兄妹で乙女ゲームの世界に転生したけど俺がヒロインで妹が悪役令嬢ってどういうこと?   作:どくはら

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37話:兄、焦る

「……んあ?」

 

 ぱちりと、目が開く。

 まず飛び込んできたのは、狭い天井と四方を囲むカーテンだった。

 ……えーっと、ベッド?

 妹の部屋にある天蓋付きベッドを思い出しながら、首を傾げる。俺のベッド、妹のみたいに豪勢じゃないんだけど。っていうかそもそも、寝たような記憶がない。

 確か俺、外を歩いていたような。

 城に向かおうとしていて、セザール様に出待ちされて、その後街中でクリスに……。

 

 ――――って。

 

「ベッドっ!?!?」

 

 一気に目が覚めると同時に、がばっと勢いよく上体を起こした。

 

「っだぁ…」

 

 直後、頭に鈍痛が走った。

 思わず頭に手をやると、湿った布の感触が手のひらに当たる。ついでに頭にできたコブにも当たってしまい、またも痛みに呻く羽目になった。

 呻く俺の横に、濡れた手拭いがずるりと落ちる。

 これがコブを冷やしていたんだなあと一瞬のんきなことを思ったが、すぐ我に返った。そもそもなんでコブができているんだよ俺。

 

「えーっと……」

 

 痛みを意識外に追いやりつつ、必死に記憶を手繰り寄せる。

 どこまで思い出したんだっけかな。

 そうだそうだ。街中でクリスと会って、よりにもよってセザール様に顔を撫でられているところを見られたんだった。んでその後、クリスとバチバチしていたセザール様をなんとか先に帰して、俺も逃げようとしたらいきなり頭に痛みが……。

 

「えっ?」

 

 なんでこの流れで俺、頭にコブ作った?

 いや、百歩譲ってコブができるのはまだいい。

 一番の問題は、俺の真後ろには誰がいたかってことで。

 

「っ」

 

 ハッとなり、慌てて自分の服を確認する。

 それがいつものメイド服なら少しは安心もできたんだが、嫌な予感ってのはここぞとばかりに的中するものらしい。成長してきたおっぱいが押し上げているのは見慣れたメイド服の胸元じゃなく、見慣れないネグリジェ(健全な男子が想像するようなスケスケのやつじゃないぞ)だった。

 

 クリスから逃げようとしたら気絶した。

 起きたら天蓋付きベッドで寝ていた。

 ネグリジェに着替えさせられていた。

 

 さて。

 妹が俺に教えた拉致監禁エンドで、確かフレールさんはネグリジェに拘束具のオプションでしたね。

 …………………………………………。

 …………なんでだよ!!!!!

 

 いやほんとなんで!?

 そりゃあクリス不機嫌そうではあったけど、さすがにいきなり背後からぶん殴って拉致監禁するような感じではなかったぞ!?

 そう思うものの、状況証拠が嫌な感じに揃っている現実が俺の目の前にある。

 

 えっ、マジで?

 世界の強制力とやらがルート強引に進行させた?

 いやいや待て。落ち着け俺。

 拘束具なんてどこにもついていないだろ?

 そりゃあなんかいきなり気絶させられたし気づいたらどこかわからない部屋で寝かせられていたけど、ネグリジェに着替えさせられていたけど、だからって拉致監禁されたと考えるのは早計だ。うんうん。

 ここは深呼吸して落ち着いて、冷静に思考を――

 

 

 こんこんっ

 

 

「っ!――あべしっ!?」

 

 とっさにベッドの下に隠れようとしたら、シーツを踏んづけてつんのめる。そのまま見事に顔から床に転げ落ちた。

 

「……何をしているんだ、お前は」

 

 そんな俺を、返答も待たずに入ってきた浅黒い肌のイケメンが呆れ顔で見つめた。

 女の子にあるまじき格好になっているので、その呆れももっともである。というかわりと真面目に困惑している気配を感じたので、俺は素早く起き上がった。

 は、鼻いてえ。

 鼻も頭も痛くてちょっと泣きそう。

 

「まったく……」

 

 呆れたような呟きとともに近づいてくるクリスは、さっきまでの王子様然とした格好じゃなく、今まで見た中で一番ラフっぽい服を着ていた。まあそれでも前世のよそ行き服みたいな感じではあるんだけど。

 しかしさすが本職がアサシンなだけあって、こういう格好が一番似合うなこいつ……。

 って、のんきに感心している場合か俺!

 

「えーっと、クリス……」

「どうした」

「この状況は、どういう……?」

「は?」

 

 おどおどした感じで問いかけると、不思議そうな顔をされた。

 ヤンデレチックな感じじゃなく、めっちゃ普通のクエスチョンマーク付きフェイスである。

 あっ、これ大丈夫そうなやつだな?

