恐れよ、暴れる竜を。狩れ、友の為に。   作:X2愛好家

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業の波動に目覚めし鬼

今回のエピソードは、以下の作品で展開されているエピソードのビオ視点・X2愛好家執筆のディレクターズカット版となります。
https://syosetu.org/novel/369476/23.html


業鬼

「だぁー!何でこっちばっか追い掛けてくんだよクソ鳥野郎がよぉー!焼き鳥にして酒でキュッと一杯やってやろうかチクショー!」

 

───クアァァァァッ!

 

「うっせぇぇぇ!」

 

何やら騒がしい森林地帯を更に騒がしくしながら走り抜ける人影が一つ、それを猛追する異形が一つ。武器を納めた状態で全力疾走しているスェイデと、親の仇の如くスェイデを追い回す鳥竜種モンスター、黒狼鳥イャンガルルガだ。

 

「横っ腹イッテェんだよこっちはぁ!しつこい!マージでしつこいぞお前ェ!しつこい男は女に嫌われるってそれ大昔からいっちゃん言われてんだぞ知らねぇのか!まぁ知らねぇよなぁ!オツム空っぽのモンスターなんだからなぁ!」

 

───クォァァァァ!ガァッ!

 

「やっべ、怒らせたくせぇ!」

 

果たして本当にスェイデの言葉が分かっているのか。それは定かではないが、突如として口腔から炎が漏れ出したイャンガルルガ。どうやら怒り状態になったのは確からしく、スェイデを追うスピードが目に見えて速くなっている。

 

「こんな時にあの日刊狩りに生きるの擬人化みたいな男は何処で何やってんのかなぁー!超絶究極驚天動地天下無双怒涛の美女スェイデさんがピンチですよぉー!今なら何でも言うこと聞いてあげるんだけどなぁー!このままだと光の速さで死ぬよぉ~!?」

 

───クォアッ!?

 

スェイデを啄もうと頭を振りかぶったイャンガルルガだったが、その正に振り下ろしの瞬間、突如として足場が無くなった事に驚愕しながら落ちていく。何者かが落とし穴を設置していたらしい。

 

「っぶねぇ!」

「言う事を聞くというなら、もう少し真っ当に生きるんだな」

「ハンターなんて、頭のネジ十本くらい外れてないと出来ませんよ!」

 

横目でスェイデの無事だけ確認し、ストライクストライプを強化したハンマーである轟槌【虎丸】を抜き放ちながら、落とし穴から出ようと暴れるイャンガルルガとの距離を詰めていく乱入者───ビオ。若干の切実さを滲ませるビオの「言うこと」に「それは無理な相談」と秒で手の平を返し、スェイデもダークシミターⅢを構えて逃げてきた方向へと切り返す。

 

───クァアッ!ガッガアッ!?

 

「気絶入れたぞ!」

「ハイハイ!通りますよっ、とォ!」

 

大暴れして落とし穴から抜け出したイャンガルルガだったが、まともな地面に脚を着けた瞬間、襲い掛かってきた衝撃に意識を持っていかれる。自由になったタイミングにキッチリ狙いを合わせ、ビオがアッパースイングを見舞ったのだ。

 

そこに駆け込んできたのはスェイデ。ダークシミターの切先を嘴の中に突き入れ、ダメージを与えつつ踏み台にして跳躍。飛び上がりながら身体を捻り、大上段に太刀を構えて振り下ろす大技、気刃兜割をイャンガルルガの頭部に叩き込んだ。

 

───ェアァァァ……ッ!

 

「討伐完了」

「っとと、ハイお疲れさん!」

 

ある程度は削っていたのか、二人の渾身の連続攻撃でその命が潰えたイャンガルルガ。スェイデは大きく伸びをしながら太刀を納刀し、ビオはハンマーを腰に提げながら剥ぎ取りナイフを抜く。

 

「……脚か」

「業喰部位は異常な脚力、と。よく見たら翼も微妙に退化してら。こりゃあ、アタシらが狩らなくてもその内飛べなくなってましたねぇ」

「狩らなければ、かつてイャンガルルガだったイビルジョーになっていた」

「まぁ、そーなんですけどー」

 

そう、このイャンガルルガは業喰戦線でイビルジョーの死骸を喰らった個体なのだ。ドスランポス、ディノバルドに続いて明確に狩猟対象となっていたイャンガルルガだが、その縄張りを持たないという習性と行動範囲の広さから特定が出来ないでいた。その分イビルジョー化が進み、発見に至ったのだが。

 

「飛翔しないイャンガルルガが居る、もしやと思って受けてみれば十中八九でしたねぇ」

「脚力を中心とした業喰化。人的被害が出なかったのは奇跡だな」

 

今や根無し草のように、各地を飛び回る流れのハンターとなったビオとスェイデ。その原因である業喰化確実な三体は葬ったものの、状況が好転した訳ではない。むしろ時間が掛かり過ぎた。

 

「……こればかりは嘆いていても仕方ない。それよりもお前、この脚になったイャンガルルガからよく走って逃げ切れたな」

「逃げ足の速さだけは誰にも負けませんから!それに足が速いとモテるんすよ~?」

「子供か……」

「あと、足が速ければ刺されそうになっても、修羅場っても直ぐ離脱できますからね!」

「阿呆が」

「うーん、ストレート悪口!」

 

実体験なのか冗談なのか分かりにくい爆弾発言をかますスェイデ。ビオとしてはブラックジョークだと思いたいのだが、本当にやってそうなのがこのスェイデというクソレズハンターとも思っている。

 

「というか!こんな清らかな乙女に黒狼鳥を押し付けて何処行ってたんすかねぇ!」

「お前のどこが清らかだ。あの落とし穴を設置しに先回りしていただけだ、お前ならこう逃げるだろうと考えたんでな」

「トゥンク……やだもうビオさんってばぁ、アタシの事をそこまで想ってくれていたなんて……でもゴメンなさい、アタシは女の子専門なの!」

「証明素材も剥ぎ取った事だし、死骸を燃やしてさっさと帰るぞ」

「清々しいまでのガンスルー!ツッコミ放棄しないでくださいよぉ!ボケ甲斐が無いじゃないっすかぁ!」

 

