサイルのようなエネルギーが王の首の内部で混ざり合い弾けると、そこで初めて王は僅かな、しかし確かな痛みを感じた

 

「・・・貴様ら、余に対する数々の非礼。例え幾万余に殺され、生まれ変わろうとも赦さんぞ!疾く死ぬといい!」

 

「はん!産まれたばかりのガキがほざきそうな戯言じゃな。長かろうと短かろうと一度きりの人生。やり直しなんぞ無ぇから全力で生き足掻くんじゃよ。そうじゃろう、ビアー嬢ちゃん!!」

 

「そ・・・ソノトオリダヨ?」←人生2度目

 

「なんでそこで疑問符浮かべるじゃい(たわ)け!!」

 

「ふげっ!」

 

急な裏切り?を受けたネテロがツッコミと共に【百式観音】でビアーを吹き飛ばす

 

王が長い尻尾でビアーを串刺そうとしていたので吹き飛び難い王よりも意図を察して自分から吹き飛んでくれるビアーの方に一撃を加えたのだ

 

猛烈な勢いで距離を取るビアーの顔面に王の尻尾の針の先端が迫るが眼球ギリギリで尻尾の伸縮性の限度に達したのか彼女の目玉が抉り取られる事は無かった。もしもネテロが王の方に攻撃を加えていたなら最低でも片目が使い物にならなくなっていただろう

 

三者それぞれがどこまでも緻密な戦闘を超高速で積み重ねていくその戦場は舞い上がる塵や砂埃すらも空間を埋め尽くす攻撃の余波で更に細かい粒子となって吹き飛んでいく

 

地割れを起こし、地盤ごと舞い上げ、削岩機のような竜巻がその惨状を生み出す3人以外が形を成す事すら許さない

 

絨毯爆撃を受ける方がまだ生存の芽が有る死地で次に大きく動いたのは外界より来た蟻の王だった

 

腹立たしい事に目の前のエサ達は狩る為に少しばかり工夫が必要だと認めたからだ

 

王は暴君では有るが愚王ではない。腹立たしさは増すばかりだが状況を打破するのに力押し以外の道を模索する事を意固地になって否定する事は無いのだ

 

今までビアーとネテロの攻撃を受けても威力を殺して距離を取らせず、最短で反撃を試みてきた王が先程のビアーと同様に喰らった攻撃を利用して距離を取った

 

「!」

 

「ぬっ!」

 

空中で慣性の法則のまま凄まじい勢いで後方に流れる王にすぐさま2人が何もやらせまいと追撃を行うが2人の挟撃が王に届く瞬間、王の姿が空中から掻き消えた

 

「フム。産まれた時から我が身の一部であったかのような自然さ」

 

2人が王の声がした方向に目を向けると先程までは存在していなかった背中より生える翼で宙に(たたず)む王が居た

 

王も人型として産まれた以上は吹き飛ばされた時に地に足が着かなければまともに反撃に移れない『何も出来ない時間』が生まれてしまい、その猶予はビアーとネテロが態勢を整え、回避や連携を許すだけの隙となってしまう

 

無論、王もビアーのように空中を蹴っての移動も可能だが速度の出ない空中跳躍は高速戦闘に向いていない

 

そこで王は吹き飛ばされると云う無駄を無くす為に制空権を確保すると云う強みを会得する事とした。翼を生やすなどやった事が無かろうと、空を飛ぶなど考えた事など無かろうと王にはそれが可能だと云う確信が有った

 

女王蟻が取り込んで王の一部となった護衛軍の持つ肉体変化の能力は完璧として産まれた王にとって十全に扱えて当然の代物なのだ

 

「すぐにでも翔べる」

 

その言葉に偽り無く試運転とフェイントを兼ねて2人の周囲を驚異的な速さで縦横無尽に飛び回りビアーとネテロを分断させるように両者の中間の地面に拳を突き刺し火山の噴火の如き爆発を引き起こす

 

今までの攻防と違い殺気を含まない一撃への反応が遅れた2人は崩れ去る足場と爆風から空中に投げ出される

 

人間に翼は無く、また2人は空を飛ぶ為の『発』を持っている訳でもない

 

人間は足場が無ければその行動は著しく制限され、ビアー自身にも翼を得た蟻の王の突撃を捌ける術は無く、ネテロの【百式観音】も射程外なので先程のように態と弾かれて体勢を整えるという手法も使えない

 

上を見上げた王がビアーに狙いを定めたのは偶然だ。飛ぶ術を持たない人間を狩るなど2人の力量を考慮しても造作も無い事であり、偶々王のアンテナに先に引っ掛かったのがビアーであったと云うだけの事である

