Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
「突入、突入!」
ライトを点灯させながら突入し、まずキリトが手前の白い頭巾を被った男を組み伏せる。光で視界を、爆音で聴覚を奪われているせいか、あっさりと捕らえられていた。
俺は奥の黒い頭巾男。白と違って完全に視界を奪えたわけではないのか、反撃しようと腰のダガーに手を伸ばしていた。
それを許すわけもなく、その腕に組みついて引きずり倒し、武器は奪って遠くへ投げ捨てる。制圧完了だ。
ちなみに俺のAKはスリングで体からぶら下げてあるので、落っことしたりルーターにパクられる心配はない。
「クリア!」
「こっちもだ、レイピアは?」
黒頭巾が持っていたシバルリック・レイピアを奪い取り、キリトへ投げ渡す。キリトならば、アスナの武器をよく覚えているだろう。
「アスナのと同じ性能だ」
「いてて……ルーターからドロップしたんですよぉ。お友達のだから返せ、と?」
白頭巾はこの期に及んでも口調が崩れない。黒頭巾の方は俺が組みついて拳銃を突きつけているし、何をしようにも動けまい。
「そんな難癖をつけるつもりはないけど、あんたが俺の相棒にデュエルPKを仕掛けて奪ったかもしれないだろ? "モルテ"」
「自分が第3層であなたにやったみたいにですかぁー? キリトさん」
モルテはキリトを振り払い、追撃するかと思いきや俺の方に来た。発砲したが狙いがズレ、2発目を撃つ前に体当たりで吹き飛ばされる。
「おやおやぁー? 噂のレイジさんじゃないですかぁー! ちょうど良いところに来ましたねぇ!」
「飲み会ならお断りだ! 酒飲めねーんだよ!」
「つれないですねぇー!」
モルテが俺に馬乗りになり、拳を振り下ろす。そんなの簡単に食らってやる義理はないので、その腕を絡みつくようにして捕らえる。
後はその腕を引っ張りながらブリッジの要領で腰を突き上げると、モルテはバランスを崩して引き倒される。
形勢逆転、今度は俺がぶん殴ろうとした横から黒頭巾の蹴りが来た。吹っ飛ばされ、転がって受け身を取りつつトマホークを抜く。
こいつら、ここで殺す。
トマホークを握る手に力が入る。上手いこと初撃をかすらせて、奴らをオレンジにしてから心置きなくぶっ殺してやろうか。それならキリトも吹っ切れるだろう。
左足を一歩前へ。後少しで間合いに入る。
今更恐れるな。PKなんて、慣れたもんだろう?
武器を弾いて組みついたら、後はやりたい放題。脚を破壊して動きを止め、急所を殴りまくれ。ただ冷徹に、機械となりて。
殺意だけ。今の俺には、理性も自律心も必要ない。
「わーっ!」
「わー!」
そんな俺の覚悟を、2つの黄色い声が吹き飛ばす。幽霊を恐れない俺が、ビクン! と跳ねてしまったではないか。トマホークを落とさなくてよかった。
もう一つの入口に声の主がいた。アスナとコハルだ。どうしてここにいるんだ? アスナがレイピアをパクられているからなんとなく想像はついていたけど。
「なるほど、そういうことか! レイジ!」
キリトはアスナの方へ向けて走る。来いって事だろう。何を考えているか知らないが、何か秘策があるんだろう。コハルも早く来いと体の動きまで使って呼んでいるのだから。
「スーカ、どーなっても知らねえぞ!」
トマホークを仕舞い、全力で走る。すると、コハルは伸ばした手で俺の手首を掴んで引き寄せた。1層の時のリベンジかのように。
そのまま向きを入れ替えられ、壁に押し付けられる。俗に言う壁ドンってやつだ。思わずドキリとしてしまうし、コハルも顔を赤くしている。
そういえばキリトが見えないが、奴はどこへ行った? それに、何やら地鳴りのような音も聞こえてきた。それはまるで山津波。黒頭巾の慌てた声も聞こえてきた。
「Mob呼び寄せて擦りつけるとかMPKかよ! 汚えんだよやり方が!」
いや、お前に言われたくはない。
「あはは、これはダメですねぇー。いったん引きましょー」
2人はどこかへ逃げ去り、あたりには静寂が戻る。ようやく一息と思ったまさにその時、コハルが俺の胸に顔を埋めてきた。
「……また置いていった」
