だがその途中の森林地帯では、オダワラのザクが待ち伏せている。
自動運転トレーラーをオトリに移動するが、その途中で戦闘となる。
オダワラが仕掛けたブービートラップ地帯に嵌ったガンダムだが、その驚異的な
ジャンプ力でトラップから脱出した。
コロニー外部ミラーから差し込む日差しが、だいぶ弱くなった頃。
エイタは連邦軍の秘密補給倉庫の屋上にいた。場所は森林地帯に隣接する住宅地にある。
倉庫とは言っても、整備やある程度の改造もできる工場に近いような設備だ。
しかも都合がいい事に、倉庫はモビルスーツが膝立ちになれば隠れられる程度の盛り土がしてある。
そして倉庫のすぐ裏手には人工の川(水が流れる本当の川だ)があり、その川が森林地帯まで続いていた。
おかげでイザとなれば倉庫から川に隠れながら、森林地帯への移動が可能だ。
倉庫内にあった双眼鏡で、屋上からザクがいると思われる辺りを監視する。
だが特に動きらしいものは見当たらなかった。
エイタは振り返ると、盛り土の内側に膝立ちの姿勢で待機させてあるRX-79T『プロト陸戦型ガンダム』を見つめた。
ガンダムの右手には、エネルギーが尽きたビームライフルの代わりに、ここで見つけた100ミリ・マシンガンが握られている。
「ちくしょう、モビルスーツの戦闘操作がこんなに難しいとは思わなかった」
エイタは低く呟いた。
一点目は、昼間のザクとの戦闘だ。
激しく上下に振動する中で、人間の目視による敵機体への照準などかなりの難易度だ。
これがレーダーが使える時代ならコンピューター制御で自動照準も出来ただろうが、ミノフスキー粒子下で肉眼による戦闘を強いられる現状では、かなりの熟練パイロットでなければ、走行中の射撃など敵へのけん制にしかならないだろう。
二点目はモビルスーツによる遠距離ジャンプだ。
爆発物が仕掛けられたブービートラップ地帯を大ジャンプで抜け出したまでは良かったが、その後がマズかった。
まるで空を飛んでいるかのような大ジャンプに、当のエイタ本人も驚いていた。
そして人型の大質量物が空中で安定した姿勢を保つ事はもっと難しい。
必死にスラスターを操作したエイタだったが、そのバランスを保つだけで精一杯だ。
見る見る近づいて来る地面に、エイタは恐怖を感じた。
少しでも着地の衝撃を和らげるべく、エイタはガンダムの着地場所を川の中に選んだ。
しかし着地時に逆噴射をしたにも関わらず、機体は着地の衝撃でバランスを崩し、激しく左膝を着いて転倒したのだ。
そのためガンダムの左膝の状態が悪かった。時折『ALERT』の文字が機体の状態を知らせるモニターに表示される。
人間で言えば『膝をねんざした』とでも言うのだろうか。
それにより、左ふくらはぎにある『ビームサーベル格納部』が開かなくなっている。
RX-78は背中に二本、ビームサーベルを備えているが、RX-79では左右のふくらはぎ外側にビームサーベルを格納している。
この方がモビルスーツのマニュピレーターに近いからだ。
人間風に言えば『手元に近くて取り出しやすい』という所か?