 

王の羽ばたきが瞬時にその肢体を獲物の眼前へと運び、飛ばされた勢いで身体が流れて丁度天地が逆様になっていたビアーと王の視線が交差する

 

「終わりだ。疾く地に堕ちるといい」

 

勝利を確信した王が絶対者の矜持として身体の前で尊大に腕を組み、尻尾の一撃がビアーの腹に向かって突き出される

 

「甘い!足場(カストロ)を足下に守備表示で召喚!!」

 

「はっ!グフぅうううう!!」

 

・・・しかしビアーの腹に大穴を開けるはずの一撃はビアーの足下(上空)に『堅』状態で召喚されたカストロ(踏み台)カストロ(空中)跳躍で王の言う通り疾風の如く地面に向かってジャンプした事により回避され、カストロは反動で遠くのレツ達にも見えるように天高く打ち上げられたのであった

 

「確かに私は飛べないけれど、空中戦が出来ないと決め付けるのは早計だったわね!」

 

(あっぶな〜!ノリと直感と賭けで喚んだけどしっかりこっちの意図を汲んで召喚されたわね、あのカストロ(変人)。それにしてもカストロ(小道具)に頼らないといけない辺り修業(オーラ)不足ね。将来は空中も地面と同じくらいに踏み締める事が出来る脚力が無いと空中戦も我が物にしたとは言えないものね)

 

「儂ぁ仮にも自分の弟子を踏み台にする様子にドン引きじゃがな。つーか其奴(そやつ)はどっから出て来たんじゃ?」

 

女神(ビアー)が求めるなら何処からでも

 

「さあ?それより会長はどうなの?ここからは空中戦の時代よ。付いて来れる?お爺ちゃん」

 

「ほざけ小娘。こちとらお前さんと違って各系統の基礎修行の年季が違うんじゃ」

 

そう言うとネテロは当然のように空中に立つ―――足の裏からオーラを放出する事で空という舞台に立ったのだ

 

しかしそれは空を自在に飛び回れるように作られた『発』ではない為に全力の戦闘を行うにあたって果てしなく高難度の調整が求められる。ただでさえギリギリの戦闘の中、付け焼き刃の戦闘スタイルを組み込むのは最早ラクダどころかクジラを針の穴に通すような無謀な領域だ

 

(面白え、やってやるよ)

 

しかし挑む

 

自分はもっと高みに立ちたいから

 

産まれたての羽虫と酒の味も知らない小娘の立つ戦場に自分が及ばないなど我慢ならないから―――ついでに自力で跳んでいるとは言い難いビアーに徹頭徹尾自分の力だけで宙を舞い、この戦いに勝利し、ドヤ顔マウントを取るためにも日和ってる暇など無いのだ!

 

・・・この老人最低である

 

「なら遠慮なく行くわよ。カストロを足下に守備表示で連続召喚!名付けてカストロロードもといカストロード!!」

 

「なんっ!ガッ!と云う!グフッ!光栄な名前!ブフッ!」

 

ビアーはカストロの人としての尊厳を文字通りに踏み潰して連続跳躍で一気に上空の王に向かって駆け昇り、そのまま殴り掛かる。なおカストロはビアーの役に立てる事で扱いの酷さに反するように幸福そうな笑みを浮かべている―――キモい

 

「大の大人を恍惚の笑みを浮かべさせながら踏み付けにするとは、お前さん違う意味で女王への道を駆け上がっとりゃせんか?つーか幾ら踏み台にしてるだけじゃと言うてもそのままじゃ其奴(そやつ)は其奴で天国への階段駆け昇っちまうぞ?」

 

幾ら攻撃の意思が無くともビアーが王とのバトルで気遣いゼロで足場として酷使すればビアーやネテロのようなハズレ値を除けば最強クラスのカストロと云えども最初の数回の跳躍で『ひんし』となり、それ以降は普通に死ぬ

 

しかし信仰(なつき)度ゲージがオーバーフローしているカストロはビアーからの攻撃?はHPギリギリでこらえる事が可能なのだ

 

カストロは 信仰(きあい)で もちこたえた

カストロは 信仰(きあい)で もちこたえた

カストロは 信仰(きあい)で もちこたえた

カストロは 信仰(きあい)で もちこたえた

カストロは 信仰(きあい)で もちこたえた

 

・・・この男ビアーやネテロよりギリギリで生き過ぎである

 

そこから始まる空中戦(セカンドステージ)は上下左右と云う概念を排した変則攻防の応酬だ。少し前に地上で繰り広げた攻防の結界を上回る戦闘(それ)はより早く、速く、疾くと加速し続ける

 

3者(+1)の動きはオーラを目にする事が出来る者ならその姿を直接認識する事は叶わずとも幾重にも重なった光の帯として巨大な光の繭として映った事だろう

 

秒針が一回りする間に繰り広げられる攻防は既に二千を超え、三千へと届かんとしている。しかし―――

 

(手応えが皆無って訳じゃないけどやっぱり決定打が無い!正直強化率も踏まえたら私と(コイツ)の間に顕在オーラの差はあまり無い。でも肉体的な基本スペックが全然違う!)

