Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
2層ボス攻略は割と楽だった。Nostalgiaの報酬で「星の名を冠する王」の情報がもたらされ、ベータでは2体だったボスが3体に増えたことへの対策が取れたのが非常に大きかった。
しかも、ボス自体がでかいおかげで、突撃するSAOプレイヤーの頭越しに援護射撃出来たのは中々良かったな。
おまけに弱点である王冠の耐久値が低いから、そこに俺たちPMCが集中砲火を浴びせてダウン取り放題だった。タチャンカの弾幕は味方ながら怖かったけど。
「コハル、今回は大活躍だったな。今晩はボスの肉ですき焼きにしようぜ」
ついてくるPMCたちが大爆笑している。肉が硬そうとか、そもそも肉が取れなかったとヤジを飛ばしてくる。
「ダメだよ、お醤油がないから割り下作れないもん」
「クソが。茅場はアインクラッドを作っておきながら、醤油を作らなかったか」
これは重罪だぞ。今すぐアップデートしやがれ。バグフィックスするんだ。
「お醤油……作れたらいいね」
「攻略の理由が増えちまった」
あの甘塩っぱいタレが欲しい。体が塩分を渇望しているようだ。1層攻略後に糖分を取りすぎたせいで、辛いものとかしょっぱいものが恋しくなっている気がする。
「そういやキリト、あの件は前向きに考えてくれてるか?」
前を歩く少年は振り向き、迷ったような表情を見せる。今回もキリトはアスナと大暴れして、その強さを遺憾無く発揮した。
ボスの動きを見切って、適切に攻撃タイミングを教えてくれたのも良かったな。お陰でコハルがボス相手に真っ向から戦えていたのだ。
「悪い、ギルドとか全然考えてなくてな」
「別に、金払えとかノルマがとか言わん。元よりガチ勢のチーム兼後進育成だからな」
ディアベルは1層で初心者の戦闘訓練をやってくれているし、リョーハとシノンのスナイパーチームは普段Woodsで案内人をやっている。
リョーハはそろそろ後継決めて、先の層で暴れたいとぼやいていたっけ。
「ビーターの俺が入って、印象悪くならないのか?」
「そういう垣根を越えて、攻略という目的のために組んでるから
あの2チームはバチバチにやり合っている。そのうち抗争でも始めそうな勢いだ。
早く
「というかその知識欲しいんだよ。キリトだって、タルコフの知識入るから万々歳だろ?」
「まあな……魔法陣の件はアスナが一番喜んでいたけど」
あの件は思い出したくもない。コハルが魔法陣から引いたレイピアはしばらく戦えるほどの性能だったらしく、アスナがキリトや俺を連れてWoods周回の旅を始めたのだから。
それで強化済みウィンド・フルーレを手に入れたわけだが、100回ほど巡ったのではなかろうか? 他のレアアイテムが出たり、シュトゥルマンにリベンジマッチしたりもしたし、しばらく行きたくない。
「また魔法陣があるなら教えてね?」
「教えるけど、WoodsとShoreline以外は鍵掛かってるんだ。その辺のジャケットとかSCAVの死体から引いてくれ」
元々魔法陣部屋は超激戦区で、レアアイテムを目の前に殺されたことは数知れず。喜んでる最中にグレネード投げ込まれたのは悲劇だったな。道連れにしたけど。
そんな雑談をしながら階段を登ると、そこは森の中だった。またWoodsか? もうやめてくれ。
「さて、SAOはここからが本番みたいなものだ。本格的に人型モンスターが出てきて、喋ったりもするようになる」
「SCAVを除いてな」
「アレはまた別だと思うぞ」
SAOプレイヤーにとってSCAVは頭痛の種だ。攻撃力は低いから、HPに物言わせてゴリ押すことも可能ではあるものの、ショットガンをまともに食らえば出血や骨折、部位破壊のデバフを喰らうし、アーマーの耐久値が削られる。
