Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
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3層に到着した翌日、俺は珍しく1人で出掛けていた。
コハルはアスナと服屋巡りに行き、キリトはレベリング。そう言うわけで、俺もショッピングを楽しむことにした。買うのはウェポンパーツだけど。
いい加減銃をカスタムしたい。射撃時の反動がキツすぎて、弱点部位を集中攻撃し辛い。
ただでさえ火力で劣るのだ。この辺りをなんとかしなければ、この先役になど立てないだろう。
「あ、傭兵のお兄さん! 少し見て行ってよ!」
考え事をしていたら少女に呼び止められた。茶髪の癖っ毛で、その快活な笑みに思わず釣られてしまった。
道端で露店を開いているらしく『鍛冶屋リズベット オーダーメイド承ります』と看板を出している。
品揃えは剣とか防具がメインだが、僅かにウェポンパーツも取り扱っているではないか。見ていこう。
「銃の部品はこれだけ?」
「もう少しストックがあるけど……どんなものを探しているの?」
「これに合うやつで、ハンドガードと銃床の方のストックが欲しい」
「それってどこよ?」
だろうな、と思わず呟いてしまった。彼女はSAOプレイヤーであって、PMCではない。銃の部品など分かるはずもないか。
というわけで、俺は背中からAK-74Nを下ろして説明することにした。そろそろ耐久もまずいし、本体も買い替えてしまおうか。
「ハンドガードはここ。銃身を覆ってる、いかにも握るところっぽいやつで、ストックはこの肩当て」
「それなら……これかな?」
彼女が差し出してきたのは茶色のハンドガード。上下左右の4面にレイルが備え付けられたそれは、残念ながら俺のAKと互換性がない。
「こいつはダメだな。互換性がない」
「銃って難しいわね……」
「でも、これは序盤でかなり貴重なパーツだ。M4使ってるやつなら、5000コル……いや、もっと高値で買い取ってくれると思う」
「え、本当に!?」
これは本当だ。グリップやライトの取り付けスロットが多く、
「ああ。いいか、肩に"USEC"ってワッペン貼ってる奴らに売りつけるんだ。これが合う銃を初期配布されてる。俺たち"BEAR"はまだ別のだぞ」
在庫一覧を見ていると、いくつかAK用のアタッチメントがあった。しかしデフォルトのパーツだったりして、性能はあまりよろしくない。
特にハンドガードなんてレールもないし、グリップも取り付け不能だ。
「うーん、いいのがないな。オーダーメイドだとどうだ?」
「割増料金掛かるけど、大丈夫?」
「命には変えられねえ。ある程度作るものを絞れたりするか?」
「出来るけど、銃の部品はわからないわよ」
「見せてくれ。教えよう」
ウェポンパーツは大まかな区分に分けると3種類ある。
照準器やフォアグリップ、ライトやマズルデバイスは"Functional”、ストックやレール単体、ハンドルは"Gear”、バレルやハンドガード、ピストルグリップなどは"Vital”に分類される。
鍛冶スキルが上がればさらに細かく絞って作れるようらしいが、今はこの大分類から選んでランダムに作成するような状態だった。
「まあ説明あるからそれを見ながらで。一旦はVital絞ってくれるか?」
「ええ。違うのだったらどうする?」
「仲間に売り払うさ。損してたまるか」
「商魂逞しいわね。それじゃ、見てなさい!」
代金を払うと、彼女はアルミインゴットをハンマーで殴り始めた。火花が散り、激しい音が響く。
俺のGSSh-01ヘッドセットはノイズキャンセリング機能がほとんどなく、ノイズすらも増幅してしまうので耳がぶっ壊れそうだ。
「んがっ!? このクソヘッドセットが!」
思わずヘッドセットを投げ捨てるが、彼女は気にもせずにハンマーを振るう。かなり集中しているようだ。こりゃ、大物かもしれない。
Comtac2作れたりしないかな? あっちならノイズキャンセリング付きだし、聞きやすくて好きなんだよなぁ。リョーハはSoldin一択って言うけど。
「出来た……これはどうかしら?」
彼女が差し出してきたのは筒状で、雪だるまのような穴がいくつも空いているパーツ。これが使えるかどうかを彼女では判別できないようだ。
だが、これは最高のものだと俺にはわかる。このレベル帯で手に入るとは、幸先がいい。
「最高だ! まさかここで手に入るとは! 上乗せさせてくれ!」
「え? え? そんなにいいものなの!?」
「少なくとも俺には!」
出来たのはガスブロック内蔵型のハンドガード"VS-24コンボ"だ。グリップを取り付けるには別途でレイルが必要になるが、これ自体がリコイルを4%低減させる優れものだったりする。
「よかった、お眼鏡にかなって嬉しいわ」
「仲間にもいいスミスがいるって紹介しておくよ。名前は?」
「リズベット。注文でもなんでも承るから、宣伝よろしくね」
「レイジだ。今後ともよろしく頼むぜ、なんならウチの専属になって欲しいくらい」
名乗った矢先にリズベットが硬直した。なんだ、俺の顔に何かついてたか?
