三日目、今日の夕方には連邦軍の宇宙巡洋艦エインズワースが、エイタとガンダムを迎えに来る。
エイタはそれまでにどうしても、宇宙港のある北側ドッキング・ベイまで移動しなければならない。
一方、オダワラの方も「今日がタイムリミット」という事を感じていた。
互いに武器は、マシンガンと至近距離の得物のみ。
いよいよ最後の戦いが始まる。
コロニーの三分の一を占めるガラス外壁『河』から、ミラーで反射された太陽光が徐々に差し込まれて来る。
ジオン公国宇宙攻撃軍コンスコン機動部隊、ヒロシ・オダワラ上級曹長は朝日の中で大きく伸びをした。
場所は森林地帯で実際に水が流れる『川』のそばだ。この川沿いに下った所に、連邦軍のモビルスーツが潜む公共施設がある。
夜の内にここまで移動しておいたのだ。
そして陽が昇るのを待っていた。
オダワラのすぐ背後には、彼の愛機・MS-06ザクⅡが膝をついた姿勢で待機している。
既に支給された武器や装備は底を尽きかけている。
残っている武器は、ザク・マシンガンと予備のドラム・マガジンは一つ。
そしてザク本体に備え付けられているヒート・ホークだけだ。
だがオダワラは「それで充分」だと思っていた。
……あの連邦の新米将校は昨日、無理を押してでも住宅街まで移動した。そしてあそこで一昼夜を過ごしている……
……あそこでマシンガンを調達したのだろうが、目的はそれだけじゃないはずだ。おそらく近い内に連邦の船がヤツを迎えに来るのだ。そのために宇宙港に戻るために、移動とそのための武器が必要だった……
……敵は元々ほとんど装備を持って来なかった。コロニーは無人だと解っているはずだから、あの軽装備はせいぜい2日か3日の滞在しか想定していなかった、と言う事だ。つまり連邦の船がヤツを迎えに来るのは今日の可能性が高い……
それがオダワラの予想だった。
そして彼自身の武器も残り少なく、あと三日で除隊となる身では補給も考えられない。
しかしオダワラの中には、ここ最近では感じた事がない程の、闘志と高揚感があった。
まるで若い絶頂時に戦闘に行く時のようだ。
……軍役の最後の最後で、こんな相手と巡り合えるなんて、俺はツイている……
オダワラは本気でそう思っていた。
敵の新型モビルスーツが、彼の退役の最後を飾る花道のように思えたのだ。
「決着をつけるぞ」
オダワラは不適に笑うと、ザクのコックピットから伸びる昇降用ケーブルを掴んだ。
「朝か……」
地球連邦軍、第二北米工廠、新型起動兵器研究部所属、エイタ・ジョンソン・ソウマ技術中尉は眠そうに目を開けながらそう呟いた。
「自作グラウンド・ソナー」のお陰で、敵の接近はある程度は解る。昨夜はそれで敵を撃退した。
再び夜襲をかけて来る可能性は低いと考えていた。
敵は熟練のパイロットだ。エイタが何らかの方法でザクの接近を探知できる事には気がついただろう。
敵から見たら『自分の位置は把握されているのに、相手はどこに潜んでいるか解らない』と言うのは圧倒的に不利なはずだ。
それならば闇夜に攻撃を仕掛けてくる可能性は低い。
陽が昇って、コッチの姿を確認できるようになってから、攻撃を仕掛けてくるはずだ。
エイタは身体の上の掛けたポンチョを取り払った。
そして倉庫で見つけた『ガンダム用の白いパイロットスーツ』に着替える。
このスーツはガンダムの高起動性能に合わせて、かなりの耐G性能を備えている。その上、軽くて動きやすい。
例えザクとの戦闘が無くても、今日はコロニー北端の宇宙港からこのRX-79Tでサイド7を出なければならない。
RX-79Tは本来陸戦型として開発されていたが、このサイド7では宇宙空間でもある程度の活動か可能なように、背中のバックパックと各部スラスターが宇宙用に換装されていた。
それに最悪でもこの機体が行動不能となっても、コックピットの操作パネルの奥に収まっている全データを記録したシリコンディスク・ユニットだけは持ち帰らねばならない。
