機動戦士ガンダム外伝 サイド7最後の銃声   作:震電みひろ

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もう一人の主役。
上官から疎まれた退役間際のジオン軍兵士の話になります。


2,ある古参兵の一時

サイド7の森林地帯に作られた丘の上。

朝日の中でヒロシ・オダワラはノンビリとコーヒーを入れていた。

私物の登山用ストーブで湯を沸かし、そこにコーヒーの粉末を入れる。

周囲では鳥のさえずりが聞こえた。

 

……命令を受けた時は腐ったが、軍歴37年で最後の任務で、こんな穏やかに過ごすのもいいかもしれない……

 

オダワラはそう感じながら、これも私物のチタン製マグカップを口に運ぶ。

 

彼の名前はヒロシ・オダワラ。

ジオン公国宇宙攻撃軍コンスコン機動部隊に所属する上級曹長だ。

今年で55歳になる古参兵であり、あと一週間で任期満了で退役となる。

 

オダワラは昔気質の軍人だった。逆に昔気質すぎて周囲から疎まれていた。

ついた渾名は「ローニン(浪人)」。

オダワラの先祖がジャパン系であった事がその由来だが、彼の頑固さからどの部隊でも扱い辛く、待機が多い事から『気位が高いが仕事がない侍』という揶揄が込められていた。

 

だが彼は忍耐力の強さから、単独での待ち伏せ・狙撃などの任務遂行能力は非常に高かった。

 

そこで今回、オダワラに与えられた任務は

 

『サイド7にて、連邦軍のモビルスーツ工廠を監視し、敵が接近したら排除すること』

 

であった。

 

……だが、そんな機会は、まずありえないな……

 

一人自嘲気味に苦笑したオダワラは、この命令を受けた時の事を思い出した。

 

 

 

オダワラは中隊長室の前に来ると、改めて襟を正し、ドアを二回ノックした。

 

「誰だ?」

 

「ヒロシ・オダワラ上級曹長であります。中隊長殿よりお話があると聞き、出頭いたしました」

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

オダワラはドアを開け、その場で一礼するとドアを閉めて再度敬礼を取った。

部屋の中には、オダワラが一か月前まで所属していた小隊の小隊長も一緒にいた。

その小隊長、まだ若い少尉だが、の顔を見た瞬間、オダワラは嫌な予感がした。

士官学校を出たてのその少尉は、戦術論ばかりを口にし、実際の戦場についての知識が乏しかったのだ。

そして事ある毎に、オダワラとは意見が衝突した。

結果としてオダワラはその小隊から外され、中隊直属の予備部隊、つまりは閑職に回されたのだ。

 

形式通りかしこまったオダワラを見て、中隊長は苦笑を浮かべた。

 

「オダワラ、楽にしていいぞ」

 

「失礼します」

 

オダワラは両手を後ろに回し、足を肩幅に開いた「休め」の姿勢を取った。

 

「オダワラ、君はあと十日で定年による満了退役だったな」

 

中隊長はゆっくりと口を開いた。

 

「ハッ、ですが自分としてはこの公国危急の時期に軍を離れる事は心苦しく、出来れば予備役としてでも残りたいと考えております」

 

それを横で聞いていた少尉が嫌な顔をするのが見えた。彼は面倒な上に口煩いオダワラを厄介払いしたいのだ。

中隊長がまたもや苦笑する。

 

「君の忠国の志には敬服する。だが我が軍としても、定年を過ぎた人間をいつまでも使い続けるのは、他の兵士の士気に関わるのだ。連邦軍のレビルが言っていた『ジオンに兵なし』が、現実だと思われてしまうのでな」

 

……実際その通りなのだが……

 

オダワラは心の中で反論した。

中隊長が言葉を続ける。

 

「さらにこの船は、これから月のグラナダで補給を受けた後、連邦軍の新型戦艦を追跡する長期の作戦に入る。よって間もなく除隊して民間人となる君を、このままこの船に乗せておく訳にはいかんのだ」

 

「自分は18の時よりムンゾ防衛隊に入隊して以来、ずっと軍一筋でおりました。今さら軍を退いて民間人として後方で暮らすより、ジオン公国軍の一兵士としてその命を全うしたいと……」

 

「ヒロシ・オダワラ上級曹長。君に『連邦軍工廠特別監視任務』を命じる!」

 

中隊長はオダワラの言葉を遮るようにピシャリと言った。

 

「『連邦軍工廠特別監視任務』でありますか?」

 

思わずオダワラは聞き返した。

『質問するのは良い兵隊ではない』という事は解っていたが、この状況で与えられた任務と言うのは聞かざるを得ない。

 

「そうだ。知っての通りサイド7では連邦軍の新型モビルスーツが開発されていた。あそこに連邦軍の工廠と試験施設があったのだ。君にはその施設の調査と、今後現れる可能性がある連邦軍の監視を行ってもらいたい」

 

それでもオダワラの疑問は払拭されなかった。

 

「お言葉ですが中隊長。サイド7はシャア少佐の強襲により、既に無人のコロニーであると聞いています。また連邦軍も退却に際して試作モビルスーツや装備一式などを、全て焼き払ったと聞いておりますが」

 

「その通りだ。だが工廠全体が焼き払われた訳ではない。技術者の居住スペースなどもそのままだからな。何かが残されている可能性がある。それを処分するために連邦軍が姿を表す可能性は十分にあるだろう」

 

