兄妹で乙女ゲームの世界に転生したけど俺がヒロインで妹が悪役令嬢ってどういうこと?   作:どくはら

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46話:兄妹、教会に行く

 さて、ここで軽く、この世界の宗教について語っておかねばなるまい。

 色々と成り立ちが違うので、俺達の世界にあったキリスト教だの仏教だのイスラム教だのは存在しない。しかし神様という概念はあるから、宗教そのものは存在する。

 オリエンス王国で布教されている宗教は一つ。

 その名も、女神教という。

 この国の人達は女神を唯一神として奉り、信じている。

 教会があるからわかると思うが、俺達の世界で言うキリスト教にかなり近い。

 

 しかし、女神である。

 女の神と書いて女神。

 そして俺と妹が会った自称神様も、女(というかフレール)の姿をした神様だった。

 俺の姿を借りているだけと言っていたからもしかしたら本当の姿は女じゃないかもしれないが、女神教を信仰している世界の神様を自称する奴が女の子の姿で現れたのは、多分偶然じゃないだろう。

 もっとも俺は、前世が宗教ちゃんぽん大国日本出身、かつ妹から教会出禁を食らったため、実はこの国の人達が何を信仰しているのかちっとも知らなかったのだが(みんなも大体「神様」とか「神」としか言わないから、なんか神様がいるんだなーくらいのノリだった)。

 よくよく考えると不思議なもんだよな。ゲームが元になった世界にちゃんとした(?)宗教があるのって。

 そこらへんはあの自称神がうまくやっているんだろうか。

 

 聖書もあるらしいが、いくら本を読むのが好きな部類に入るとはいえ、興味がない上に人が殺せる厚さのものに目を通す気にはなれないので触ってない。

 自称神の話でこの世界の宗教的な創世論が気になったらしく、妹は一時期目を通していたが、あいつも途中で読破を諦めた。どうしてああいう本って、読んでいると無性に眠気を誘うんだろうな。

 それでもがんばって概要を把握した妹曰く、女神教の神様はこんな存在らしい。

 

 混沌が満ちていた世界を鎮めるために、多くの少女が生贄になった。

 その少女たちの愛が寄り集まり、やがて女神となった、と。

 

 ……大筋は間違っちゃいない。

 でも、この世界を作ったのは愛とは真逆のものだと聞かされていた俺はそれを聞いて、ものすごく複雑な気分になった。

 

 

 

 俺は前世だと、正月には神社で初詣をし、お盆にはお寺で墓参り、そしてクリスマスは家族でケーキを食べていた。

 かっこつけた言い方をすれば特定の宗教に肩入れはせず、俗っぽく言えばこういうのに宗教が絡んでいると認識せずイベントに参加していた。俺みたいな奴は、現代の日本には一番多いと思う。

 なので、教会にはびっくりするほど縁がなかった。

 日本人って神社やお寺に行くことは多いけど、教会ってミサとかボランティアとかに積極的に参加するか、ミッション系の学校に行くかしないと足を運ばないよな。そんなことない!って怒られる意見かもしれないけど。

 まあ要するに、俺の中の教会は結婚式で誓いのなんたらをする場所というイメージだ。

 フレールの記憶を探っても、そういう感じの教会しか出てこない。

 だから、でかい教会にレンタルされたと聞かれてもいまいちピンとこなかったのだが。

 

「…………でっか!」

 

 そのでかい教会――オリエンス第一聖堂についた時、思わず声を上げてしまった。

 えっ、なにこれ。世界遺産?

 N○Kの番組や世界史の教科書で見たような豪勢な建物を前に、俺は思わずあんぐりと口を開けてしまう。城を見た時も驚いたが、あっちは「遠目で見ていた以上にでかくてびっくりした」だったのに対し、こっちは「想像していなかったものが出てきたびっくり」なので、反応がよりまぬけになってしまった。

 

「お兄ちゃん、ちょっと。アホの子みたいになってるから」

 

 ぽかんとしていると、小声とともに脇を突かれる。

 えっ、なんでお前そんな平然としてんの?

 城の時は一緒にぽかんとしていたくせに!

 そんな俺の心を読んだのか、妹は呆れたような顔をした。

 

「だって、私は何度も来てるし……。普段は大聖堂の方だけど」

「あっ」

 

 そうじゃん。

 王族との色恋が普通に噂されるくらいには上級貴族じゃん、ルクスリア家。俺のイメージ教会で行われるミサに参加するわけなかった。

 思わずぽんと手を叩いた俺にもう一度呆れたように溜息をつく妹。

 ちょっとお兄ちゃん傷つくよ?

