兄妹で乙女ゲームの世界に転生したけど俺がヒロインで妹が悪役令嬢ってどういうこと?   作:どくはら

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47話:兄妹、対面する

 内心戦々恐々としている俺達が案内されたのは、一見すると質素な部屋だった。

 派手さだけが取り柄で実用性がなさそうな調度品はなく、机だの椅子棚だの本棚だのと、必要な家具しかない。だが、ルクスリア家での生活のおかげで肥えた目は、その家具がめちゃくちゃ良いものなのを見逃さなかった。

 さすが上級貴族にわがまま言えるだけはある。すげえな、司教。いや、司教ってどれくらい偉いか知らないんだけど(さすがに牧師より上なのはわかるが)多分教皇よりは下だよな。

 

「どうぞおかけになってください」

 

 現実逃避気味にそんなことを考えていると、アウア牧師改め司教がそう声をかける。

 机の上には、シスターさんが用意してくれたお茶にお茶菓子が三人分。

 椅子はこっち側に二つ用意されているが、はいありがとうございますと俺も腰かけるわけにはいかない。メイドらしくそっと椅子を引き、妹に腰を下ろさせてから斜め後ろに控えるように立った。

 そして、見ているのがばれないようそれとなく司教を見る。

 

 ……うーむ。イケメンだ。

 リティア=アウアは牧師のはずなんだから、アウア司教は同性の別人の可能性だって考えられる。だが、今までの攻略対象達のことを考えると、明らかに他とレベルが違うイケメンが赤の他人だとは到底思えない。

 そうなるとマジでなんで牧師から司教にランクアップしているんだって話だが。

 

「どうして僕が牧師ではなく司教なのか知りたい、とでも言いたげな顔だな」

「そりゃあ気になるに決まって…………ん!?」

 

 心を読んだ質問に、思わず口に出して反応してしまう。

 妹に張り倒されてもおかしくない痛恨のポカだが……え?

 今こいつなんて言った?

 

「……アウア司教、様?」

 

 恐る恐るといった風情で、目の前にいるイケメンの名前を口にする。

 イケメン司教は物腰が柔らかそうな雰囲気から一転し、人が悪そうな顔で俺と、そして呆気にとられている妹を見やった。

 

「もう少し焦らして、女神と同じ顔の百面相を見るのも悪くなかったけど……。僕はメッセンジャーだからな。その役目をまっとうさせてもらうよ」

「……えっと?」

「単刀直入に言うと、僕はお前達二人が転生者だと知っているということだな」

「「…!?」」

 

 予想外の言葉に、俺は目を見開き、妹は思わずと言った風に椅子から立ち上がった。

 え?

 えっ?

 ええ?

 なんとか再起動して奴の言葉を咀嚼しようと試みるが、その結果として出力されたのはこいつの言葉にいちゃもんつけるのは難しいということだった。

 

 俺達が前世について話した機会は少ない。お互いに記憶が戻った時か、クリスに話をする時くらいじゃないだろうか。仮にそこから漏れた話が物凄い確率でこいつの耳に入ったとしても、そこから俺達が転生者だと結びつけるのは無理だろう。

 女神教はキリスト教っぽい宗教だ。

 だから結構キリスト教と同じところがある。

 そしてキリスト教には転生という概念がない。

 なので女神教にも転生という言葉はなく、この世界にもどうやらそういう言葉はないっぽい(以上、全て妹からの受け売りである。オタクってなんか変なところで博識だよな)。

 つまり、この世界の人間から転生者という言葉が出てくるわけがないのだ。

 にも関わらず俺達を転生者と言い切ったこいつは、ただの人間じゃない。

 

「――っ!」

「お兄ちゃん!?」

 

 思わず、妹を庇うように前へ出た。

 

「女神から聞いた通り、妹思いの兄だな」

 

 そんな俺を見て、司教はそういう反応が見たかったとばかりに笑う。

 誰だよポンコツ執事を腹黒って言った奴!こいつの方がそれっぽいじゃん!

 

「……お前、何者なんだよ」

「何者とはご挨拶だな、フレールさん。僕の名前はリティア=アウア、この第一聖堂を任されている司教で、女神からの託宣を預かってきたメッセンジャーだ。それ以上でも以下でもない」

「さっきから女神女神って、一体誰のことだよ」

「この世界の管理を司る、我らが神だ。お前達も謁見したことがあるだろう」

 

 そう言われ、考えること数秒。

 銀髪の女の子が、脳裏でにこやかに手を振ってきた。

 

「……あいつ!?」

「女神をあいつ呼ばわりとは、不敬な女だな」

「あっ、ごめんなさい」

 

 結構マジな声&顔だったので反射的に謝る。

 こ、こっえ~~~。

 イケメンの怒った顔マジこっえ~~~!

 許してくれないんじゃないかと内心びくびくだったが、司教は「わかればいい」と鼻を鳴らした後、おこな顔を引っこめてくれた。あー、心臓に悪かった……。

 しかし女神……女神かあ。

 

「女神からの……メッセンジャー?」

「ああ、そうだ」

「それを素直に信じろって?」

「ここでお前達を騙すつもりがあるなら、こんな単刀直入な物言いはしない。もっと婉曲に、怪しまれないように話を進めるさ。手札を隠さずに切ったということを、こちらの誠意の証明だと思ってほしいところだ」

「……」

 

 なんだこいつ、喋り方が頭いいぞ!?

 ……おっといかん、思わず馬鹿すぎる感想が出てしまった。

 いきなりわけわからん勢いでアクセルを踏む奴ばっかだから、妙に新鮮というかなんというか……。俺が言うのもなんだけど、他の攻略対象達、そろいもそろって猪突猛進すぎだろ。こいつを見習ってくれ。

 

 そんなことを脳裏によぎらせながら、ちら、と妹の方を振り返る。

 こらっ、お前まで「なにこいつ頭いい喋り方」みたいな顔するんじゃない!

 

「んんっ」

「……はっ」

 

 咳払いをすれば、妹は慌てた様子で我に返る。

 その顔を窺う。不安そうではあるものの、それ以上に司教への好奇心が抑えられないといった感じだ。少なくとも警戒心は、俺と同じくさっきの言葉で和らいだらしい。

 ……ええい、覚悟決めるか。

 

「……わかった。お前の言葉、一応信じる」

「話の分かる女は好きだぞ。女神の次にだがな」

 

 そう返せば、イケメン司教はニヒルな笑みを浮かべた。

 

「でも、メッセンジャーって言っても何を伝えに来たんだ?」

 

 何か伝えたいなら、妹にやったみたいに夢でも見せればいいんじゃなかろうか。いや、あの夢みたいに断片的な情報だけよこされても困るんだけど。

 俺に追従するように、妹もこくこくと首を縦に振る。

 可愛い仕草ににやつかないように司教を見れば、腹立たしいくらい整った口元が動いた。

 

「そうだな、これも単刀直入に言おうか。話が早い方がいいだろう?」

「まあ、そうだけど」

「そうね、わかりやすい方がいいわ」

 

 頷いてみせる俺と妹。

 そんな俺達を見ながら、司教は改めて口を開き。

 

「女神は、お前に世界を救ってほしいそうだ」

 

 …………パードゥン?

 

 

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