「よく気付いたな。リョーハでさえ置いてけぼりにしたのに」
「アスナがレイジとキリトがどこか行くのを見たから、こっそりついて来たの。落とし穴には落ちるし、アスナはレイピア取られて、幽霊は出るし……」
「散々な目に遭ったな」
もう、とコハルの拳が胸を叩く。アーマープレート殴って痛くないのか? と思ったら、痺れたようで手を振り始めた。痛みは緩和されるが、痺れみたいな不快感はあるもんな。
「レイジがいなくなるからだよ。ケーキ奢りたくてわざとやってる?」
「そんな理由なら、今頃俺の財政が破綻してるぞ」
AKがそろそろ耐久値減少により、買い替えの時期なのだ。不労所得があるわけでもなしに、そんな豪勢なことは出来ない。やりたくてもな。
「私を連れて行きたくないのは分かるけど、せめて一言欲しかったな。パートナーに隠し事されるの、悲しいもん」
チクリと胸に刺さる。彼女がもう弱くないと分かっているのに、心のどこかで信じきれていない俺がいる。俺の中のコハルは、始まりの日のままで止まっているのかも知れない。
本当に、臆病な自分が嫌になる。
「……次は言うけど、連れて行くかは状況次第だぞ」
「それでもいいよ。レイジが急にいなくなるのが怖いんだもん。一言でもあれば、またどこかで戦ってるんだって分かるから」
"突然貴方が居なくなったら、お墓の場所も分からないんでしょう"
公式実写映画で見た、そんな一言が呼び起こされる。
アインクラッドで別れの挨拶が出来る方が珍しいけど、せめてどこで散ったのかは知りたいのだろうか。
※
それから時は過ぎ、年の瀬が迫り来る。こんな仮想の世界で年明けを迎えるとは、なかなか出来ない体験だ。まあ面白いだろうな。どうせリアルじゃぼっちだし。
結局、煽動PK連中は引き続き調査するしかないと言う結論になった。というか、それ以外に手がない。
キリトもアトラスも、ALSやDKBにとっては外野でしかない。それが裏切り者がいると騒ぎ立てたところで、俺たちが疑われるだけだ。俺がスパイならそうなるよう持っていく。
「ねえレイジ、私たちはどうするの?」
「どうするって言ってもなぁ」
コハルと2人、サンドイッチを食べながら高く聳え立つ塔を見つめる。それこそ迷宮区であり、次の層へと続く梯子だ。
ALSは単独でそこを突破し、ボスを仕留めると言う話は本当だったらしい。隠してるつもりだろうが、物資を買い漁ってたりしてるのが丸わかりだ。
俺が出品してた回復キットが結構売れてるし、そのログで買った奴がわかるんだよ。フリーマーケット機能はタルコフ由来だからな。
おまけに笑えないのが、ALSとDKB、アトラス合同のパーティをドタキャンしてやるつもりらしい。面目潰してくれるじゃないか。
ALS側の企画者からも、それを裏付けるメッセージが届いている。詳細は機密もあるだろうから省かれているが、芳しくないという一言だけで大体理解は出来てしまった。
それに、俺が言ったところで止められるわけじゃない。いっそ、俺たちでボスを攻略できりゃ楽なんだけどな。
「……しゃーなし、あの人に前線までご足労いただくか」
「あの人って、キリトのこと?」
俺は首を横に振る。このひび割れた関係を修復できるであろう、人望の厚いあの人を呼ぶしか手立てはない。
俺がやろうとしたら、絶対また銃をぶっ放すことになるからな。
「もっと大物さ。まあ、キリトとアスナも勘定には入れてるけど」
俺は立ち上がり、胸元のプレストークスイッチを押す。呼び出すのは副官のリョーハだ。そろそろこき使ってやろう。シノンとデートしていようが知るものか。
「リョーハ、メイベルに出撃命令を出せ。それと、ディアベルさんも呼び出せ」
『いいけど、お前何始めるつもりだ?』
「そりゃ、戦争しかないだろ」
『マジかよ』
「マジだ。メイベルには迷宮区でALSの動きを監視させろ。接触無用、気付かれたら即撤退」
『なんでそんなストーカーみてえな真似を……まあいい、ブラックバーンに指示を出すぜ』
勝算はこれから計算する。もししくじったらごめんなさいだ。
でも、やらなければならない。今こそ、俺たちアトラスの存在意義が問われる時なのだから。