兄妹で乙女ゲームの世界に転生したけど俺がヒロインで妹が悪役令嬢ってどういうこと?   作:どくはら

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27話:兄妹、頭を抱える

『サンドリヨンに花束を』攻略対象、セザール・ルクスリア。

 このキャラが攻略できる教会ルートの冒頭は(ルート分岐の階段シーンを除けば)こんな感じに始まる。

 

 

 ある日のことだ。

 牧師様に買い物を頼まれたフレールは、街へと出かける。

 買い物自体は無事に終わり、さあ帰ろうかと帰路についた時。

 運悪く、彼女の前に暴れ馬車が現れた。

 周囲から上がる悲鳴。驚きのあまり動けないフレール。

 あわや大惨事!……となる前に、そんな彼女を一人の男が救う。

 それこそが、武者修行の旅から戻ってきたセザール・ルクスリアその人だった。

 家から追い出されていたフレールを探していたセザールは、こうして愛しい片思いの少女と劇的な再会を果たすのである。

 ちなみにこの馬車は本当にただの事故である。悪役令嬢スールの目論見だとかそういうのでもなんでもない。そのため、ポッと出てポッと退場する。

 

 

 妹から教えられていたそんな情報を、実際事故にあってしばらくしてから思い出した。

 教えられた時も思ったことをもう一度言う。

 劇的な演出のために俺を殺しかけるな!

 

 

 

 

「帰ってきちゃったかあ……」

「帰ってきちゃったわね……」

 

 場所は変わって、スールもとい妹の部屋。

 俺達は向かい合ったまま、頭を抱えていた。

 頭を抱える原因となったお人は現在、戻ってきたことを知人友人に伝えるための挨拶回りに出ている。

 旅先だからそう何人にも報告できないだろうけど、実家にも伝えないって何?

 この疑問に関しては、スールを驚かせようと当主様が内緒にしていたという事実がわかったので氷解した。また報連相しやがらなかったなあのおっさん!

 これに関しては妹もさすがに半ギレして当主様をビビらせていた。

 正式に帰ってきたならまだしも、ちょっと帰ってきただけらしいからな今回。事前に聞いていればセザール様回避のために知り合いの家に泊まるなりなんなりできただろうから、怒りもひとしおというものだろう。

 

 しかし、回避できなかったものは仕方ない。

 俺達は仲良く顔を上げ、盛大な溜息をついてから口を開いた。

 

「しかもまさか、教会ルートの導入部が発生するだなんて……。今お兄ちゃんはクリス王子ルートに入ってるから、これは起きないと思ってたのに」

「ほんとそうだよ。なんで隠しキャラ攻略中に別ルートが割り込んでくるんだ」

 

 こういうのって普通、特定のキャラルートに入ったら別キャラの攻略フラグって折れているもんじゃないのか?ノベルゲームそんなやったことないからよくわかんないけど。

 あれか。世界の修正力とかそういう?

 それとも楽にクリスは攻略させまいっていうゲームスタッフの怨念か?

 そんなことを考える俺を後目に、妹はもっと現実的なことを口にした。

 

「多分だけど、隠しルートでは他ルートの要素が練り込まれてるのかも。現にお兄ちゃん、クリス王子だけじゃなくジャック王子やイーラ執事長にも会ってるし」

「あー、なるほど?」

 

 クリス攻略を主軸に置いたごった煮ルートの可能性があるってことか。

 ごった煮っていうか、他ルートでは出せなかった(あるいは控えめにした)ボーイでラブな要素が濃くなっているというか。な!義弟にいー兄さん!

 ……はっ。

 

「ひょっとして、セザール様もクリスに対して矢印を……?」

「えー、さすがに教会ルートで接点ないからそれはないんじゃない?」

 

 穿った俺の考えはあっさり反論された。

 そういやあいつ、教会ルートでは暗殺者の仕事しないんだった。

 

「どちらかといえば、クリス王子を焦らす当て馬みたいなポジションだと思うけど」

「当て馬って」

「クリス王子ルートである以上、そうとしか言いようがないし……」

「それはそうかもしれないが」

 

 それにしたって当て馬って。

 実兄に対して辛辣じゃない?

