Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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リゾート内あまり行かないので、これを書くために何度オフラインモードで突入したことか……西棟3階がバリケードで封鎖されて通れないとか、投稿ギリギリに気づきましたわ


2層-3 Sanitar

「リョーハ! クソ、1階廊下に敵性!」

 

 俺は1階廊下へ制圧射撃をしてリョーハを援護する。バリケードのせいでうまく狙えないが、1発くらい当たったらしい。敵はこれ以上の攻撃をせずに下がっていった。

 リョーハは倒れているが、まだ生きている。血痕を残しているのを見るに、重度出血のデバフをもらっているのだろう。

 

「クソッタレ、両足壊死! 重度出血のおまけ付きだブリャー!」

 

「リョーハ、早くこっちに来なさい!」

 

「援護してやる! 入口へ下がれ!」

 

「スーカ、気を付けろレイジ! ありゃ間違いなくサニターだ!」

 

「VSSなんて持ってんのサニターしかいねーだろ! 鎮痛キメてさっさと行きやがれ!」

 

 赤い曳光弾がバリケードのベニヤ板を削っていく。Woodsで拾い集めたBT弾だ。それが飛び出していた敵の腕に当たると、同じく赤い血飛沫が飛び散る。

 敵はさらに下がっていく。あれがサニター本体か取り巻きかは分からない。

 

「奴は下がった!」

 

「そっち行くぞ! クソったれがぁぁぁぁ!」

 

 リョーハはモルヒネ注射器を腕に刺すと、呻き声を上げながら走り、曲がり角へ飛び込んだ。お前、今シノンに抱き止められただろ、狙ったな?

 

 脚の壊死は片足につき45%の移動速度低下や、ケンケン歩きになって移動中の狙いがブレる他、ダッシュとジャンプが不可能になる。

 鎮痛剤はそれらのデバフを打ち消すが、ダッシュ3歩かジャンプをすると呻き声を上げ、微小なダメージを受けてしまう。安全な場所に隠れて、根本的な治療が必要だ。

 

「コハル、リョーハの治療を手伝ってやれ! シノン、こっち来て手伝ってくれ!」

 

「レイジもシノンも、ケガしないでね!」

 

 ボスのAIは中々狡猾だ。この瞬間にも奴らは詰めてきて、俺たちを殲滅するつもりかもしれない。コハルがリョーハをさっさと治してくれれば戦力が増えて、それだけ安全になる。

 特に、俺の後ろの階段から回り込まれる恐れがある。足音を聞き逃さないように気をつけてはいるが、やはり不安だ。

 

「レイジ、取り巻きが詰めてきてるわ!」

 

「タチャンカ連れてくるべきだった! リロード!」

 

 最悪なことに弾切れだ。空のマガジンを回収する暇がなく、止む無くその場に放り投げて新しいものを叩き込む。

 森で手に入れたとっておき、使うしかない。

 

「早くして、もうそこまで来てるわよ!」

 

「あと2秒!」

 

 シノンのSVDSは確かに強力だが、その4倍スコープは至近距離の敵を狙いにくいという弱点がある。おまけに単発で反動も強く、弾幕を張るのは無理だ。

 故に距離を詰められるとどうしようもなく、至近戦用に持ち替えたMP5Kは貫通力に劣り、取り巻きに対して有効とはいえない。

 だからこそ、俺のAKが光るわけだ。

 

「スイッチ! シュトゥルマンからのプレゼントだこの野郎!」

 

 シノンと交代して、突っ込んできた取り巻きへ採算度外視の弾幕を見舞う。

 取り巻きは胸部耐久値160。それをクラス5アーマーで守っているが故に堅牢さを誇るわけだが、この弾はそのアーマーを貫き、敵がダッシュ状態から射撃態勢に移行するより早く耐久を削り切った。

 

「1人やった!」

 

 崩れ落ちる取り巻きを見て、俺は空になったマガジンを交換する。

 

 シュトゥルマンが持っていた5.45mm弾の一つ、7N39”Igolnik”は与ダメージこそ37と最低クラスだが、代わりに貫通力は62の徹甲弾であり、最高クラスのクラス6アーマーさえ初弾から貫く。

 シノンのSNBの半分程度のダメージ量だが、毎分650発のレートで放たれるこっちの方が近距離では脅威的だろう。

 

「レイジ、足音が迫ってきてるよ! 多分上から!」

 

「シノン、ここは任せた。俺は螺旋階段を!」

 

