Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

19 / 83
2層-2 Azure Coast

 真っ暗な視界に光が戻り、青々とした草原が目に入る。ここはここで懐かしい。タスク以外で訪れることは少なかったが、眺めの良いマップだ。

 

「全員湧いたな」

 

 振り向くと金属製の門があり、そこから先の方へ道路が伸びている。これだけで場所は把握できた。

 

「"Rord to Custom"か。元のタルコフだったらハズレ湧き扱いしてたよな」

 

 リョーハが言うことは確かだ。Shorelineはマップ東側脱出地点の"Rord to Custom”側スポーンと、西側脱出地点"Tunnel"側スポーンに分けられる。

 そして、無数のスポーン地点の中でもリゾートに近いかどうかがPMCの戦術を左右する。近ければ先に入って敵を待ち構えるし、遠ければリゾートを諦めるか、戦闘に割り込んで暴れたり、終わった所に漁夫の利を求めるか。

 

 今はスポーン地点気にしなくていいのが楽だと言えよう。PMC同士で殺し合うわけでもなし。ゆっくり探索して、タスクさえ終わればいい。

 

「森林浴に良さそうだね。こういうところでお散歩してみたいかも」

 

「SCAVが湧かない場所もあるし、余裕があったらそうしようか」

 

「本当? やった!」

 

 はしゃぐコハルを見て、思わず笑みが漏れる。Shorelineといえば、いかに敵PMCを倒してレアアイテムを手に入れるかばかりに意識が向くから、こんな事を考えた事はない。森林だって、視界が利かないから奇襲が怖いと思うくらいだ。

 彼女といるとやはり面白い。移動中も話したり、隣を歩いて散歩気分を楽しみたいが、敵に警戒しなければならないからそうもいかない。

 

 まったくもどかしいものだ。道路沿いに歩き、コンクリートの壁で要塞化されたビーチの一角を通り過ぎてさらに進む。

 景色は変わらないし、覚えている限りのクレートの位置も同じ、歩き慣れたShoreline。それでも、コハルはその一つ一つに目を輝かせている。

 

「レイジ、あの塔は?」

 

 コハルが指さすのは、堤防に聳える灯台。ほとんど骨組みのようなものだから、灯台と言われなければわからないかもしれない。

 

「灯台だ。上からは眺めがいいし、行ってみるか?」

 

「うん、行こう!」

 

 はしゃぐコハルをよそに、俺はシノンに目配せをしておく。彼女も意図に気づいたらしく、縦に頷いた。リョーハはそもそもわかっているからいいか。

 

 港湾事務所(ボートハウス)を警戒しながら進み、SCAVを何人か殺す。3人くらい倒したところで辺りは静かになり、灯台までの道が拓けた。

 

「クリア!」

 

「レイジ、俺とシノンで前出るぞ」

 

「あいよ」

 

 2人が灯台を制圧し、ようやく俺はコハルを連れて天辺へと登る。コハルはその眺めに目を輝かせていた。

 どこまでも続く青い大海原と、振り向けば森林が青々と茂り、海原のように広がる。現実では滅多にお目にかかれない景色に、コハルは目を輝かせていた。

 

 俺はそれを一歩下がって見守る。俺はシノンと共に海でも森でもなく、通ってきたボートハウスや森に目を向けている。

 

「いなかったな」

 

「楽でよかったじゃない。あいつらの弾、リョーハのアーマー簡単に抜いてくるわよ」

 

「おお怖い怖い。ここじゃなければコテージかリゾートか……今の装備で会いたくねえよな」

 

 リョーハはいつもの熱意を宿した笑みではなく、気怠げな愛想笑いを浮かべていた。

 

 アスナに連れまわされたWoods地獄ランのお土産で弾薬はいいものになったが、それでも"奴"を相手には弾数が足りなく思っているだろうし、俺もそう思う。

 アーマーももっといいのが欲しかったが、手に入らなかったから仕方ない。クラス4じゃ心許ないが、なるようになるさ。

 

「レイジ、何してるの?」

 

