Escape from Aincrad 作:リンクス二等兵
「ここか」
キリトが指定した店は俺が2番目くらいに目を付けていた店だ。裏道にある喫茶店だから、目に付きにくいと考えたのだろう。
いいじゃないか。こっちでも食い倒れと行こう。さっきのでかなり疲れてカロリーを使った気分だ。補給補給。
「そうですね、シバもこの店だって書いてます」
「じゃ、お先にどうぞ」
リーテンは密閉型ヘルムを外したままドアを開ける。その先にはキリトとアスナがいて、その対面には目的の男がいた。
短く髪を刈り上げた彼こそ、俺が良くDKBの窓口に使っているシヴァタだ。割と話が通じる人間だから重宝する。
「シバ、遅くなってごめん」
「いや、大丈夫だ。それよりこの2人がパーティに……」
どうやら俺に気付いたらしい。なんでここに、と驚いた顔で固まっていた。キリトめ、俺が来ること言ってなかったのか?
「よう、久しぶり。丁度彼女さんから聞き込みしてた所」
「れ、レイジ? ってお前、そんな堂々と!」
「わわ、レイジさん!」
「リーテンがだいぶ茶化してくれたからな。その仕返しと思いな」
慌てふためく2人を見たら少し胸がスッとした。コハルがジト目を向けてくるのが痛いし、アスナからも射殺さんばかりの冷たい目線が向けられる。胸部壊死寸前のダメージだ。アーマー貫通しやがった。
キリトは初めて知ったらしく、なんでやねんと頭を抱えていた。シヴァタとか、顔に出てわかりやすい部類だと思うんだがなぁ。
「キリト、どの辺まで話は進んだんだ?」
「パーティが芳しくない状況になってるとだけ。理由はこれから聞くところだった」
「奇遇だな、俺らも聞き出そうとしたら呼び出された」
俺とコハルの仲をリーテンに根掘り葉掘りされたのは伏せておく。さっきの一撃でチャラだ。
そういうわけで、リーテンは知りうる情報を話してくれた。
3日前、古参メンバーの1人がベータからの情報を入手したそうだ。かなりセンシティブな内容故に幹部での会議が行われ、リーテンはその内容を班長から伝え聞いたにとどまるとの事だが、重要な情報に変わりはない。
その情報というのが、5層ボスはギルド間のパワーバランスを崩壊させるレアドロップをするとのことで、性質的に共同管理も不可能だという。
それで、DKBに取られて吸収合併される恐怖からか、パーティをすっぽかしての単独攻略案をキバオウも承認せざるを得なくなったらしい。
「あのイガグリ、メチャクチャに見えて割と考えてる方だったからな。そういう理由なら合点がいく」
「レイジ、いつの間にキバオウさんと仲良くなってたの?」
「コハルが女子会行ってる間、俺のハイドアウトで飲み会してたんだよ。そしたらディアベルさんが連れてきて、まあ男同士腹を割って話したわけさ」
その際、休憩スペースLv3で追加されるセクシーなポスターを500コルで売り渡す約束をしたのは別の話だ。
「リッちゃん、そのアイテムってなんなんだ?」
「ごめん、シバ。そこまでは聞き出せなかった。これ以上は極秘って」
「そうだったのか……なあ、ベータテスターだったあんたなら知ってるだろ? 5層ボスの重要ドロップってなんなんだ?」
「え、ええ……!?」
シヴァタがだいぶ前のめりになってキリトへ詰め寄る。俺は優雅にお茶を啜るが、その耳はキリトへ向けていた。これはアトラスにも関わる重大事項に他ならない。
別にパワーバランスとかその辺はどうでもいい。俺たちPMCはいつの日か、SAOプレイヤーに追いつけなくなると共通認識を持っている。だから、ALSかDKBが強くなることに文句はないし、むしろなって欲しい。
問題視しているのは、そのギルド同士が対立してしまう事だ。健全な競争ならまだしも、こんな内輪揉めで死人を出されたら堪ったものではない。
