兄妹で乙女ゲームの世界に転生したけど俺がヒロインで妹が悪役令嬢ってどういうこと?   作:どくはら

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53話:兄、司教に相談する

「つーわけなんだけど、何か良い案ない?」

「相談しにきてもいいと言ったのは僕だが、早すぎるだろう」

 

 フランクに質問を投げた俺に、司教はティーカップ片手に呆れた顔をした。

 

 

 翌週の安息日前日。

 シスターさん達と一緒にプリンを作り終えた俺は、先週と同じ部屋で司教と対面していた。

 テーブルの上には紅茶が入ったティーカップが二つと、表面がてかてかしている茶色いお菓子が盛られた皿が一つ。お菓子をつまめば、蜂蜜の甘さと油の香ばしさが、さくさくとした食感とともに口の中に広がった。

 うわっ、なんだこれ。

 かりんとうじゃん。かりんとうとかこの世界にあるのかよ。

 前世の郷愁を刺激するお菓子に、ついつい手が伸びてしまう。あっという間に皿の空白を増やしていく俺を見て、司教がますます呆れ顔になっているが気にしない。

 ……このかりんとう、持ち帰れないかな。つーかレシピ知りたい。

 

 ちなみに今回、妹は不在である。

 なんでも再来月、城で舞踏会が開かれることが決まったようで。ルクスリア家のご令嬢として恥ずかしくないよう、踊りを改めて教わりなさいと当主様に申しつけられたのだった。

 普段娘に甘々な当主様だが、こういうところは娘に甘くない。

 さすが上級貴族と言うべきか。

 そういや、舞踏会の話が出た時、妙に暗い顔していたなあいつ。

 帰ったら聞いとかないとな。

 

「まあ、お前が来ると休めるから文句もないが」

「ん、どゆこと?」

 

 不思議な物言いに、口をもごもごさせながら首を傾げる。

「飲み込んでから喋れ」とまっとうなお叱りを口にした後、司教は俺の疑問に答えるべく、同じ口で話を始めた。

 

「『登場人物』とフレールの交流は、この世界では特にプライオリティーが高くてな。本来なら安易に代理が立てられない仕事も代わりを見つけやすくなるし、本来なら引き受けてくれないような頼みも通りやすくなるんだ」

「ぷ、ぷらいおりてぃー?」

「優先順位のことだ。要は、お前に会いたいと僕が願い、それを叶えるために行動を起こせば、周囲が自然と手助けをしてくれるということだな。まあ、限度もあるだろうが」

「あー」

 

 噛み砕いた説明のおかげで、今度はすんなり飲みこめた。

 つまり、勝手にキューピッドになってくれるわけか。男とくっつくよう世界ぐるみで後押ししてくるとか怖すぎない?いやまあ、俺は今女だから仕方ないんだけども。

 クリスが立場のわりに結構屋敷に来てくれる理由もこれなんだろうなあ。

 そこはありがたい。

 

「……あっ。もしかして当主様が急に俺を貸し出したのもそういうこと?」

「そういうことだな」

 

 俺の気付きに、司教は頷いてみせる。

 

「女神からお前が菓子作りに精を出しているとは聞いていたから、そこの情報収集は怠らなかった。司教が興味を示しやすいものにはまっていてくれて助かったよ」

「そうなんだ?聖職者って嗜好品アウトな印象あるけど」

「極端な禁欲、節制に走るのはあくまでも一部だ。むしろ教会は、多くの菓子を誕生させてきた、いわば発祥の地としての側面もあるくらいだぞ」

「へえ?」

「厨房の設備も使える食材も、貴族の屋敷並みに揃っているからな。加えて、修道女には厄介払いされた貴族の令嬢も多い。そいつらに仕えていた召使いが付き添って、屋敷で覚えた厨房の知識を振るうというわけだな」

「おー…、なるほどなあ」

 

 司教の解説に思わず聞き入ってしまう俺。

 テストに出てくるような歴史はあんま興味持てなかったけど、先生が雑談で話してくれるような歴史トークは好きだったなあ。あの先生元気かなあ。ひっそり片思いをしていた数学の先生とはうまくやれただろうか。

 

「教会発祥のお菓子って、例えばどんなものがあるんだ?」

「お前、ここに来た用事を忘れてないだろうな」

「……あっ」

 

 前世のことを懐かしみながら質問をしたら、呆れた顔でそんな指摘が返ってきた。

 いかんいかん。

 いや、忘れていたわけじゃないぞ?自分の人生設計に関わることだし。うん。

 

