Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
このゲームが始まって1ヶ月が経過しようとしていた。第1層は未だに突破されず、一部にはクリア不可能なんて噂が飛び交う始末だ。
そんな中でもやる気満々、やったれ精神なのがPMC連中。元々ハードコアを売りにして、FPS慣れした玄人を唸らせるのがEFTだ。やはり、プレイヤー層が違いすぎる。
おかげさまで、このトールバーナの円形広場にはやる気に満ち溢れたPMC共が笑い話や下品なジョークを飛ばしていて、気圧されているSAOプレイヤーたちにドン引きされている。
「やれやれ、アホばっかだな」
「それが売りだろ? 1にも2にもクソ度胸。その中でも頭飛び抜けてるから、お前さんは"デアデビル"なのさ」
俺の隣には、久しぶりに相棒が戻ってきた。森の案内人をしていたリョーハをあるプレイヤーが訪れ、ボス攻略組にスカウトしたのだという。
勿論、俺もきてくれとリョーハに呼ばれ、コハルも付いてきた。置いていかないと約束してしまったからな。
他のPMCたちもリョーハが呼び寄せた。Woods案内をした人たちに片っ端から声をかけ、命知らずどもを集めるとは流石なもんだ。
「PMCの人たち、すごいやる気だね」
「ギリギリの緊張感とか、勝った時の興奮とかの味を占めてるからな」
コアな連中が多いし、ぶっちゃけて言えば俺もそっちの人間だ。強敵を倒しに行くと聞いて、静かに心を躍らせている。
いつも一歩踏み込んで、ギリギリまで死に近づいて勝利を奪い取る。だから、"
「それに、私たちは近付かなければ食らわないでしょう?」
シノンはSVDSのチャージングハンドルをカチャカチャ引いて遊んでいる。サプレッサーがついているが、パーツ拾ったのか?
「よう、あんたが"デアデビル"か?」
声を掛けてきた男はUSECキャップを被った青年で、所属勢力はキャップの通りUSECらしい。どこか自信に満ち溢れたその笑顔が、何とも眩しい。
しっかし見覚えがある。それで思い出した。あの時の男だ。
「そういうあんたは、チュートリアルの時にリョーハと呑んだくれてたUSEC野郎か」
「覚えてたか。あいつが"死神"リョーハとはな。ブラックバーンだ」
彼の差し出す手を握る。その後ろには4人のPMCがいて、1人は彼とそっくりな顔をしている。そういえば、リョーハが「あいつは兄弟でやってる」とか言ってたっけ。
「レイジだ。後ろのは弟か?」
「レッカーです。ベータの時はどうも」
「どっかでぶっ殺した?」
「いや、最終日の怨念マリモ事件」
……嫌な事を思い出した。リョーハも顔が引き攣っているし、シノンも無表情に見せて手が震えている。ベータ最終日の怨念マリモ事件は、PMCの間で語り草になっている。
「ねえレイジ、怨念マリモって何?」
「俺たちのトラウマ」
「それは心外ですな、某はベータ最終日を満喫していただけでありますぞ」
誰だこの変な口調。そして、この金属で反響するようなくぐもった声はなんだ。嫌な予感しかしねーぞ。
「……レイジ、紹介する。うちのパーティメンバーだ」
ブラックバーンが目を伏せ、横にズレる。その後ろには金属バケツか溶接工のフェイスシールドか、緑の特徴的なヘルメットのPMCがいた。
鉄板にスリットをつけただけのようなフェイスシールドのそれを、俺もリョーハもよく覚えていた。
「「あの時の怨念マリモじゃねーか!!!」」
「怨念マリモではありません。某はタチャンカと申しますぞ」
悲鳴をあげる俺たちについて行けず、コハルの傾げる首の角度がさらに急になっていく。
しかし周りのPMCたちは気付いた。彼らをベータ最終日に恐怖のどん底に陥れ、「すわ、Tagillaに続く新ボス登場か?」「パッチ0.12.10のキラ店長Factory出張再び!?」とまで噂になったこの男のことに。
「てめーか最終日の怨念マリモ!」
「キラ様かタチャンカか紛らわしい格好しやがって!」
「オラ! ツラ見せろツラ!」
タチャンカはたちまち周りのPMCに取り囲まれ、マスカヘルメットを奪い取られそうになっている。それだけ恨みは深いらしい。
「……最終日にさ、薄暗い廃工場で奇声を上げながらマシンガンを乱射するマリモが現れたんだ」
「それがあの人?」
「そう。知らずに行った俺とリョーハが悲鳴をあげて逃走して、別パーティだったブラックバーンとレッカー巻き込んで逃げ回ったよ」
思い出したくもない。金属製ヘルメットで顔をすっぽり覆ったせいで、変に声が反響していたのだ。奇声も相まって不気味極まりないし、マシンガンを絶え間なく乱射してくるなんて怖すぎる。
