Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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5層-12 守りたいもの

「落ち着いたか?」

 

 何分くらい泣いていただろう。ようやくスッキリしたのか、シノンはそっと俺から離れていく。泣くのはストレス解消になるって言うし、何がともあれ回復したならヨシ!

 

「ええ……ごめんなさい、八つ当たりして」

 

「そういうのも俺の役目ってわけさ。どうする、帰るか?」

 

 レイジたちが追跡ついでに電源を再起動してくれたらしい。お陰でここの脱出ポイント"ZB-1013"が使用可能になっている。後は俺が工場出口の鍵で地下の扉を開ければ脱出可能だ。

 それでも、シノンは首を横に振った。傍らのSVDSを手に、その目を再び凍りつかせて。

 

「やるわ。守ってくれるんでしょう?」

 

「お前が突っ込まなきゃ守れる。レイジたちはガソスタでリシャラを捕捉してるようだから、俺たちは山上からの狙撃で支援する。いいな?」

 

「ええ」

 

 レイジにも攻撃を待つよう言わないとな。奴ならたった1人で暴れ回る。そんな風にしちまったのが俺なわけだし、死なれたら寝覚が悪すぎる。

 

 善は急げとAKを手に、俺はシノンの前を行く。進路上のSCAVは既にレイジが轢き殺した後のようで、持ち物も漁らずにさっさと進んだようだ。

 

「相変わらず、リョーハの相棒はすごい暴れぶりね」

 

「アイツ、元々はマークスマンだったんだぜ? シノンほどじゃないが、中々腕が良かった」

 

 シノンの表情が少し動く。意外だと言わんばかりで、猫がフレーメン反応起こしたみたいな顔だな。

 

「今じゃ突撃役じゃない」

 

「俺がそうさせた。アイツがいつも死にかけるのは俺のせいだ」

 

 シノンはさらに驚いたような顔をする。俺にはその視線が痛い。まるで罪を糾弾されているかのような、そんな気分だ。

 

「どうして、そうなるのよ」

 

「ベータの時だ。いつも俺が突っ込んでやられて、レイジが狙撃で敵を始末してた。それで段々、俺ばかりこんな負担をするのが嫌だって思うようになっちまって……」

 

 元のタルコフは死ねばアイテムをロストする。保険をかけていれば返ってくる可能性もあるが、確実ではない。それに、戦利品をロストしてしまうし、弾薬などの消耗品に保険はかけられない。死ねば必ずマイナスだ。

 だから、突っ込む俺が悪いのだが、レイジを妬むようになっていった。最高の友でありながらも。

 

「それで、レイジにも突撃させた?」

 

「最初は軽く、前衛を代わってもらう感じだった。信じられるか? アイツ単発武器なのに突撃して、しかも敵を食い殺して帰ってきやがった」

 

 アレはマジでおかしい。肝が据わっているなんてレベルじゃない。ゲームとはいえ、死ぬことのリスクが大き過ぎて怯える奴は多い。それなのに、アイツはいつも勇気というにはまた違うような胆力を見せ、生きて帰ってくる。

 

「それで味を占めたんだろうな。DMRからアサルトライフルに持ち替えたかと思うと、いつの間にか連携が出来てきた。俺が正面、奴がサイド。まるで狼の狩りさ」

 

「いいじゃない。それでレイジは文句言っていないでしょう?」

 

「デスゲームにならなければ、気楽に思えたのにな」

 

 アイツの突っ込み方には俺が一番ヒヤヒヤしてる。きっと、コハル以上にだ。アイツがそれで撃破されたところを何度も見ていて、それがフラッシュバックする。

 

「なら、死なないようにリョーハが守ればいいじゃない。私のことも、守ってくれるんでしょ?」

 

「幻滅しないのな」

 

 意外だった。自分の欲とか嫉妬とか、そういうもののためにレイジを危険なポジションに転向させて、普通なら幻滅されてもおかしくないのに。

 シノンはどうして、とでも言いたいように首を傾げていた。

 

「だって、凄く楽しそうじゃない。コハルと一緒に突っ込んだり、リョーハと暴れまわって笑ってるのよ? 元々性に合ってたんでしょう。遅かれ早かれ、ああなってたわ」

 

「そう言ってもらえると気が楽だ」

 

 後で本人に聞いてみようか。それで、楽しいって言ってくれればもう悩まなくて済むんだろうな。

 

「そういうリョーハは怖くないの? 今も私の前にいて、敵がいたら撃たれる位置よ」

 

「全然。ソロじゃねえからな」

 

