それを回収に来たエイタ・ジョンソン・ソウマ技術中尉。
だが無人のはずのサイド7には、ジオン軍の退役間近な兵士、ヒロシ・オダワラ上級曹長が待ち伏せていた。
ジオン軍ヒロシ・オダワラ上級曹長は、宇宙港のある北側(コロニーの回転軸で太陽とは反対方向)を双眼鏡で見つめていた。
オダワラが居る場所は、森林地帯に作られた丘、市民の憩い用の展望台の上だ。
ザク自体は丘の中腹にある森の中に偽装して隠してある。
ミノフスキー粒子下で敵味方識別信号はキャッチ出来なかったが、サイド7に船が近づいている事は解った。
その後、仕掛けた監視カメラの映像で、宇宙港に小型のランチが入港した所まで確認している。
……コロニー公社のただの定期巡回か。それとも連邦軍がやって来たのか?……
小型のランチでやって来たという事は、コロニー公社の定期巡回の可能性が高かった。
……コロニー公社なら、宇宙港を一瞥してそのまま立ち去って行くはずだが……
すると北側の通称『山』から、一基のエレベーターが下降してくるのが見えた。
……コロニー内に降りてきた?公社の人間じゃないのか?……
オダワラはじっと双眼鏡に目を当て続けた。
しばらくするとエレベーターの麓駅から、一台のEVが走り出した。
好都合な事に運転席が見えるオープンカータイプだ。
オダワラはその運転席に目を凝らした。
まだ若い、二十代前半くらいの男だ。
その兵士の横顔を見た時、なぜかオダワラは同じ年ごろの甥っ子を思い出した。
……地球連邦軍の制服!だがなぜ一人?……
オダワラはもう一度コロニー北側のエレベーターに双眼鏡を向けた。
後続の部隊がいるかと思ったのだ。
だが後に続く兵士がいるように思われない。
オダワラは疑問に思った。
……なぜ連邦軍の兵士が、たった一人でこんな所へ?……
軍隊において単独行動作戦など、まずあり得ない。
確かに現在のオダワラの置かれた状況は単独作戦だが、これは事実上の「厄介払い」だからだ。
しかもオダワラはあと一週間で退役する。
それに総人口が1億5千万人程度のジオン公国と違い、地球連邦は50億人近い人口がいる。
(戦前の地球連邦加盟国の人口は百億を越えていたが、コロニー落としにより半分に減ったと言われている)
よってジオン軍ほど人手不足と言う事はないはずだった。
最初は「私的な理由で住宅街に忘れ物でも取りに来たのか?」と思ったが、EVは住宅街を素通りすると、そのまま森林地帯に入った。
そしてその先には工場区画しかない。
……まさかこの先の工場区画に、わざわざ連邦軍の兵士が行くようなシロモノがあると言う事なのか?……
オダワラの胸が高鳴った。
確かにオダワラはサイド7に到着して早々に、連邦軍の工廠を調査して回った。
自分では注意深く見て回ったつもりだが、それでも調査専門の部隊とは違い、見落としている部分は相当にあるだろう。
それに大部分の場所はキシリア・ザビ少将配下の調査部隊が調べた後なのだ。
やがて連邦軍兵士を乗せたEVは、それほど大きくない『小型宇宙艇製造工場』の前に止まった。
……あそこは民間人が経営する小型宇宙艇の製造工場だ。あんな所で何が?……
やがて工場内で電気が燈るのを確認する。
連邦軍兵士はあそこで何かを調べているのだろうか?
