Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

27 / 83
5層-4 騎士の帰還

「お前に任せたのは俺だが、なんで俺のハイドアウトを会議室代わりにしやがった?」

 

 リョーハはそっぽを向いて口笛を吹く。中々人口密度が高く、少し狭く感じてしまうのだ。

 集まったのは俺とリョーハにコハルとシノン、キリトとアスナ、あとはブラックバーン以下5名のレイドグループ"メイベル"と、アルゴの顔もある。

 

 この人数を収容するとやはり狭い。ギルドホーム買おうかなぁ。

 

「そんなことより、ディアベルさんはどうした? おいリョーハ」

 

「ちゃんと連絡したさ。すぐに行くって言ってたが、どこで道草を食ってるんだか」

 

 そんな時だ。ギィ、と鉄格子の扉が不快な音を立てる。ようやくお目当ての人物が来たらしい。見に行くまでもなかった。

 

「遅刻ですよ、ディアベルさん」

 

「ごめんごめん、Mobに絡まれてたからさ。状況を教えてくれるかい?」

 

 遅刻しても爽やかな騎士、ディアベルが薄暗いハイドアウトに現れ、場が少し明るくなったような気がする。

 

「今から始めるところですよ。ブラックバーン、報告を」

 

 場の空気が張り詰める。これから話される内容は、攻略組どころかアインクラッド全体に関わりかねない議題だ。一線級の連中がそれを理解できないわけもない。

 

「隊長殿の指示通り、迷宮区入口を交代で見張ってた。それこそストーカーみたいにな」

 

「得意だろ、タチャンカさえ隠しておけばな。それで、どうなった?」

 

「結論から言わせて貰えば、ALSの一線級部隊が交代で迷宮区へ侵入してるのを確認。詳細は報告書で頼む。説明が大変だからな」

 

「その事実さえ分かれば問題はない。ま、概ね予想通りってところだ。裏付けがどうしても欲しかったものでな」

 

 そして、俺は伝えなければならない。あの日に掴んだ最悪の情報を。

 

「ここからは機密事項だ。他ギルドやプレイヤーはもちろん、アトラス内でもまだ話すな。余計な混乱を招く。特にアルゴ、秘匿が約束できないなら出てもらうが」

 

 アトラスは随分人が増えた。だからこそ、まだ息を潜めているだけで煽動PKの一味が紛れている可能性は排除できない。信頼できる古参メンバーで、1層ボス攻略を共に戦い抜いたメンバーだからこそ話せる。

 それに、まだわからない事だらけだ。アルゴは売ってはならない情報をしっかり見極めてくれるが、金に転ぶ危険は排除できない。

 

「レー坊がそこまで言うなら約束するヨ。この情報は売らない、でいいナ?」

 

「それでいい。下手するとアルゴが口封じされる危険もあるから、詮索も無用だ。情報収集は基本、こっちで請け負う」

 

 場合によっては俺が口封じに動かねばならなくなるから、きっちり約束を守ってもらいたいところだ。そんな姑息な奴じゃないだろうけど。

 

「本題に入ろう。攻略組の対立を煽って、意図的にPKを起こさせようとする勢力がある。俺とキリトは先日、そいつらの会合に潜入して情報を得た。今回の件もそいつらが糸を引いている」

 

 途端にざわめきが巻き起こる。知っていた人間以外は勿論動揺するだろう。そんなことをして何になる。対策はどうすればいいのかと。

 

「で、その煽動PK連中をぶっ殺すのか?」

 

 レッカーの言う通り、あいつらを殺せるならそれが一番楽だ。後顧の憂を無くせるからな。でも、そういかない時もある。

 

「残念ながら、奴らはまだグリーンだ。直接手を下さなかったり、デュエルシステムを使ってオレンジ化を免れてやがる。先にやれば俺たちがオレンジプレイヤーになるぞ」

 

 意図的にプレイヤーを攻撃すれば、頭上のカーソルがオレンジに変わる。つまり、犯罪者プレイヤーの烙印が押されるわけだ。

 そうなれば圏内には入れず、カルマ回復クエストをやるまでは相当な不利を強いられる。圏内の転移門が使えず、別の層に行くにはわざわざボス部屋の階段を使わねばならなくなるからな。

 

 ちなみにPMCに関してはその特性から誤射が起きやすいためか、やられた相手に意図的な誤射かを確認するメッセージが現れる。

 タチャンカがやらかしたから検証済みだ。NOにしたから、奴はまだオレンジになっていない。アーマーの修理費は払わせたけど。

 

「ではレイジ殿、その頭のおかしな奴らを殺さぬとあれば、某の役目は何でありましょう」

 

 おおタチャンカよ、会議の時にもマリモを外さぬとはいい度胸だ。後で剥ぎ取って、ハイドアウト入口に晒し首としてやろう。

 

「まずは情報収集だ。そのためにアルゴも呼んでんだからな」

 

「呼出料はいくらもらうカナ。レー坊、どんな情報をお望みだイ?」

 

「当面はボスの攻略情報を。メイベルを貸すから、危険のない程度で頼む。PK連中にはまだ触れるな。危険すぎる」

 