しかも、最強のアーマーを着ているせいで攻撃が通らず、不死身かと思ったほどだ。
ログアウトしてからSNSを見たら、こいつのスクショで溢れていたっけなぁ……
「よくあんな奴見つけたな」
「Woodsで無口なPMCに出会ってな。『マスカヘルメットをお持ちではないでしょうか?』って声かけて回ってた。高値で買い取ってくれたのはいいが、被った瞬間アレだ」
ブラックバーンよ、お前がマリモヘルメットを与えたのか。何ということをしてくれた。
「やめてくだされ! このマスカが無いと、某はまともに喋れないのです!」
「うるせえ! 口開くな!」
「お前の奇声が今も夢に出てくるんだ! 責任とってマリモヘルメット脱ぎやがれ!」
「バイザーをもぎ取れ!」
奴はまだシバかれていた。圏内だからダメージは入らないし、まあいいか。SAOプレイヤーの目線が痛いけど。
「アレ、止めなくていいの?」
「いいんだ。自業自得だから」
しかし、コハルは気になって仕方ないらしい。あの怨念マリモに追いかけられていないからこそだ。
ここのPMCは被害者の会だと言っても過言ではないくらいなのだから。あの恐怖がわかってたまるか。
「君たち、そろそろ始めてもいいかな?」
青髪を纏めた騎士風の男は苦笑いを浮かべながら声を掛けてきた。劇場中央にいるあたり、彼が攻略の発起人なのだろう。
「おっと、俺をスカウトした人だ」
「あの騎士さんがリーダーか。おいアホども! 隊長殿のお話だ、行儀良くしな! Shorelineの沼地に沈めるぞ!」
「おーこわこわ、レイジなら本気でやりそうだ」
「後で覚えとけよ、マリモ野郎」
PMCたちは落ち着き(?)を取り戻し、各々席に座る。タチャンカは「感謝いたします、レイジ殿」とか言っているがお前のためじゃない。機会を見て後ろ弾してやろうか。
「みんな静かになったけど……いつリーダーになったの?」
「なってない。ベータでやり合ったくらいのもんだ」
「あのマリモさんより、レイジ被害者の会の方が多いんじゃないの?」
「……奴の方が多いと思う」
その議論は青髪騎士の演説によって中断されることとなる。うん、それでよかったんだ。俺が恐れられるのは、敵対だけじゃなくてパーティを組んだ奴の宣伝もあるし。
コハルとはじっくり話をせねばなるまい。
「みんな、集まってくれてありがとう! オレはディアベル! 気持ち的に、
場から笑いが巻き起こる。「ジョブシステムなんてないだろ!」「勇者志望か?」と言う人もいれば、「ナイト様、側仕えにこの傭兵を雇ってくだされ!」と冗談で返す奴もいて、一気に場が和む。
ユーモアで緊張をとき解せるのも、またリーダーの素質なのだろう。それに、プレイヤーたちの反応もいい。掴みは最高だな。
「俺たちにはできない芸当だな」
「そらそうさ。俺もレイジも、口より陣頭に立って鼓舞するタイプだろうが」
そんな無駄口を叩いている間に、ディアベルの演説は続く。爽やかイケメンナイトの語る、ボス討伐の意義に誰もが聞き入っていた。
ここで勝利すれば、多くのプレイヤーにクリアの希望を与えることができると。
確かにその通りだが、逆に敗北は絶望を与える。
開始から2週間、既に3千名近くのプレイヤーが犠牲となっている現状を打破するためにも、目に見える成果が必要なのだ。
場は熱気に包まれ、集まったプレイヤーたちは勝利のためにとその意思を決める。
「ちょぉっと待ってんか!」
嗚呼、この雰囲気に水を差す空気の読めない輩がいたか。
トゲトゲ頭に茶色っぽい色合いの男が中央に躍り出る。ロクなことを言わないのだろうと雰囲気で感じ取れた。本当にロクでもないことを言うなら、ボスとまとめて撃ってやろう。
「わいはキバオウってもんや。ボスと戦う前に言わしてもらいたいことがある。こん中に、今まで死んでいったプレイヤーにワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや」
「何だあのイガグリ親父」
「ドリアンかもよ? 臭え野郎だしな」
リョーハめ、毒舌の熟練度はどれだけ上がった? 面と向かって言って欲しいくらいだ。きっと、あのイガグリ頭りもよくぶっ刺さるだろう。
「ベトコンのブービートラップみたいな頭しやがって」とか言ったのは誰だ。マニアックすぎてわからねえぞ。せめてモヤッとボールにしとけ。本当にモヤっとするし。
「キバオウさん、君の言う奴らとはつまり、元ベータテスターの人たちかな?」
「あとEFTの連中や!」
いや、俺らこそ最大の被害者なんだが。別ゲー買ったら拉致されてここにいるんだぞ?
