連邦軍の技術将校、エイタ・ジョンソン・ソウマは、その隠し場所からガンダムを起動させた。
だが無人と思われたサイド7には、ジオン軍から「工廠の監視任務」を単独で任された古参兵、ヒロシ・オダワラがいた。
オダワラは待ち伏せと狙撃の名手だ。
そのオダワラが、ガンダムを狙い撃った。
エイタのガンダムがビームライフルを手にした時だった。
ギュン
という凄まじい異様な摩擦音と共に、目の前の工場外壁が爆発的に吹っ飛んだ。
爆風を浴びてガンダムの機体が、後ろに尻もちを着くように倒れる。
モニターが瞬時に光量調整を行うが、それでも一瞬目の前が真っ白になった。
……何が起こった?……
数秒遅れて、巨大な砲の発射音が聞こえる。
……敵による攻撃?……
エイタの頭が混乱した。
このコロニーは無人のはずだ。ジオン軍も来ていないと、事前に偵察部隊からの報告を受けている。
……俺がこのコロニーに入ってから、ジオン軍が攻めてきたのか?……
だがエイタはその考えをすぐに打ち消した。
彼が宇宙巡洋艦エインズワースでこのサイド7に接近した時、付近にはジオンどころか民間の船も居ない事は確認していたからだ。
「くそおっ!」
エイタは、ガンダムの右手がビームライフルを手にしていた事に気が着いた。
レバーを操作し、銃声が聞こえたと思われる当たりにビームライフルを向ける。
その方角には森林地帯だが、少し小高くなった丘のようなものが見える。
音からして、おそらくその辺りだろう。
敵影は見えなかったが、カンでトリガースイッチを押す。
ビュオオォォ
形容しがたい音と共に、赤みを帯びた白光がビームライフルから一直線に放たれる。
だが一発目は丘には命中せず、そのまま空気の霞む彼方でオレンジ色の爆発光が見えた。コロニーのどこかに着弾したのだ。
だが恐怖と焦りに捕らわれていたエイタは、そんな事は気にしなかった。
二発、三発と続けてビームライフルを発射する。四発目がやっと丘になっている部分に命中した。
その爆発的なエネルギーが丘から大量の土砂を巻き上げると共に、周囲の森林が燃え始めた。
それでもエイタは五発目、六発目のビームを撃つ。
敵影も見えない中でこんな無駄玉を何発も撃つことは、普通のパイロットには考えられない事だが、実戦訓練を受けていない技術士官のエイタには無理もない事だった。
「敵をやった……のか?」
六発もビームを放ち、敵からの反撃がない事で、やっとエイタはトリガーにかけた指を離した。
敵の最初の一弾で、既に工場建物が燃え始めていた。乗って来たEVもその炎に巻き込まれてる。
その黒煙が煙幕となってガンダムの機体を隠してくれる。
そう思った矢先だった。
再び鋭い空気との摩擦音と共に、今度は前方にあった資材工場に着弾、そして爆発炎上する。
そして一瞬見えた敵からの発射光。
先ほどビームライフルを打ち込んだ丘の反対側だ。
エイタは再びそこにビームライフルの銃口を向けると、トリガースイッチを押した。
一発、二発、三発・・・またもや六発のビームを敵のいるあたりに立て続けに撃ちこむ。
既に丘のあったあたりにはいくつもの土煙と、同時に森林の木々が燃え上がる黒煙が幾筋も立ち昇っていた。
敵の砲撃は止まっている。
……今度こそ、やったのか……
だがエイタには敵を撃墜できた確信がない。
そして攻撃の成果を把握しに行く勇気も無かった。
トリガースイッチに指をかけたまま、ジオン軍のヒロシ・オダワラ上級曹長は呆然として呟いた。
「まさか……外した?……」
信じられない思いだった。
間違いなく敵モビルスーツの姿は照準器のド真ん中に捕らえていたのだ。
確かにオダワラの気持ちは『連邦軍の新型モビルスーツを撃墜する』という事に高ぶっていたかもしれない。
だがそれでトリガーを引く手が震えるほど初心ではない。
そして彼の37年に渡る戦歴の中で、こんな事は一度も無かった。
「ザクの照準システムが壊れたのか?」
そうとしか思えなかった。
そして……バカバカしい事だがオダワラの目には、銃の弾道が左にカーブしたように見えたのだ。
だがノンビリ外した理由を考えている訳にもいかなかった。
敵モビルスーツは、その手に強力な武器、ビームライフルを構えて応戦して来たのだ。
オダワラは素早くザクを丘の反対側に移動させた。
この展望用の丘が、うまい具合に掩体となってザクの機体を隠してくれる。
ビームは続けざまに6発発射された。その内の二発は明後日の方向に飛んで、コロニーのどこかに着弾する。
「それにしても……敵影も確認せずにこんなムダ弾を撃つなんて。相手は新兵か?」
オダワラは思わずそう呟いた。
確かに敵はオダワラの狙撃位置に検討を付けて撃ってきている。
だが強力なビーム砲と言えども、機体に当たらねば意味がない。
そしてビームライフルのエネルギー消費率を考えれば、そんなに連射は出来ないはずだ。
オダワラは丘の反対側にザクを移動させた。
上手い具合に敵のビームの着弾によって、周囲の森林から火の手と黒煙が上がっている。
オダワラは慎重に樹木の影にザクを隠しながら、再びマゼラトップ砲を構えた。
今度は伏射の姿勢だ。安定性も高い。
オダワラは照準器を除いた。
やがて相手が潜む工場の影から、白いモビスルースの上半身が見える。
間違いなく照準器のド真ん中だ。
……これなら絶対に外す事はない……
オダワラは慎重にトリガースイッチを押した。
だが信じられない事に、またもやオダワラの放った銃弾は目標を外れたのだ。
しかもさっきと同じく、オダワラから見て左側に銃弾が逸れた。
そして間違いなく、銃弾が左にカーブしたのだ。
今度は敵モビルスーツの左側にあった資材工場が派手に爆発する。
オダワラは呆然として前方モニターを見つめた。
……どういう事だ?この俺が二度も狙撃を外す?しかも弾道が左にカーブしただと……
敵モビルスーツが再びその強力なビームライフルを撃ちこんでくる。
オダワラは丘を盾に機体を隠すしかなかった。
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