おまけにSCAVの探知距離が50メートルくらいあるせいか、探知スキルより先に見つかったりすることもある。PMCの募集が絶えないのはそのせいだ。
「この層にはさらに先の層まで続くキャンペーンクエストがあるんだ。俺はそれを攻略しようと思う」
「ほう、いいじゃないか。俺も行ってみようかな」
「それなら、私も行くよ!」
とはいえやるべきことが盛り沢山だ。またしてもタルコフのマップが隠されていないとも限らない。
「俺はシノンとあちこち探検するわ。なんかあったら呼んでくれ」
「Factoryだったら行かないからね」
「今のところタスクもないしな。その辺でハイドアウト拡張の素材を集めようぜ」
「賛成。見つけた者勝ちだからね」
「総取りされそうだ」
そういえばそれもあった。いい加減寝床を改良したいから、アイテム集めを頑張らなければなるまい。どうしたものか。
「コハル、街に行ったら何か食べるか?」
「じゃあ、おやつにしようよ。もうすぐ3時だし」
「3時じゃなくても食ってるだろ」
「そうだったね」
笑うコハルを見ていると、俺もつられて笑ってしまう。周りを笑顔にする、不思議な才能を持っているらしい。
お陰で、今やアトラスのアイドル的存在だ。そのコハルと組んでる俺に刺さる目線が痛いが。
敵も出てこないし、銃を背に吊るして歩く。両手は楽になるが、今度は手持ち無沙汰だ。
そう思っていたら、コハルがチョンチョンと手の甲を突いてきた。その合図を受け取ったら、そっと手を握るようになっていて、今日も自然な流れで手を握る。
この温もりが、生きていると教えてくれる。俺が死にかけて以降、コハルは事あるごとに俺が生きているのかを確かめようとする。
まだ不安なのだろうか。1人になってしまうことが。
「レイジとコハルって本当に仲良いね。付き合ってるの?」
「あ、あ、あ、アスナ!?」
アスナが軽い気持ちで投げた言葉のグレネードを喰らい、コハルは顔を真っ赤にして動揺する。俺もたまたま飲んでいた水を派手に吹き出してしまい、汚い虹を描くハメになった。
「だって、凄く仲いいじゃない。ほら、手も繋いでるし」
しまった。いつもの流れでやってしまったけど、普段は2人で狩りに行った帰りとかで人目を気にしなかったんだ。今は思い切り人目があるじゃないか。
今更遅いが、コハルは投げ捨てるように俺の手を離した。アスナめ、余計なことを。
「アスナだって、キリトとずっと一緒じゃん!」
「暫定パーティだからね。色々知ってるから便利なの。電子辞書とかスマホみたいなものよ」
「確かに、一家に一台欲しいくらいね。リョーハとは大違い」
シノンの一言が突き刺さったらしく、リョーハは倒れた。止まるんじゃねえぞ、そう言い残して。友よ、お前だけを置き去りにはしない。俺もやる。
「それで、2人は何してるの?」
見えてはいないが、シノンのジト目が俺たちに刺さっていることだろう。仰向けに倒れ、草木に紛れようとしているのだ。不審極まりないと我ながら思う。
「俺たちキリトと違って役立たずですので」
「光合成でもして、アインクラッドの環境美化に貢献しようかと」
「いや草」
キリトよ、お前ボケるタイプだったっけ?
「それにしては少し背の高い草ね。むしった方がいいかしら?」
シノンは草むしりとか言ってリョーハの首根っこを掴み、引っ張っていく。よかったな相棒。随分気に入られているじゃないか。
俺はどうなるのだろう。そう思っていたら、首に何か装備が追加された。そこからは紐が伸びていて、コハルの手に繋がっている。
「行くよ、レイジ」
「おい待て、リードの件は冗談じゃなかったのかよ!?」
どんな羞恥プレイだ。そんな抗議の声が聞き入れられることはなく、街の手前までリードをつけて散歩するハメになってしまった。人がいなくてよかった。