 海を見ていたはずのコハルが俺に寄ってきた。さっき拾った緑茶を差し出すと、喜んで受け取ってくれた。

 

「あそこのボートハウスにボスがいなかったから、どこにスポーンしてるか考えてた」

 

「もう、レイジは景色よりボスなんだね」

 

「死にたくねえからな。探知範囲外から狙撃できるならそれがいい」

 

 こんな逃げ場のない灯台に登る奴はそうそういない。いるとすれば、100mヘッドショットのタスクをやっているか、ここの灯台からボスを狙撃しようとしているかだ。

 

「海岸も綺麗なのに要塞になってたり……本当にタルコフって紛争地帯だなって思うと、嫌になっちゃう」

 

「紛争初期に軍が封鎖したり、Terra Grope職員の脱出地点になったり、曰く付きの場所だからな」

 

「Terra Gropeって?」

 

「あちこちのコンテナにロゴあるだろ? タルコフで政治的スキャンダルを起こして、タルコフを戦場に変えた元凶」

 

「悪い人たちだね」

 

「茅場もどっこいどっこいだろ」

 

 確かに、とコハルは笑う。ここにあんまり用事はないし、ボートハウスを漁って移動するとしようか。

 

 

 あれからボートハウスを漁ったり、移動してコテージを偵察したが普通のSCAVしかいなかった。

 鍵がないからコテージには入れないし、周りを漁っても旨みがないからスルーしたが、俺やリョーハ、シノンは事情を知るだけあって緊張している。

 

「野郎、ここにもいないとなれば、いよいよリゾートか?」

 

「落ち着けよレイジ。奴のスポーン確率は3割とちょい。いないこともあるだろ」

 

「その通りだが、俺はリゾートで奴にカチ合うのが一番嫌いなんだよ。コテージとかボートハウスにいるのを狙撃する方が好きだ」

 

「俺はリゾートの方が楽だがね」

 

「俺は本来、中距離戦が得意なんだよ」

 

 リョーハは余裕そうにしているが、俺としては気が重い。コハルはそんなただならぬ雰囲気に、不安そうな顔をしていた。

 

「何かあるの?」

 

「ここのボスがいるかどうかさ。いない方が楽なんだけどな」

 

「サニターなら、頭に当てれば一撃よ」

 

「そりゃシノンだからだろ? 俺とリョーハじゃ2発だ」

 

 シノンはSVDSにSNBと呼ばれる弾薬を入れてきている。貫通力が高く、最高クラスのアーマーも一撃で貫通して、75ダメージを与えることができる。

 

 ボスはPMCやSCAVに比べて体力が多く、その中でもSanitarは2番目くらいに体力が多い。頭部耐久値は70あり、胸部に至っては360。俺やリョーハの弾丸が頭に1発当たっても耐えてしまう。でも、シノンならば一撃でキル出来るわけだ。当たればな。

 

「レイジ、そのボスってどんなの?」

 

「青ジャケットを着て、頭に包帯巻いたハゲ。厄介なのはこいつが闇医者で、本体も取り巻き2人も興奮剤注射でバフかけながら戦うから長期戦になりがちだ。ちなみにTerra Gropeの元職員で、本名は"ラザニー・ベルグ"。離婚歴もあるらしいぜ」

 

 もちろん使われた興奮剤はストレージから消えてしまうので、高価なそれらが欲しければさっさと倒すに限る。

 そして何より厄介なのは、取り巻きはクラス5のアーマーを着ていることだ。

 2番目の防御力を誇るクラス5を貫通できる弾は少ない。持ってはいるけど、果たして足りるかわからない。

 

「……出来れば会いたくないね」

 

「序盤でやりあう相手じゃないのは確かだ」

 

 奴がいないといいな。そう祈りながら坂道を登ると、リゾートホテルが目の前に現れた。

 岩山の上に作られたホテル。今は閉業したそうだが、元になるホテルがロシアにあるらしい。それが今やすっかり廃墟となって、SCAVの溜まり場になっているのは物悲しく思える。

 

「Nostalgiaなら西棟の303号室だ。さっさと行って帰ろうぜ」

 

