無人となったサイド7で、
『陸戦型ガンダムのテストベッド機』を回収に来た連邦軍の技術将校、エイタ・ジョンソン・ソウマと、
『退役まで一週間で事実上厄介払い』されたジオン軍の上級曹長、ヒロシ・オダワラ。
彼らは『互いに組織の主流からは外れた人間』だったが、死力を尽くして戦った。
その果てに、二人のモビルスーツは相打ちとなる。
両機とも爆発寸前となったが、エイタのガンダムはコックピット・ハッチを損傷したため、脱出する事が出来なかった。
だがそれを助けたのは、敵であるオダワラだった。
それから5年の歳月が流れた。
宇宙世紀0085。
エイタ・ジョンソン・ソウマは、月面都市フォン・ブラウン市に居た。
彼はコーヒー・ショップでグランデ・サイズのカフェオレとサンドイッチを買い、店内を見渡した。
……昼過ぎだって言うのに、満席だな……
午前の会議が長引いて、食事が今の時間になってしまったのだ。
今のエイタは、アナハイム・エレクトロニクス社の社員だ。
一年戦争終結後、軍を除隊したエイタは、かねてから誘いのあった同社に転職した。
エイタの『サイド7での実体験』から発案した『グラウンド・ソナー』はすぐに軍で採用されたが、他の『フル・フローティング式の全天視界のリニアシート』『モビルスーツのホバー移動』は、軍部ではあまり評価されなかった。
だがそれに目を付けて、高給でヘッド・ハンティングをかけてきたのはアナハイム・エレクトロニクス社だ。
なにしろ『実戦経験のある技術者』なんて、そうそういるもんじゃない。
今のエイタはモビルスーツ開発の技術部長の地位を得ていた。
エイタは購入した品を持って、店の外側にあるテラス席に移動した。
だがそこも全てのテーブルが埋まっていた。
……やれやれ、仕方ない。このまま立ち食いするしかないか……
そう思った時だ。
「相席で良かったら、ここにどうぞ」
近くのテーブルに一人で座っていた、白髪の男性がそう声をかけてくれた。
「あ、どうもありがとうございます」
エイタは礼を言って、その男性の向かいのイスに腰かけた。
男性は髪の毛は真っ白だが、肌の色艶はいいしハリもある。
年齢は60歳前後と言う所か?
そして全身が引き締まった、何か鋼のような強さをイメージさせる男性だった。
エイタは男性が持っていた雑誌に目を止めた。
「失礼ですが、元軍人の方ですか?」
エイタがそう問うと、男性は穏やかに目を向けた。
「ええ、どうして分かりました?」
エイタは男性の持っていた雑誌を指さした。
「その雑誌です。『ソルジャーズ・フォーチュン』。主に退役軍人向けに発行されている雑誌ですよね」
男性は雑誌を閉じながら笑った。
「解りますか?お察しの通り、私は元軍人です。それとこれも予想が付いていると思いますが、元ジオン兵です」
エイタは静かに頷いた。
『ソルジャーズ・フォーチュン』はスペース・ノイド寄りの雑誌だし、何より彼のアクセントには若干のジオン訛りがある。
「軍には長かったんですか?」
エイタがそう尋ねると、男性は少し誇らしげに答えた。
「ええ。18歳でムンゾ防衛隊に入隊して以来、37年間軍隊一筋でした」
「歴戦の勇士だったんですね」
ジオン公国は敗北している。その中で生き残っている事と言う事は、かなりの強者なのだろう、とエイタは思った。
「そんなカッコイイものじゃありません。最後の戦闘では、初めて戦場に出たと思われる新米将校さんにしてやられましたから」
男性は自嘲的に笑った。
エイタは、強さを内に秘めながら謙虚に話すこの男性に好感を持った。
男性が言葉を続けた。
「そういうあなたはアナハイム社の社員ですな。しかもモビルスーツ関連の?」
エイタも笑いを返す。
「その通りです。モビルスーツの開発に携わっています。大声じゃ言えませんが」
その時、エイタは男性が自分を探るように見ている事に気づいた。
「でもあなたの雰囲気はただの技術者には思えませんな。テスト・パイロットか何かですか?」
鋭い男だな、と思いながらエイタは答える。
「いえ、今は開発オンリーですよ。テスト・パイロットをやったのは軍の研究開発部に居た時です。一度だけですが戦闘を経験した事もありました」
男性は納得したようにうなずいた。
「なるほど、それで何か同類のような臭いを感じたのかもしれませんね。あなたにも『兵士』の臭いを感じる」
「そんな立派なものじゃありません。想定外の事態に巻き込まれただけですから。でもそれまでの自分の人生には無い強烈な体験でした」
エイタが自嘲気味にそう言うと、男性は深くうなずいた。
「戦場は過酷な上、残酷でもありますが、人によっては大きく成長させる場合もあります。中にはその後の人生を変えてしまう事も……」
それを聞いてエイタは苦笑した。
「いや、でももう戦争はコリゴリです。正直、何度小便をチビリそうになったか……」
男性もうなずいた。
「まったくです……」
そこで男性はコーヒーを一口飲むと、再び話しかけて来た。
「連邦軍に居た人なら、元ジオン兵は嫌いなんじゃないですか?」
だがエイタは頭を左右に振る。
「いいえ。自分はスペースノイドの気持ちは解りますし、一年戦争の敵はザビ家だったと思います。それにジオン兵に命を助けられた事があるんです……」
もう5年以上前になる、あの鮮烈な三日間をエイタは思い出した。
あの三日を生き延びた事で、エイタは自分の人生が強烈に変わったように考えている。
それを聞いた男性は破顔した。
「そうですか。それは良かった」
その時、テーブルに近づいて来た女性がいた。
やはり初老の、だが品の良い女性だ。
「あなた、買い物は終わったわ。待たせてごめんなさい」
「ああ、ミドリ。いや、大丈夫だよ、この方と楽しく会話も出来たから」
エイタは女性に向かって軽く会釈をした。
男性は残っていたコーヒーを飲み干すと立ち上がった。
「それでは私はこれで。老人の会話に付き合ってくれてありがとう」
「いや、こちらこそ、楽しい会話が出来て感謝しています」
男性はふと遠い目をした。
「なぜかあなたとは初めて会った気がしませんな」
エイタも同じことを感じていた。
「私もです。失礼ですが、お名前を聞かせて頂いてもよろしいですか?私はエイタ・ジョンソン・ソウマと言います」
「エイタ・ソウマさん……ですか……」
男性は記憶を辿るような表情をする。
「私はヒロシ・オダワラと言います。聞き覚えはありますか?」
だが残念ながら、エイタはその名前は記憶になかった。
「いいえ。すみません」
「気にしないで下さい。私も同じですから」
オダワラと名乗った男性は、改めてエイタを向き直ると丁寧に頭を下げた。
「それでは、私達はこれで失礼します」
「どうもありがとうございました。またどこかでお会い出来たら、お声をかけて下さい」
エイタがそう言うと、男性はにこやか笑ってうなずいた。
そのまま女性と一緒に歩き去っていく。
エイタはその姿を見ながら
「どこの国に生まれようと、人の幸せは同じなんだな」とそう思った。
(終わり)
これでこの話は終わりになります。
ここまで読んで頂いた方、ありがとうございましt。あ