エリートオペレーターでも転職は考えます   作:休んじゃダメですよ

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これも全部ロドスの勤務体形の仕業なんだ。


BO-1

 ロドスアイランド製薬。表向きは世界に蔓延る感染病、鉱石病の治療薬を開発している組織。感染者となったもの達を治療のために、進行を遅らせるために受け入れる世界の中でも有数のグループだ。

 

 また感染者の迫害や差別による暴動をこちら側からアクションを起こし収める武装組織でもある。感染者にまつわるトラブルを解決するにあたってのスペシャリスト。少なくともロドスのCEOである少女はそう謳っていた。

 

 そのため、ロドスに加入している社員……オペレーターの種族、その役割は幅広い。医療に専念するもの、戦闘を生業とするもの、治療を受けにきたもの、迫害から匿われたもの……本当にさまざまだ。中には料理担当のオペレーターだっている。俺が見たそのオペレーターは、フライパンを戦場に持ち込んで暴徒を殴りつけたりしてたけど。

 

 多種多様なオペレーター達だが、ロドスの基準において特に高い能力を持つと判断されたオペレーター達にはある名称が付け加えられる。『エリートオペレーター』……ロドス勤務オペレーターの目標の一つ。状況によってはその場の命令権なども行使することが出来るのだ。あと給料も良くなる。休みも少しだけ融通が効いたりする。

 

 それと…………ああ、何故今こんな話をしているのか。勘のいい人物なら分かるだろう。

 

 

「おめでとうblackout。君を本日付けで、『エリートオペレーター』に任命する」

 

 

 今日この日、俺はようやくエリートオペレーターの銘を手にすることが出来ました。とても嬉しいです。これで休みも給料も増えて、幸福感増し増しです。やったぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 

「よっし完了! 次に行こうblackout、私の動きに合わせて! 一気に鎮圧するわ!!」

 

「え? ホントに言ってる? 目視であの団体今倒した倍は居ますけど??? ちょ、まっ、ブレイズカムバーッック!!!」

 

 

 エリートオペレーターきっっっつくない??? 

 

 

 あ、しかも話聞いてないなこの女。それはもう一直線にチェーンソーとアーツを喚き散らかして行くつもりだ。あれと一緒に飛び込むの、すぐ隣で? これは駄目ですね死にましたね俺は。熱い、とんでもなく、なんの比喩でもなく。下手したら溶けるのでは? 

 二階級特進とかあるのかなエリートオペレーター。帰ったら再就職先考えよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………おいし」

 

 ロドス休憩室の片隅にあるソファー。そこに腰かけると、ほう、と自販機で買った暖かいお茶を一口含む。疲れた身体全体に染み渡っていく感覚が心地よい。結局作戦は無事に成功して死傷者はゼロ、俺も火傷や軽微な傷を負うだけで済んだ。幸運だったと言わざるを得ない、もしくは途中から連絡のついた指揮者の指示に従ったことで助かったのだろうか。

 

 エリートオペレーター。何か理想と違いましたね。振られる仕事がキツくなるのは承知の上で、提出する書類が増えるのもまあ当然のことなんどけども。

 

 俺の想像では皆から頼られる存在で、戦場に立てば一騎当千とまではいかないものの心強くて、それでいて色んなオペレーターに指示も出来る。お給金も沢山あるから好きな物も用意しやすくて趣味にも没頭できる、そんなところだったんだけど。

 

 めっちゃ露骨に避けられてません? あ、ほら。今男女ペアのオペレーターが俺の前を横切るなりさささっと行っちゃったよ。それまで談笑してたのにこっちを見るなり急に無言になって。オペレーターの憧れの的とは何だったのか。

 

 いや、でもこれは元々俺が悪いだけだと思う。普通のオペレーターとして働いてた時は交流してたオペレーターは限られてたし、訓練に必死で他の誰かと話したり遊んだりとかもしなかったし。自分から話しかけるの苦手だから、話しかけられることが多いであろうエリートオペレーターになったら友達もできるかななんて思ってたけど。現実って厳しい、エリートになってもマイナス要素が大きすぎてるみたい。泣きそうです。

 

 それならエリートオペレーター同士で交流を深めたらいいのではないか。そう考えた当時の俺は頭が良かった、しかし今現在の俺は心が折れてるので無理です。あんな人たちと和気藹々と話してる想像なんて出来ません。なんでかって? 

