MS-06ザクに乗る退役間近の熟練兵士オダワラ。
双方のモビルスーツは傷つき、ついに相打ちとなって両方とも行動不能になる。
そして二人のコックピットには『機体爆発のアラート』が鳴り響く。
ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ!
コックピット内部に警告音が鳴り響く。
モビルスーツ同士が正面からぶつかった衝撃で、オダワラの意識は若干朦朧としていた。
その虚ろな目でモニターを見た時、オダワラの意識は一気に覚醒した。
……熱核融合炉の炉心温度、爆発危険域だと!……
このまま行くと、いつ核融合炉が爆発するか分からない。
オダワラは急いでシートベルトを外すと、コックピット・ハッチの開閉スイッチを押した。
が、ハッチは開かない。
……ハッチの開閉装置が壊れたのか……
オダワラはシート横にある『非常用ハッチ開放ハンドル』に飛びついた。
だがハンドルは固くて動かない。当然だ。ちょっとやそっとで動くようでは、気密性の点で逆に問題だろう。
蒸されるようなコックピットの中、オダワラは必死でハンドルにしがみ付いた。
だがハンドルはまったく動かなかった。
……このままでは死ぬ……
オダワラの中で焦りが生じる。
戦士として戦って死ぬならいざ知らず、こんな所で蒸し殺されるか、爆発で死ぬなんて真っ平だ。
ふと思い出してシート脇にあるアサルト・ライフルを取り出す。
その銃身をハンドルに差し込み、テコの原理で力を込めた。
するとあれほど強固だったハンドルが、ゆっくりと回り始めた。
オダワラは何度もライフルを刺し直し、ハッチ開放ハンドルを回して行く。
やがてゆっくり、ゆっくりとハッチが開いていく。
ついにハッチが半分まで開いた。
ここまで来れば何とか通り抜ける事が出来るだろう。
オダワラは藻掻くように、開いたハッチの隙間に身体をねじ込んだ。
ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ!
コックピット内部に激しく警告音が鳴り響く。
エイタは虚ろな目で正面モニターを見た。
敵のザクは沈黙している。
「やった……のか……」
全身の力が抜けるような気がする。
そのままシートに身体を預けようとして気が着いた。
……この警告音は何だ?……
正面モニターには「ALERT」の文字が赤く点滅していた。
そしてモビルスーツの機体状況を映すモニターを見ると、機体各部が赤く点滅している。
そして……
……ジェネレーター異常だって?……
エイタは我が目を疑った。
ジェネレーターが熱暴走し、それに連動する小型熱核融合炉が異常反応を起こしている。
このまま行けば大爆発を起こすだろう。
気が付けばコックピット内の温度も60度を指そうとしている。
ノーマルスーツを着ているから気づかなかったのだ。
エイタは慌ててシートベルトを外すと、コックピット・ハッチを開くスイッチを押した。
ガコッ
何かが詰まったような音がして、ハッチの開閉が止まる。
このプロト陸戦型ガンダムのコックピットは胸部中央にあり、そのハッチはコックピットの上部だ。
ハッチは二重構造になっていて、内側が上部モニターを付けた内部ハッチ、外側に外部装甲を兼ねた外部ハッチがある。
その外部ハッチが、ザクのヒートホークの一撃を受けて変形し、完全には開かなくなっていたのだ。
開いた隙間はわずか10センチ足らず。
ノーマルスーツを着ては、腕を出すだけで精一杯だ。
エイタは恐怖した。
このままでは、ここで蒸し殺されるか、モビルスーツと共に爆死するかのどちらかだ。
モニターを見ると、敵のザクも高温を発しているらしい。
エイタは必死に外部ハッチを叩いた。
だがモビルスーツの装甲でもある外部ハッチが、そんな程度で開く訳がなかった。
既にエアコンも停止している。
ノーマルスーツの体温調整機構も間もなく効かなくなってくるだろう。
「誰か、助けてくれ!」
思わずエイタはそう叫んでいた。
オダワラがザクの太腿部分を伝って降りようとした時だ。
「誰か、助けてくれ!」
そう叫ぶ声が聞こえた。
ふと声の方に目をやると、連邦のモビルスーツの胸の中央部分の上側が、わずかに開いている。
……あそこがこのモビルスーツのコックピット・ハッチなのか……
すると中から白い手が出て、ハッチを必死に持ち上げようとした。
だが装甲が歪んでいるせいか、ハッチが動く様子はない。
……あの様子じゃ、まず出られないだろうな。気の毒に……
さっきまで命を賭けて戦っていた相手だが、オダワラは哀れみを感じずにはいられなかった。
……だからと言って、俺に出来る事は何もないけどな。これも戦争の現実だ……
オダワラはそのままザクのふとももから地面に降り立った。
そのままモビルスーツから急いで離れるべきだったが、なぜかもう一度視線が先ほどの場所に向いてしまった。
白い手は何度もハッチを叩いている。そして次には中から押し開けようとしていた。
まだ若い将校だが、最後の瞬間まで生きようと足掻いているのだろう。
……嫌なものを見てしまった……
オダワラは無理に視線を引きはがすように顔を背ける。
その時、幼い甥の姿が目に浮かんだ。
……あの子もあのパイロットと同じくらいの年頃なんだよな……
オダワラは何故か自分がとてつもなく、人としての道を踏み外しているように感じられる。
「エエイ。クソッタレが!」
オダワラはいま降りて来たばかりのザク機体をよじ登り始めた。
エイタは何度も何度も外部ハッチを叩いた。
さっきは無意識に「助けてくれ」と叫んだが、ここでエイタを助けてくれる者は誰もいない事は解っていた。
それでも叫ばずにはいられなかった。
渾身の力を込めて、ハッチを押し開けようとする。
だが何度やっても、ハッチはビクリとも動かなかった。
……俺は、こんな所で死ぬのか?戦闘でもない、別の原因で……
そう思った時だ。
外部から誰かの怒鳴り声が聞こえる。
「連邦のパイロット、ハッチから離れろ。今からそのハッチを引きはがしてやる!」
……え?……
エイタは驚きながらも、ハッチにかけた手を離して、上を見つめた。
するとわずかに開いた隙間から、深緑色の無骨な鉄の指が見えた。
そしてハッチを掴む振動が響くと、メリメリという音を立ててハッチを引きはがして行く。
やがて完全にハッチがもぎ取られると、それを投げ捨てる音が聞こえた。
エイタは呆然としながらもハッチから身を乗り出した。
正面には、同じくハッチを破壊したザクの中に、ジオンのパイロットが見える。
オダワラは自機に戻ると再びコックピットに潜り込み、まずは自分のハッチを破壊して正面が見えるようにし、続いてガンダムのコックピット・ハッチを破壊したのだ。
ガンダムのハッチから呆然と上半身を晒しているエイタに、オダワラは怒鳴った。
「ボケッとしてんな!もうすぐ、俺とオマエのモビルスーツは爆発する。今すぐに出来るだけ遠くに逃げろ!せっかく助かった命だろうが!」
オダワラはそう言うと、ザクのコックピットを飛び出し、そのまま太腿を滑り降りて走り出して行った。
エイタも慌ててガンダムの胸部から、非常用ワイヤーを引き出して地面に降りる。
一目散にオダワラとは逆に北側を目指して走った。
息が切れても走り続ける。
五百メートルほど離れた時、背後で爆発音が響いた。
この続きは、本日夜9時に投稿予定です。
次が最終話となります。