「ベータ上がりの連中はビギナー見捨てて消えよって、ウマイ狩場にクエストをを独占して、その後もずーっと知らんぷりや。EFT連中はええのう、遠距離から安全にバカスカ撃ってレベ上げしてるんやから! 心当たりがある奴おるやろ!」
「いや、アホか」
「やっぱ臭えと思ったよ」
PMCの方を見てみれば、額に青筋を立てていそうなのが何人かいる。おい、安全装置外したの誰だ。タチャンカか。
「そいつらに土下座さして、溜め込んだ金やアイテムを差し出してもらわな、共同戦線なんて夢のまた夢や!」
よろしい。ならば戦争だ。
「ひどい……レイジやリョーハも、キリトだっていい人なのに」
「いるよな、ああいう主語がでかい奴。この状況で対立煽りとかよーやるわ」
リョーハは怒りを通り越して呆れ返っている。ブラックバーンとレッカーは必死にタチャンカを押さえつけていた。乱射事件でも起こしかねない勢いだ。
「私、抗議してくる!」
「よせ。槍玉に挙げられるだけだぞ」
「でも!」
「そんな震えながら行くのか?」
コハルはキバオウの威圧に震えていた。それに、荒事に向く性格でもなかろう。そんな女の子を生贄に捧げるほど、俺らは弱くない。
ならば、アイテムを差し出してやろうじゃないか。お望み通りにな。
「俺に任せろ。荒事といえば傭兵だろ?」
「……読めたぞ。怨念マリモ事件再びか」
「その、穏便にね?」
「あいつが穏便に済ませるつもりならばな」
隅っこの方ではキリトが俯いている。あいつも攻略会議に出てきてこの状況だ。助け舟を出さねばなるまい。
それにSAOとEFTで分裂したらそれこそおしまいだ。攻略どころではなくなる。
「へーへー、申し訳ありませんでしたねぇ!」
「ウチのアホどもが四方八方で暴れ倒したようで!」
申し訳なさそうにすると思ったか? 俺とリョーハは満面の笑みで立ち上がり、堂々と腕を組んでキバオウへ向き合った。
・Killa
"Interchange"にスポーンするボス。クラス5のアーマーやマスカヘルメットで防備を固め、RPK-16軽機関銃を持つ歩くトーチカ。
真正面から交戦した場合、恐ろしい精度で弾幕を張ってくる上に、スキルで強化された脚力で追跡してくる。元々はラケットを使う競技のアスリートだったそうな。
出現場所はマップ中央の"ULTRA"ショッピングモール内。店内を巡回していることや、ガンショップの鍵を開けた警報を聞いて駆けつけてくる姿から"キラ店長"と呼ばれることも。(万引き犯絶対殺す店長)
・Tagilla
“Factory”にスポーンするボス。半裸にプレートキャリア、よくわからない鉄仮面を装備しており、ハンマーを振り回しながら物凄い脚力でPMCを追いかけて撲殺するヤベー奴。ちなみに銃も使う。
どうやらキラ店長と血縁関係にあるとか……?