エイタはしばらく左のビームサーベル・ラッチを修理できないか調べてみたが、すぐに諦めた。
部品が一部折れている事と、ラッチを開放してビームサーベルを外に出す制御ユニットが破損していたのだ。
交換部品なしに修理はできなかった。
屋上に座り込むとエイタは胸ポケットからメモ帳とペンを取り出した。
……モビルスーツのコックピット。戦闘時の激しい上下動を考慮すると、現状の固定式操縦席より、球形の中でフルフローティング式のリニアシート・タイプが有効と思われる……
実はモビルスーツ開発当初より『宇宙空間での戦闘は、固定式操縦席より、周囲を球で覆った全天視界型のフルフローティングのリニアシートの方が良いのではないか』という意見は多くあった。
しかし貴重なモビルスーツ・パイロットのの生存率を高めるため、コア・ファイターの採用が決まったのだ。
そのため操縦席は固定式にせざるを得なかった。
RX-79はRX-78の余剰部品や試作品を流用しているため、コックピットもその試作品を流用しているので固定式なのだ。
……それに空中機動時のバランス制御は、もっとコンピューターで自動化しなければならない。あとモビルスーツが二本の脚で走り回るのは、どうなんだろう?あの所為でコックピットの振動が激しくなる。脚部のスラスター推力を強化して、ホバークラフトのような移動方法を考えるべきじゃないか?……
エイタのこのアイデアを先に実現したのは、モビルスーツの開発経験が豊富なジオンだった。
MS-09『ドム』が脚部と腰部に、熱核ジェットエンジンと化学ロケットの複合推力のホバー移動を実現したのだ。
エイタのこの案が連邦軍側で採用されるのは、一年戦争が終わった後、グリプス戦役近くになってからだ。
……あとビーム・ライフルが15発撃ったら母艦に戻るまで使えないって言うのもな。100ミリ・マシンガンの弾倉みたいに、エネルギー・パックを交換して連続使用できるといいのに……
しかしモビルスーツのビーム・ライフルに使用できる小型充電式のエネルギーCAPが開発されるのは、もっと後の事だ。
メモ帳とペンを胸ポケットにしまったエイタは、ガンダムに戻ろうとした。
……レイ主任の息子は、初めてガンダムに乗って、敵のザク2体を撃破したと言う。さらには宇宙戦闘ではジオンの『赤い彗星』と互角に渡り合い、地球への単機大気圏突破までこなした。これって本当に全部事実なんだろうか?……
エイタは自分がモビルスーツでジオンのザクと戦った経験から、改めてそう疑問を感じた。
あの激しい振動の中での敵との戦闘。そして照準のつけにくさ。スラスターでの姿勢制御の難しさ。
着地一つとっても、エイタは満足に成功しなかったのだ。
エイタはパイロットではないため、モビルスーツでの戦闘訓練は受けていない。
しかし開発段階から何度か動作テストも含めて、RXシリーズを操縦した事はある。
累積操縦時間もそこらのパイロットよりは多いはずだ。
……レイ主任の息子だから、ガンダムのマニュアルは見ていてもおかしくないけど……あの人、何度注意されても、家に機密情報を平気で持ち帰る人だったし……
……話にだいぶ尾ヒレが付いているんじゃないのか?それとも戦争が膠着状態だから『周囲が英雄を求める』雰囲気にでもなっているんだろうか……
そんな事を考えながら、ガンダムのコックピットに潜り込んだ。
陽が沈もうとする中(正確にはコロニーのミラーの角度から、太陽光が入らなくなるだけだが)、オダワラはガンダムが飛んで行った方角を双眼鏡で見つめていた。
「アッチの方向は住宅街だよな。確か市民のための公共施設があったはずだが……」
オダワラはスマホをタップして、サイド7のマップを呼び出していた。
地図には確かに『市民公共施設』となっている。
オダワラはてっきり体育館や市庁舎などかと思っていた。
「工場地帯と軍関係者の自宅までは調べたんだがな。三日間程度じゃ住宅街までは手が回らなかった。仕方がないか……」
オダワラは『無理な事は無理と割り切る』、そういう兵士としての思考に慣れている。
戦場や戦況がどうであろうと、自分が出来る範囲の事を、自分が出来る最善の方法でやるしかない。
「それにしても連邦軍の新型モビルスーツは、噂以上の驚異的な性能だな」
オダワラ自身、その目で見るまでは信じられなかったくらいだ。
マシンガンの弾を平気で弾き返す装甲。
モビルスーツが持つとは思えない大出力のビームライフル。
機体自体の運動性能もさる事ながら、凄まじいほどのジェネレーター出力とスラスターの推力で、空まで飛んでみせたのだ。
……相手のパイロットは、間違いなく戦闘は素人だった。それなのにあの驚異的な性能。あのモビルスーツが量産化されたら、ジオンはあっという間に敗北するんじゃないか?……
オダワラはこの二日間の戦闘を振り返ってみた。
……だがあのパイロットもあんまり舐める訳にはいかない。アイツはこのたった二日間の戦闘で、兵士として驚異的に成長している。見くびった考えは改めるべきだ……
オダワラ自身も過去の経験から『最初の戦闘を生き延びられるかどうかが、兵士としてのその後を決める』『一度でも戦闘を経験した新兵は、もはや新兵ではない』という言葉は事実だと感じている。
そしてオダワラのこれまでの経験から、「戦闘の終了は近い」と言う事を感じていた。
……敵パイロットは多少の無理を押してでも、北側に移動しようとしている。おそらく母船が迎えに来る予定があるのだろう。とするとあの軽装備から考えて、せいぜい二日か三日程度と言う事だ……
連邦軍の船があの兵士を迎えに来てからでは遅い。時間が経てば経つほど、相手に有利になっていく。
熟練の兵士であるオダワラにしては珍しく焦りを感じていた。
……今夜、夜襲をかけてみるか……
オダワラはそう決心すると、さっそくザクの移動ルートを検討し始めた。
この続きは、明日正午過ぎに投稿予定です。