 実の妹(今は血が繋がっていないけど)に溜息をつかれて哀愁を漂わせつつ、まぬけ顔をメイドさんモードにする。馬車は違えど一緒に来ていた当主様やその執事の方をちらりと見る。……よし、気づいた様子はないな。

 

「おや」

 

 胸を撫で下ろしていると、老人っぽく、しかしよく通る声が耳に届いた。

 視線を向ければ、いかにも聖職者ですという黒い服を着たおじいさん未満おじさん以上の男性が、ゆっくりとした足取りでこっちに近づいてきていた。

 

「やあ、エモン司祭」

「これはこれはルクスリア公、よくぞ来てくださいました」

 

 鷹揚に片手を上げる当主様に、エモン司祭と呼ばれたおじいさんは恭しく頭を下げる。

 その頭が元に戻るのを待ってから、妹もドレスの裾を軽く持ち上げて同じように礼儀正しくお辞儀をする。それに倣って、俺もぺこり。

 

「安息日でないに関わらず、わざわざ足をお運びいただきありがとうございます」

「なに、日ごろお世話になっている司教殿からのお願いとあれば喜んで。こちらこそ、うちのメイドが粗相をするやもしれないが、どうぞよろしく頼むよ」

「いえいえ。しかし、件のメイドというのはいつもスール嬢と一緒にいる子ではないんですね」

 

 そして始まるおじさん達のトーク。

 前世なら打ち切らせるなりスマホをいじって待つなりするが、この世界だとさすがにそうもいかない。俺と妹はニコニコ0円スマイルのまま、おじさん達の会話が終わるのを黙って待っていた。

 そんな時。

 

「――――おや。来てくださったのですね」

 

 やばいくらいの美声が聞こえた。

 

「っ」

「…!?」

 

 俺は思わず息を呑み、妹は顔が引きつる。

 あまりにも覚えがありすぎる展開。俺達は錆びついた機械よろしく、ギギギとぎこちなく声がした方を向く。

 

 そこには、国宝級のイケメンがいた。

 

 紫色の髪をした、一見すると物腰が柔らかい感じの青年。

 司祭おじさんよりも明らかに高そうで、かつ重たそうな服を着ている。

 さわやかそうなのにどこか肉食獣みたいな雰囲気を感じるのは、こいつの正体に察しがついてしまったからだろう。

 いや、でもなんで?

 

「おお、アウア司教殿。どうも、先日ぶりだね」

 

 俺達の予感を言い当てるように、当主様が闖入イケメンに挨拶をする。

 ただし、肩書きは俺達が知るものじゃなかった。

 

「スール。この方がプリンに興味を持たれた、第一聖堂の司教、リティア=アウア殿だ」

「やあ、はじめまして。ルクスリア公から話はかねがね」

「ど、どうも……。スール・ルクスリアと申します……」

「おやおやルクスリア公、私のことは紹介してくれないのですかね?」

「おおっと、すまないすまない」

 

 牧師のおじさんとはどうやら気安い仲らしく、小気味よいやりとりが飛ぶ。

 映画っぽいな~という感想が脳裏をよぎる。現実逃避だった。

 

 なんで!なんで司教!

 どういうことだと妹を横目で見れば、ぷるぷると首を小さく横に振られる。それだけでこの状況が妹にとっても想定外なのがよくわかった。

 なんだっていうんだいったい。

 隠しルートだけ牧師じゃなく司教になるとか、意表を突くだけが目的のクソみたいな設定変更でもあんのか!?

 

「今日は私のわがままを聞いていただき、ありがとうございます」

「いやいや、他ならぬ司教殿の頼みとあってはね。ただ、せっかくの機会だからと、娘が司教殿に会いたいと言ってね。よければ少し話をしてやってはくれないかね?」

「ええ、喜んで。そちらのフレールさんにも厨房の段取りで話したいこともありますし、お二人で私の部屋に来ていただいても?」

「大丈夫ですとも。その間、私はエモン司祭とお茶でもさせていただくとするかね」

 

 俺達が動揺している間にも、おじさん+イケメンの会話は遠慮なく進んでいく。

 本音を言うなら今すぐ帰らせていただきたいところだが、俺はもちろん妹にもそれができるだけの権限がない。正確に言うとできなくはないが、仮病は問題の先送りだし強行帰宅は別の問題が発生してしまう。

 

「構わないね、スール」

「……え、ええ。お父様」

 

 妹も俺と同じ考えに至ったらしい。

 観念したように、頬を小さくぴくぴくさせながらも頷いた。

 

 

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