 リョーハはまだ動けない。壊死はCMSやSurv12のような手術キットを使わねば治せない上に、1部位治すのに20秒近くかかってしまう。

 あと少し。それで、死神は戻ってくる。

 

「なんだか、スーカスーカ言ってるけど!?」

 

「それはロシア語でFuckって意味! それ言うのはSCAVだ!」

 

 タチャンカもよくスーカだのブリャーだの、ロシア語でのFワードを叫ぶから間違って撃ちそうになる。それでオレンジになりかけた奴がいるからたまったものではない。

 

 螺旋階段を少し登り、上を覗いた瞬間に弾が飛んできた。それも、音もなく。

 

「クソが、上だ! 上にサニターがいやがる!」

 

 銃声がほとんどしないのは、サニターが持っている特殊消音狙撃銃VSS"Vintorez”独特のものだ。

 俺は螺旋階段上に向けて何発か撃ち、サニターを追い払う。このまま撃ち下されるのはあまりにも危険だ。

 

「リョーハ、行けるか?」

 

「回復したからやれるぜ。取り巻きを始末しよう。シノン、俺もそっち加勢するぞ!」

 

「ええ」

 

 シノンはそれだけ言うと、SVDSに持ち替えて狙撃態勢を整える。こういう室内戦は俺とリョーハこそ輝く。俺たちで仕留めよう。

 

「レイジ、さっきどこから撃たれた?」

 

「螺旋階段の上からだ。2階だろうよ」

 

「なら、上がって殴るしかねえ。螺旋は俺に任せろ。お前は迂回して、横からぶん殴れ!」

 

「よし来た」

 

 やるなら外階段から屋上に上がり、上から挟むようにするのがベストか。

 

 さあ行こう、踏み出す俺の肩をコハルが掴んだ。少し震えているのに、その目は真っ直ぐ俺を見つめていた。

 

「私も連れて行って。レイジ1人で行かせたくないの」

 

 迷った。コハルを危険に晒したくないのもあるが、モンスターと違って、NPCではあるが人間を殺させたくない。彼女には、俺やリョーハのようにタガの外れた人間になって欲しくない。

 でも、置いていかないと約束してしまった。それに、この真っ直ぐな目を拒絶することが出来なかった。

 

「ピッタリ後ろについてこい。離れるなよ?」

 

「うん、分かった!」

 

 来いと言った瞬間、コハルがいい笑顔を見せた。俺なんかの背中を追ったところで、危険な目に遭うだけなのに。

 それなのにどうして、こんなにも嬉しく思っているのだろう。リョーハ以外に背中を預けるなんて、初めてかもしれない。

 

「行ってこい、俺が死ぬ前に頼むぜ!」

 

「任せろ」

 

 リョーハはこちらを見ず、上のサニターと撃ち合う。奴が押さえている間に、俺たちで仕留めよう。

 

 

 コハルと外階段を登って屋上に上がる。眺めのいい場所だが、外から狙撃を喰らうのであまり好きではない場所だ。それを気にしなくていいのがありがたい。

 

「景色がいいね。終わったら、少しここでお弁当にしよう」

 

「そりゃいいな。さっさと終わらせよう」

 

 コハルからご飯のお誘いだ、断る奴いるか? 楽しく食事を楽しむためにも、死傷者なしで切り抜けなければ。すまんなリョーハ、お前よりコハルとの飯だ。分かってくれるだろう?

 

 さて、屋上は外側の非常階段の他に、直接中へ続く階段もある。しかしそれは螺旋階段とは逆サイドの端にある、通称"端階段"の方だ。

 サニターを殴るためには、どこかで廊下を突破しなければならない。SCAVがいる危険もあるが、行くしかないか。

 

「コハル、2階廊下を突破して螺旋階段のサニターを挟む。迷ったら迎えにいく暇ないから、ベルト掴んで離すなよ」

 

 西棟3階はバリケードがあって進めない。螺旋階段に行くには2階を通るしかないのだ。

 

「その後は?」

 

「いつも通り。俺が撃つからコハルが仕留めてくれ。コハルなら一撃で仕留められるはずだ」

 

 ずっと一緒にやってきた。そこで確立したやり方に、疑問の余地はない。

 コハルも、役目を任されたことに少し驚いたような顔をするも、すぐに頷いた。随分、戦士らしい顔をするようになったものだ。

 

「わかった。頑張ろうね」

 

「奴は負傷するとすぐに逃げて回復する。そこを狙え。行くぞ」

 