だがオダワラは「そんな可能性は低い」と思っていた。

サイド7が無人となったすぐ後に、キシリア・ザビ少将配下の調査部隊が動いているはずだ。

オダワラが所属するドズル・ザビ中将の宇宙攻撃軍とは、あまり仲が良くないので、その情報は入って来ないが。

だがそれはここで言う事ではない。

 

「了解いたしました。それでこの任務には何名の兵士が着くのでしょうか?」

 

するとそれまで無言だった少尉が口を開いた。

 

「他にこの任務に着く兵士はいない。君一人で遂行するのだ、オダワラ曹長」

 

「一人……ですか?」

 

オダワラは思わず聞き返す。一人で遂行する作戦など聞いた事がない。

 

「そうだ。この隊はこれから連邦軍の新型戦艦およびモビルスーツを追跡する。あのシャア少佐の部隊が取り逃した船だ。残念ながら他に避ける兵士はない。だからオダワラ曹長、君一人でこの任務を遂行して貰いたい。君なら単独任務に耐えられる精神力があるし、元々、待ち伏せや狙撃などは得意だろう?」

 

そう言って少尉はニヤリと笑った。

 

……なるほど、自分にとっては目障りな俺を厄介払いすると言う訳か……

 

すると中隊長が気の毒そう目でオダワラを見た。

 

「オダワラ、君には申し訳ないと思っている。だが少尉の言う通り、この先の作戦を考えると『特別監視任務』に避ける人員はいない。それにこの任務は作戦期間は一週間ほどだ。一週間後に補給艦が君を迎えにやって来る。それまでの間、サイド7の工廠や内部を調査し、連邦軍兵士がやって来ないか監視してくれればいい。それで君は満了除隊だ」

 

 

 

……あの時、中隊長は俺に対する温情として、この任務を薦めてくれたんだろうな……

 

この命令を受けた時、オダワラは軍役最後の日々を戦いの中ではなく、このような人気のないコロニーで無為に時間を過ごすのは虚しく感じられていた。

しかし三日も経つと、このノンビリした任務も悪くない気がしてくる。

 

……どうせ退役したら、恩給を貰ってノンビリ過ごすしかなくなるんだ。その予行練習だと思えば……

 

入れたコーヒーの香りを楽しみながらマグカップを口に運ぶ。

そしてその香りは、故郷にいる幼馴染の未亡人・ミドリを思い出させた。

 

……彼女に会うのも久しぶりだ。元気にしているだろうか……

 

オダワラは子供の時からミドリに恋心を抱いていた。

おそらく彼女も自分に好意を持っていてくれたのではないかと思う。

だがオダワラは自分から思いを告白する事が出来なかった。

ハイスクールを卒業したオダワラは、ミドリに何も告げずに軍に入隊した。

そして五年後、兵長となったオダワラは休暇を利用して故郷に戻って来た。

ミドリにプロポーズするためにだ。

だがその日、久しぶりに実家に帰ったオダワラは、兄から思いがけない話を聞いた。

 

「ヒロシ、俺、来月に結婚するんだ」

 

「そうなんだ、兄さん。おめでとう。相手は誰なんだ?」

 

「ヒロシも良く知っている娘だよ。ミドリだ。ミドリ・キシカワ」

 

オダワラはそれを聞いた時、目の前が真っ暗になる思いがした。

その後、兄と何を話したか覚えていない。

最後のオダワラが辛うじて言った言葉は

 

「ミドリは本当にイイ娘だよ。幸せにしてやってくれよ」

 

その一言だった。

 

その後、軍に戻ったオダワラは自分の技術向上に専念した。困難な訓練にも進んで参加した。

そうする事でミドリの事を忘れようと思ったのだ。

やがてミドリと兄の間に、男の子が生まれた事が伝えられた。

両親が「たまには帰って来い」と何度も言うので、オダワラは数年ぶりに休暇で故郷に戻った。

生まれたばかりの甥は可愛かった。

 

だがその頃から兄はジオニズム思想に傾倒して行った。

そしてジオン・ズム・ダイクンが暗殺された時は抗議デモに参加し、そこで連邦軍に撃たれて死んだのだ。それにショックを受けたのか、老父母は相次いでこの世を去った。

オダワラは、未亡人となったミドリと兄が残した甥を守るのは、自分の役目だと心に誓った。

それ以来、良き伯父、良き義弟としてオダワラはミドリ親子に接して来た。

軍の給与は可能な限り、ミドリに送った。彼女はその度に丁寧な礼状と、たくさんの差し入れを送ってくれた。

その甥っ子もジオン公国大学に入学し、今はミドリも一人で暮らしていると言う。

ミドリはコーヒーを入れるのが上手だった。

訪れると、いつも温かいコーヒーを入れてくれる。

 

 

 

……除隊したら、今度こそ彼女に結婚を申し込もう。お互い、だいぶ歳を取ってしまったが、残りの人生は彼女と二人で歩みたい……

 

オダワラはそう思いながら二杯目のコーヒーを入れようとした時だ。

 ピー、ピー、ピー

 

……警戒信号?……

 

オダワラは急いでザクⅡのコックピットに戻った。

ミノフスキー粒子の所為で敵味方識別信号はキャッチ出来ないが、サイド7に船が近づいてきている事は解る。

 

……まさか、連邦軍?……

 

オダワラはコロニー北側(コロニー自転軸の内、太陽に向いた方を便宜上『北』と呼んでいる)のベイエリアに仕掛けたカメラを監視した。




この続きは、本日の夜8時過ぎに投稿予定です。
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