 リョーハは記憶力がいいから、タスクで行くべき場所を大体覚えている。

 

 このリゾートは主に3つの建物で構成されている。それぞれ3回建ての西棟と東棟があり、その少し奥に中央棟がある。

 西棟と東棟は2階の渡り廊下で連結され、中央棟はそれぞれと1階で連結されている構造だ。中も複雑で、割と迷いやすい。

 

「入って左手ね。正面からエントリーして、西棟の螺旋階段を上がるのが早いかしら」

 

「鍵があるならついでに漁りてえが……シノン、持ってるか?」

 

「あるわけないでしょう」

 

「だよなー」

 

 このリゾート内は多くの部屋に鍵がかかっており、その中にはレアアイテムがスポーンする。しかしその鍵集めも中々大変で、SCAVの死体やオブジェクトのジャケットを漁っても、お目当てのは中々出てこない。

 

「鍵ってこれ?」

 

 コハルが取り出したのは、赤の鍵、西棟の鍵だ。どうやら、ここに来るまで村とかを漁って見つけたらしい。

 

「West Wing203……いいね、レアアイテムが湧く部屋だ。低確率すぎるけど」

 

「俺とレイジで何回回ったっけ? 結局レッドカードキー来ないまま正式サービスだったな」

 

 まあ、きっと出ないけど夢だけは持っていていいだろう。出たら数千万単位の値段がつく代物だしな。

 

「リョーハ、俺と前衛。シノンとコハルは後衛を頼む。あと、コハルは中に入ったら俺のベルト掴んで離すなよ」

 

「レイジ、気をつけてね」

 

「慣れたマップで、相手にPMCはいない。ヘマなんてしないさ。行くぞ」

 

 シノンが門の影に隠れて周辺を警戒する。その間に俺とリョーハは西棟の入口を目指して駆け抜ける。

 西棟と東棟の間にはヘリコプターや花壇、壊れた車がある影響で、東棟からの見通しは悪い。上手いこと隠れられるだろう。

 

 その狙い通り、俺とリョーハは西棟へ飛び込んだ。とりあえず外に敵はいないらしい。

 

「先行く、背中頼んだ!」

 

「任せろ。シノン、入口クリアだ来ていいぞ! 俺たちは先に行く!」

 

 俺はリョーハの背中を守りつつ、中へ進む。そして螺旋階段へ向かっていくと、音もなくリョーハの足から血が噴き出した。

 1発だけではない。数発の無音の弾丸が脚を貫き、リョーハはその場へと崩れ落ちた。




・Shoreline
 ポートエリアに隣接する、タルコフ郊外の主要な部分。主要なポイントは大規模な水力発電所を備えた「Azure Coast」保養地。
 このリゾートはかつて、タルコフ港を通じた脱出に備え、Terra Gropeとその関係会社職員の宿泊施設として使用されていた。

 海岸は要塞化されており、コンクリート製の防護壁や土嚢、監視塔や重機関銃が設置されている。(今は無人となっている)

 マップとしてはタルコフ1の大きさを誇り、リゾート内部には鍵が必要とはなるが、超高額なレアアイテムのスポーンが多く存在するため、それを狙うPMC同士が激戦を繰り広げる事が多い。
 しかし激戦区以外にも武器ボックスや隠しスタッシュが点在するため、接敵を避けてアイテム集めに勤しむといったプレイスタイルも可能である。


・7.62×54R SNB
 シノンが使用している弾薬。与ダメージ量は75のため、PMCを胸撃ちワンパンすることは不可能(胸部耐久値が85あるため)だが、貫通力が高いため、実装されている全てのアーマーを初弾から貫通し、大ダメージを与える事ができる徹甲弾。

 割とフィールドでボロボロ落ちているが、この弾を使う銃はSVDS以外連射の効かないボルトアクションということもあり、頭以外ワンパン出来ないこの弾薬は安値で取引されている事が多い。
 逆に連射の効くSVDSで使われるととんでもない脅威となる。やめてください、死んでしまいます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。