 

ビアーの潜在オーラ量は現在75万オーバー。顕在オーラも鍛え上げた出力と【一念発氣(いちねんほっき)】の強化率増強効果によってほぼ同じ約75万と云う数値を叩き出している

 

単純な顕在オーラ量だけで比べるとしても原作のナックル戦(最終)のゴンのジャジャン拳(必殺技)の約17〜18倍は有り、筋力も『王の律動(キングエンジン)』で試しの門を全て開ける程(片腕128トン)は有る。それらが合算された破壊力は計算すらも困難だ

 

そんな常軌を逸した威力が通常のやり取りとして飛び交っているこの戦場の異常さもそうだが王は元来の肉体性能が筋力1つ取っても『赤裸々(ドレス・ブレイク)』発動中のビアーの10倍近くは有り、更にそこに昆虫としての外骨格の強度が加わるのだ

 

オーラ量に差が無いならビアーと王は例えるなら小学生が軽鎧を着込んだヘビー級アスリートと戦うようなものである。まともにやっていてはダメージなど通るはずも無い

 

(『赤裸々(ドレス・ブレイク)』なら多分ダメージは通るけど、消耗が激しいから回数を打ち込めない。一撃で骨を砕く位の大ダメージなら兎も角『普通に痛い』程度の為にこのカードは今は切れないわね。かと言ってあまり悠長にはしてられない。業腹だけど私と会長2人分の成長率より(コイツ)の成長率の方が上だから遠からず天秤が向こうに傾く!)

 

王の注射器のような尻尾が鞭のように唸りビアーの二の腕に一筋の赤い線を奔らせ、【百式観音】の一撃を器用に翼で受けて勢いを抑えた王がネテロの顔面を爆散させる拳を放つが祈りながら前面にオーラを放出する反動で距離を取ったネテロの鼻先に届ききる前に真上から降ってきた観音の張り手で強制的に落下させられる。しかし避けたはずのネテロの鼻からは滝のように血が滴り落ちた

 

「大丈夫?興奮し過ぎで鼻血出ちゃった?枯れ木のお爺ちゃんには蟻の生態観察は刺激が強過ぎたかしら」

 

王の拳は確かにネテロには届かなかったがその拳に纏うオーラがほんの僅かにネテロのオーラと触れ合ったのだ。そんな薄皮一枚にも満たない接触ですらネテロ程の強者でも正面から受ければ確かなダメージが刻まれる

 

ネテロは鼻の穴を片方ずつ塞ぎながら中身を噴き出すと最後に気合を入れて顔面を叩く事で鼻血を止める

 

「はん!こんなもん屁でもないわい。お前さんこそガキじゃからって何時までも注射を嫌がっとらんで正面からド〜ンと受け止めてみんかい。いや、あの大きさなら寧ろ浣腸じゃから受け止めるべきはケツじゃったな。クマさんパンツを見られる事は諦めるんじゃな」

 

「生憎そんなもんにお世話になる程不健康じゃ無いわよセクハラ会長。いい加減にしないとあの針、鼻の奥まで捩じ込んで脳味噌に直接お薬(麻痺毒)ぶち込んでやるわよ。余計な口が滑らなくなるからお勧めね。あとクマさんパンツと云うかキャラものパンツは履いた覚え無いわよ!」

 

口が滑らないと云うよりは呂律が回らなくなる失言防止薬である。なお、針先が掠ったビアーだが少量程度なら毒耐性で無効化可能だ

 

(私が小さい頃にお母さんが買ってきてたのは可愛い花柄とかがメインでキャラパンは買ってきて無かった・・・はず!!)