気になったオダワラは、スマホを取り出すと工場の所有者について調べてみた。
『エルスマン小型宇宙艇製造所。オーナー兼CEO、ジーン・エルスマン。株主構成、コロニー公社25%、コロニー開発銀行25%……』
……特に怪しい所はないと思うが……
だがジーン・エルスマンの経歴を見て、オダワラは目を見張った。
『アイランド・イフィッシュ工業高専を卒業』
アイランド・イフィッシュはサイド2ハッテ自治共和国の首都だったコロニーだ。
そしてジオン軍の悪名高い『毒ガス作戦』が実行され、そのまま地球に『コロニー落とし』をされたのだ。
ジーン・エルスマンがそのアイランド・イフィッシュの学校を卒業したのなら、現地には彼の友人や知人も多かっただろう。
それでなくても青春時代を過ごした思い出の場所を、『コロニー落とし』の兵器として使用されたなら、ジオンに対して敵愾心を持つに違いない。
オダワラとしても『ブリティッシュ作戦』通称『コロニー落とし』には強い反感を覚えていた。
自分達の『母なる大地』とも言うべきスペース・コロニーを大量破壊兵器として、『守るべき聖域の地球』に落下させたのだ。
ジオニズム思想に背く行為だと思うし、何より『コロニー内に毒ガスを噴霧して、全住民を抹殺』など狂気の沙汰としか思えない。
たとえサイド2、ハッテ自治共和国の国民が『反スペースノイド的思想』の持ち主だとしてもだ。
……エルスマンが反ジオンになるのも当然だろうな。自分達はスペースノイドのために立ち上がったはずなのに……これが戦争か……
そんな思考にボンヤリと捕らわれていた時だ。
『エルスマン小型宇宙艇製造所』の屋根の部分が、大きく左右に開き始めたのだ。
……な、なんだ。何が起こった?……
オダワラは双眼鏡で凝視した。
そしてその開口部分から姿を現したのは……
「連邦軍の新型モビルスーツ!」
オダワラは思わず声に出して呻いていた。
テストベッド機のためか、モビルスーツの機体色は目立つ白だ。胸部と腹部が濃紺に塗装されている。
……こんな所に、まだ連邦の新型モビルスーツが!……
オダワラは展望台から飛び降りると、なだらかな斜面を一気に駆け下りた。
すぐにカモフラージュ・ネットを掛けた自分のモビルスーツ、ザクⅡに辿り着く。
ザクの鳩尾部分の左側にあるコックピット・ハッチを開くと、滑るようにコックピットに入り込んだ。
既に小型核融合炉はスタンバイ状態になっている。
オダワラは四点式シートベルトを締めると、左右に直立した操縦レバーを握った。
起動スイッチを押すと、正面・左右・上下のモニターが外部の状況を映し出す。
望遠カメラで宇宙艇工場をクローズアップする。
連邦の新型モビルスーツは立ち上がったままだ。
その目立つ体勢でシステム・チェックでもしているのだろうか?
オダワラはザクを立ち上がらせず、周囲の樹木で機体を隠した状態で175mm無反動砲・通称『マゼラトップ砲』をザクのマニュピレーターで掴んだ。
これはザクマシンガンではダメージを与えにくい相手に対し、長距離射撃を目的として支給されたものだ。
とは言っても、事実上は『修理途中のマゼラトップ』が余っていたので、それを廃棄がてら持たされた、と言うのが正しいが。
オダワラの乗ったザクは、そのまま人間で言う『膝撃ち』の姿勢を取る。
モニターの照準器に連邦軍の新型モビルスーツの機体が大きく映る。
……この距離なら俺は絶対に外さない……
オダワラの心は踊った。
もはや「消化試合に近い、退役までの暇つぶし」と思われたこの任務で、まさか連邦軍の新型モビルスーツと邂逅する事が出来るとは思わなかったからだ。
しかも相手はあの『赤い彗星と呼ばれるシャア少佐』が、取り逃したという話題のモビルスーツなのだ。
オダワラは再度、照準器の中央に捕らえた連邦のモビルスーツを見つめ直す。
……誰だか知らんが、残念だったな、連邦の兵士さん。俺は待ち伏せと狙撃は得意中の得意なんだよ……
事実、彼は小惑星や宇宙デブリに隠れて、何隻もの連邦の船を航行不能にしてきた。中には撃沈したものさえある。
連邦の新型モビルスーツの装甲は、ザク・マシンガンの弾をはじき返したそうだが、このマゼラトップ砲なら破壊できるだろう。
オダワラは胸の高まりを押さえながらも、慎重にトリガーを引いた。
この続きは、今日の夜8:30頃に投稿予定です。