Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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5層-18 怒りのままに

「クソ、イカレたか? いや、元からか!」

 

「動き回ってんだぞ、各個射撃でいいんじゃないのか!?」

 

 嗚呼、煩い。勝手に祭り上げたのはお前らだろ。なら従いやがれ。さもなきゃまとめて死ぬぞ。

 

「レイジ……」

 

 コハルにはただ手を差し出し、言葉を制する。

 

「キリトの方に行ってやってくれ。人手がいる。確実にボスを止めてやるから、必ず仕留めてくれよ」

 

 振り返らない。もしコハルの顔を見たら、この怒りが収まってしまいそうだから。今でなければ、俺は戦えない。そんな気さえしている。

 

「……死なないで」

 

「ああ」

 

 コハルの足音を聞きながら、俺は思考を巡らせる。60秒後に統制射撃。それがいい頃合いか。

 思考が加速する。目まぐるしく変わる状況に対応しようと、俺自身が適応しているのか。今ならば、ボスの攻撃さえも全て見えているような気がする。

 

「バラバラに撃っても効率が悪い。ならば一気に火力投射でスタンさせて、間伐入れずにアタッカーを突っ込ませる。異論ある奴は出てこい。俺に喧嘩売る実力あるならな」

 

「……何が命知らず(デアデビル)だ。ただの悪魔(デビル)じゃねーか。いいぜ、メイベル! 再装填完了次第ボスを狙え! レイジのタイミングに合わせろ!」

 

 ブラックバーンの号令でメイベルは動く。それでいい。扇動PKのスパイがアトラスに入り込む余地がないのはひとえに俺やリョーハの影響力だ。

 共に戦い、時に殺し合い、その実力を知っている。だからこそ、任せてくれる。最後は俺の決断一つで動く。だから、煽っても俺が一蹴すればそれまで。

 

 行くと決めたなら、どこまでも行くだけだ。

 

「射撃用意! キリト!」

 

「聞こえてたぜ! こっちのアタッカーはいつでも行ける!」

 

「15秒後に行くぞ」

 

 ボスの攻撃パターンももう見慣れた。次に最後の拳がすっ飛んできて、それをタンクが抑える。その瞬間、ボスの動きがわずかに止まるタイミングがある。

 それは、鈍い金属音と共にやってきた。動いていたボスの額が僅かに止まり、いくつかのレーザーサイトがその紋章を捉えた。

 

「撃て!」

 

 たった一言。それだけで無数の銃声が響き、曳光弾が空間を切り裂く。その曳光弾の数倍の弾丸がボスの弱点へ殺到して火花を散らす。

 外れるのは想定内。そのための火力だ。これだけ撃てば数発は当たる。

 

 いい感じに有効打が入った。ボスが怯んで攻撃が止まる。ならば次だ。

 

「やれ、キリト! アトラスはリロード、次の統制射撃に備えろ!」

 

「タンク、スイッチだ!」

 

 ソードスキルが放つ光、それはまるで流星のように降り注ぎ、ボスから赤いガラス片のようなエフェクトが飛び散る。

 その中でも一際目立つのがキリトとアスナ、ユウキ、そしてコハルだ。緑の流星がボスの腕を駆け上がり、放たれた矢のように鋭く額を貫く。

 

「射撃用意! 1発カマして、アタッカーの離脱を援護する!」

 

 ボコボコに殴られたボスのヘイトがアタッカーへ向かう。だが、判断を誤ったな。

 

「撃て!」

 

 一斉射撃がボスを怯ませる。その僅かな時間でも、アタッカーを離脱させるには十分だった。そうなれば今度はヘイトがこっちへ向く。最初からそうすれば、1人2人持って行けたかもな。

 

「レイジ、下がってくれ!」

 

「後退しろ! 残弾が少ない奴はさっさと予備弾薬取ってこい!」

 

 シヴァタが間に割り込み、ボスの攻撃を受け止める。後は最初と同じだ。タンクがヤバくなる前に俺たちが一斉射撃でボスをダウンさせ、アタッカーを突入させる。

 上手くハマった。このサイクルでボスの体力をどんどん削っていく。弱点へのボーナスダメージがあっても、銃弾のダメージなどたかが知れている。1番の強みは高いところの弱点を狙えることだ。

 

 そんなサイクルで戦い続けて、ボスのHPバーは後僅かにまで削れていた。そろそろトドメと行こうじゃないか。

 

「レイジ、来るよ!」

 

 まっすぐ拳が飛んできた。そろそろヘイトがこっちに向く頃だったし丁度いい。

 

 来やがれ、最期を飾ってやる。

 

「わっ、レイジが突っ込んだ!」

 

 ユウキの声を置き去りにして、PMC共の声も聞き流し、俺は拳に向かって突っ込む。

 接触の瞬間、横に跳ねる。PC版の頃には出来なかった動きだが、VRになった今はできる。重力とか物理法則には縛られるけども、基本的に人間に出来る動きは大体できるわけだ。

