Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

33 / 83
5層-9 Customs

Level 17 BEAR Operator "Rage”

Aincrad layer5 "Customs”

 

 

 俺たちがスポーンしたのは木々の茂る場所。目の前には赤い税関倉庫があるからして、"Trailer park"スポーンのようだ。

 Customsは工業団地であり、様々な建物がある。ちなみに地図は上が南になっているから注意が必要だ。

 

 まずは俺たちのスポーンした東側、川を挟んだこの一帯は"Trailer park"と"Cross load"の2つの脱出地点があり、トレーラーパーク方面とかクロスロード方面、または湧きと言われる。

 

 ここの税関倉庫2階は鍵を開ければ金庫やPCケースがある他、特定のタスクで回収するアイテムがあるので、訪れるPMCは一定数いる。

 その上、ここでもたついていると付近でスポーンしたPMCと大喧嘩するハメになるので、俺は大嫌いな湧き位置だったりする。

 

「ここから一番近いボスの湧き位置は、寮か新建築ね。どっちから行くの?」

 

「まずは新建築。いなければガソスタだな。シノンの狙撃を活かせる場所で戦いたい」

 

「そこに湧くのかはボス次第だけれどもね」

 

 そう言いながらもSVDSをいじっているあたり、ボスを撃ちたくてたまらないのだろうな。ちゃっかり近代化カスタムまでしてあるし、結構気に入ってるだろ?

 

「コハル、今から行くところは開けた場所が多い。あまり物陰から身を出さないようにしろよ。但し、建物に入ったらガンガンやっちまえ」

 

「リゾートの時と同じだね」

 

 まーたアスナが魔法陣巡りを始めたので、俺とコハルも連れて行かれたついでにリゾート漁りに勤しんだのは記憶に新しい。

 大枚叩いてリゾートの鍵を揃えて、PMCと戦闘にならない環境でレアアイテム漁りをしたのは楽しかったな。

 

 おまけに、ダガーを手に入れたコハルは室内戦に滅法強くなり、入り組んだ建物で射線を遮っては、詰めてきたところに奇襲の一撃を仕掛けるという方法でサニターを倒していた。

 

 もうコハルだけでいいんじゃないか? そうは思ったが、野外ではやはり俺の方が強かった。まだやれるはずだ。

 

 ちなみにだが、リョーハはVSSを貰って早速使おうとしたものの、肝心の弾薬が貴重で手に入らなかったようだ。

 今は泣く泣くAKを使い、VSSはスタッシュの肥やしとなっている。涙拭けよ相棒。音速弾はいいぞ。

 

「それじゃ、俺はシノンの直掩につく。レイジはコハルとキズメル率いて前頼むぜ」

 

「改めて言わなくてもいいだろ」

 

「じゃねーと、いつの間にか俺が前衛に出てるからな」

 

「お前がバトルジャンキーなだけだ。俺もだけどさ」

 

 そうだ、俺もリョーハも戦いが好きなんだ。ギリギリの戦場を生き残り、時に出し抜いて敵を仕留め、その達成感に酔いしれていた。

 お陰様で、いつも戦術は攻撃的だ。ソロだとこうもいかないのにな。

 

「レイジは、この場所を知っているのか?」

 

 キズメルは不思議そうに俺を見る。ベータでここを走り回った、なんて言っても通じるわけがない。

 

「かつて契約戦争っていう争いがあって、その時にここで戦ったのさ」

 

「そうか、そうだったんだな」

 

 契約戦争自体は姉妹作である"コントラクト・ウォー"の話だが、タルコフと世界観は共通。というか前日譚みたいな感じのゲームだ。あっちもやりたかったなぁ。

 そんな風に、かつての戦争でここに来たって言う方が通じやすかろう。

 

「ほら、早く行こうぜ。シノンが暇で寝ちまうよ」

 

「分かってる。コハル、キズメル、離れるなよ。迷子になるからな」

 

「分かった。道案内は任せたぞ」

 

「またベルト掴む?」

 

「はは、それは室内戦の時にしてくれ」

 

 しっかりと鍵の類は持ってきているので、税関倉庫(通称"赤倉庫")のオフィスを漁ってみたが、金庫にはわずかな金しか入っていなかった。金目のものが出るときは出るんだけどな。

 そんなわけでさっさと移動する。税関エリアと工場地帯は川に隔てられており、中央には橋、南北にそれぞれ瓦礫の橋や浅瀬があって渡れるようになっている。

 

 その中でも北側、道路を封鎖する壁や放置された戦車がある"RUAF Roadblock"を川向こうから観察する。あそこは逆サイドスポーン時の脱出地点である他に、SCAVのスポーンポイントでもあるのだ。

 

「リョーハ、スポットよろしく」

 

「あいあい。早速装甲車から左に10メートル道路上、オリンピックジャケットのSCAV」

 

「見えたわ」

 

 肩が赤いオリンピックジャケットを着たSCAVは比較的見つけやすい。たまに迷彩服のようなツナギを着た奴がいて、そいつは恐ろしく見つけにくいことがある。SCAVもそれぞれというわけだ。

 

「距離100メートル」

 

「了解」

 

 シノンはしゃがむと僅かに息を吐き、それを止める。次の瞬間には甲高い銃声が響き、道路上でジャケットとは違う赤が見えた。頭に命中したのだろう。

 

「キル確認。続いて右5メートルの土手中腹、茶色のがいる」

 

「アレね」

 