 

ビアーがどうでも良い記憶を探りかけた所で丁度高度の下がった王に向かって森の影からリースが跳び出し死角から襲い掛かる

 

レツ達と分かれてから気配を『絶』ちつつも直ぐ様駆け付けたリースは不意打ちの機会をジッと息をひそめて(うかが)っていたのだ

 

ビアーとネテロも考えるよりも先に追撃の為、また王の注意を惹く為に距離を詰める

 

しかし―――

 

「下らぬわ」

 

その一言と共に王が放った一撃はリースの右腕を根本から吹き飛ばしたのであった

 

「え?」

 

幾らリースがビアーよりはスペックで劣るとしても戦い始めたばかりの頃の王が相手ならばこうはならなかった

 

だが今の王は少し前の王より遥かに強く、同じくこの戦いで実力を伸ばしたビアーの力はリースに反映されていない

 

王の心臓を狙った必殺の一撃を致命傷に抑えるのが今のリースの限界だったのだ

 

「何かと思えばただの木偶か。贋作(がんさく)たる貴様が唯一無二の余に敵わぬのだと、その事実だけを伽藍洞(がらんどう)の頭に詰め込み消えよ」

 

リースから切り離され、ただの人形の腕に戻ったパーツ(それ)一瞥(いちべつ)して彼女の正体を看破した王が目の前のリースを壊さんとする

 

王からすれば食べられないリースになんの価値も無いのだ。むしろたかが人形に声を掛けただけ破格の温情と云えるだろう

 

家族(うち)末妹(いもうと)に何してくれてんのよ蟻ん子がぁあああ!カストロケットォオオオ!!」

 

一瞬でブチ切れたビアーの叫びと共に両足に全オーラを集中させたカストロがビアーの足裏と己の足裏を合わせ、互いに全力で蹴り合う事で理論値最高の推進力と加速力を得る。これに合わせられるカストロはビアーの脳波か何かを受信しているのかも知れない

 

(ああ♪ビアー様のお御足に踏まれる度に感覚が冴え渡っていくのを感じる!ビアー様の体温、ビアー様の鼓動、ビアー様の思考までをも受け取っているかの様だ。これが―――御霊卸(みたまおろし)!!)

 

神の力に触れ、神の力と同調し、神の意思を汲み取りお役に立つ

 

その実感はカストロのオーラの力強さに補正を掛け続ける。ビアーが一踏みする毎に丸一月『点』の祈祷(しゅぎょう)をしたような強固なオーラが形作られていく様子は軽くホラーである。なんで女の子に踏まれてるだけで強くなってるんだこの狂信者(カストロ)

 

ともあれ何故かついでに成長し続けるカストロの力も有って王の予想外の速度で殴り付けたビアーが王とリースを引き離すのには成功した。しかし最大戦力の1角たるリースが何も出来ずに戦線離脱してしまうデメリットは果てしなく大きい

 

「止血して離れてなさい!」

 

千切れたリースの腕は人形に戻ったが、まだ本体が全壊して能力解除された訳では無いリース自身は生身の人間と良くも悪くも同じであり、空中に霧散する噴き出る血を放置すれば失血死=全壊してしまうのだ

 

レツがもう一度リースを生み出したとしてもそれはリセットされたビアーのコピーでしかない

 

レツの能力はビアーのコピーは造れてもリースの復元体は造れないのだ。また、仮に

造れたとしてもその者を同一人物と見なして良いかは疑問である

 

1個の生命として真に迫り過ぎているが為にリースは簡単に終わる訳にはいかないのだ

 

「痛った〜!最悪。もう絶対に許さないんだから―――ふぎっ!?」

 

王の目から逃れる為に森の奥へ後退しつつ出血箇所を縛って止血をしたリースは最近の偵察任務に際して預かっていた黄金の毛皮を取り出すとルルを顕現させる

 

「キュウ?キュキュウ!?」

 

現れたルルはリースの片腕が無くなっているのを見て慌てて近付き、その様子に少しホッコリとしたリースは安心させるようにその頭を撫でながら告げる

 

「やられっぱなしは性に合わない。道具には道具の戦い方も有るってことを見せてやるわ。ルル!囮作戦よ。あの蟻ん子の前で曲芸飛行を披露してね。大バズリ間違いなしだよ♪」

 

「メ゛!?メメメメメメメメメ゛へぇェエエエ!!?」

 

下された作戦内容にルルは高速で頭を横に振って否定の意を示すのであった

 

ピエロかラム肉か

 

ルルの明日はどっちだ!!

 

 

 

 

ルルが己の運命に驚愕している時、ビアーは激しい攻防の中でモヤモヤとした感覚を抱いていた

 

(何かしら?・・・な~んか違うのよね~)

 

彼女の違和感を置き去りにしたまま、各地の戦場は更に激化の一途を辿っていくのだった

 




まぁカストロなら足蹴にされる事も糧として信仰に磨きを掛けてくれるでしょう
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