ボケている自覚があるなら少しは自重しろ、と塩対応を貫くビオ。ぶーぶー文句を言いながらもテキパキと種火石をスリンガーで集め、業喰イャンガルルガの死骸を焼却していくスェイデ。なんやかんや言い合いながらも、良いコンビになってきているのは事実らしい。

 

「燃え尽きるまでヒマっすねぇ。好きな女の子談義でもしましょうか」

「馬鹿が」

「シンプル悪口!日に日にアタシへの当たりがキツくなってきてません!?」

「どうせお前の場合、女の子なら全員、とか言い出すのだろう」

「ビオさんって人の心読める系の人っすか?」

「馬鹿が」

 

辛辣な投げ掛けだが、ビオとスェイデにとってはこれが平常運転なのである。

 

「んー、じゃあビオさんが興味ありそうな話にしましょうか。カムラの里って知ってます?……は当然知ってますよね。百竜夜行の救援に行ったんだし」

「……待て、何故それをお前が知っている」

「ちょちょいと調べたんすよ。で、カムラの里なんですけどね?あそこって立ち位置が特殊じゃないっすか、仮に領有を主張したとして受け入れられると思います?」

 

鞘に納めたままのダークシミターを肩に担ぎ、完全に警戒を解かない準戦闘態勢のままビオに問い掛けるスェイデ。彼女が何故、自分が百竜夜行迎撃に加わっていた事を知り得ているのか、そして質問の意図が不明で不信感が募るビオ。だが、女絡みでなければ情報を悪用した事が無いのも事実。暇を持て余しているのは確かで、火に強いイャンガルルガが塵になるにはまだ時間が掛かる。

 

ビオはスェイデの雑談に乗ってみる事にした。

 

「……領有、か。個人的見解で良いなら答えるが」

「ぜぇんぜん!構いませんよぉ」

「無理だな」

「ほう、その心は」

 

「まずお前が言った通り、あの里は地理的にも実情的にも特殊な立ち位置だ。まずカムラの領有を主張したいのなら、霊峰のほぼ全域を治める事になる」

「あー、カムラとユクモって近いんでしたっけ?ならそうならぁな。カムラだけうちの領地~、だなんて虫の良い話ありませんもんね。じゃあ何でこっちは領有して助けないんだってなりますし」

 

「次に実情。百竜夜行を知っているなら、それがどれだけ脅威となるかも分かるだろう」

「ですねぇ、里の人間全員がハンター顔負けの戦闘民族と化すくらいですもん」

「お前が言った領有援助の話にもなるが、アレは古くから発生しているモンスター災害だ。俺達が救援に行ったのも、迎撃用の砦と陣地形成が間に合わなかったからという理由が大きい」

「んで、その砦を作る切っ掛けになったのがー……約50年前でしたっけ」

「……どこまで知っている。俺ですら祝勝会の時に聞きかじった程度だというのに」

 

飄々としていて同性との関係が爛れてだらしない。かと思えば年齢不相応な殺気を発してモンスターを狩り、本来は当事者しか知らないような情報も握っている。とことん「表面」しか見せない、食えない女だと改めてスェイデという深淵の深さに警戒を強めるビオ。気を取り直してカムラの話ですよー、と本人は何でもないように話し掛けてくるが。

 

「何でもは知らないっすよ、知ってる事だけ」

「……いつから領有していたのか、ではあるが。里が全滅しかけた被害を受けたにも関わらず、復興支援も何の手助けもしなかったのは何故か。それともカムラが自らの手で活気をとりもどしつつあるのを見て、金になると慌てて領有を主張しだしたか」

「どっちにしろ良い顔はされないですねぇ。とんだ無能領主だって烙印押されて終わりかぁ」

 

あーあー、とスェイデが盛大に溜め息を吐き出す。まさかとは思うが、そんな馬鹿な知り合いが居るのかと先程までとは種類の異なる疑念の眼を向けるビオ。そんな視線を感じ取ったのか、気だるげに否定を始めたスェイデだったが、言葉を紡げば紡ぐ程にビオの視線に呆れの感情が混じっていく。

 

「ワンチャン、カムラの領有主張しとけば美人受付嬢姉妹と毎日イチャコラできねぇかなぁ、なんて」

「……乗って損したよ」

「ほら、アタシって言葉巧みに人を騙くらかすの得意じゃないですかぁ?」

「自分で言うのか」

「アレコレ手ェ回してカムラの領主サマになれば、淑やか&凛とした美人姉妹を毎日抱けるんじゃないかなぁ、って夢見てたんですけどねぇ。それにほら、団子屋の看板娘ちゃんも将来性パないじゃないっすか、今のうちに仕込んどけば絶対良い子に育ちますって。マジでカムラの専属ハンターとか羨ましぃ~」

「ウツシの故郷を守る為にもう一仕事するか」

「ビオさん?ハンターの武器は人に向けちゃいけないんすよ?やだなぁ、もう!訓練所で習ったじゃないすか!だから、ね?仕舞いましょ?普通にこっちに向けてないで!さっきから殺気がシャレになってないんですけど!?サッキなだけに!」

 

そろそろ本気で締めるか、とビオがモンスターに向ける類いの殺意をスェイデに向けていたが、ちょうど業喰イャンガルルガの死骸が全て燃え尽きた事で気が逸れた。じゃあもうここに用は無いっすね帰りますよ!と再び健脚を発揮してビオから逃走するスェイデ。保険を掛けていたのか、話をしながらも燃料を追加して火が衰えないようにしていたらしい。もしここまで計算して馬鹿話をしていたなら大したものだ、と感心する一方、その能力をもっと役に立つ方向で使ってくれと怒りを覚えてもいた。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「そーいや、ここだけの話なんですけどぉ……」

「機密情報だと前置きしているような物だな。それなら聞かんぞ」

「聞いてくださいよぉ~、さっきのカムラ話になるんですけどね?近い内に某王国と貿易始めるんじゃないかって噂がありましてね?」

「貿易まで始めるなら独立自治領だな。話は終わりだ」

「冷たッ!ヒンヤリダケより冷たいじゃないですかビオさんよぉ!」

「マトモじゃない筋の情報をよくこんな所で話せるな、お前」

 

こんな所、他のハンターや受付嬢も居る集会所兼酒場の一席で呆れるビオ。指摘されてもなお止めないのがスェイデという女のクオリティにして生きざま。

 