 ブラックバーン率いるメイベルならば、俺の代わりとして十分に信頼できる。全員がPMCで構成されているだけあって、高い機動力と偵察能力が売りだ。アルゴと行くにはもってこいのメンツだろう。

 

「丁度、新しいダンジョンとクエストを見つけたばかりダ。ベータではなかったところだから丁度いいヨ」

 

「ちなみにマップ名は?」

 

「"Customs"って言ってたナ。クエスト名は"Huntsman path-The trophy"」

 

「リシャラ狩りじゃねーか。イェーガーおじじのボス狩りシリーズ、もう出たのか」

 

 Customsは工場に隣接する大きな工場団地であり、税関倉庫や社員寮が併設されているマップだ。

 最初のタスクはここに集中しているため、WoodsとShorelineが先に出てきたのには驚いていたところだ。

 

 そして、ここにもボスはいる。"Reshala"という茶色のジャケットを着たギャングで、警察のジャケットを着て、青と白のストライプ模様のズボンを履いた取り巻きを最大4人引き連れている。

 タスクはこのリシャラを殺害し、彼のユニーク装備である"ゴールデントカレフ"を納品する事だ。

 

「レー坊が必要と思ってたところだから、隊を借りれるのはありがたいヨ」

 

「情報料ってことで。俺たちは別で調査だ。どうやってALSを暴走させたのか調査する。キリト、情報に心当たりはあるか?」

 

「ああ、DKBに知り合いがいる」

 

「よし、そっちと接触頼む。こっちはALSの方へ、コハルを連れて接触してくる。リョーハ、お前はシノンと本部として情報の統括。ディアベルさんは待機とリョーハの補佐を」

 

 ディアベルは1層攻略以来、自身のレベリングや後進の育成で前線を離れていた。それでも1層突破の立役者であり、英雄と見ている人は多い。

 PK連中にすれば格好の餌だ。まだ動きを見せるには早すぎる。

 

「それだけ準備してるってことは、まさか俺たちだけでボスに挑むと?」

 

 レッカーは察して、それを確認したいという感じで訊いてくる。丁度言うつもりだったのだ。全員の目が向いているなら都合はいい。

 

「そうだ。他にも協力者は募るが、ALSとDKBで喧嘩になるくらいならウチで管理する。持つのがディアベルさんならば、どっちも文句は言えないだろう」

 

「そのためにオレが呼ばれたのか」

 

「そうなる前に、説得して済めばいいんですけどね」

 

 しかし今のALSが耳を貸すとは思えない。煽動PK野郎が中枢まで食い込んでるのだ。結局こじつけて俺たちとの対立を図るはずだ。

 だから、パーティの前にこの件は片付ける。それで合同パーティは平和に終わらせて、その後でゆっくりこの件について話し合う場を設ければいいさ。

 

「意見がなければこれで行くぞ。状況開始」

 

 その一言で部隊は動き出す。特にメイベルは戦闘になるだろうからと、駆け足で自分のハイドアウトに移動していった。装備を整えるのだろう。

 

「みんなが動いてる中、待ってるだけというのももどかしいな」

 

「ここに来るまで、攻略組が進んでいくのをもどかしく思っていたように?」

 

 俺は冷蔵庫からタルコーラを取り出し、ディアベルへ差し出す。任務中に酒を飲むわけにも行くまい。

 

「そうだね。ずっと後進の育成ついでにレベリングしていて、情報は入っていたさ。オレが抜けてから2大ギルドが対立して、その合間を暗躍するアトラス……オレが纏められていればって、ずっと思っていたよ」

 

「なら、今こそその時でしょう?」  

 

 俺には役不足だ。対立煽ったバカに至近弾を喰らわせて黙らせるしか出来なかった。だから、そのカリスマ性でプレイヤーたちを束ねられるディアベルが羨ましくてたまらない。

 そして、早いところこの重荷を下ろしてしまいたかった。俺の肩は、こんなに大勢を背負えるほど強くないのだから。

 

「……そうだな、オレは逃げすぎた。これがオレの置き土産というなら、後始末もしないと」

 

「そうしてもらえると助かります。俺が過労死しないで済む」

 

 ラックからお気に入りのカスタムを施したAK-74Mを手に取る。そろそろ行かなければ。

 コハルが待ってくれているのだ。これ以上待たせるのは申し訳ないからな。

 

「行こう、レイジ」

 

「ああ。相手にメッセージは送ってるから、しばらく散歩しながら待とう」

 

 コハルへ手を差し出すのも、その手をコハルが握るのももう当たり前になっていた。自然な流れでそうして、街へ繰り出す。

 戦いにもそうだが、こっちの方にもそろそろ覚悟を決めるべきかな。特に、これから会う相手にはよく背中を押されているのだから。




・Reshala
 "Dealmaker”を意味しており、タスク中ではそっちで表記されることもある。
 Customsにスポーンするボスであり、取り巻きを2〜4人従えている。ボス本人は後ろに隠れるように動くが、取り巻きはカスタムAKやグレネードの一斉投擲で攻撃してくるなど、序盤のPMCにとってはキツイ相手である。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。