だがオダワラはその先頭のトレーラーを破壊する事で、後続が身動き取れないようにした。
エイタは息を殺してガンダムのコックピットの中でじっとしていた。
周囲の様子を自動運転トレーラーのカメラから送って貰う。それがサブモニターに映し出されている。
別にエイタ自身が息を殺す必要はないのだが、敵が待ち伏せしていると思われる地帯を通るのだ。
無意識の内にそうしていた。
そしてもう一つ、エイタは敵モビルスーツの『音』を拾おうとしていたのだ。
……もし敵がモビルスーツで移動したり、またはあの強力な砲を撃てば、仕掛けたマイクからおおよその位置が掴める……
エイタはトレーラーのカメラと、仕掛けた『グラウンド・ソナー』の両方で、ザクの位置を探ろうとしていたのだ。
彼とて、敵が先頭のトレーラーを破壊して道を防ぐ事は十分に予想できた。
そしてそれが逆に自分にとってチャンスである事も。
その時、不意に先頭を走っていた自動運転トレーラーが火を噴いた。
荷台の資材を周囲にぶちまけながら、横転して滑って行く。完全に道を塞ぐ感じだ。
だがエイタの目はいつまでもトレーラーに向けられていたのではなかった。
トレーラーは真横から攻撃を受けた。
その銃弾が飛んできたと思われる方向に視線を向けると、小高くなった丘が見える。
そして『グラウンド・ソナー』から割り出された敵の位置も、そこを指し示していた。
「そこかぁ!」
エイタは操縦レバーを引き起こす。
ガンダムの上半身が素早く起き上がると共に、機体を覆っていたカバーを弾き飛ばす。
そのままビームライフルを丘の麓に向けた。
エイタの指がトリガースイッチを押し、ライフルから強烈なビームの光が一直線に丘の麓に走った。
オダワラが自分の射撃結果を確認し、その後に続くトレーラーに目を向けた時だ。
「なっ!」
彼の口から思わず小さな叫び声が漏れた。
四台目のトレーラーから連邦のモビルスーツが上体を起こし、自分に向けてビームライフルを構えている。
「くっ」
オダワラもマゼラトップ砲を向けようとしたが、マゼラトップはマシンガンのような連続発射は出来ない。
連邦のモビルスーツのビームライフルが強烈な光を放つ。
その赤白い光の束は、オダワラのザクの僅か2メートル横を掠めるように、一直線の突き進んでいった。
間一髪、直撃を免れたのだ。
オダワラもマゼラトップ砲の引き金を引いた。
弾は逸れて、ガンダムの乗るトレーラーの直前の道路に大穴を開けた。
だがそれで充分だ。元々、オダワラは命中させるために撃ったのではない。
敵モビルスーツが二発目を撃つのをけん制したのだ。
オダワラは操縦レバーを引き、ザクを立ち上がらせた。
ガンダムの乗ったトレーラーの正面に、敵の放った弾が着弾した。
その大穴にトレーラーが突っ込み、バランスを崩して横転する。
ガンダムの機体が右側の森の中に投げ出された。
「うわわっ」
操縦席ごと回転させられたエイタは、思わず声を上げていた。
まるでドラム式洗濯機の中にでも放り込まれた気分だ。
だがノンビリとはしていられない。既に敵が次弾を撃ってくるかもしれない。
樹木をなぎ倒して回転が止まったガンダムを、エイタは寝ころんだ状態からカンだけでビームライフルを発射した。
今度のビームは丘の真横に命中する。
土砂が吹き飛び、新たな火の手が上がった。
エイタはガンダムを起き上がらせると、敵が長距離砲を撃って来た。
今度はガンダムの後ろ5メートルほどの所に着弾する。
「ぐっ」
エイタは操作レバーを操り、さらにフットペダルを踏み込んだ。
ガンダムが前方に走り出す。
「う、う、わ、わっ!」
そのあまりの乗り心地の悪さにエイタは驚いた。
一歩走る毎に2メートル近くコックピットが上下に揺さぶられるのだ。
コックピットにはショック・アブソーバーがついていて、かなりの衝撃を吸収してくれるが、機体そのものの重心の上下動まで解消してくれる訳ではない。
見ると敵のモビルスーツも、丘から離れて走り出していた。
胸から上の部分しか見えないが、その体勢で長距離を構えて撃ってくる。
「やられるかっ!」
エイタも激しく上下動するコックピットの中で、ビーム・ライフルのトリガースイッチを押す。
こんな振り回された状態では、正確な狙いなどは付けられないが仕方がない。
ビームの強烈な閃光が、ザクの真正面に炸裂する。
「やったか?」
だがその時だ。
ガンダムの足元から激しい閃光が沸き起こった。爆風を受けて機体のバランスが崩れる。