「ハンターなんて、往々にしてこういう不確定情報とか与太話とかを大声で発しながら、酒をイッキしてバカ笑いする生き物っすよ~」

「偏見が凄まじいな」

「おっ、パピメル装備の可愛い子はっけーん!へーい、そこの可愛らしい蝶のようなお嬢さん!おねーさんとイイコトしなーい?」

「今ほど、近くにギルドナイトが居ないかと思った事は無いよ」

 

「受付嬢でよろしければ居ますが」

 

いつの間にやらビオとスェイデが座るテーブル席の傍らに立っていたのは、このギルドで受付嬢をやっている女性。まるで気配を感じさせず、二人に近付いていた身のこなしに本当にただの受付嬢か?と疑念が募るビオ。一方で、スェイデの目が一瞬だけ細くなったのを見逃さなかった。

 

「騒がしかったか」

「いえ、酒場なんて常にこんなものですので。要件はこちらです」

 

スッ、とテーブルの空いている部分に紙切れを置く受付嬢。それはハンターなら誰もが時に取り合い、時に同時に手を伸ばす紙切れ。

 

クエスト受注書だ。しかもクエスト参加者の欄には、既にビオとスェイデ両方の名が記載されている物。

 

「名指しの依頼……つまり、奴の」

「はい。業喰個体と思わしきモンスターが確認されました。これはハンターズギルドからの正式な調査、ないし討伐依頼となります」

「分かった。明日の朝一番にでも出発する」

「かしこまりました。手続きは此方で済ませておきます」

 

二、三やり取りをしてからクエストカウンターへと戻っていく受付嬢。手元に残った受注証明の半券、それも別のギルドで受付可能な特殊な物を懐に押し込み、席を立つビオ。まーた朝イチっすかぁ!?と普段ならギャアギャア騒がしいスェイデが黙ったままな事に気付く。

 

「おい、聞いていたのか」

「もっちろんですよぉ。さ、明日に備えて早めに寝ましょうか!」

「……どうした?」

「ん?何がっすか?」

「……いや」

「あぁ、もしかしてさっきの子を口説かないのか?って話です?いやぁ、何回もアタックしてるんですけど。ガードが硬いの何のって……ありゃ確実にガ強とガ性マックスまで積んだ歴戦のランサーっすねぇ……」

 

攻めの守勢もかもしれないなぁ、と表面上は普段通りに戻っているスェイデを見て、狩りに支障をきたさないなら良いと無闇に踏み込みはしない。じゃあ朝イチでー、と酒場側の出入口で一旦別れる二人。別れ際にスェイデが溢した言葉は、酒場の喧騒に紛れて聞き取れなかった。

 

「同業者か……」

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「さっむ!寒すぎてサムになるよこれェ……!」

「誰だ」

 

飛行船と竜車を乗り継ぎ、辿り着いたのは寒冷群島。名前の通り、そしてスェイデが発した通りの寒冷地帯であり、身体を芯から暖めるホットドリンクが必要不可欠な試される大地。生息しているモンスターも寒冷地に適応した独特な進化を遂げた種が殆どであり、この地域にしか見られないモンスターも多数存在する。

 

「あー……あと2本くらい飲みてぇ……」

「飲んだ所で変わらんぞ」

「分かってはいますけどぉ!それでも願望が口に出ちまうんでさぁ……人間ってのぁ……」

「寒さで頭でもやられたか?普段以上に妙なキャラになってるぞ」

「キャラとか言わないでもらえます!?」

 

ホットドリンクは身体を芯から暖める。が、完全に寒さを防ぐ魔法の飲料という訳ではないのだ。あくまで狩猟や調査・探索の為に必要なスタミナを、寒さで余計に削られるのを防いでくれるだけ。補助アイテムでしかなく、複数本飲んだ所で変わらないとビオは言いたいのだろう。スェイデの気持ちも分からんでもないが。

 

「で、どうします?先に地形把握で歩き回ってみます?それともこのまま突撃?」

「フィールドの理解度は上げておきたいが、今回は相手が相手で同行者も同行者だからな……」

 

このクエストに参加しているのはビオとスェイデだけではないのだ。もう一人、現地───ここ寒冷群島で合流するハンターが居り、ビオはそのハンターの人となりを知っているらしい。

 

「歩きながら覚えるしかないか。ひとまず、塒とされている場所を中心に───」

 

───ゴギャァァァァァッ!!!

 

「おっぱじめたみたいっすねぇ」

「あの馬鹿……」

 

ベースキャンプにまで届いた獣の咆哮、間違いなくターゲットの牙獣種モンスターの雄叫びだ。早速出番ですねぇ!と駆け出していくスェイデ、血の気が強いのはモンスターなのか知り合いなのかと溜め息を吐き、スェイデに続いてベースキャンプを出るビオ。

 

ターゲットの元へ向かう道中、ターゲットが業喰個体である事を確信していた。

 

(小型どころか他の大型モンスターも気配が無い……俺達にすら聞こえる程の大暴れだ、存在に気付いていない訳がない……)

 

まるで自分達しか居ないかのように錯覚する狩場。普通ならもっと多くの生物がそこかしこに出没しているはずだが、今は生き物の足音一つ聞こえず、冷たい風が雪の積もった草木を揺らす音と、本能に突き動かされるまま周囲を破壊する音しか耳に入ってこない。

 

(慣れた相手といえど……いや、慣れた相手だからこそ、通常と業喰化に違和感を感じて危険だ)

 

「スェイデ!一撃入れたらベースキャンプに退くぞ!まずは態勢を整える!」

「はいよぉ!おーまーかーせ、ってね!」

 

 

◆◇◆

 

 

「なんなんだよコイツは……ッ!」

 

寒冷群島フィールドの一角にて、何も事情を知らない者から見れば親子喧嘩のように争う一人と一体が居た。

 

一人の方、人の身で獣に立ち向かっているのは、相対する獣と同じ素材で作られた防具を纏った青年。ゴシャSシリーズ防具に蛮炎双剣ロギンクルテを背負った男性ハンター、ドラコ。

 