「レイジってアレ? 1層ボスに突っ込んだっていう、命知らずでクソ度胸の?」
「アトラスのリーダーとかじゃなくてそこかよ」
アルゴめ、どんな風に触れ回ったんだ? 知らないところで変な噂が立ってやがる。
兎も角、パーツを作れる人がいるのは嬉しい。ドロップや購入より、こっちの方が安く済みそうだしな。
「相棒の武器も欲しいんだけど、それも作れそうか?」
「素材がねー。ちなみに何がいい?」
「今はレイピアなんだが、意外と深く突っ込んで戦うからなぁ。あと、AK使いの野郎がいるからついでにそいつのパーツも」
コハルはどこで度胸を手に入れたのだろうか、最近は深めに突っ込んで一撃を加えることが増えてきた。レイピアもいいが、若干長くて当て辛そうにしているのをよく見かける。
特に、この前のShorelineのリゾート内では狭い室内での戦闘だったためか、長めのレイピアを使いにくいと言っていた。
あと、リョーハもそろそろAKをカスタムしたい頃だろう。ついでに見繕っておくか。
「ならばダガーかなぁ……でも素材が足りないし」
「何がいる?」
「メッセで送ってあげるわ」
デバイスが震え、リズベットからのメッセージとフレンド申請が来ていた。素材はそんなに難しくないし、今から集めに行ってこようか。
コハルが喜んでくれるといいんだけどな。
「集めたらまた来る。期待してるぜ」
「そっちこそ、いい素材持ってきてよね」
「おうよ。ついでに、授業料分割引してくれるとありがたいんだが」
「そうね。クーポン付きのメルマガ送るわ」
「リズのメルマガだけは迷惑メールリストから外しておくよ」
たっぷり笑ってから素材集めのため、俺は圏外へと足を踏み出す。ヘマをしてコハルを泣かせないように、気をつけて行かないとな。
※
ハイドアウトに帰ると、何やらいい匂いが漂ってきた。可愛らしい鼻歌が聴こえる。コハルが何かしているのだろう。料理かな?
