一方、オダワラも「連邦軍兵士は準備がないからPXに向かうだろう」と予想し、モビルスーツを降りてPXに向かった。
コロニー内が完全に闇に沈んだ頃。
エイタは工場区画と森林地帯の境界にある『連邦軍基地』の近くに来ていた。
工場内に飲料用の水道水がない事は解っていた。
コロニーでは水は貴重だ。地球にように自然に湧いて来るものでも、空から降って来るものでもない。
全て限りある資源として循環して使用している。雨だってコロニー内の植物の光合成のために、計画的に降らせているのだ。
工場にある水道設備は飲料用には適していない上、その給水システムさえも止められていた。
最初は工場区画の近くにスーパーなどの店舗がないか探したが、地球と違ってコロニーには非居住地域にそんな物はなかった。
自動販売機はいくつかあったが、住民退避時に一斉に電源が落とされているようだ。
一軒だけコンビニエンスストアらしき店があったが、そこは既に火に取り囲まれていた。
既にガンダムのある工場一帯では火の手は収まっていたが、まだその周辺では散発的に赤い炎が見える。
……確かこの工場区画と森林地帯の境界に、連邦軍の基地があった。そこには兵舎もPX(基地内のスーパー)があるはずだ。火の手が回っていなければ、PXで水やレーションなども揃える事が出来るだろう……
エイタは火事の発生している場所を避けながら、やっとの思いで連邦軍基地まで辿り着いた。
幸いな事に、ここは火事が発生している所からはけっこう離れている。
……かなり遠回りになったが……やっと水にありつける……
エイタは閉じられている門を押し開くと、基地内に入って行った。
一番奥の森林地帯に近い場所に兵舎がある。
PXはそれよりも少し手前だ。
エイタはこれだけは肌身離さず持ってきた『M72A1ブルパップ式アサルトライフル』を構えた。
もしかしたら敵のジオン兵が待ち伏せしているかもしれないからだ。
エイタは技術士官のため、本格的な戦闘訓練は受けていない。
しかしそれでも実弾射撃の訓練は受けている。
ライフルをしっかりと肩と頬に付け、必ず視線と銃口を同じ方向に向けながら、基地の中を慎重に進む。
コロニー全域の送電システムが停止しており、基地内の電源も落とされているため、周囲は真っ暗だ。
いくつかの建物を通り過ぎた所、少し広場になったような場所に二階建ての平たい建物が目に入った。
近くに寄って見てみると、入口の上に『SIDE7 PX』と書かれている。
エイタはホッとしながら、入口に近寄った。だが入口は施錠されている。
……音は立てたくないが、仕方がない……
エイタはライフルの銃床でドアのガラス部分を叩き割った。
静まり返った無人のコロニーの中では、想像以上に大きな音が響いたような気がする。
エイタは周囲に目配せをする。
……大丈夫だ。近くには誰もいない……
そう自分に言い聞かせた。
店内に入ると、さらに闇は濃くなった。
暗闇に慣れた目でも、ぼんやりと棚がある事が解るくらいで、何がどこにあるのかさっぱり解らない。
……ここまで来て、何も収穫なしじゃいられない。今まで大丈夫だったんだ。ここでライトを付けても大丈夫だろう……
ここまで敵らしい姿が一切見えなかった事が、エイタを大胆させていた。
またそれ以上に喉の渇きが抑えられなかった。
エイタは胸に付けていたマグライトのスイッチ入れた。
オダワラは音もなく、まるで野生動物のように夜の森の中を進んでいた。
……ヤツが水と食料を探しに行くとしたら、連邦軍基地内のPXだろう……
オダワラは最初からそう読んでいた。
工場区画内に店舗は少ないし、それを土地勘のない人間がアテもなく探し回る事はないだろう。
森林地帯を越えて住宅区画に行く可能性はあったが、それには移動距離が長すぎる。
そんなに長くモビルスーツを放置しておくとも思えなかった。
そうなると連邦軍兵士ならサイド7内の連邦軍基地の場所は知っているだろうし、当然、そこにはPXがある事は予想できるはずだ。
既にオダワラは連邦軍基地の建物については、あらかた配置なども調べてあった。
PXの位置も解っている。暗闇でも問題ない。
そんな時、ガラスが割れる音が聞こえた。
一瞬、火事によるものかと思われたが、聞こえたのは間違いなく連邦軍基地の方角からだ。
……敵はやはり連邦軍基地のPXに向かったか……
オダワラは物音を立てず、それでいて素早く獣のように夜の森の中を進んだ。
やがて森を抜けた所で、連邦軍基地が見えた。
こっちは裏口に当たる。
あらかじめ開錠してあった通用口から侵入した。
入ってすぐの所にあるのは兵舎だ。ここを抜けた所にちょっとした広場があって、PXはその前にある。
オダワラはさらに慎重に歩を進めた。
夜の森の中を抜けてきた目には、開けた場所は落ち着かないほど明るく感じる。
しばらく進んだ所でPXの建物が見えた。
兵舎に身を隠しながらPXの内部を伺う。
するとそこにチラ、チラと、光が動くのが見える。
……ライトを照らしながら品物を物色しているという訳か。やっぱり戦場を知らない新兵だな……
オダワラはまだ若い連邦軍将校の顔を思い出しながら、優越感と相手を哀れに思う気持ちの半々を感じながら、ライフルを構えた。
ライトはチラチラと見えるが、肝心の敵兵の姿は商品棚に隠されて見えない。
と、棚の上部から帽子を被った頭部が見える。
目を凝らすと、それは連邦軍パイロットが被っているキャップ(つば付き帽子)だ。
鷲のマークがハッキリと見える。
オダワラは改めてライフルを構え直した。
銃床をしっかりと肩にあて、キッチリと頬付けする。
距離はおよそ80メートル。
オダワラはモビルスーツでの狙撃だけではなく、自らのライフルによる狙撃も得意だ。
……悪いな、連邦の新米パイロットさんよ。俺はスコープ無しでもこの距離なら外さないんだよ。せめて一発であの世に送ってやる……
オダワラは静かに、静かに、『冬の夜に霜が降りるように』引き金を絞った。
「バンッ」と言う銃声が響いたかと思うと、照星の先にあったパイロット用帽子が吹き飛んだ。
この続きは、本日夜9時過ぎに投稿予定です。
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