 階段を降り、2階のバリケードを越えて先へ進む。ベルトを握るコハルの手に、震えは一切なかった。

 静寂の中で俺たちの足音だけがする。俺もコハルも、お喋りを楽しむ余裕などない。下では断続的に銃声が響いて、2人が戦っているのだ。早く助けにいかなければ。

 

『1人仕留めた! 取り巻きよ!』

 

『よくやった! すまんがケツを守ってくれ! SCAVが来そうだ!』

 

 シノンが取り巻きを仕留めたから、残るはサニター本体のみ。リョーハが階段で撃ち合っているが、決定打に持ち込めないでいるようだ。

 サニターは負傷するとすぐに隠れて回復する。それがまだ粘っているということは、当たっていない証拠なのだから。

 

「リョーハ、俺たちはもうすぐ螺旋階段! 横から挟む!」

 

『来る時言えよ、巻き込んじまうぞ!』

 

「コハル、スタンバイ!」

 

「うん!」

 

 コハルは俺のベルトから手を離し、レイピアを抜いた。俺はAKを構え、廊下を突き進む。

 そこにサニターはいた。リョーハに夢中なのか、横から来た俺に気づかない。迷うことなくトリガーを引き、サニターに弾幕の雨を降らせる。

 

 サニターはアーマーを着ていないから、それに合わせて使う弾は肉体ダメージの高いBT弾。曳光弾であるために、赤い光が無数に飛び交い、数発は床を跳ねてあらぬ方向へ飛んでいく。

 反動が強すぎて結構外した。頭に当たったかもしれないが、BT弾の与えるダメージは44。奴の頭はそれに1発耐えるのだ。どんな頭蓋骨をしていることやら。

 

「奴が逃げるぞ!」

 

「俺はリロードだ、コハル!」

 

「了解、スイッチ!」

 

 リョーハも駆け上がってきてサニターを追い、俺もリロードしつつ追跡に移る。コハルは階段で俺を追い越そうとして、少しもたついた。

 奴は回復に移るだろう。そう思っていたのに、どうして振り返った。シュトゥルマンの時のような、嫌な感覚が体を襲う。

 

「伏せろリョーハ!」

 

「うわ、おい!?」

 

 咄嗟にリョーハを蹴飛ばした。その反作用で俺もコハルを巻き込んでずっこける。

 倒れるまでの間に、両足を不快な痺れが襲う。被弾したのだ。重度出血のアイコンがひとつ、骨折がひとつ。かなり貰ったか。

 

「クソッタレが!」

 

 リョーハが倒れながら銃撃すると、サニターはまた逃げ出す。コハルは俺を助けるか、サニターを追うか迷っているようだ。

 

「コハル、奴を仕留めろ! 俺は軽傷だ!」

 

「……わかった、行ってくるよ!」

 

 正直軽傷とは言えず、本来なら物陰に隠れるべきだ。

 でも、そんな必要はもうなくなった。逃げるサニターにコハルが追いつき、BT弾なんかよりも明るい流星が奴を貫いたのだから。

 

「サニターダウン! コハルがやりやがったぜ!」

 

『私も上に行くわ。リョーハ、無事?』

 

「俺はいいが、レイジがまたヘマしやがった。まあ生きてはいるぜ」

 

「またって何だまたって」

 

 重度出血は止血帯を巻いて止め、骨折も添木を嵌めて治療する。リョーハと同じように、俺も両足が壊死してしまっていた。

 何とか立ち上がろうとして転んでしまう。PC版の頃と違って、脚をやられると立ち上がるのも大変らしい。

 

「レイジ」

 

 そんな俺に、コハルが手を差し出してきた。やったよ、そう言うかのような笑みに、俺も釣られて笑ってしまった。

 

「今日は大金星だな」

 

「レイジのおかげだよ。もう、また怪我して」

 

「でも、今回は死にかけてないだろ?」

 

 コハルの手を握り、立たせてもらう。この手も、随分力強くなったものだ。頼もしいことに。




・Sanitar
 本名、ラザニー・ベルグ。Shorelineにスポーンするボスであり、オレンジの救急バッグや青のジャケット、禿頭に巻いた包帯が特徴。取り巻き2人を従えている。体力が多い上に、被弾すると隠れて治療するので長期戦になりがち。
 タスクを進めるうちに彼がSCAVに手術を施したり医薬品を売りつける他、人体実験をしている模様。

 かつてTerra Gropeの職員であったらしく、ラボに彼のオフィスがある他、サニターの作った戦闘興奮剤も存在する。それらは効果は大きいものの、デバフもかなり大きい。
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