「おかえり。ずいぶん遅かったね」
「ただいま。そんなに遅かったか?」
「お陰で、ちょうどいい感じになったよ」
コハルが鍋の蓋を開けると、スパイシーな香りが漂ってくる。カレーが目の前にあるではないか。なんて事だ、アインクラッドでまでカレーが食えるなんて。
「すげえ、凄えよコハル!」
「アスナと料理スキル上げてたんだ。上手く出来てるといいんだけど」
「これは間違いなく美味いと思うぞ、最高だよ!」
腹の虫が嘶く。それ以上に、コハルがあまりにも可愛らしく見えてスリップダメージを喰らいそうだ。黒鉄宮の生命の碑に「萌死」とかいう死因を書かれるのは勘弁だが。
「喜ぶのはまだ早いよ。食べる前でしょ?」
「そうだな、完成が待ち遠しいよ」
「そういえば、どこ行ってたの?」
1人で出かけるなんて珍しい、とコハルが顔を覗き込んできた。確かに、いつもならリョーハと連れ立って買い物に行くし、最近だとアトラスのメンバーとつるんでいるからな。
「プレイヤーの鍛冶屋に。色々武器を探してたもんでな」
色々いじったAKを見せると、コハルは納得してくれた。耐久値もやばかったから、思い切って本体も作ってもらったのだ。AK-74NがAK-74Mになったが、コハルにはわかるまい。
でも取り付けたアタッチメントは今までと大きく違うし、この低レベルでNPCから買える代物でもない。コハルはそんなパーツを見て、少し羨ましそうにしている。
「なんだかかっこよくなったね」
「ああ、性能もピカイチだ。スミスの腕が良かった」
そして、俺は自分のインベントリからダガーを取り出してコハルへと差し出す。コハルは自分へのお土産と思わなかったのか、一瞬驚いていた。
「これ、私に?」
「そうだ。お土産にって作ってもらったよ。この前リゾート内で戦いにくそうにしてたし、これならどうだ?」
鋭さと頑丈さに重きを置いたダガーは、レイピアのようなリーチはないが取り回しがいい。サブウェポンとして使えるはずだ。
「……ありがとう、すっごく嬉しいよ!」
コハルは満面の笑みでダガーを胸に抱く。花が咲いたような、見ているだけで心を洗われる笑顔にどれほど救われたことか。この笑顔のために苦労をした甲斐があった。
まあ、生き残って欲しいからというのが本来の目的で、喜んで欲しいのは副次目標だが気にしたら負けだ。
「明日、慣らしに行こうか。最近リョーハたちとのパーティも多かったし、久しぶりにデュオで行こうぜ」
「そうだね。レイジと2人きり、か……楽しみだよ」
「そんなにか?」
「レイジといると、何かしら面白いことが起きるからね」
巻き込まれ体質みたいに扱わないで欲しい。そうじゃない。多分。
「でも、その前にご飯食べないとね」
コハルはダガーをストレージに格納すると、鍋へ手を伸ばした。たちまちスパイシーな香り漂うカレーは皿に盛り付けられていき、俺はそれをテーブルへ運んでいく。
「流石にお米はなかったから、バケットだけどいいかな?」
「コハルのカレーが食えるんだ、文句はないよ。むしろルーのまま飲んでもいいぜ」
「飲み物じゃないんだから」
「カレーは飲み物って言うだろ?」
コハルのカレーでそんな勿体無いことはしないけどな。
熱々のジャガイモがゴロゴロと入っていて、2層では余るほど手に入る牛肉もたっぷりだ。これを一気飲みなど出来るわけがない。ゆっくり味わわなければ。
コハルは俺の対面に座ると、カレーに手をつけず俺の方ばかり見ている。反応が気になるのだろうな。その気持ちよくわかる。
だから、早速バケットでカレーを掬い取って口に運んだ。辛さと熱さ、それを掻き分けて進んだ先に旨みが待つ。味の七変化と、ジャガイモや肉の甘味の洪水。
これは暴力的すぎる。こんな暴力にさらされた舌と胃になす術はない。そして残念なのは、俺はそれを言語化するだけの語彙力を持っていないことだ。
「美味い」
天を仰ぎ、目頭を押さえて呟くのが精一杯だった。コハルも、その一言で報われたように微笑んでくれたのが嬉しかった。
・GSSh-01アクティブヘッドセット
初期から購入できるヘッドセットで、ロシアの次世代歩兵装備の一つ。
ともかく音をデカくするため、自分の足音などの雑音も増幅してしまう。まさに初期装備、ないよりはマシというレベル。リザーブのアラームが鳴り出すと、耳が壊れそうになることもしばしば。
・VS-24
ハンドガードが一体化されたガスブロック。筒状のハンドガードに、レイル等を取り付けるための穴が空いている。
エルゴノミクス、リコイルのどちらをとっても優秀なパーツである。