互いに「相手が一人らしい」となり、持久戦となった。二人。
だが武器は互いに乏しい状況である。
「クソッツ、なんでこんなに暑いんだ」
エイタは顎から滴り落ちそうになる汗を、ハンドタオルで拭った。
そのハンドタオルも既にぐっしょりと湿っている。
原因は解っていた。
ガンダムの小型熱核融合炉を『戦闘出力』に維持していたため、排熱が追いつかないのだ。
元々、モビルスーツは戦闘状態ではかなりの高熱を発する。
その冷却のために外部装甲板から熱を逃がすようにしている。
だがRXシリーズの外装であるルナ・チタニウムは、ザクの外装である超硬スチール合金より熱伝導性が悪い。
そのためRXシリーズでは、胸部に大きな排熱口を持っている。大気中では空冷で、宇宙空間では冷却ガスを排出する。
しかし今のエイタのガンダムのように、動かない状態で『戦闘出力』を保っていては、排熱が追いつかないのは当たり前だ。
本来ならは今のようにモビルスーツを待機させている時は『スタンバイ・モード』または『スリープ・モード』にしておくべきなのだ。
だが『敵がいつ、どこから現れるか分からない』という状況から、エイタには『戦闘出力』を解除出来なかったのだ。
モビルスーツ本体は『スタンバイ・モード』でもすぐに動かす事が出来る。
だがビームライフルやビームサーベル、またスラスターを利用した運動は、起動後の数十秒は出来ない。
その数十秒が命取りになる可能性は高い。
その結果として、エアコンが装備されているにも関わらず、現在のコックピット内部の温度は40度に達しようとしていた。
「このままじゃ敵にやられる前に、俺が暑さでやられちまう」
エイタはジェネレーター出力レバーを操作し、ようやく『スタンバイ・モード』にセットした。
「水……水が欲しい……」
既にエイタの喉の渇きはかなりの所まで来ていた。
……しかし水や携帯食料を入れたバックパックは、EVに積んだままだった……
そのEVは敵の一射目で炎上している。
……このまま持久戦になったら、水と食料は確保しておかないと……
三日後には連邦軍の宇宙巡洋艦『エインズワース』が迎えに来るのだ。
たとえここでザクを倒せなくても、三日間乗り切ればエイタの勝利と言える。
……だが水も食料も無しでは、三日間を乗り切る事はできない。最低でも水だけは確保しておかねば……
エイタは既に乾ききった舌で、やはり乾いた唇を舐めた。
……暗くなったら水と食料を探しに行こう……
オダワラは丘の上に作った偽装監視壕から双眼鏡で、連邦のモビルスーツがいる辺りを覗いていた。
「奴さん、新米将校のクセに粘るな。一日もしない内に音を上げて動き出すかと思ったんだが……」
オダワラはそう言った後で、レーションにあったチョコレート・バーを齧った。
物資不足に悩むジオン公国にとって、チョコレートの原料となるカカオは貴重品だ。
今回は満期除隊の事もあって、補給係が特別にオダワラには支給してくれたのだ。
「まだ火事の後が残っていて、赤外線センサーは使えないか」
モビルスーツはかなりの高音を発する。
そもそも一時間以上の連続戦闘を想定はしていない。
宇宙空間なら冷却水の循環とスラスターの推進剤の気化熱などで排熱を行うが、コロニー内ではそういう訳にも行かない。
チョコレート・バーを食べ終わったオダワラは、水筒の水を一口飲んだ。
「水も手に入らないのに、暑いモビルスーツのコックピット内で息を潜めているのか?」
だがそんな我慢は無駄だろう、とオダワラは思う。
オダワラは監視壕を出て丘を降りると、生理現象の事前解消として放尿した。
その時、ふとある思いが頭を過る。
……あの新米将校はランチで来たという事は、連邦軍の船は奴を途中で降ろしたと言う事だ。つまり帰りに拾っていくのだろう。長期戦になればコッチが不利だ……
……敵のパイロットが一日中コックピットの中に籠っているのは、近い内に味方の迎えが来る事を想定しているのかもしれない。そうすると俺が考えているより早く、ここに連邦軍がやって来る事になる……
オダワラはズボンのチャックを上げると、再び丘の上に立って敵モビルスーツがいる辺りを眺めた。
……連邦軍の増援が来るまで時間がかかるとしたら、敵のパイロットも一度はコックピットを出て、水や食料を探すはずだ。一度は相手の様子を偵察しに行った方がいいな……
そう考えたオダワラは、さっそくコックピットに戻ると白兵戦用の無反動ライフル70-Rカービンを取り出した。
腰のホルスターにはナバン62式拳銃が収められている。
……敵の新米将校が動くとしたら、やっぱり暗くなってからか……
オダワラはザクを『スリープ・モード』にセットして、コックピット・ハッチを暗証番号でロックすると、静かに熟練の動きで森の中に消えて行った。
この続きは、本日午後3時頃に投稿予定です。
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