エリートオペレーターでも転職は考えます   作:休んじゃダメですよ

2 / 4

感想も評価もお気に入りも何もかも全部ウレシイ……ウレシイ……。
とってもありがとうございます。

でも今回は一部と言うより全部アレなので、
アレかもしれません(語彙)


BO-2

 

 ドクター。記憶を失ってしまったロドスのトップの一人。

 チェルノボーグの奥深くで捕らえられていたが、決死の奪還作戦によってこのロドスへと戻ってきた……ロドスのオペレーター、その多くの犠牲を払って。

 

 その人物が目の前にいる。フードとバイザーで顔を隠し表情は窺えず、手を目の前で組んでこちらを品定めしてるかのようだ。俺の気さくな自己紹介を終えても微動だにしない。

 

 その様子に俺は薄い笑みを貼り付けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え? 聞こえてましたよね? え、え? もしかして捕らえられてる間に鼓膜とか破られちゃってたっけ? 手話の方がいいかな……? 

 

 

 

「ブラックアウトさんが言ってることは間違いではありませんね。あなたはエリートオペレーターになったばかりですから」

 

 

 

 不安に駆られて手を動かしかけたところで、アーミヤさんがドクターへ向けて話しかけていた。まるで心の中を読んでるか二人だけで会話をしてるかのようなイメージを抱く。前者なら怖いし後者なら寂しいです。いやまあ、ドクターがいなかった間のアーミヤさんのことを考えたらどんどんむしろやってくれって感じですけどね。

 

 ただ、自分で言っておいてなんだけどアーミヤさん意外と容赦ないね。下の下が間違いないって。ふふふ、エリートオペレーターでも奴は最弱クラスよ、ってことですか。CEOになって立派になったのは嬉しいけど歯に衣着せぬ言い方になってきてるのはメンタルに来ちゃう……。

 

 

「今回は改めての顔合わせも兼ねてお越し頂いてありがとうございます。奪還作戦以来、ブラックアウトさんは息つく暇も無かったみたいですから……」

 

「……エリートオペレーター目指して色々やってたからね、仕方ないよ。今は少なくなったしね」

 

 

 

 ショックを受けてつい間を置いてしまったけれど、やっぱりアーミヤさんの心優しいところは変わってないみたいだ。忙殺されかけてた毎日を考慮して、こうして少しの休みの時間を利用して会わせてくれる。本当に成長したよね……あれ、でも仕事の分配ってアーミヤさんとケルシーさんがしてるんじゃなかった? つまり無茶振りみたいに振られる仕事量の原因って……??? 

 

 うっ、これ以上考えるのはよそう。アーミヤさんはともかくケルシーさんから酷い目に遭わされそう。ソースは俺です。具体的には四敗してます。心読むのやめてください。

 

 ところで、ドクターがさっきから一声も発してないんだけど本当に大丈夫だろうか。全く身動ぎすらしてない…………あ。

 

 さては寝てるな!!? もしかして自己紹介からさっきまでの会話何も聞いてなくて、今も尚目の前に俺がいるのに眠り続けてる!? 流石に酷くないですか、寂しいよ無視しないで!? 

 

 でも、冷静に考えれば無理もないかもしれない。内部での感染者治療、ケアの状況はもちろん、艦船の中にある様々な施設の運用やオペレーターの訓練状況までドクターは目を通していってるみたいだし。毎日膨大な仕事をしてるんでしょう? ほとんど休みなく。ほぼ、休み、なく(重要なことなので)

 それは仕方がない。俺なんかと話してる時くらいゆっくり休んでいいからね。でもそうなるとアーミヤさんのあのいかにも会話してたような雰囲気は一体……? 

 

 

 

「ブラックアウトさん。ドクターは……」

 

 

 沈黙が流れると、アーミヤさんが控えめにこちらへ声をかけてくる。気がつくとじっとドクターのことを見つめてしまってたみたいだ。フードの奥の顔色、具体的には目を瞑ってるかどうかとか気になるから視線を外せなかった。その影響で瞳が乾いて、少しの間目を閉じながら答える。

 

 

「良いよ、何も言わなくて」

 

 

 寝てるんですよね。休んで欲しいから気にしないで。

 

 

「俺は理解してるつもりだから」

 

 

 同じブラックな味を仕事で味わってるんだよね。よ〜〜く分かります。

 

 

「幾らでも好きに使って。その為に俺も呼ばれたんでしょ?」

 

 

 だからほんの少しでもドクターの負担を減らせるなら、指揮権だって追加されたことだしどんどん頼ってね! 

 

 俺はいつでもドクターの味方だから…………!

