Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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3層-2 ガンスミス

 3層に到着した翌日、俺は珍しく1人で出掛けていた。

 

 コハルはアスナと服屋巡りに行き、キリトはレベリング。そう言うわけで、俺もショッピングを楽しむことにした。買うのはウェポンパーツだけど。

 いい加減銃をカスタムしたい。射撃時の反動がキツすぎて、弱点部位を集中攻撃し辛い。

 

 ただでさえ火力で劣るのだ。この辺りをなんとかしなければ、この先役になど立てないだろう。

 

「あ、傭兵のお兄さん! 少し見て行ってよ!」

 

 考え事をしていたら少女に呼び止められた。茶髪の癖っ毛で、その快活な笑みに思わず釣られてしまった。

 道端で露店を開いているらしく『鍛冶屋リズベット オーダーメイド承ります』と看板を出している。

 

 品揃えは剣とか防具がメインだが、僅かにウェポンパーツも取り扱っているではないか。見ていこう。

 

「銃の部品はこれだけ?」

 

「もう少しストックがあるけど……どんなものを探しているの?」

 

「これに合うやつで、ハンドガードと銃床の方のストックが欲しい」

 

「それってどこよ?」

 

 だろうな、と思わず呟いてしまった。彼女はSAOプレイヤーであって、PMCではない。銃の部品など分かるはずもないか。

 というわけで、俺は背中からAK-74Nを下ろして説明することにした。そろそろ耐久もまずいし、本体も買い替えてしまおうか。

 

「ハンドガードはここ。銃身を覆ってる、いかにも握るところっぽいやつで、ストックはこの肩当て」

 

「それなら……これかな?」

 

 彼女が差し出してきたのは茶色のハンドガード。上下左右の4面にレイルが備え付けられたそれは、残念ながら俺のAKと互換性がない。

 

「こいつはダメだな。互換性がない」

 

「銃って難しいわね……」

 

「でも、これは序盤でかなり貴重なパーツだ。M4使ってるやつなら、5000コル……いや、もっと高値で買い取ってくれると思う」

 

「え、本当に!?」

 

 これは本当だ。グリップやライトの取り付けスロットが多く、反動(リコイル)低下率やエルゴノミクス(構えの早さなど、取り回しに関わるステータス)上昇値が店売りのものより高い。

 

「ああ。いいか、肩に"USEC"ってワッペン貼ってる奴らに売りつけるんだ。これが合う銃を初期配布されてる。俺たち"BEAR"はまだ別のだぞ」

 

 在庫一覧を見ていると、いくつかAK用のアタッチメントがあった。しかしデフォルトのパーツだったりして、性能はあまりよろしくない。

 特にハンドガードなんてレールもないし、グリップも取り付け不能だ。

 

「うーん、いいのがないな。オーダーメイドだとどうだ?」

 

「割増料金掛かるけど、大丈夫?」

 

「命には変えられねえ。ある程度作るものを絞れたりするか?」

 

「出来るけど、銃の部品はわからないわよ」

 

「見せてくれ。教えよう」

 

 ウェポンパーツは大まかな区分に分けると3種類ある。

 照準器やフォアグリップ、ライトやマズルデバイスは"Functional”、ストックやレール単体、ハンドルは"Gear”、バレルやハンドガード、ピストルグリップなどは"Vital”に分類される。

 

 鍛冶スキルが上がればさらに細かく絞って作れるようらしいが、今はこの大分類から選んでランダムに作成するような状態だった。

 

「まあ説明あるからそれを見ながらで。一旦はVital絞ってくれるか?」

 

「ええ。違うのだったらどうする?」

 

「仲間に売り払うさ。損してたまるか」

 

「商魂逞しいわね。それじゃ、見てなさい!」

 

 代金を払うと、彼女はアルミインゴットをハンマーで殴り始めた。火花が散り、激しい音が響く。

 俺のGSSh-01ヘッドセットはノイズキャンセリング機能がほとんどなく、ノイズすらも増幅してしまうので耳がぶっ壊れそうだ。

 

「んがっ!? このクソヘッドセットが!」

 

 思わずヘッドセットを投げ捨てるが、彼女は気にもせずにハンマーを振るう。かなり集中しているようだ。こりゃ、大物かもしれない。

 

