Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
「ふー、これでどうかしら?」
リズベットは金床から顔を上げ、出来たそれを俺に差し出す。SCAVのショットガンを喰らい、損傷してしまったM1プレートキャリアを修理してもらっていたのだ。
「サンキュー。元々直りはいい方だが、それでもトレーダーに頼むよりいいな。お代は?」
「これくらい。素材でもいいわよ?」
「んじゃ、アルミインゴットで」
アーマーが損傷した場合、耐久値がもちろん削れる。そして耐久値が削れるほど防護能力も低下し、より貫通されやすくなってしまうのだ。
だから修理するわけだが、もちろん最大耐久値は元より低くなる。
アーマーの防御力は本来の最大耐久値を基準に計算しているから、あまり最大耐久値が減ってしまうと、直しても本来の防御力を発揮できなくなっていくのだ。
俺のM1プレートキャリアも、あと2〜3回直したらお別れの時期だろう。気に入ってるんだけどな。
「レイジが色々教えてくれたおかげで、PMCに販路を広げられて大繁盛よ。感謝してるわ」
「こっちこそ、PMCと取引するスミスが少ないもんだから助かってる。リズのアーマーか武器があれば生き残れるって、験担ぎしてるくらいさ」
「もう、そんなこと言ってもクーポンしか出さないわよ?」
「それだってありがてえよ」
ははは、と笑いながらコーラの缶を開け、一気に飲み干す。リズベットは仕事を頑張りたいということでHot lodをグビグビ飲んでいる。現実じゃないから、いくらエナドリを飲んでも健康を害することはないさ。
そんなリズベットはメッセージを開き、何か険しい顔をしている。難しい依頼でも入ったのだろうか?
「レイジ、手伝ってくれたらアタッチメント作ってあげるけど、どうする?」
「依頼内容次第」
「ただの物運びよ。出来るだけ大きいバックパック持ってきてもらえる?」
物運び程度でリズベットが負けてくれるものか? だけど俺にも懐事情というものはあるので、乗らない手はない。
そういうわけで、持ってる中でも一番大きいTri zipバックパックを背負い、念のために興奮剤注射器を持って現場へと向かうことになった。
※
「くそったれ、まさかの肉体労働かよ」
「まーまー。これだけあるなら少し分けてもらって、新しいアタッチメント作ったら?」
「うう、ごめんなさい……まさかアトラスのリーダーさんが来るなんて……」
楽しそうに笑うリズベットと、申し訳なさそうに小さくなっている茶髪のロングで、茶色の瞳の少女リーテン。コハルのような感じで、小動物的な可愛らしさを感じる。撫で回したくなるな。ハムスターみたい。
でも俺にそんな余裕はない。バックパックいっぱいに鉄鉱石を詰め込んだおかげで、見事に重量オーバー。デバフマシマシで、歩くのが辛い。
おかげさまで筋力スキルに経験値がガンガン入っていく。なんでここで筋トレしてるんだ俺は。
「おいリズ、クーポンどころか商品券くれ。じゃないと採算が合わねえ」
「何に予算取られてるのよ? 歩くだけでしょ?」
「このバックパックと、各種注射器だ! 高いんだぞこれ!」
俺は懐から取り出した赤の注射器"SJ1"を腕に打ち、続け様に青の注射器"SJ6"を打つ。
SJ1はスタミナ最大値に関わるスキル"持久力"と、重量制限を緩和し、近接攻撃ダメージを増やす"筋力"を向上させ、SJ6はスタミナ最大値と回復速度を増す。
序盤だと入手に苦労するし、かなり貴重な興奮剤だ。後半だと楽に手に入るが、正直まだ使いたくなかった。高値で売るつもりだったし。
「レイジさんにもお裾分けします。元々、バグでこんなに出たわけですから……」
「やったね、タダでアルミ……ストックかグリップか、はたまたハンドガードか……Zenit製のパーツ……」
「ちょっとリーテン、帰ってからにしなさいよ。レイジが現実逃避を始めたじゃない」
リズベットに肩を叩かれ、意識が戻る。おい、せっかく辛いことを忘れようとしてたのに。頼むからこの辛い現実からエスケープさせてくれ。
「にしても、よくこんなに引っ掻き集めたもんだな。大したもんだよ」
「あー、それはね……」
リズベットはリーテンへ『どうする?』とでも言うように目配せしている。あ、なんか訳ありだなこれ。
「訳ありなら聞かないが」
「いえ、実は……」
リーテンが語るところによると、どうも無限湧きバグだったらしい。掘っても掘っても鉄鉱石が枯れず、バグの利用に良心が痛んでリズベットに連絡したらしい。
で、当のリズベットは『バグでもなんでも利用して強くなさい!』と一喝して今に至るようだ。リズベットらしい答えだな。
「ま、これが普通のゲームだったら眉を顰めるところだが……こんな状況だ。バグらせた運営が悪い。なんでも利用してやりゃいいじゃん。生き残りたいだろ?」
「ほら、アトラスのリーダーだってそう言ってるのよ? 妬みとかやっかみはあると思うけど、強くなった者勝ちなんだから!」
いぇい! と俺もリズベットはハイタッチする。現実逃避と意見の一致により、おかしなテンションになっているが気にしない。
リーテンも覚悟を決めたらしく、強く頷いていた。
「それならリズ、この鉄鉱石で私の鎧を作って!」
「え、私!?」
リズベットはわかりやすく動揺している。NPCの方がいいものを作れると断るが、一歩も引かないリーテンも流石だ。
俺は重量物のせいで耳を傾ける余裕がない。そろそろ脱水寸前だったから、水をがぶ飲みするのに大忙しでな。でも、そろそろ援護射撃くらいしてやるか。
「やっちまえよリズ。言い出しっぺの法則っていうだろ?」
「レイジまで……もう、どうなっても知らないからね!」
「やった! ありがとうリズ!」
「ついでに俺の武器も作ってくれ。そろそろ耐久値がヤバい」
感極まったリーテンがリズベットに抱きついている。いいね、目の保養だ。この厳しい世界にも優しさがあった。お陰で目の霞みが治ったよ。
・Combat stimulant injector SJ1 TGLabs
持久力、筋力、ストレス耐性を上げる赤い注射器。重いものを運べるようになり、ダッシュ可能時間も伸びる。
・Combat stimulant injector SJ6 TGLabs
スタミナ最大値と回復速度を上げる青い注射器。Shorelineのリゾートなど、激戦区を狙うPMCがよく使う。