「な、なんだ?」
かろうじて操作レバーで横倒しになるのを防ぐ。
だが次は反対側から爆発が起こり、ガンダムの機体に「カン、カン」と破片が降り注ぐ。
エイタは焦って、さらに前に一歩踏み出した。
すると今度はすぐ左側から爆発が起こる。再び機体はバランスを崩し、ガンダムは大地に膝と両手を着いた状態となった。
「くそっ」
エイタはすぐに立ち上がろうとした時、ガンダムの目の前に貼られたワイヤーが目に入った。
そのワイヤーの先に視線を走らせると、ザク用の手りゅう弾、通称『クラッカー』に繋がっている。
「これは、敵の罠?」
エイタはワイヤーに触れないように膝立ちになった。
周囲を見渡すと、いくつものワイヤーが張られているのが見える。
「敵のトラップ地帯に誘い込まれたのか」
エイタは歯ぎしりした。
この身動きが取れない状況で、またあの強力な砲を撃ちこまれたら、一貫の終わりだ。
「だけど、ガンダムを甘くみるなよ。ザクとは推力だけじゃなく、重量も違うんだからな」
装甲にルナ・チタニウムを使用するRXシリーズの重量は、単体では50トンちょっとしかない。
それに対し超硬スチール合金のザクは、60トンを超えている。この重量差は大きい。
ジェネレーター出力も段違いだ。
エイタはジェネレーター出力レバーをレッドゾーン一歩手前まで上げた。
同時にフットペダルでスラスターにブレーキを掛ける。
操作レバーのスロットルを捻った。
「行けっ!」
エイタはブレーキを離し、操作レバーを手前に押し出す。さらにスロットルを解放した。
同時に別のフットペダルで踏み込んで、ガンダム自身の脚で大地を思いっきり蹴った。
背中のランドセルと足裏にあるスラスターから、爆発的に推進剤の燃焼ガスが吹き出す。
ガンダムはジャンプと言うより、まるで『宙を飛ぶ』かのように、森林地帯から飛び立って行った。
トレーラーが横転し、連邦軍のモビルスーツが土煙と樹木の破片を巻き上がて森の中に滑り込んでいくのが見えた。
だが森の中から、すぐにビーム砲が発射される。
オダワラはザクの姿勢を下げて、膝を着く形になった。
掩体としていた丘にビームが直撃し、盛大に土砂が撒き上げられる。
だがオダワラはその土砂を隠れ蓑とし、起き上がったガンダムの後方に照準を付けずにマゼラトップを放つ。
敵モビルスーツの背後に着弾の爆発が起こった。
すると敵はその着弾に恐れをなしたか、狙い通りブービートラップを仕掛けた方向に走り出した。
……運良く敵に当たってくれると良かったんだが、まあいい……
すると敵のモビルスーツは、その強力なビームライフルをコッチに向けた。
「まずい!」
オダワラは再びザクを伏せさせた。
それと同時に、真正面の大地に赤白い閃光が広がる。
樹木の破片と一緒に、大量の土砂がザクを埋めるかのように降りかかって来た。
とっさにオダワラは機体の状態を示すモニターを見る。
異常はない。直撃ではなく、土砂が降りかかっただけだ。
オダワラはザクを膝立ちで森林の中で隠しながら、前方の状況を見た。
連邦のモビルスーツは、オダワラの狙い通りブービー・トラップ地帯に入り込んだようだ。
次々と爆発が起こり、フラフラしていた白い巨体が樹木の中に倒れ込むのが見えた。
……だけどあの程度の爆発でやられるほど、ヤワじゃないだろう。せめてマゼラトップの弾が残っていたら……
オダワラはそう思いながら、傍らの半分土砂に埋まったマゼラトップ砲を見た。
残弾ゼロのマゼラトップ砲は、その役目を終えたがごとく、土に埋もれている。
オダワラは再び正面に目を向けた。
残りはザクマシンガンと、装備されたヒートホークだけだ。
……敵はあの強烈なビームライフルを、あとどのくらい撃てるのか?……
噂では12発程度と聞いていたが、既に相手はその弾数以上に撃っている。
……いま、仕掛けるべきか?……
すると敵モビルスーツの居た辺りで、何やら白い煙のようなものが上がっている事に気がついた。
その直後、白煙の中から連邦のモビルスーツの白い機体が飛び出す。
その姿はまるで空を駆けるかのようだ。
「なっ……」
オダワラは言葉を失った。
ザクのジャンプ力とスラスター推力では考えられない跳躍力だ。
彼の目にはまさしく「モビルスーツが空を飛んだ」ように見えたのだ。
敵モビルスーツはその白い機体を晒して、トラップ地帯を完全に飛び越して行った。
この続きは、明日の正午過ぎに投稿予定です。
この後は毎日一話ずつ投稿します。