機動戦士ガンダム外伝 サイド7最後の銃声   作:震電みひろ

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無人のサイド7。
そこでプロト陸戦型ガンダムを回収に来たエイタ。
そして一人で工廠の監視を命じられたオダワラ。

オダワラは必殺のはずの狙撃が、なぜか外してしまう。
それに驚いたエータは、敵の姿も確認せずにビームライフルを乱射した。


6,焦りと気付き

エイタは地下空間の中にガンダムを這いつくばるようにして、機体を隠した。

コックピット左下にあるウェポン・コントロール・システムのモニターに目をやった。

ビームライフルのエネルギー・ゲージが『残弾3』と表示されている。

 

……しまった。焦ってライフルを乱射し過ぎた……

 

ビーム・ライフルの発射回数は15発だ。それを撃ち尽くしたら、専用のエネルギー・チャージャーで充電しなければならない。

だが既に敵の砲撃によって、工場内施設は大半が破壊されていた。

ここでビーム・ライフルのエネルギー・チャージを行う事は無理だ。

 

……それにしても、ザクにあんな長距離射撃を行える武器があるとは知らなかった……

 

ザクでよく使われる兵器は『ザク・マシンガン』と『ザク・バズーカ』だ。

他にも脚部に着けるミサイル・ポッドや接近戦用のヒート・ホークなどがあるが、実弾を使用する長距離射撃用の武器については聞いた事がない。

 

……ザク・マシンガン程度なら、RX-79Tのルナ・チタニウムの装甲ならある程度は耐えられるんだが……

 

実際、RX-78-02は至近距離からのザク・マシンガンの弾をはじき返したと言う。

 

……しかしあの長距離砲の威力だと、まともに喰らえばガンダムとて無事には済まない……

 

……敵はあと何発、あの長距離砲を撃てるんだ?他の武器は持ってないのか?マシンガンならまだしも、バズーカを撃ちこまれたら一たまりもない……

 

……そもそも敵は何機いるんだ?このままここにいたら包囲されるんじゃないか……

 

エイタはそう考えると、背筋がゾクッとした。

今すぐにでも、この地下空間を取り囲むようにザクが姿を現すかもしれない。

思わすレバーを引いて、ガンダムのマニュピレーターでビームライフルを構える。

 

……だが、ビーム・ライフルはあと三発しか撃てない。残る武器は頭部と胸部の60ミリバルカン砲とビーム・サーベルだけだ。だがバルカンでモビルスーツを倒せるのか。それに敵が遠距離狙撃と接近戦に別れて襲ってきたら……

 

エイタは額に粘るような汗が滲んでくるのを感じた。

 

……とりあえず今は、ここを塹壕として相手の出方を見るしかない……

 

そう考えたエイタはガンダムを操作して、黒煙に紛れて工場に元からあった四隻の小型宇宙艇を、敵がいる方向に向かって並べて行った。

それ以外にも散らばった鉄骨などの資材や、コンクリートの塊を砲弾壁として積み上げる。

その作業中にエイタは思い出した。

 

……そうだ、この工場区画から森林地帯を越えた所に、確か連邦軍の秘密補給施設があった。あそこには100ミリ・マシンガンと弾薬があるはずだ。そこまで行く事が出来れば……

 

しかし塹壕の外に出れば、先ほどと同じく敵の狙撃が待っている。

それに敵が何機いるか分からない状態で、ノコノコと外に出ていく勇気は、今のエイタには無かった。

 

……せめて暗くなるまで待つか……

 

エイタはそう自分を納得させた。

 

 

 

森林地帯の丘の影。

ザクの機体をその影に隠したオダワラはマゼラトップ砲を見た。

 

「なぜだ、なぜこの俺が、こうも狙いを外した?」

 

二回の狙撃を思い起こし、慎重に考えてみる。

一発目も二発目も、着弾はオダワラが狙った場所から10メートルほど左にずれた。

そして二発目はハッキリと弾道が左にカーブしたのだ。

 

……弾道が曲がるなんて、そんなバカな事が……

 

その時、オダワラの頭にやっと答えが浮かび上がった。

 

「クソッ、俺は何て馬鹿なんだ。コロニー育ちにも関わらず、こんな簡単な事に気づかないなんて!」

 

オダワラが気づいたのはコリオリの力だった。

回転運動する座標の中で放たれた物体は、見かけ上は回転と反対方向に曲がって進むように見えるのだ。

 

……俺はコロニーの南に向かって銃を撃った。コロニーは反時計回りに回転している。だから銃弾は見かけ上、左に曲がって見えたのだ……

 

こんな単純な事に気づかなかった自分にパンチをくれてやりたい、とオダワラは思った。

 

しかしコロニー内での実弾発射など、スペースノイドには考えられない事だった。

何しろ自分達の母なる大地とも言えるスペース・コロニーなのだ。

モビルスーツがバズーカやマシンガンを使うのは、宇宙空間だけだった。

さらに言えば、原因が解った所で今のオダワラにはどうする事もできない。

コリオリの力によって着弾がズレるとしても、コロニー内部では敵との位置関係によって弾道が変化するためだ。

そして軍一筋だったオダワラには、射撃管制システムを修正するようなプログラムを書く事はできない。

 

オダワラは再びマゼラトップ砲を見た。

元々、マゼラトップ砲の装弾数は5発だ。そして予備の弾薬は持って来ていない。

残りは三発。狙いがズレる長距離砲など、相手の威嚇にしか使えない。

 

……それに対し、ヤツのビームライフルは狙った場所に直進する。こっちはうかつに近づけない……

 

ビームは光速に近いスピードで飛んでくる。よってコリオリの力によって弾道が曲がる事は事実上ないに等しい。

 

……コッチが助かっているのは、相手がヘタクソな新米兵士だって事だな……

 

ふとその時、「連邦軍のパイロットは全員少尉以上である」と言う話を思い出した。

 

……つまり相手は士官学校出たての新米将校さんと言う訳か。だがそんな嘴の黄色い少尉が、なぜたった一人でやって来たんだ……

 

常識的にあり得ない、とオダワラは思う。

何らかの原因で新米少尉だけが先に一人でやって来たとしても、後に続く部隊が必ずいるはずだ。

 

……長期戦は俺に不利だな……

 

オダワラはそう考えていた。

 




この続きは、本日夜8時過ぎに投稿予定です。

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