「そりゃボス戦には参加したけど……目玉アイテムは両手剣だったな」
「それなら共同管理出来るはずだ。それに、そんなぶっ壊れ性能だったらギルド間どころかゲームのパワーバランスおかしくなるだろ?」
タルコフだって、ルートテーブルの関係でグレネードランチャーをLv1から持つことは可能ではある。でも、トレーダーが弾を取り扱っていなかったり、フリーマーケットでプレイヤー間取引も出来ないなど、バランスは取られている。
ボスの所持武器とて、PMCのフルカスタム武器に比べたらまあまあのカスタムだし。(部品が高額で取引されてたりはするけど)
「そこなんだ。そんなぶっ壊れというわけじゃ……」
そんな時、キリトに電流が走ったようだ。急に目を見開き、ワナワナと震え始めたのだ。誰もがそんなキリトの変化に驚きを隠せない。
「キリトくん!? 記憶が戻ったの!?」
「頑張れ、思い出すんだ!」
「キリトは記憶喪失じゃないからね!?」
やりたくなるじゃないか。アスナだってノリノリなんだぞ。
「フラグだ……」
「フラグ? 所有者だけに特別なフラグが立つのかしら?」
「死亡フラグ? 縁起悪いな」
「おいバカやめろ」
シヴァタよ、身に覚えがあるか? 後ろには気をつけることだな。マリモが生えてくるぞ。
「なら、旗の方かしら?」
「そう、それ!」
旗がそんなぶっ壊れアイテムだと? あまりイメージが付かないんだがなぁ。
「そんなに強いの?」
コハルも俺と同じ考えのようで、首を傾げている。旗でどうやって戦えと言うのか。
「武器としてなら、攻撃力最低のロングスピアに過ぎないさ。アレの真価は"ギルドフラッグ"だ」
何じゃそりゃ。あんまりイメージがつかない。旗なんて持ってたところで、撃ってくださいと言ってるようなもんだ。ナポレオンとか203高地じゃあるまいし、旗を掲げた旗手を先頭に突撃でもするのか?
「装備者がこの旗を突き立てると、半径15m以内のギルドメンバー全員にATK、DEF、対デバフのバフが掛かるんだ」
「なんだと……?」
「あー、俺たちにゃ無用の代物ってか」
驚くシヴァタたちとは裏腹に、俺は冷めていた。優雅に紅茶を啜り、スコーンを味わうくらいには落ち着いている。
SAOならともかく、俺たちPMCにはその辺のバフはあまり意味がない。対デバフだけは欲しいけど、食らったらそもそも死ぬから意味がないかもしれない。
だけど、SAOプレイヤー主体のDKBとALSにとってはそうでない。バランスブレイカーというかOPというか、ともかくぶっ壊れ性能だ。VectorとかMk47、グレポン実装時に近いかもしれないな。
さてどうしたものか。そんな最中に無線に呼び出しがかかる。リョーハの声だ。あいつ、何を焦ってる?
「リョーハ? どうした」
『メイベルが退却すると連絡を入れてきた!』
「退却? 弾切れか、どっか壊死しちまったか?」
『違う、全面敗走だ! 生きてはいるが戦闘は論外、Customsから脱出すると!』
「マジかよ、ブラックバーンが負けた? リシャラごときにか?」
『兎も角、本部に戻ってきてくれ!』
「すぐ行く」
何が起きた。確かにリシャラは通常のSCAVに比べればめっぽう強い取り巻きを従えているが、経験豊富なブラックバーンたちならば難なく対処できるはずだったのに。
「そういえばアルゴは? ついて行ってたのか?」
『いや、流石に戦力には不適格って事で、残って情報収集してたらしい。おかげで無事だ』
「ならよかった。キリト、すまんが先に戻る。払っとくから残りの話聞いといてくれ」
「わかった」
「行こう、コハル」
「うん!」
俺はコハルを連れて、急ぎ足でハイドアウトへと戻る。あいつらが負けたというのが信じられないのもあるが、何よりも安否が心配でたまらなかったのだ。