対するは、ゴシャの名を人間の分際で名乗るなとばかりに猛り怒る獣。その凶暴性と、氷雪地帯では轟竜ティガレックスと同じ危険度★7に設定されている生態系上位の実力、そして鬼と形容される強面から雪鬼獣とも呼ばれるモンスター。ゴシャハギ。

 

ゴシャSシリーズの防具からも分かるように、ドラコは上位認定されたゴシャハギを倒せるだけの実力者だ。それなりに修羅場も潜り抜け、ソロでも問題なくハンター稼業をやっていける上澄みの一人。だが、ドラコは目の前のゴシャハギが「いつも倒している普通のゴシャハギ」とは違う事に気付いていた。

 

(牙が伸び放題になってて、筋肉の付き方も尋常じゃない……オマケにあの黒いのは龍エネルギーか?毛皮も黒ずんで、身体も緑っぽくなってる……これじゃあまるで───)

 

イビルジョーのようだ。

そう考えながらも回避の足捌きと観察の目は止めないドラコ。大振りな薙払いを避け、次に来る動きの予兆を見極める。顔の下辺り、人間で言う胸付近に腕を持っていった。

 

(二連引っ掻きか)

 

ゴシャハギの動きは全て完璧に頭に入っている。生物ゆえの揺らぎ、誤差があっても即時修正は可能だ。

 

慣れが、ある種の慢心が、いとも容易く最悪の結果を招く事になる。数秒と経たずにドラコはそれを思い知る事となる。

 

───グヴッ……ギャァオァァァァァァッ!!!

 

「なっ!?」

 

目の前を裂く二連引っ掻きに見えたそれは、突如として別のモーションに化けた。右手で自分の喉元を掻きむしり、ブレスを吹き付けていないにも関わらず左手に氷刃を出現させたのだ。通常種の物が氷の大剣と言って良い長さなのに対し、こちらは片手剣サイズだが、その鋭さには何の遜色も無い。ドラコが踏んだバックステップは、せいぜい腕から拳爪までを避ける分しか無く、とてもではないがこの氷刃全ては躱しきれない。そして氷刃はドラコの顔に狙いを定めている。

 

この一瞬後に何が起きるかなど、誰でも分かるだろう。それは当事者であるドラコなら尚更。

 

(ヤッベ───)

 

「あなや迂闊ってねぇッ!!!」

 

「なんっ、ぶぁっ!?」

 

果たして氷刃はドラコの顔面を捉える事なく。

村で無事の帰りを待っている幼馴染みの顔、同期ハンター達の顔、それらが映る走馬灯が凄まじい速度で送られていき、何が何やら分からない内に首を引っ張られ、背中から雪の上に倒れ込んでいた。僅かに聞こえたのは硬質な何かが別の何かに当たった音、そしてこれまた別の何かが氷上に落ちたようなガリガリという音だった。

 

「スェイデさんクラスになると、鞘で見切り斬りが出来るんだよなぁこれが!という訳でぇ……ビオさん!あとオナシャス!」

「オォラァァァッ!!!」

 

───ガブァッ

 

早口で捲し立てる女、そして助走をつけて走ってきた男。ドラコが連続で目にしたのは、体調が悪い時に見る夢くらい意味の分からない光景だった。挙げ句の果てに、ゴシャハギはハンマーによる顔面クリーンヒットを貰って昏倒している。

 

「一旦退くぞ!」

 

どうやらこれは夢でも何でもないらしい。

 

「……ビオ!」

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「まさかゴシャハギを一撃で伸すたぁな……」

「無事で何よりだ」

「同期さんなら知ってますでしょー?この人のハイパー馬鹿力。ホント、気絶入れやすくなる装飾品が泣いてますよ可哀想に」

 

間一髪の所で間に合ったビオとスェイデ。何が起きたのやらさっぱり、というドラコの為に解説すると、やった事自体は単純なのだがそう簡単に出来てたまるかという類いの連続行動だ。

 

手近な地形にフックスリンガーを撃ち込みスェイデが先行、納刀したままのダークシミターで氷刃を見切り、回避の構えに変えつつドラコを脅威範囲から離脱させ、攻撃が空振りした事で動きが鈍った隙に後発のビオが全力の一撃を叩き込む。

 

それだけ。

 

「それだけって……」

「この人に常識とか普通を求める方がナンセンスってモンですよ。というか、アタシら一般ハンターから見ればアンタも化物ハンターですからね?更に言えばアンタらの同期全員」

 

鞘で見切り斬りの型を披露し、ゴシャハギの氷刃をいなして見せたアンタも充分バケモンだよ。ドラコはそう思った。

 

「いやぁ~、それにしても間に合って良かったっすねぇ~。スェイデさんが健脚だったお陰で、ビオさんの復讐対象が増えなくて済みましたよ」

「……本当に逆鱗探しが得意だなお前は」

「こればっかりは事実なんで、ね」

「ビオ……お前……」

 

復讐。

その言葉が重く胸の底に落ちていく。その女ハンターは誰なのかとか、あの個体についてだとか、その正体だとか、話したい事や共有すべき事がたくさんある。だが、今のビオにそれを話して良いものだろうか。悩むドラコだが、重苦しい空気を払拭したのは、他でもないビオ本人だった。

 

「ドラコの呼吸を整える必要がある。今のうちに状況の整理と、情報の共有だ」

「お、おう」

「はいはーい」

 

 

◇◆◇

 

 

「そっか……仇、取れたんだな」

「あぁ。だが厄介な置き土産をしていった」

 

数分後、共有がてら業喰個体発生の原因と、ここに二人が来た経緯を説明するビオの姿があった。

 

「美食求めるイビルジョー、だっけか。こっちにも情報は入ってきてるぜ」

「ただのグルメ気取りモンスターに大層な名前を付けたものだ」

「イビルジョーの肉を食った個体がこんな所まで来るんすかねぇ?ライ地帯からここ、だーいぶ遠いですけど」

「奴の死骸を食ったモンスターが別のモンスターに捕食されて連鎖したんだろう。俺以外にも手練れに声を掛けていたようだが、一手遅かった」

 

ビオとの深い因縁があった特殊個体、美食求めるイビルジョーと呼称されるようになった恐暴竜。ビオとスェイデが討伐したドスランポス、ディノバルド、イャンガルルガ以外にも何匹かイビルジョーの死骸を口にしており、その死骸は跡形も残らない程に喰われていた。そして捕食の食物連鎖が起こり、業喰個体は「生態系の中に定着してしまった」のだ。こうなると被害が出る前に業喰個体である事を見抜き、倒すしかない。