 Comtac2作れたりしないかな? あっちならノイズキャンセリング付きだし、聞きやすくて好きなんだよなぁ。リョーハはSoldin一択って言うけど。

 

「出来た……これはどうかしら?」

 

 彼女が差し出してきたのは筒状で、雪だるまのような穴がいくつも空いているパーツ。これが使えるかどうかを彼女では判別できないようだ。

 だが、これは最高のものだと俺にはわかる。このレベル帯で手に入るとは、幸先がいい。

 

「最高だ! まさかここで手に入るとは! 上乗せさせてくれ!」

 

「え? え? そんなにいいものなの!?」

 

「少なくとも俺には!」

 

 出来たのはガスブロック内蔵型のハンドガード"VS-24コンボ"だ。グリップを取り付けるには別途でレイルが必要になるが、これ自体がリコイルを4%低減させる優れものだったりする。

 

「よかった、お眼鏡にかなって嬉しいわ」

 

「仲間にもいいスミスがいるって紹介しておくよ。名前は?」

 

「リズベット。注文でもなんでも承るから、宣伝よろしくね」

 

「レイジだ。今後ともよろしく頼むぜ、なんならウチの専属になって欲しいくらい」

 

 名乗った矢先にリズベットが硬直した。なんだ、俺の顔に何かついてたか?

 

「レイジってアレ? 1層ボスに突っ込んだっていう、命知らずでクソ度胸の?」

 

「アトラスのリーダーとかじゃなくてそこかよ」

 

 アルゴめ、どんな風に触れ回ったんだ? 知らないところで変な噂が立ってやがる。

 兎も角、パーツを作れる人がいるのは嬉しい。ドロップや購入より、こっちの方が安く済みそうだしな。

 

「相棒の武器も欲しいんだけど、それも作れそうか?」

 

「素材がねー。ちなみに何がいい?」

 

「今はレイピアなんだが、意外と深く突っ込んで戦うからなぁ。あと、AK使いの野郎がいるからついでにそいつのパーツも」

 

 コハルはどこで度胸を手に入れたのだろうか、最近は深めに突っ込んで一撃を加えることが増えてきた。レイピアもいいが、若干長くて当て辛そうにしているのをよく見かける。

 特に、この前のShorelineのリゾート内では狭い室内での戦闘だったためか、長めのレイピアを使いにくいと言っていた。

 

 あと、リョーハもそろそろAKをカスタムしたい頃だろう。ついでに見繕っておくか。

 

「ならばダガーかなぁ……でも素材が足りないし」

 

「何がいる?」

 

「メッセで送ってあげるわ」

 

 デバイスが震え、リズベットからのメッセージとフレンド申請が来ていた。素材はそんなに難しくないし、今から集めに行ってこようか。

 コハルが喜んでくれるといいんだけどな。

 

「集めたらまた来る。期待してるぜ」

 

「そっちこそ、いい素材持ってきてよね」

 

「おうよ。ついでに、授業料分割引してくれるとありがたいんだが」

 

「そうね。クーポン付きのメルマガ送るわ」

 

「リズのメルマガだけは迷惑メールリストから外しておくよ」

 

 たっぷり笑ってから素材集めのため、俺は圏外へと足を踏み出す。ヘマをしてコハルを泣かせないように、気をつけて行かないとな。

 

 

 ハイドアウトに帰ると、何やらいい匂いが漂ってきた。可愛らしい鼻歌が聴こえる。コハルが何かしているのだろう。料理かな?

 

「おかえり。ずいぶん遅かったね」

 

「ただいま。そんなに遅かったか?」

 

「お陰で、ちょうどいい感じになったよ」

 

 コハルが鍋の蓋を開けると、スパイシーな香りが漂ってくる。カレーが目の前にあるではないか。なんて事だ、アインクラッドでまでカレーが食えるなんて。

 

「すげえ、凄えよコハル!」

 

「アスナと料理スキル上げてたんだ。上手く出来てるといいんだけど」

 

「これは間違いなく美味いと思うぞ、最高だよ!」

 

 腹の虫が嘶く。それ以上に、コハルがあまりにも可愛らしく見えてスリップダメージを喰らいそうだ。黒鉄宮の生命の碑に「萌死」とかいう死因を書かれるのは勘弁だが。

 

「喜ぶのはまだ早いよ。食べる前でしょ?」

 