 例え負傷してもカバーしてくれる味方がいる。それが何よりも心強い。だから、俺はどれだけでも前に出て戦える。

 そう答えると、シノンは笑っていた。俺、何か変なこと言ったかな。

 

「やっぱり、あんたもレイジも似た者同士ね」

 

「どういう事だよ」

 

「そのままよ。2人とも前衛で戦うのが楽しそうで、よく仲間を信頼してるじゃない」

 

 ああ、そうか。俺もレイジも、なんだかんだこのデスゲームを楽しんでるのか。

 リアルで手に入らないものがなんでも手に入るから、俺もすっかりこの世界に馴染んでいるのかもしれないな。

 

 

 工場地帯を抜けて軍事検問所のSCAVどもを蹴散らし、ガソリンスタンドを見下ろす岩場に着いた。工場地帯と並行して伸びる道路、その途中にあるこのガソリンスタンドはボスのスポーン場所の一つだ。

 

 そのガソリンスタンド裏手に目標のリシャラはいた。生き残りの取り巻き1人を連れて、何かを待つように。

 俺はシノンの傍に腰掛け、後方警戒。シノンはテラス状に迫り出した岩の上で狙撃態勢を整え、レイジの指示を待っていた。

 

「後方クリア。シノン、そっちは?」

 

「リシャラのところに誰か……フォールンね」

 

『シノン、リシャラが秘鍵を渡そうとしたら狙撃しろ。で、フォールンに奪わせるなよ。奴をやったら、俺たちもすぐに突入する』

 

「分かってる」

 

 決戦みたいな雰囲気だけど、これもボス討伐のための情報収集でしかないんだよな。フロアボス相手にしたくらいの疲労感だぞ。

 

『奴ら話し始めたな。フォールンが1人いないのが引っかかるが……』

 

 確かに、あの悪知恵の働くネズミはもっといたはずだ。後の奴らはどこに行った?

 

『秘鍵が渡れば取り返す術がない。レイジ、やってしまおう』

 

 キズメルは突入してフォールンを仕留める自信があるのだろう。リシャラさえ始末すればどうにでもなる。後はシノン次第というわけだ。

 青いトタンの上から顔だけが見えている。距離は75メートルと言ったところか。100メートルはないが、少しズレただけでも外れる距離。

 

『シノン、そっちのタイミングでやれ』

 

「射撃許可だ。シノン、任せた」

 

 微かに葉擦れの音がした。斜面の上に銃口を向けるが、何もいない。

 そんなわけあるか。俺のSordinヘッドセットがバグったわけがない。低音を聴きやすくしたこいつは足音がよく聞こえるんだ。

 

 何かが忍び歩きをしてやがる。来る!

 

「そこか!」

 

 咄嗟に飛びついてきた影に銃撃をするが、近過ぎた。だから銃を槍か杖のようにして、片手剣を防ぐので精一杯だ。

 鈍い金属音がして、AKは耐久値と引き換えに俺の身を守ってくれた。目の前にいるのは緑の肌をしたエルフ。フォールンめ、こんな所に隠れていやがったのか!

 

「人族の武器なら、ここから狙うと思ったぞ!」

 

「洒落せえ、大人しくくたばれ!」

 

 前蹴りを腹にぶち込み、距離を取る。腰だめでトリガーを引くけど不発。1発目から作動不良とか運がねーな!

 

「リョーハ!」

 

 シノンが振り向いている。このままだと、狙撃そっちのけで俺の援護に来るだろう。そうなれば、また奴を逃してしまう。

 そうなってなるものか。

 

「こいつは俺が仕留める! 振り向いてねえで狙撃しろ!」

 

 撃てないのをいいことにフォールンが突っ込んでくる。

 何も銃だけが武器じゃない。タクティカルトマホークを抜き放ち、その片手剣を弾いて左手で拳を叩き込む。碌なダメージにはならないが、怯ませられれば御の字だ。

 

 蹴り、体当たりと絶え間なく攻撃を仕掛けると、奴は俺に組み付いてきた。なら、地獄までお供願おうか。

 

『リョーハ、フォールンに絡まれて動けねえ! お前らでリシャラを仕留めろ!』

 

 プレストークスイッチも押せない。だから、俺には叫ぶしか残されていなかった。全ての希望を託して。

 

「撃て、シノン!」

 

 それだけ言い残し、俺はフォールンごと岩場から転がり落ちた。骨折とか大ダメージを受ける高さじゃない。あとは、運に身を任せよう。

 響き渡る銃声を聴いて、満たされた気持ちだ。嗚呼、いい銃声だよ。

 

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