 

ビオの言う通り、一手遅く「間に合わなかった」。

 

「ともかく、あのゴシャハギは業喰個体と見て間違いない。調査は中止、討伐に切り替える」

「ブレス吐いたかと思えば赤黒いエネルギー纏ってたんだよな。俺の知らない亜種でも出てきたのかと思ったよ」

「やっぱ龍属性っすか、あの黒いの。ギリギリまで近付いた感じ、氷属性も強化されてるっぽいんですよねー。あの氷刃に斬られたら凍傷と龍瘴のダブルパンチですねぇ。一応ウチケシの実は大量に持ってきてるんで、何かあったらアタシに言ってくださいや」

 

他人の心傷を逆撫でしたかと思えば、飄々と殺気を躱してケタケタ笑う。かと思えばしっかり相手の事は観察していて、事前の準備もぬかりない。ドラコはスェイデという女の事がよく分からなくなっていた。

 

「……なぁビオ、結局こいつ何なんだ?」

「俺が知りたい」

「よく知らないのに一緒に居んのか!?」

 

本人に聞くしかないとビオに振ってみるが、当のビオもスェイデが自分に接触してきた理由が分かっていない。奴の残滓を消し去る為なら誰だろうと利用してやるまでだ、と言い切ったビオの顔はカブラSヘルムに隠れて見えない。だが、相当に厳しい顔をしているだろう事はドラコでも分かる。ビオは修羅の道を往こうとしているのだと。

 

「へっ、修羅の道を歩くんなら、鬼が水先案内人を務めてやらぁ。地獄に鬼は付き物だろ?」

「……ふっ」

「やーっと笑ったな。さて!休憩終わり!」

 

「行くぞ」

「おうよ!」

「はいよー!」

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

───グルルルルゥ……!

 

「居たいた」

「わっかりやすいなー……」

「常に唸り声を発しながら獲物を探して彷徨い歩く、という生態だったか。この極限環境ではエネルギーの消耗も激しい。奴に似通った性質は、元から持っていたわけだ」

 

正に成るべくして成った業喰個体。性質が元からイビルジョーに近いのもあって、他の業喰モンスターよりも凶暴かつ変異の度合いが凄まじいのだろう。

 

「どうする?ゴシャハギって耳も良いから、中途半端な奇襲じゃ近付く前にバレるぞ」

「なら、絶対に無視できないモノを目の前にぶら下げてやりますかぁ」

 

そう言いながら、スリンガーに何らかの弾を装填するスェイデ。ビオが止めない辺り、事前に二人で練っていたプランの一つなのだろう。

 

「気配がしないだけで、今このフィールドに居ないワケじゃあないんですよねぇ」

「……?」

「本当にそれは効果があるんだろうな」

「学術院も一枚噛んでるシロモノっすよぉ?そんなハズレアイテムなわきゃないじゃないですか。んじゃ、少々お待ちをば~」

 

ゴシャハギとは反対の方向へ走り去るスェイデ。特に何かをやる、とは聞いていないドラコは頭の上に疑問符を乱舞させている。と、なんやかんやスェイデとのコンビが長くなり、いつものクセで二人の間だけで終わらせてしまった事にビオが気付く。

 

「アイツがスリンガーに装填していたのは、誘導弾というスリンガーの弾薬の一つだ。モンスターを自分に誘導できる、読んで文字通りの弾だな」

「って事は別のモンスターを連れてくるのか?無視できないモノってそういう……にしても、俺もドンドルマには行くけど、そんなアイテムが開発されてたのは知らなかったな……」

「実物を見たのは俺も今回が初だ。アイツの持ってくる情報やらアイテムやらは、出所不明なのが殆どだよ」

「……なぁ、あいつ本当に大丈夫な女なのか?」

「さてな。少なくとも、お前に不利益がないようにはするさ」

 

───クォアァァァァッ!!!

 

「おっ待たせしましたぁ~!」

 

なんでそんなヤツと組んでるんだよ……とビオの事が復讐云々とは違う方向で心配になってきたドラコ。話は終わりだとでも言うように、爆音を発しながら近付いてきたのはスェイデとスェイデを追うモンスター。緑と白が混じった体表に独特な形状の嘴、背中を覆う甲殻などが特徴の両生種。

 

「ヨツミワドウ!?」

「ゴシャハギを目指している時に見付けてな。ガウシカでも良かったんだが、どうせならダメージが期待できる大型モンスターをという訳だ」

 

容赦ねぇなコイツ……とビオの思考様式にやや引いているドラコ。そうこうしている内にスェイデは身を隠せる茂みに飛び込み、ヨツミワドウとゴシャハギを対面させる準備が整った。重厚な足音で気付いているだろうが、念には念をと石ころをフックスリンガーで回収、装填しゴシャハギに向けて発射。ガスッ、と頭部に命中し、見事にヨツミワドウをその視界に捉えさせた。

 

───コォアァァァッ!

───グルァァァァッ!

 

「よし、縄張り争いを利用して接近する」

「うしっ!」

 

ヨツミワドウとゴシャハギ、互いが互いを明確に認識して威嚇を行った。それを見たビオはスェイデにハンドサインを送り、返答の「了解」サインを確認した後に走り出す。ビオとドラコはゴシャハギの後方右から距離を詰めていき、スェイデは左から回り込んでいく。

 

───グォオァァァッ!!!

───ガプッ……

 

突っ張りを繰り出すヨツミワドウに対してゴシャハギはスウェーのような動作を行い、突き出された前脚をゆらりと躱してみせる。そこから構えを省略した急襲ストレートを繰り出し、ヨツミワドウの横っ面に痛烈な殴打を食らわせた。もんどり打って倒れたヨツミワドウに跨がり、容赦無しの連続パンチ。完膚なきまでに打ちのめしてトドメを刺すつもりのようだ。

 

「えっぐい……ねぇ!」

 

ゴシャハギの背中に走る痛み。その原因は、ちょっとした段差を利用して飛び上がったスェイデの一太刀。気を取られ、注視対象をスェイデに移した瞬間。せめて一矢報いようとヨツミワドウがその大口を開けた。

 

「窮鼠猫を噛む、ならぬ窮蛙鬼を水浸しにするって感じっすねぇ」

 

ヨツミワドウ渾身の水ブレスを正面かつ超至近距離で受け、吹っ飛んでいくゴシャハギ。それを他人事のように眺めながら悠々と着地を通したスェイデ。一瞬にして満身創痍となったヨツミワドウは、顔を庇いながら寝床へと撤退していく。

 

「お疲れ~。さて、と」

 

───グヴゥゥゥゥ……!