 そんな俺の意見に、妹は唇を尖らせた。

 

「だってあの人、お兄ちゃんの貞操を狙い、私を破滅させるかもしれない人なわけだし。そりゃあスールとしての思い出もあるから、それなりに情はあるけど。逆に言うとそれだけなのよね」

「お兄様可哀想だな……」

「それに、私のお兄ちゃんは今目の前にいるお兄ちゃんっていう意識が強いんだもの。正直他の人をお兄ちゃんって思いづらいわ」

「そ、そうか~」

 

 我ながらデレデレな声が出てしまった。

 セザール様への同情が優越感にひっくり返る。いやあだって、兄としてはね?可愛い妹にこういうこと言われて嬉しくないわけがないというか。

 

「お兄ちゃん、声と表情がキモい」

「前世の兄にも辛辣なのやめれ」

 

 

 軽口を叩き合った後、はたと俺は気づいた。

 

「当て馬役ってことはだよ、妹よ」

「何かしらお兄ちゃん」

「つまりセザール様は、クリスの嫉妬心を煽るようなことをするのでは?」

「えっ、それはそうでしょう」

 

 やっぱりかー!

 最悪の気づきに、俺は再び頭を抱えた。

 そんな俺に、妹のジト目が突き刺さる。

 

「だからさっきまで頭を抱えてたんだけど……お兄ちゃんはなんで困ってたのよ」

「いやあ、あの人と顔合わせるの正直気まずくて……」

 

 フレール視点では、下女時代にお菓子をくれるなどして優しくしてくれたご主人様の一人。しかしその実態は、年端もいかない女の子に恋しちゃうロリコン気質のお兄さんである。

 幼い自分をそういう目で見ていたお兄さんとか、距離を置きたい筆頭だろ。イケメンでも許されるものと許されないものがある。

 いー兄さんは……まあノーカンで!

 立場が比較的対等なのと、身分にがっつり差があるのとではこう、な?

 

「ああ……」

 

 かつて俺がセザール様をロリコン呼ばわりしたのを思い出したのか、妹はなるほどと納得したような顔になった。わかってくれたようで何よりだ。

 

 

「とりあえず目下の問題はクリス王子よねえ」

 

 今世における実兄の事案から目を背けたいのか、妹は溜息混じりに話を戻した。

 戻ることに異論はなかったので、俺もそれにのっかる。

 

「セザール様がいる間は来ないように言うとか?」

「それ、逆効果じゃない?セザールお兄様と一緒にいるところをばったり見られたら、俺に隠れて…!って一気に嫉妬の炎が燃え上がっちゃうでしょ」

「それもそうか……」

 

 となると、お互い接触させずにやりすごすというのは無理か。

 クリスが来るのに合わせてセザール様を屋敷から出すのも厳しいしなあ。

 あいつ来る時は大体突然だから、事前に予定が組めないのが悩ましい。いやまあ忙しい合間を縫って来ているから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。王族とのコネクションできているから当主様は歓迎ムードだし、俺も今となってはそういうマメさが嬉しいので責めるに責められない。

 

「セザール様に俺とクリスがつ…付き合ってるって言うのもなんか違うしな」

「お兄ちゃんいい加減言い慣れようよ」

「ほっとけ!」

 

 こちとら恋人いない歴=年齢だったんじゃい。

 そんな俺にまたジト目を向けてから、妹は小さく溜息をつく。

 

「まあ、言わないのには賛成だけど。というか変に言ったらそれはそれでセザールお兄様が燃え上がっちゃいそうっていうか……。何せ身分差を踏み倒すためにフレールと駆け落ちエンドしちゃう人だし」

「なんなの?あの人は逆境とかそういうのあると余計やる気になっちゃう人なの?」

「そのケはあるなって攻略してる時は思った」

「そっかあ……」

 

 厄介な気質すぎる……。

 っていうか地味に詰んでない?

 

「一番良いのは、クリス王子とセザールお兄様の共倒れなんだけど……」

「良くないが?」

「まあ半分冗談はさておいて」

「半分は本気じゃねーか!」

 

 なんつー恐ろしいことを考えるんだこの妹。

 

「次善はやっぱり、お兄ちゃんがクリス王子をきっちりフォローすることなのよね」

「うっ」

「当て馬の一人や二人が出てきても嫉妬しないくらい安心させてあげればいいわけで……」

「うっうっ」

 

 胸を押さえて目をそらす。

 自分の胸ながら、なかなか柔らかくて昔より大きくなったような(希望的観測)……ってそんな場合じゃないわ。

 

「……いやあまあ、そうなんだけど」

 

 それが簡単にできたら苦労しないっていうか。

 自分からいちゃつけにいけたらあいつに何ヶ月も我慢とかさせてないわ。

 

「まあ、お兄ちゃんはお兄ちゃんだからねえ。男の人であるクリス王子といちゃいちゃするのに抵抗があるのは仕方ないか」

 

 物分りがいい妹はそう言うと、思案するように首を捻り出す。

 妹ばかりに考えさせてはいけないと、俺も考えようとしたところで。

 

「……あ、そうだ」

 

 俺が首を捻る前に、妹の口から短い呟きが零れた。

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