 

 全体的にぶっ飛びすぎてるからロドスのエリートオペレーター。いやもう、戦闘力とかアーツとか特に。俺はついて行くのが精一杯です。あれだけ厳しい基準をクリアしてようやく上り詰めたのに、さらに上には上がいるとはまさにこの事。

 

 勿論、戦闘以外にも医療や開発担当のエリートオペレーターはいる。その人達に比べたら俺はまだ出来る方なのでは? と、思うじゃん? あの人達も有事があった時の状況判断力、適応力を兼ね備えてるから一般オペレーターよりも遥かに強力な面子が揃ってるんですよね。言い換えれば戦闘専門(笑)の俺よりも強い方々ばかりです。

 

 いくらなりたてのエリートオペレーターでもね。前線支えて友達作って生活充足も頑張るぞいって張り切ってるところをいろんな面でズタボロにされちゃあメンタルも死にますよ。話しかけるの辛いですよ。

 

 あ──ー、なんだろうな──ー。急にこの苦いお茶がしょっぱく感じてきたな──ー。辞めようかなこのロドス──ー。

 

 

「や、blackoutお疲れ様! お互い今日も生き残ることが出来て良かったね!」

 

「あ。脳筋爆裂突貫女だ(お疲れ様、ブレイズ)」

 

「は?」

 

 

 辛い精神状態の時に不意打ち見たく現れた人物に、ついつい本音と建前が入れ替わってしまう。当然許される訳はなくて、次の瞬間には意識が遠のくレベルのチョークスリーパーをお見舞いされた。

 ギブアップを示すように腕を叩くと何事も無かったように彼女は隣へ座ってくる。まだ許して貰えないんですか。内心ではがたがた震えてるけどそれを見せたらより酷い目に遭わせられそうなので頑張って固まってる。

 

 

「全く、折角労ってあげようと思ってたのに。君作戦が終わったらすぐどこか行っちゃうんだもん」

 

「それはあれだけ無茶に付き合わされたら疲労も溜まるから……。何だったら今すぐにでも部屋のベッドで眠りたいくらいだよ、というかそうするね」

 

「あはは、冗談も得意になったね」

 

 

 冗談じゃないです。

 

 

「どうせこの後は作戦の予定もないし暇でしょ? この後良かったら久しぶりに組手でもしない? 身体がまだ温まってて、折角ならblackoutとしたいんだ。ほら、エリートオペレーター昇格祝いってことで!」

 

「祝いでボコボコにするって控えめに言ってサイコパスでは?」

 

「何か言った?」

 

「何も。だから手をこっちに向けないでください。アーツの準備をしないで下さい、熱いのもうやだ」

 

 

 誰か助けてください、脅迫されてます。あの人笑顔でちりちりする空気を纏ってきてます。暴力反対、平和的解決。

 

 

「全くもう。同期だからって言ってもいいこと悪いことはあるんだからね。それにお祝いしたい気持ちがあるのは本当だよ」

 

「それは……うん、ありがとう。でも気持ちだけでいいので……試験結果を教えてくれたケルシーさん以外に祝ってくれたの、今はブレイズだけだもの。凄く嬉しいよ」

 

「え、そうなの? blackoutがエリートオペレーターになったこと、もう皆知ってるんじゃないの?」

 

「ロドスのオペレーター自体は数が多いからね、友人でもなんでもない人がエリートオペレーターになったからって興味を持つ人は少ないと思うよ」

 

「………………あー……その……。元気だしなよ」

 

「同情的な視線を向けるのはやめて……惨めさが際立つ……うっ、うっ」

 

「ご、ごめんって。そんなつもりじゃ無かったんだよ。ほ、ほら、大丈夫? 組手する?」

 

「泣きっ面に蜂どころか鬼の所業をナチュラルに用意しないでくれます?」

 

 熱くなりだした目頭が急激に冷え込んだ。この人、周りや自分は熱くさせられるのに俺に対しては恐怖で冷たくしてくるのはなんだろう。どこで恨みを買ったのか覚えてないんですけど。