 まぁ肝心の本人今寝てますけど!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 張り詰めた空気の中を裂く言葉を、今も覚えている。

 その裏に込められたメッセージを、今も考えている。

 

 

「良いよ、何も言わなくて」

 

 

 ──今更過去は蒸し返さない、けど誤魔化しもいらない。

 

 

「俺は理解してるつもりだから」

 

 

 ──ドクターの為に犠牲になったオペレーター達は決して悔いはないだろう。

 

 

「幾らでも好きに使って。その為に俺も呼ばれたんでしょ?」

 

 

 ──良かったね。またもう一人、君の捨て駒が出来上がったよ。

 

 

 

 ──────。

 

 

 

「……ドクター」

 

 

 

 彼が去ったあとも沈黙を続ける私へ、アーミヤは気遣うように声をかけてくれる。だが私は手を組んで俯くばかりだった。結局私は、ブラックアウトの重圧を克服することは出来ず彼が去って扉を閉める瞬間まで顔を上げることはおろか、口を開くことが出来なかった。

 

 何故これほどまでの息苦しい空間を味わったのか。彼が私に対して視線を外さず向けていた感情は、恐らく敵意と呼ばれるもの。アーミヤの話ではブラックアウトはブレイズと同期である、つまり、私が救出された作戦において消息を絶ったAceやScoutといったエリートオペレーター達と交流があったことは想像に難く無い。

 

 ずっと見て見ぬふりを続けていた、ロドスの暖かな歓迎に甘えていたツケがここで回ってきたような感覚がした。項垂れる私の手が、ふいに暖かな感触に包まれる。

 

 

 

「ドクター。今のブラックアウトさんの言葉をどう捉えられたかは分かりませんが、これだけは言えます。彼は決してドクターを責めるようなことは考えていません」

 

 

 

 果たしてそうだろうか。少なくとも私は、あの言葉に含まれてるものは単なる指揮者に対するものではなく、私自身に送られているものだという確信がある。あの状況で、あの雰囲気で。非難する以外に何かあるとは考えにくい。

 

 

「こう言ってしまうと少し申し訳ないんですけど……ブラックアウトさんは誰も言わないことを、目を逸らして敢えて触れない部分を、躊躇いなく口出しします。これは私の推測になりますが、恐らく彼はドクターが今どんな経緯で今の立場にいるか。それを再確認して欲しかったのではないでしょうか」

 

 

 アーミヤが語る彼の性格は要するに容赦がないだけで配慮がない訳では無いということだろう。ならば何故あんな発言をされていたのか。思考にふけて考えてみる。

 

 改めて救出作戦のことを省みて思い出した。私は、作戦に対して反対したというケルシーの話くらいしか救出作戦に対する非難を受けたことがなかったのではないか。作戦に参加してくれたオペレーターにだって親しい友人や、家族であったものもいるだろう。それでもその恨み悲しみは私の前に形として現れることはなかった。名前だけでも覚えていてくれたらそれでいいと言われ、私はそれに甘え続けていたのかもしれない。

 

 

 深いことや多くのことは耳にしない。これは自分の意見や印象を第三者からの情報で曲げられないために。今日彼はここで、どんな言葉を言い放つかを決めていたのだ。一言一句を変えず意図を伝えるためには例えアーミヤのフォローも介さないというように。

 

 

 次に曖昧のフリをした理解。これは今の私の状況、つまり誰にも公には責められていないことを知ったからこそのもの。きっと私の知らないどこかで、オペレーター同士のコミュニティで悲しみや辛さが混ざった話を耳にしてきたに違いない。

 

 

 最後に投げやりな承諾。遠回しな非難だったが、これは受けて当然だったかもしれない。何せ私は犠牲となったオペレーターたちのことを深く知ろうとしてなかった。歴が長いならその中にブラックアウトの友人も数多くいたはずだ。駒という言い回しは、素性も知ろうとしない私にはオペレーターは駒でしか映ってないのかという指摘だろうか。

 

 

 すう、と頭の中がクリアになっていく。どれもこれも辻褄があった。ブラックアウトは正確には私を責めた訳では無い。悲しみを生み出した事実がありその原因である私がどのように事実に対面しているのか。そして今いるオペレーターたちだけでなく私の影響で居なくなってしまったオペレーターたちのことを忘れてはいないだろうな、といった警告だったのだ。

 

 

 今はまだ味方であるとは決して認められてないだろう。私が知っておくべきことを改めて知らされて、それを理解してからようやく彼と心を通じ合わせられる。そんな気がしてならない。

 

 

 始めよう。少しずつでいい。私に与えられた命を、今ここに立つために作られた時間を使って、真にこのロドスのオペレーターたちを理解する。アーミヤ達と共に感染者の未来を築き上げていくために。

 

 

「…………ドクター。良かったです」

 

 

 顔を上げれば安堵したような笑みを零すアーミヤの姿があった。心配をかけてしまったみたいだがもう大丈夫。ブラックアウトに気付かされたのだ。大変な道のりではあるが、彼のためにも必ずやり遂げてみせる。

 

 

「では業務に戻りましょう。時間がおしてるので、休んじゃダメですよ?」

 

 

 ………………。や、やりとげ…………られるといいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、ブラックの匂いが……!」

 

 

「どうしたのブラックアウト。突然自分にしか分からない電波を受信したと錯覚してる変質者みたいな反応をして」

 

 

「流れるような罵倒、慣れてる俺じゃないと泣いちゃうね!」

 

 

「…………」

 

 