「ちなみにお前が今食べつくしたのが教会発祥の菓子の一つだ」

「えっ、これ!?」

「ペスティーニョという。気に入ったのなら、あとでルクスリア家への土産として持たせてやる。レシピは直接シスターに交渉しろ」

 

 マジかよ、ありがてえ。

 あと随分とおしゃれな名前しているな、このかりんとう。

 

「ありがとな、司教様」

 

 感謝の気持ちをしっかり伝えてから、俺は居住まいを正す。

 優しい脱線に悪乗りするほど、俺も礼儀知らずではない。司教が戻してくれた話のレールを進むべく、口を開いた。

 

「えーっと……。んで、さっきの話なんだけど。結婚以外の良い手ってないと思う?」

「第一王子との婚姻が物語の完結という可能性自体、僕にはにわかに信じがたいがな」

 

 そんな前置きをしつつも、司教は自分の考えを喋り始める。

 

「だいぶ乱暴な手段とは言え、最大の難関である身分差を突破するための知恵があるというなら、とっとと行動しろとは思う。その方が合理的だしな」

「うう……」

「だが、それが結婚というなら気安く決断できない気持ちはわからんでもない。結婚は人生の墓場というからな。入る墓を適当には選べんだろう」

「言い方!理解してくれるのは嬉しいけど言い方!」

 

 仮にも聖職者だろお前!

 病める時も健やかなる時もって促す立場だろ!

 いやそりゃあ、死ぬ時の面倒も見てくれるけどさ!

 

「妹は原型の知識があるんだろう?そこに手っ取り早い終わらせ方はないのか?」

「手っ取り早く終わらせるには多分俺が攻略対象の誰かに殺されるしかないので……」

「土台になった物語は狂人の著作か何かか……?何をどうしたらお前に愛を囁く役割を持った『登場人物』がお前のことを殺すようになるんだ」

「そんなのは俺が一番知りてえ」

 

 俺が遭遇しかけた死亡ルートは三つだけど、この十倍くらいないとフレールも悪のフレールにならないだろうという確信がある。嫌すぎる。

 本当になんで隠しルートに入るといきなり殺意マシマシになるんだよ。

 

「それ以外の終わらせ方も、やっぱ誰かとの結婚みたいなんだよな。駆け落ちしましためでたしめでたし、ってのもあるみたいだけど」

「その駆け落ち相手も第一王子なのか?」

「いや、駆け落ちする相手はスールの兄ちゃん」

「なら、そいつと駆け落ちした後、適当に切り上げて素知らぬ顔で国に戻ってこい。そいつ一人の犠牲で世界を救うことができるぞ」

「人の心がない提案すんな!」

 

 できるかバカ!!

 それやったら俺の良心も死ぬから二人分の犠牲になるわい!

 

「安心しろ、半分冗談だ」

「もう半分本気じゃねえか」

「合理的ではあるからな」

「頼むから妹の前では絶対言わないでくれよ……?」

 

 あの可愛い顔でその手が!みたいな表情されたら兄ちゃん大ショックだよ。

 第二王子以外の扱いが雑だから、言いかねないのが一番怖い。

 さておき。

 

「やっぱ他の手は難しいかあ……」

 

 両手で頬杖をつきながら、溜息を零す。

 頭が良い奴に相談したら凄いアイデアを出してくれるんじゃないかと期待したのだが、現実は甘くない。甘かったのは俺の方である。

 

「僕の知識は結局のところ、女神からの口伝でしかないからな。僕なりの考察や見解は出せるが、劇的な閃きは生まれにくいと思うぞ」

「そっかあ……」

「あまり力になれなくてすまないな」

「あっ、いや!いいっていいって!こうやって話聞いてもらえるだけでもだいぶ楽だし!」

 

 慌てて弁解する。

 いい案がもらえなかったのは確かに残念だけど、話を聞いてもらえると気が楽になるというのは事実だ。妹相手だと言いづらいこともあるしな。

 俺の気持ちはすんなり伝わったようで、司教は小さく肩をすくめた。

 話ししやすくて助かる~~~。

 

「まあ、僕の元に来たのに成果なしで帰らせるのも癪だ」

「ん?」

「おせっかいな助言をしてやる。それが吉と出るか凶と出るかはお前次第だがな」

 

 首を傾げる俺に、司教は初歩的なことだろうとばかりに口を開いた。

 

「最終的にどの選択をするにせよ、第一王子に結婚の意志があるかは事前に確認しておけよ?お前にとって結婚が人生の一大イベントであるように、第一王子にとっても同じくらい――いや、お前達以上に重大な事柄なんだからな」

「……あっ」

 

 

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