 

「わーお、熱烈な視線。でもさぁ、アタシだけを見詰めてたら危ないんじゃない?背中とかさ」

 

スェイデに対し、どこか憎悪混じりの視線を向けながら威嚇を行うゴシャハギ。ドス黒い剥き出しの殺意を浴びているはずのスェイデは、そんな殺気など何処吹く風と普段通りのお気楽モード。トンッ、とダークシミターを肩に担ぎ、空いている左手でゴシャハギの背後を指差す。

 

「せぇりゃぁぁぁぁ!」

 

裂帛の雄叫びと共に飛び込んできたのはドラコ。スェイデが刻んだ刀傷に、ロギンクルテによる連続斬りを重ねてゴシャハギのダメージをより深くしつつ着地。

 

「ほーら後方不注意」

 

───グゥ……!ガァァァァァッ!!!

 

「スェイデって、モンスター怒らせるの得意なタイプのハンターか?」

「さぁ?モンスターの共通言語なんて履修した事ないですし。あー、そうだ。アタシらの人数、もう忘れちゃったんすかぁ?それとも覚える気が無い感じ?そーんな悠長にブチギレてたらさ……」

 

「ッ……!」

 

───ゴバァッ!?

 

「はーい後方不注意セカンドジ~」

「そこはサードじゃないんだ……」

 

二度ある事は三度ある。

今度は背中ではなく、後頭部に走る鈍く重い痛み。三人の中で最も一撃の重さに長けたビオがラストダイバーとして残り、遺憾無くその破壊力を発揮して見せたのだ。

 

「我を失えば自慢の感覚も意味が無いな」

「奇襲タイムはおしまい!こっからは純粋な殺し合いの時間だぜぃ!」

「踊ろうぜ!ロギンクルテ!」

 

───グヴゥゥゥゥ……!

 

「横振り!」

「あいよぉ!」

 

常に切れっぱなしの堪忍袋の緒が更に細切れになったのか、三度のバックスタブを許した事で怒り状態になったゴシャハギ。各々の得物を携えて距離を詰めてくる三人に対し、先程も見せた瞬間龍氷纏いを今度は長刀で行いながら横薙ぎの構え。

 

それに対して三人が取った行動は、ドラコは跳躍、スェイデはスライディング、そしてビオは前転回避。見事に氷刃を上下それぞれで躱し、即時反転攻勢に出た。

 

「オラァッ!」

 

飛び上がった勢いのままゴシャハギの顔面を斬り付けるドラコ。複数の裂傷を刻み込み、ゴシャハギの背後に着地した。

 

───グゥオァァァッ!!!

 

「なっ!?おっ、わぁっ!?」

 

二の太刀スェイデが腹に斬撃を叩き込んでいるにも関わらず、それを無視して右後脚を振り上げたゴシャハギ。繰り出されたのは本来のイビルジョーが行う攻撃動作の一つ、耐震強化を施していなければ強靭なハンターですら足元が覚束なくなるパワーストンプ。イビルジョーとゴシャハギでは脚の長さや筋肉の質が異なる為、本家本元を超える事はなかった。

 

が、原種のゴシャハギですら両前脚振り下ろしで凍った地面を砕き、その衝撃波で敵にダメージを与える怪力の持ち主なのだ。業喰化で更に力を増した今、ドラコ一人をふらつかせる程度ならわけは無い。

 

「いい加減に止まれ、ってんだよォ!」

 

───グルァッ!

 

「やられ……る、わきゃねぇだろってェッ!」

 

素早く気刃斬り連携を完遂し、気刃大回転斬りまで繋いでいたスェイデ。さすがに煩わしくなったのか、短刀状の龍氷を左手に纏わせてスェイデの始末に切り替えたようだ。だがそろそろヘイトが向くだろうと予測していたスェイデは、大回転斬りから特殊納刀に移行済み。龍氷短刀の突きに合わせ、居合い抜刀気刃斬りを繰り出し更に練気を高めていく。

 

「終わりじゃないぞッ!」

 

───グゥッ!

 

忘れてもらっては困る、と最後に飛び込んできたのはビオ。ドラコと同じく背後へ抜けたスェイデを目で追っていたゴシャハギだが、下半身に走る鈍痛の原因を捉える事となった。両後脚の根元、股ぐらに轟槌のアッパースイングが突き刺さっていたのだ。

 

「うわぁ……」

「相っ変わらずエグいっすねぇ!」

 

ゴシャハギとしては面倒な敵の鬱陶しい一撃程度なのだろうが、当たった位置が位置なだけにドラコはもし自分だったら……と思うと生きた心地がしない。スェイデはケタケタと笑っているが。

 

───ゴォアッ!

 

「チッ……!」

 

左手に龍氷短刀を纏わせての貫手。それに対するビオのアンサーは、打撃部分とは逆の部位を返しで打ち込み相殺するという荒業だった。だが流石に無理があったのだろう、押し負けたのはビオの方。ダメージこそ無いものの軽くノックバックさせられ、距離が開いた事で長刀が最も威力を発揮するレンジに立たされてしまった。

 

「させっかよ!」

「同じくぅ!」

 

ビオの隙は狙わせないと鬼人化しながらゴシャハギの右後脚に狙いを定め、駆け寄ってきたドラコ。左側面にはスェイデが張り付かんと距離を詰めている。

 

「ハッ!そらぁ!」

 

逆手斬りから二段斬りに繋げ、ヘイト稼ぎも兼ねて鬼人六段斬りまで繋げる。可能なら乱舞まで完走したい所ではあったが、ゴシャハギが氷塊を右手に纏わせるのを視認し、攻撃を中断してタイミングを合わせる。

 

「こーんな美女を無視とかそれでもオスかぁ!」

 

ドラコが龍氷塊を鬼人回避で捌いている一方、スェイデは再び気刃斬り連携を繰り出していた。大回転斬りに繋げようとした瞬間、スェイデの感覚が警鐘を鳴らす。反撃に転じたドラコと、再び距離を詰めようとしているビオ、そしてスェイデをまとめて潰そうとしたのだろう。鈍重な見た目に似合わない跳躍を見せたのだ。踏み潰そうとしているのは最も近かったスェイデ。本体を避けても着地の衝撃で体勢が崩れるのは確実、その後の展開は確実に悪くなる。

 

ビオが距離を取れと警告を飛ばすが、後方回避も間に合わないだろう。

 

ならば───

 

「攻撃こそォ!」

 

───ヴゥッ!