「……無言で、そんな、冷たい目で見上げないで……お願い……ぐすっ……」

 

 

 

 

 

 ドクターの指揮下に入ることを言い渡された後、俺は再びロドスの休憩室にいた。正確にはさっきとは別の施設だけれど。そこに先客としていたのは銀色のロングヘアーにやや大きめのコートを身につけたフェリーンの少女、ロスモンティスだった。アーミヤと同じくらい小さな女の子で、今現在俺の涙腺を刺激した張本人である。

 

 成人済の男が一回りも小さな女の子に泣かされてるなんてものすごく情けないって感じる人は沢山いるかもしれない。でも言い訳をさせて欲しい。彼女こそは俺の後にロドスに入ったにも関わらず、あっという間にエリートオペレーターの位置に登り詰めた少女なのだ。それだけ立派な彼女なのだから容姿や年齢がどうこうという部分は関係がない、つまり俺は情けなくない。

 

 

「年下の女の子にすぐに泣かされちゃうんだ。ざーこ。ざーこ」

 

 

 膝から崩れ落ちました。ダメです涙が止まらないです。誰だロスモンティスにこんな適切な煽りを教えたオペレーターは! 

 

 

「ひぐっ……ぅ、うぇっ……」

 

 

「……冗談だよ。泣かないでブラックアウト。よしよし」

 

 

「うぅ……ロスモンティス……」

 

 

「あなたは変質者なんかじゃないよ。私の家族なんだから…………」

 

 

「………………。え、そこだけ!!? 他のところは冗談じゃないんですか!?」

 

 

「え、うん」

 

 

 生返事があまりにも心を抉ってくるんですけど。ロスモンティスっていつからこんなに相手のメンタルを左右する術を持つ子に育っちゃったの。特に俺へのあたりが酷い気がするんですが。うぅ、昔はあんなに懐いてくれてたのに。

 今でも思い起こせるよ。一オペレーターに過ぎない俺にアーツの特訓に付き合って欲しいって沢山頼んでくれたこと。吹き飛ばされる俺が、潰されかけた俺が、塊のサンドイッチを喰らってる俺が昨日の事のように……。あ、これ違う。慕われてるというより殺しにかかってきてる。もしかして昔から嫌われてました???? 

 

 

「そんなことより、ブレイズから聞いたよ。ブラックアウトがエリートオペレーターになったって。おめでとう」

 

 

「俺の尊厳がそんなこと扱いで処理されてるのが構わないくらい嬉しいよ! ありがとうロスモンティス!」

 

 

 今までの思考がどうでも良くなるくらいお祝いの言葉でハッピーになりました。知り合いからの純粋なおめでとうってこんなに心が弾むものなんだ。嬉しい、ものすごく嬉しい。喜びのあまり身体が少し跳ねてしまった。

 

 

「わっ。危ないよ、ブラックアウト。そんなに嬉しかったの」

 

 

「あ、ごめんごめん。だって誰かからお祝いされるって全然経験なくて」

 

 

「そうなんだ。……誰かに褒められて嬉しくなる気持ちは私もよくわかるよ。私で良かったら、何回でも祝ってあげるよ」

 

 

「え、本当に? じゃあ俺、実は他にも……」

 

 

『交代時間をお知らせします。配属先が決められている各オペレーターの皆さんはご移動をお願いします。職務に充てられていたオペレーターの皆さんは充分な休憩を──』

 

 

 折角だったらと頼もうと思った矢先に、各休憩室に設置されてるスピーカーから音声が流れてくる。どうやら俺の担当勤務時間がやってきたみたいだ。

 

 

「ごめん、時間みたいだね。ロスモンティスは今日は?」

 

 

「特に何も無いよ。……暇になっちゃう」

 

 

「あー、そっか。でも休めるなら良いじゃない。ロスモンティスはエリートオペレーターとはいっても、まだ小さな女の子なんだからね。沢山遊んだり、他の人とお話しておいで」

 

 

 俺は膝の上に座っていた彼女を、そっとソファーの隣へと下ろすと立ち上がる。会話を終わらせるのはもの寂しいが、エリートオペレーターになったとはいえロドスの内部施設での仕事でやることはある。最後に彼女の頭をぽんぽんと叩いて、柔らかな髪と耳の感触を感じ、他の人に相手をしてもらうことを促す。

 

 自分ほどではないが、ロスモンティスも他のオペレーターとの交流が少ない気がするし。力になれるとしたらやっぱりブレイズ辺りだろうか。彼女が今回の勤務に割りあてられてなかったら多分、ロスモンティスに付き合ってくれるだろう。

 

 ロドスで働く、力になることを決めたロスモンティス。けれどそんな彼女にも、やっぱり歳相応のことを楽しんで貰いたい。きっとそれは彼女を知る人物共通の願いだろう。……何だか気恥ずかしくなってきたので、誤魔化すみたいに最後にロスモンティスへ微笑んで手を振ってからその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いつまでも子供じゃないよ。私」

 

 

 未だ残る頭の感触を手で抑え、ぽつりと零す。フェリーンの少女は最後までその背を見つめた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。