廃病院の一室で目を覚ました『私』。鍵穴のついた手錠を外す為に奔走するのだが、行く先々で奇妙な姿形の異形達に襲われる。
 当てのないまま逃げ惑う中、一人の少女が現れて―。


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初めまして。
このホラー小説が初投稿になります。
拙い文章ですが、これからよろしくお願いします。


聖域への侵入者

酒瓶を投げた音が耳朶を打った。

また、だ。また妙な声がしている。酒瓶を投げて誤魔化そうとしたが一向に治まってはくれない。ぼそぼそと、それでいて確かに届いてくる声は耳の周りを浮遊しているかのように纏わりついてくる。

これで何度目なのだろうか。思い返そうと回転させた頭は酔いで空回りを繰り返す。駄目だった。もはや私の脳は思考することを放棄しているのかもしれない。

(また酒瓶を投げるか?)

馬鹿馬鹿しい。ついさっき・・・・・・さっき、だった筈だ。私はそれをした。しかし良い結果は出なかっただろう。せいぜい、この汚部屋に新しいガラス片と刺激臭のする染みを生むだけだ。

酒だ。取り敢えず酒を飲んでリフレッシュしよう。

 グラスに鼻を近づけると、かぐわしい刺激臭が鼻腔を覆った。その香りを味わってから喉に通す。喉を焼いていくのが分かる。この瞬間が何もかもを忘れさせてくれる至福のひと時だった。

 バタン。

(何か音がしたか?物が落ちたような、鈍い・・・・・・気のせいか)

 おっと、底が見えてしまっている。予備は冷蔵庫にあっただろうか。あった筈だ。無駄になってしまった貯金で何本も買った。それこそ冷蔵庫の中身が埋まってしまう程には。ある筈だ。

「おっ、お、ととっと・・・・・・」

 如何せん足元が覚束ない。酒は良いものだが、こういった弊害が出てしまうのは宜しくない。だからこそ飲酒によって事故事件が起きてしまうのだ。人の事を言えた口ではないが。

 それにしても、こんなに長い道のりだっただろうか。普段なら大股で十五もしない内に届く距離に目的の冷蔵庫はある。二十は歩を進めた感覚だが、まだ辿り着かない。

やけに長く感じるのは酔っているせいか。はたまた別の、何か。

 バタン、キィ・・・・・・バタン。

「なっ、何なんださっきから・・・・・・エリー、君かい!?」

 二階からの返事はない。いつもの事だ。いつも通り、自室に籠っているのだろう。

 だがしかし、彼女でないとするならば一体誰が。まさか強盗・・・・・・いや、この家に金になるものはない。ならば動物はどうだろうか。いや、さっきの音はドアが開閉を繰り返しているような音だった。動物がドアを開け閉め・・・・・・。

「ドア?」

 一気に酔いが覚める。同時に耳元で燻っていた声も鳴りを潜めた。

 バタン、キィ・・・・・・バタン。キィ・・・・・・。

 ドアだ。二階、それも子供部屋のある場所からなっているように聞こえる。開けては閉め、開けては閉めの繰り返し。強盗でも動物でもない。目的がはっきりしない音だ。まるでいたずらにこちらを誘き寄せようとする悪い子供の様に。

バタン。キィ・・・・・・バタンッ!

「ふざけるなよ・・・・・・」

 沸々と怒りが湧いてくる。酒を飲んでいたせいで血流さえも暴れだした。熱い。

「殺してやる」

 相手が何者かなど最早どうでもいい。人であれ動物であれ何であれ、そこを汚す事だけは許さない。いたずらなど以ての他だ。

 冷蔵庫のあるキッチンに進めていた足を止める。行き先変更だ。子供部屋・・・・・・こんんな事で踏み入れたくなかったが、仕方ない。あの場所から一刻も早く音の正体を排除しなければ。

 階段が見えてきた。二階を灯すスイッチを押す。

「おい、冗談じゃないぞ」

 点かない。もう一度押す、点かない。連打してみる、点かない。壊れているのだろうか。

 仕方なく階段を上がっていくと、不意に音が止んだ。今度は開いたまま閉じられる気配はない。やはり誘われているような気がする。

踊り場でゴルフクラブを手に取った。護身用ではない。

 二階に着いた。暗い。唯一の灯かりは右手にある寝室から漏れ出るテレビの光だ。型が大きい分、光度があるが薄気味悪い。しかし無いよりは幾分マシというやつだ。それにテレビが点けられていることで彼女が起きているのが分かった。

「エリー?聞こえているなら外に出ないでくれ。君の嫌いなゴキブリが出てしまったんだ」

 返事はいらない。彼女が妙な気を起こして部屋を出てきたしまったら困る。一応の保険になると良いが、彼女の事だ。何をしでかすか。もう私には予想さえ出来ない。

 バタン。

「何だってんだ・・・・・・」

 左手の突き当りにある子供部屋へ向かうと、近付く程に明るさが落ちていった。流石に階段のようにはいかず、スマートフォンのライトを点ける。残り十四パーセント。三十分もしない内に切れてしまうだろうが、その前に片付ければいい話だ。

自然とクラブを握る右手に力が籠る。

『モニカ』

 ネームプレートが照らし出される。モニカ。擦れてしまっているが読むことは出来る。モニカ・・・・・・いや、いい。目下の課題は音を止める事だ。

 金のドアノブはひんやりとしていた。捻り、回す。

 キィ・・・・・・。

 ドアが、開く。

 




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