 

「最大の防御ってねぇ!」

 

数歩下がって本体の攻撃範囲から僅かに脱し、直後に襲い掛かってきた衝撃と余波に対して見切り斬りを合わせた。一瞬で判断し、思考の通りに身体を動かす。言うに容易く行うに難しの行動、それを狂いも焦りもなくやり遂げて見せるのが狩場に出たスェイデなのだ。

 

「おいおいどうすんだよぉ……!ギンッギンに溜まっちまったじゃねぇかぁ!!!」

 

見切り斬りから先ほど中断した大回転斬りへ、そして練り上げられた気は禍々しい赤となり、ダークシミターに最上位の力を授ける。

 

「畳み掛けるぞ!」

 

ドラコもゴシャハギに再び食らい付き、斬撃を重ねる事で鬼人強化状態となった。今が攻め時とビオが号令を発し、赤刃に強化されたダークシミターを構えスェイデもそれに応える。

 

「そらそら!ノッてきたぜェ!」

 

「踊り狂え!ロギンクルテェッ!」

 

「一息に潰すッ!」

 

怒涛の連続攻撃。通常時よりも素早く鋭く振るう赤刃状態での連携で、今までとは比べ物にならない手数を得たダークシミター。対抗して龍氷長刀を振るうも、ゴシャハギのそれでは赤刃がキマッたスェイデを捉える事が出来ない。また、それよりも手数が豊富な双剣使いのドラコも立ち回っているのだ。入れ替わり立ち替わり斬撃の嵐を浴びせられたゴシャハギは、苦し紛れに両腕に纏わせた龍氷長刀と龍氷塊を振り回すしかない。

 

そして二人の間を縫って繰り出されるビオのハンマー。人並み外れたビオの怪力から繰り出される一撃は、理性を失った業喰の獣にも焦燥を抱かせる驚異的な破壊力を見せる。

 

頭を下げれば、たちまち意識を持っていかれる。

 

「このまま行けば……!」

 

───グッ……ヴゥゥゥッ!

 

「っ!下がれ!見た事ない動きだ!」

 

全身から血を滴らせ、もはや満身創痍のゴシャハギ。先の号令通り一息に潰すつもりのビオだったが、ゴシャハギ狩りの専門家であるドラコが警告を飛ばした事で攻めの手を止め、一斉に距離を取る。

 

その瞬間───

 

───ガァッ!!!

 

「チッ……!」

「あっ、ぶねぇなぁ!?」

「まーだ手札隠してたかぁ……!」

 

両手で肩を抱くような姿勢を取ったかと思えば、一瞬にして全身から氷の棘を生やして見せたのだ。ほんの少しでも退避が遅れていれば、串刺しとはいかないまでも重傷は免れなかっただろう。

 

(傷口から生えている?まさか、傷付けられた箇所を攻撃に利用したのか……!)

 

全身の棘は主にビオ達によって付けられた傷口から生えており、何れも赤黒い靄を纏っている事から、腕に生成する龍氷長刀や龍氷塊と同じ性質を持っているのは確実。そこからビオが瞬時に弾き出した推測は、傷口から血液や体内に蓄えた雪が溶けた体液を噴出させ、即席の範囲攻撃に転じさせたというもの。

 

「ブレスを介さず即座に噴出凝固か……!」

「んな事できるのか!」

「気を付けた方が良いっすねぇ。ここまでやってくるって事は、なりふり構わずアタシらを殺しに掛かるって決めたって事ですよぉ!」

 

───グゥオォアァァァァァッ!!!

 

「生やしっぱかよ!?」

 

全身の龍氷棘はそのままに、右手には龍氷長刀、左手には龍氷塊を纏ったフル装備状態で活性化したゴシャハギ。ビオは、その濁った瞳に見覚えがあった。かつて戦った因縁の相手、美食求めるイビルジョーと同じ目をしていたからだ。

 

倒して喰うではなく、ただ殺す。

 

そういう目だ。

 

獲物ではなく、敵。

 

そんなドス黒い殺意を爛々と輝かせ、業を喰らいし鬼が狩人達に迫る。

 

───もういい

 

───お前たちは

 

───殺す

 

「やってみろ」

 

───ゴォアァァァァァッ!!!

 

「っ……!おぉぉぉあぁぁぁぁッ!!!」

 

左手の龍氷塊を振りかぶるゴシャハギ。それに対してビオは、轟槌を縦方向に回転させ、その勢いを利用して手早くスピンし、頭上から迫る龍氷塊にインパクトポイントを完璧に合わせて見せた。

 

───ガッアッ!?

 

振り抜かれた轟槌によって砕かれる龍氷塊。人の身でありながら鬼の膂力を超えてみせたビオだが、その反動は凄まじい。先端が地面に突き刺さった轟槌を引き抜けずにいるのだが、ゴシャハギは龍氷塊が壊された反動で仰け反っただけ。健在な龍氷長刀でビオを始末しに掛かるが、この場に居るハンターは一人ではないのだ。

 

()を忘れた?」

 

ビオとゴシャハギの間に滑り込んできたスェイデ。普段のちゃらんぽらんな態度は鳴りを潜め、ゴシャハギと同じかそれ以上の黒い殺意を瞳に宿している。スェイデが狙うは右手、先の気刃斬り連携で付けた傷口だ。そこ一点に意識を集中し、鋭い突きを繰り出す。

 

───ギャアッ!