 

「実はなんで意識失ったのか覚えてなくて」

 

 そうとわかると気楽なもんである。手のひらを返すようにおどおどさからバイバイした俺は、普通のトーンで質問の意図を説明した。

 

「ああ。まあ、覚えていなくても無理はないか」

 

 そんな俺の様子を怪訝そうにしつつも、クリスは別段隠す様子もなく言葉を続ける。

 

「何せ、上から落ちてきた鉢植えが直撃したんだからな」

「は?」

 

 今度は俺が不思議そうな顔をする番だった。

 

「なにそのコントみたいな状況?」

 

 思わず真顔になって聞き返してしまう。いや、ほんとなんだよそのギャグ漫画みたいなシチュエーション!ホラー漫画にもたまにあるけど!

 あ、コントって通じるのかなこいつに。

 

「確かに寸劇の喜劇のようなありさまだった。お前を支えられたのは正直奇跡だったと思う」

 

 通じたわ。

 俺の言っているのと微妙に意味合いが違う気するけど。

 

「ルクスリア家に戻すことも考えたが、コブを作って気絶したお前を差し出したらまたスール嬢に張り倒されそうだったからな。城に用があるとも言っていたし、ひとまず連れてきたわけだ」

 

 うちの妹をなんだと思っているんだこいつと思ったけど、兄妹揃って感情のままにクリスを張り倒した前科があるので反論できなかった。

 ぶっちゃけ俺もあいつ殴ってくると思うし。言い分聞かずに。

 

「この格好は?」

「鉢植えが割れて土まみれになっていたからな。それでベッドに寝かすわけにもいかん」

「な、何から何までご面倒を……」

 

 深々と頭を下げた。

 いたれりつくせりというか。ただただ道端で事故って看護されただけだった。

 ごめん。一瞬でも「やべえ拉致監禁されたか!?」とか思って超ごめん。

 

 

 頭の中で土下座していると、くくっと思わずといった風にクリスが笑みを零した。

 

「やけに殊勝だな」

「……まあ、逃げようとしたところで天罰食らったので」

 

 拉致監禁されたかと思いましたとはさすがに言えないので、言葉を濁して答える。

 

「そういえばそのあたりも聞かないとな」

「ぐ」

 

 墓穴になった。

 お、おのれ、これが誘導尋問ってやつか!?策士だなクリス!

 

「いや、お前が勝手に糸口を出してきただけだと思うが」

「人の心読むのやめてくんない?」

「人を読心術の使いのように言うな。お前がわかりやすいだけだ」

 

 そう言って呆れた顔をした後、クリスは俺に手を伸ばしてきた。

 嫌というわけじゃないが、反射というのはどうにもならんものでつい身構えてしまう。しかしクリスも慣れたもの。これくらいの反応は無視しても問題ないと学習しているイケメン王子は、そのまま頬を撫でてきた。

 慈しむような手つきに、なんとも落ち着かない心地になる。

 もじもじしていると、国宝級のイケメンは嬉しそうに笑った。

 

「聞き出したいところだが、その可愛らしい反応に免じて許してやろう」

「か、可愛くねーし!?」

「くくくっ」

「その笑い方やめろや!」

 

 むかついたので、頬に触る手を振り払う。

 その拍子に、頭の鈍痛がその存在を主張し始めた。

 

「医者を手配してある。もうすぐ来るから診てもらえ」

「お世話になります……」

 

 素直に頷いた。

 頭の怪我はちょっとな。この世界の医療技術でなんとかなるとも思えないけど。

 

「今日はそのまま泊まっていけ。ルクスリア家には遣いを出しておくのでな」

「あー、うーん」

「どのみちお前の着ていた服は洗濯してあるから帰れないぞ」

「お前な!」

 

 いや、土まみれだっただろうから当然っちゃ当然というか、むしろ気遣いありがとうございますって感じなんだけど!

 きっちり退路を塞がれているので、これはもうどうしようもない。

 まあ別に監禁されているわけじゃないし、一日くらい平気か。王子とメイドの風評云々に関してはまあ……クリスかいー兄さんのどっちかがなんとかしてくれるだろう!うん!

 そう思いつつ、俺はふはーと溜息をついた。

 

 

 はたと、あることを思い出す。

 

「そういや、俺が持ってたバスケットは?」

「こちらで預かっている。あとで持ってこよう」

「……中身見た?」

「今回も美味だったぞ」

「勝手に食うなよ」

 

 嬉しそうに答えるクリスに呆れた言葉を返しつつも、つい顔がにやけてしまう俺であった。

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