それらもあって、エイタはパイロット用ノーマルスーツに着替えたのだ。
「敵は、今日は来るよな、やっぱり……」
ヘルメットに右手に持ちながら、エイタは独り言を言った。
敵は昨晩は夜襲をかけてきた。つまりそれなりに決戦を急いでいるのだ。
あのジオン兵は、エイタが今日、このサイド7を出ていく事を予想しているのだろう。
「だから、このまま黙って見過ごすはずはない」
エイタのそれは確信に近かった。
彼にも既に『兵士としての直感』が備わっていたのだ。
オダワラはザクの小型熱核融合炉に火を入れた。機体が「ぶるん」と一度大きく振動する。
スロットを徐々に上げていく。ゆっくりとジェネレーター出力が『戦闘出力』に近づく。
オダワラは操縦レバーを握ると、悠然とザクを立ち上がらせた。
「行くぞ、相棒!」
オダワラはそう言うとフットレバーを踏み、操作レバーを前に倒した。
オダワラのモビルスーツ、MS-06ザクⅡがその全長17,5メートルの筐体を揺るがして、森の中を疾走した。
「ビルルルルルッツ!」
RX-79Tのコックピット内に『敵機接近警報』が鳴り響いた。
「来たか!」
警報があった左側モニターを見ると、そこにはまだ黒く見える森の中を疾走してくるザクのシルエットがあった。
……いつの間にあんな所に?森の土でマイクが音を拾えなかったのか?……
森林地帯側には盛り土がない。
エイタは左腕マニュピレーターを操作してシールドを構えた。
このシールドはRX-78と同じタイプのシールドだ。
直後にザク・マシンガンの弾が撃ち込まれた。
ほとんどがガンダムの周囲にばら撒かれるが、何発かはシールドに派手な音を立てる。
エイタのガンダムもしゃがんだ姿勢でシールドを構えながら、右腕マニュピレーターで100ミリ・マシンガンを撃った。
ダダダダダダダダッツ!
連続発射による反動で、モビルスーツの腕力でも狙いがブレる。
そしてザクの方も狙われたと察知した瞬間、横っ飛びした後に平行移動した。
と思ったらジャンプしてガンダムを狙って来る。
ドドドドドドドッ!
ガンダムの100ミリ・マシンガンより重い発射音が響く。
ザク・マシンガンの口径は120ミリ。ガンダムの100ミリ・マシンガンよりも口径は大きい。
これは対宇宙軍艦への効果を狙っていると考えられている。
口径が大きい方が当たった時の衝撃力は大きい。
だがその分、反動が大きいためザク・マシンガンでは装薬量を減らしている。
対してガンダムの持つ100ミリ・マシンガンは、対モビルスーツ戦を想定しているため、口径は小さくとも装薬量を増やして弾速を高め、貫通力を重視している。
……だからソッチの弾は一発二発ではガンダムの装甲を破れないが、コッチはザクを撃ち抜く事ができる……
エイタもガンダムを立ち上がらせると、同じく横移動を始めて100ミリ・マシンガンを撃った。
しかし当たらない。
元々動く標的に射撃で当てるのは難しい事だが、原因はそれだけでは無かった。
……なんだコイツ。もしかして射撃照準システムが未調整なのか?……
エイタは焦った。
元々このRX-79Tは『陸戦型ガンダム』のテストベッド機として開発されたのだ。
そしてコロニー内で実弾を撃つ事など、まずあり得ない。
そのため射撃照準システムは搭載されているが、実際に射撃をして調整はされていなかったのだ。
エイタは歯ぎしりをした。
敵のザク・パイロットは熟練の兵士らしく、動きを一定にせず常に予想できない動きをする。
そのためただでさえ狙い難いのに、射撃照準システムが未調整では、命中する方が奇跡と言うものだ。
……危険だが距離を詰めるしかない……
エイタはガンダムの機体を建物の影に入れると、RX-79Tのジェネレーター・リミッターを解除した。
これでRX-78と同等のパワーが出るはずだ。
「だが」とエイタは思わず口に出していた。
「余剰部品や試作部品で組み上げたこの機体、どこまで持ってくれるんだろうか」
この続きは、明日正午過ぎに投稿予定です。