「そうだな、完成が待ち遠しいよ」

 

「そういえば、どこ行ってたの?」

 

 1人で出かけるなんて珍しい、とコハルが顔を覗き込んできた。確かに、いつもならリョーハと連れ立って買い物に行くし、最近だとアトラスのメンバーとつるんでいるからな。

 

「プレイヤーの鍛冶屋に。色々武器を探してたもんでな」

 

 色々いじったAKを見せると、コハルは納得してくれた。耐久値もやばかったから、思い切って本体も作ってもらったのだ。AK-74NがAK-74Mになったが、コハルにはわかるまい。

 でも取り付けたアタッチメントは今までと大きく違うし、この低レベルでNPCから買える代物でもない。コハルはそんなパーツを見て、少し羨ましそうにしている。

 

「なんだかかっこよくなったね」

 

「ああ、性能もピカイチだ。スミスの腕が良かった」

 

 そして、俺は自分のインベントリからダガーを取り出してコハルへと差し出す。コハルは自分へのお土産と思わなかったのか、一瞬驚いていた。

 

「これ、私に?」

 

「そうだ。お土産にって作ってもらったよ。この前リゾート内で戦いにくそうにしてたし、これならどうだ?」

 

 鋭さと頑丈さに重きを置いたダガーは、レイピアのようなリーチはないが取り回しがいい。サブウェポンとして使えるはずだ。

 

「……ありがとう、すっごく嬉しいよ!」

 

 コハルは満面の笑みでダガーを胸に抱く。花が咲いたような、見ているだけで心を洗われる笑顔にどれほど救われたことか。この笑顔のために苦労をした甲斐があった。

 まあ、生き残って欲しいからというのが本来の目的で、喜んで欲しいのは副次目標だが気にしたら負けだ。

 

「明日、慣らしに行こうか。最近リョーハたちとのパーティも多かったし、久しぶりにデュオで行こうぜ」

 

「そうだね。レイジと2人きり、か……楽しみだよ」

 

「そんなにか?」

 

「レイジといると、何かしら面白いことが起きるからね」

 

 巻き込まれ体質みたいに扱わないで欲しい。そうじゃない。多分。

 

「でも、その前にご飯食べないとね」

 

 コハルはダガーをストレージに格納すると、鍋へ手を伸ばした。たちまちスパイシーな香り漂うカレーは皿に盛り付けられていき、俺はそれをテーブルへ運んでいく。

 

「流石にお米はなかったから、バケットだけどいいかな?」

 

「コハルのカレーが食えるんだ、文句はないよ。むしろルーのまま飲んでもいいぜ」

 

「飲み物じゃないんだから」

 

「カレーは飲み物って言うだろ?」

 

 コハルのカレーでそんな勿体無いことはしないけどな。

 熱々のジャガイモがゴロゴロと入っていて、2層では余るほど手に入る牛肉もたっぷりだ。これを一気飲みなど出来るわけがない。ゆっくり味わわなければ。

 

 コハルは俺の対面に座ると、カレーに手をつけず俺の方ばかり見ている。反応が気になるのだろうな。その気持ちよくわかる。

 

 だから、早速バケットでカレーを掬い取って口に運んだ。辛さと熱さ、それを掻き分けて進んだ先に旨みが待つ。味の七変化と、ジャガイモや肉の甘味の洪水。

 これは暴力的すぎる。こんな暴力にさらされた舌と胃になす術はない。そして残念なのは、俺はそれを言語化するだけの語彙力を持っていないことだ。

 

「美味い」

 

 天を仰ぎ、目頭を押さえて呟くのが精一杯だった。コハルも、その一言で報われたように微笑んでくれたのが嬉しかった。




・GSSh-01アクティブヘッドセット
 初期から購入できるヘッドセットで、ロシアの次世代歩兵装備の一つ。
 ともかく音をデカくするため、自分の足音などの雑音も増幅してしまう。まさに初期装備、ないよりはマシというレベル。リザーブのアラームが鳴り出すと、耳が壊れそうになることもしばしば。


・VS-24
 ハンドガードが一体化されたガスブロック。筒状のハンドガードに、レイル等を取り付けるための穴が空いている。
 エルゴノミクス、リコイルのどちらをとっても優秀なパーツである。
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