 

「っ……!」

 

的確に傷口を抉り、再びゴシャハギを怯ませるスェイデ。傷口を破壊した事で更なる連携へと派生させる。切先を上に向けて構え、右斜め上から斬り下げ、左斜め上に向けて斬り上げる集中突き【無尽】の形だ。

 

「はい、アタシのターンおしまーい。後はお願いしますよぉ~」

 

ビオとは違い、意図的に気を抜いたスェイデ。刺々しい殺意も嘘のように霧散しいつも通りに戻っている。そんな女に龍氷長刀を破壊され、傷口も抉られた事実が癪に触ったのか。お前だけは殺してやる、と部位破壊された両腕で襲い掛かるゴシャハギ。

 

「じゃあな……!」

 

もう一人、最後に残っていたハンターの存在を意識の外に追いやったのが敗因となった。

 

───ゴアッ……ヴゥ……ガアァァ……

 

顔面にロギンクルテの刃が食い込み、そこから強引に断ち切るように回し斬られては、流石の業喰個体といえど耐えきれなかったようだ。空中回転乱舞・天の簡易アレンジによる連続斬りを受けたゴシャハギは、遂にその業に塗れた生命に幕を下ろされたのであった。

 

「強かったぜ、お前」

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「イリーナちゃんって言うんだぁ。おねーさんと気持ち良い事しな~い?髪綺麗だしぃ、顔もアタシ好みだしぃ~」

「えっと……あの……」

 

「何をしている色情魔」

 

「イッッッッだあっ!?」

 

ゴシャハギの討伐から時間が経って。吹雪いてきたのもあり、ドラコの故郷であるワーニェ村に宿泊する事を決めたビオだったが、何故か祝勝会を開催した酒場に戻ってきていた。しかも到着するなりスェイデの右脹脛に強烈な蹴りを叩き付けている。

 

「姿が見えんと思えば、やはりこれか」

「いってぇーーーー!折れたぁ……これは確実に折れたぁ……!世界が保護すべきスェイデさんの美脚が一本失われたぁ!」

「とうとう人の女にまで手を出すか」

 

「人のっ!?」

 

「……?ドラコとそういう関係だと思ったが、違うのか?」

 

村のギルド出張所で受付嬢をしているイリーナという女性。祝勝会の最中でも度々ドラコを意識していたようだから、と自分の色恋など欠片も求めないくせに人の感情にはいち早く気付くという、複雑螺旋式朴念仁がビオクオリティなのである。その発言を聞いたイリーナは顔を真っ赤に染め、スェイデはオーバー気味な痛がり転がりをスッと止めて立ち上がっていた。

 

「なーんだ、イリーナちゃんはもうお手付きかぁ。ならスェイデさんは潔く身を引きましょう」

「略奪愛も悪くないけど趣味じゃない、だったか?」

「おっ、よく覚えてますねぇビオさん。相棒として嬉しい限りですよぉ?」

 

このこの~、とビオを肘でつつくスェイデだが、今度は顔面に裏拳が飛んできた事で行動をキャンセルさせられた。女の顔にも容赦ねぇんだけどこの男ォ!と再び騒がしくなってきたスェイデをよそに、追い付いてきたドラコと何だか良い雰囲気のイリーナを見て静かに笑うビオ。

 

(こういう光景を守れるのも悪くはない)

 

「おやおやぁ?ビオさんは後方腕組み見守り勢の素質があると見えますねぇ?」

「肴は決まったな。飲み直すぞ」

 

「ちょっ、それ俺らの事か!?」

「ど、ドラコの……わたしが……」

 

無視しないでくださいよー、と当然のようにビオの隣に座るスェイデ。そういう事なら付き合ってやるぜ!と普段の暑苦しい調子に戻ったドラコと、注文を取る為に付いてくるイリーナ。その顔はまだ赤いままだ。

 

「こういう寒い所に居るとグラビモスが食べたくなるんだよなぁー!ビオさんちょっと狩ってきてもらえません?」

「馬鹿が」

「アタシへの返答が馬鹿と阿呆で統一され始めてる気がするぅ!」

 

「グラビモス……?」

「ちょいちょいドラコさぁん。モンスター食はハンターの基本っすよぉ?特にグラビモスは全身旨いの塊で、地域によっては素材よりも食材としての方が有名だったりしますし」

「話には聞いた事ありますね。翼とか」

 

「鎧竜の手羽先だな。その巨体ゆえ、一体から得られる手羽先はおよそ百人前と言われている」

「スゲェ……」

「あとセセリっすよセセリ!首から取れるアレ!アレはもう一回食ったら病みつきになりますよ……」

「マジで全身旨いなんだな……」

 

他愛もない会話にハンター特有の話題を混ぜ、酒と料理を楽しむ。駆け出しもベテランも変わらない、生きて戻る事ができた者の義務と自由を謳歌し、ワーニェの宿で眠る。

 

翌日、同期と別れ業を狩る旅へと戻るビオの姿があった。

 

「うぇっぷ……どんだけ酒強いんだよこの人……」

 

スェイデは盛大に二日酔いを拗らせていた。

 

 




獣か狩人か、果たして鬼はどちらか。

【業雪鬼ゴシャハギ】
寒冷群島にまで波及した業喰の因子を取り込み、イビルジョーの力を発現させたゴシャハギ。
生態が近しいのもあり、食欲と飢餓感に呑まれてはいるものの、他の業喰個体とは一線を画する戦闘能力を発揮する。
氷刀や氷塊にはイビルジョー由来の龍属性が追加され、筋肉の隆起で傷口が開きやすいという性質を利用した瞬間龍氷纏いを得意としている。また、全身の傷口から龍氷棘を生やしてのカウンターを行うなど、放置すれば手の付けられない凶悪な個体となっていた事は想像に難くない。

死骸はスェイデが悪戦苦闘しながら何とか焼却したが、ゴシャハギの行動範囲を考えると同個体が再出現する確率は決して低くないという見解が出され、ドラコをはじめとした寒冷群島付近のハンターにはより一層の警戒が促された。


【ドラコ】(原作引継:北凍武人 様)
寒冷群島の鬼狩りとも呼ばれる若きハンター。
同期のウツシと同じくらい暑苦しい奴、とはビオの弁。双剣使いにも関わらず、他の武器を単なる重り代わりとして持ち歩くなど破天荒な気質だが、仲間や大切な女を思う気持ちは本物の熱血漢。
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