 よく見つけたな。あんまりにも目立たないから見逃してたぞ。

 何がどうあれ、シノンに見つかったからにはもう終わりだ。探知範囲外から必殺の一撃を頭にぶち込まれ、SCAVは土手を転げ落ちていった。

 

「ナイスキル。道路上はクリアで、茶色工場屋根にスナイパーSCAV。距離250メートル」

 

「あら、今日は湧いてたのね」

 

 Customsは特定の位置にスナイパーSCAV(エリートSCAVとも)がスポーンする。WoodsやShorelineにもいるにはいるが、こっちの方がスポーン位置が多い上に、必ず目につくような位置にいるから分かりやすい。

 

「当てれるか?」

 

「誰に言ってるの?」

 

 静かに一言を告げ終えて、その刹那にSCAVは崩れ落ちた。言葉を掻き消すような銃声だけが場を支配する。

 一方的な殺意に、SCAVは手も足も出ない。

 

 タルコフでの交戦距離は50メートル以内の至近距離が殆どだ。建物や木々などの入り組むマップで、キロ単位の長距離狙撃はなかなか起こり得ない。そして、目標は動き回るから中々当たるものではない。

 だからこそSCAVもPMCも、長距離からの狙撃に対しては無力なのだ。

 

「レイジ、今日は出番なしだね」

 

「いつもこれならいいのにな。ま、リゾートでは活躍出来なかったから鬱憤溜まって……うおっと!?」

 

 シノンが緑茶の空き缶を投げつけてきた。咄嗟にそれをストックで弾き飛ばした後には、何食わぬ顔でそっぽを向かれていたけど。

 やっぱリゾート内で本領出せなかったの気にしてるだろ。

 

 それにしても、高倍率スコープ付きとはいえこの距離を全弾ヘッドとは大した腕前だ。どんな腕前してるんだよ。オートエイムよりも強くないか?

 

「対岸クリア。レイジ、渡河しろ。援護する!」

 

「お前この距離当てられねーだろ! まあいい、コハル、キズメル、着いてこい!」

 

 リョーハはAK-74Mに等倍率のホログラフィックサイトしか載せていない。この距離を撃つのは厳しいだろうし、高倍率スコープがあってもアサルトライフルの精度でこの距離の精密射撃は難しすぎる。

 実際、それをサポートするために作られたのがドラグノフ含むマークスマンライフルなのだ。この運用は正解といえよう。

 

『今のところは大丈夫だけど、倉庫周り気を付けなさいよ。私からは死角だからね』

 

「わーってる。コハル、キズメル、離れるなよ」

 

「うん、背中は任せて」

 

「心得た」

 

 浅瀬を駆け抜け、一気に道路へ上がる。周辺を見ても敵影はないので、道路脇の小さな倉庫裏まで進んでみる。

 すると、聞き慣れたロシア語の罵声が飛んできた。もちろん答えるのは銃弾だ。声の方に数発発砲すると、悲鳴と共にSCAVが倒れる。一丁上がりだ。

 

「倉庫裏でワンキル。上がってきていいぞ」

 

『オーライ、そっちに向かう』

 

 付近を制圧し、安全を確保してようやくリョーハとシノンがやってくる。ここらのSCAVの湧きはこのくらいだ。少し一息入れられるだろう。

 

「レイジは随分と手際がいいな。敵に出会っても落ち着いて対処する、いい戦士だ」

 

「よせやい、慣れてるだけさ」

 

「やったのはほとんど私じゃない。次は1人で捌いてみなさいよ」

 

 やってきたシノンは氷のような目線で俺を貫いている。クラス4さえブチ抜く貫通力で、中々ダメージがでかい。胸部が痛むような感じがする。

 リョーハの野郎は楽しそうに見つめていやがる。この野郎、助け舟の一つ出してくれよな。

 

「次はソロでも暴れてやるさ」

 

「もう、シノンはレイジを煽らないでよ。本当に1人で行っちゃうから!」

 

「レイジなら死なないでしょ」

 

「死んでないだけで、何度も死にかけてるの!」

 

 コハルは心配性だな。その原因の俺に言えた義理ではないんだけど。

 

「まーまー、シノンは俺が褒めるからヤキモチ妬くなよ」

 

「妬いてないし、リョーハに褒められても何だか微妙」

 

「ひでえ!」

 

 うん、シノンはリョーハをイジって楽しんでるだけだな。だって、肩を落としている姿を見て楽しそうに笑ってるんだ。お前らもう付き合ってるだろ?

 

「ほら、痴話喧嘩はそこまでだ。そこのインテリ棟を経由して新建築に向かうぞ」

 

「痴話喧嘩じゃない!」

 

 シノンの蹴りが俺の膝裏を襲う。急な膝カックンに、俺は力なく崩れ落ちた。それに倒れ方が悪かったな。体を捻ったせいでコハルを見上げるような感じになって……うん、中が少し見えてしまった。

 

「ちょっと、レイジのエッチ!」

 

 コハルは咄嗟にスカートを両手で押さえて飛び退く。顔は真っ赤で、混乱のあまりオロオロしていた。かくいう俺も不可抗力とは言え、混乱状態だ。

 

「すまねえ、事故事故事故!」

 

「事故で済まないよ!」

 

 シノンとリョーハが爆笑してやがる。後できっちりお礼参りするとして、コハルに許してもうために5分ほどの時間とスイーツ巡りの約束を要する事となった。




・Customs
 Factoryに隣接する大規模産区画。序盤のタスクが集中するマップであるため、ワイプすぐはかなり混み合うマップである。
 リワーク後に追加された建物は旨味の塊であり、初心者の他にガチムチまでが集うマップである。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。