 そんな、彼女と任務外で久しぶりのやり取りをしていると廊下の方からたったったっと駆けるような音が近づいてくる。やや迷ってるかのように何度か足が緩んだり、立ち止まったり。先を察した俺はブレイズを尻目にソファーから立ち上がり、自販機で缶ジュースを一つ買っておく。やがて足音はこの休憩室へと近づいてきて、がらりとその扉が空いた。入ってきたオペレーターのフェリーンの少女は俺の姿を見るなりビクッと震えていた。どうして……。

 

「……あっ、……み、見つけました。 えと……blackoutさん……アーミヤさんが、お呼びでした……」

 

「分かった、すぐに向かうよ。じゃあブレイズ、積もる話はまた今度ね」

 

「アーミヤちゃんのお呼び出しなら仕方ないね。行ってらっしゃい、blackout」

 

 よしっ。抜け出す口実ができた。どんな理由で呼ばれたか分からないけど、ナイスだオペレーターさん。そんな感じで彼女に視線を向けたら「ひぇ……」と怖がられた。ドウシテ……。

 

 このままだと空気が悪くなりそうなので大人しく、彼女の横を通り過ぎながら休憩室を後にする。普通にオペレーターとして働いてた時よりも、エリートオペレーターになってからあんな風に反応されることが多くなった気がする。何でだろうなあ、おかしいなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? 今お呼びしてるのはどんなオペレーターか、ですか? 履歴書を見たところ重装担当のオペレーターということしか分からない……なるほど。少し古い書類みたいですね。ごめんなさい、ドクター」

 

「彼はロドスの中でも古参のオペレーターで、ブレイズさんと同期の方なんですよ。でもあまり皆さんには知られてないというか……彼自身が知られないようにしてるというか」

 

「私も詳しいことについて分かりません。自分のことを話したがらない方なので。でも、とても優しい人です。ドクターともきっと仲良くなれると思います。……あ、来てくださったみたいですね」

 

 ノックの音が部屋に響いた時、簡単な説明をしていたアーミヤが視線を向ける。どうぞ、とアーミヤが言ってから程なくするとゆっくりと扉が開かれた。

 

 その途端に何故だろうか。身体が、いや、この空間がずしんと重くなったかのような錯覚を覚える。傍らに立つアーミヤは平然とした様子で扉の方を見つめているが。ドクター……私は、その重圧にフードの下で汗を垂らした。

 

 執務室へ入ってきたのはループスの少年だった。身長はおよそ160cm程度と少し小柄で、真っ黒な髪に青い瞳、灰色のローブと落ち着いた印象を受ける。ブレイズと同期と言っていたが、それにしては見た目の年齢は若い気がした。まだ成人はしてないような、そんな印象。だが何よりも気を引くのは身にまとっている重々しい雰囲気で、執務室の椅子から立ち上がることが出来ないほどの圧力。錯覚に過ぎないとはわかっていても目を離すことも出来なかった。

 

 

「用ってなんだろう、アーミヤさん」

 

 

 言葉がのしかかる。何気ない質問、自分に向けられたものでは無いのに。一気に緊張感が高まる感覚に襲われる。彼は一体何者なのか。通常のオペレーターにはない、何か。それを感じずにはいられなかった。

 

 

「はい。実は今日から正式にドクターの指揮下に入って頂くことになりました。前々からお伝えはしていましたが、それが本日付けでということになりますね」

 

「……そう、ドクターの。別に異議はないよ。さっきもお世話になったことだし」

 

 

 視線が向いた。青い瞳、光のないそれが自分に向かって突き刺さる。暗い境遇を辿ったオペレーターはロドスにおいて少なくない、しかし彼から感じるものは暗いというよりも……重苦しい空気。口を開くことが、出来なかった。今すぐにでもこの部屋から出たいほどに。

 そんな自分を見てなのか彼はどこか得意げな顔立ちで、静かにその名を告げる。

 

 

「じゃあ、改めて。──俺はブラックアウト、一応エリートオペレーターだよ。実力としては下の下だと思ってくれていいよ。どうか、よろしく、ドクター」

 

 

 

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