 

「やられたぞ!」

 

「いや、ギリギリですれ違った! なんつー度胸だ!」

 

 ああ、角度次第では直撃に見えただろうな。こんな程度じゃやられねえよ。

 もう少し踏み込む。死にギリギリまで近付け。そして、その刹那に活路はある。

 

 ここだ。腕との僅かな隙間、顎をカチ上げるように撃ち上げれば当たる。

 

「死ねクソ野郎が!」

 

 AKが吠える。ハイダーからマズルフラッシュが噴き出し、高い貫通力を誇るイゴルニクがボスの弱点を穿つ。60連マガジンだ。たっぷり喰らえ!

 

 後少し、後少しで奴はスタンする。そんな時に射撃が止まった。弾切れには早すぎる。となれば答えはひとつ。故障だ。

 

「クソが、ジャムった! この役立たずが!」

 

 チャージングハンドルを引けばまた射撃できるようになるが、その前に拳が降り注ぐ。

 

 走って逃げられるか? ダメだ、咄嗟のことで足が動かない。

 ピストルにスイッチ……間に合わない。ナイフかトマホークは当たるわけがない。

 

 詰んだ。怒りのあまり冷静さを失った。せめて相討ちにでも持ち込めればよかったのに。

 

「レイジ、しゃがんで!」

 

 疑問を持つよりも早く、何をするのかと聞くよりも早くその場にしゃがむ。膝を曲げるだけ。それだけならば走り出すよりも簡単に出来た。

 背中に重みと衝撃が加わる。ボスの拳よりは軽く、それでいて小さな設置面。コハルの足か。

 

 俺を踏み台にしたらしい。それでもボスの頭はまだ遠いぞ、どうするつもりなのだろうか。そう思って少し顔を上げると、その手にはダガーではなくレイピアが握られていた。

 緑の光を纏い、ジャンプの頂点で更に加速する。リニアーとかいうソードスキルだったか。前方へ加速して一撃を繰り出す初期の技だが、システムアシストで物理法則を捻じ曲げる事さえ出来る。アスナから習ったかな?

 

「これで、倒れて!」

 

 ガラスの砕ける音がした。レイピアの先端がボスの弱点を突き、大きくのけぞらせたのだ。倒し切れはしなかったが、おかげで助かった。

 

 コハルはゆっくり落ちてくる。対してボスはノックバックしてコハルと距離が空いた。

 チャンスを逃すものか。ポケットのF-1グレネードを取り出し、それを投げつける。狙うはうめくボスの口。SAOプレイヤーさえ即死させるこれを食らって、耐えられるような体力じゃなさそうだ。

 

「パイナップルを召し上がれ!」

 

 口の中でグレネードが炸裂する。あまりの大ダメージにボスが大きく仰け反り、誰もが撃破を期待した。俺だってそうだ。

 でも、ほんの僅かに耐えやがった。あとドット一つ分、そんな僅かに残ったHPで、奴はその拳を振り下ろす。

 

 その攻撃範囲にいるのは俺とコハル。俺に到達する前にコハルを跳ね飛ばし、その次に俺を殺すだろう。

 故障は直した。それでも射線にコハルが被って射撃不能。あと少しだったのに、今度こそやられたな。

 

 コハルは耐えられるだろうか。彼女が生きていてくれればそれでいい。きっと終わってから泣くだろう。戦う意思を失うかもしれないけれども、後のことはリョーハたちが何とかしてくれるだろうから。

 

「距離50、修正不要だど真ん中で撃て!」

 

 甲高い銃声が石で出来たフロアに響き渡る。俺とコハルを殴りつけるはずだった腕の動きが止まり、ボスが叫び声を上げた。

 それは頭が割れそうなほどの断末魔で、聴覚が破壊されそうなほどに響き渡る。誰もがよろめき、ボスに目を向けた。

 

 あれだけ暴れ回ったボスの断末魔は次第に小さくなり、浮かんでいた頭部が床に転がり落ちる。ズシンと大きな音とともに、立っていられないほどの振動が起きた。

 転倒したけれども、もう焦って立ち上がろうとする奴はいない。ボスは斃れたのだ。宙に浮かぶ「Congratulations!」の文字が俺たちの勝利を教えてくれていた。

 

 ボスの断末魔に変わって響き渡る、割れんばかりの歓声。感極まったコハルが抱きついてきて、俺はようやく我に返った。憤怒に身を任せ、冷たく冷えていた心に熱が戻ったような気がする。

 

「レイジ! よかった……」

 

「すまんな、心配かけた。おかげで助かったよ。あと、シノンもな」

 

 俺とコハルが目を向けた先では、シノンが構えを解いていた。しゃがむリョーハはまたしても台座になっていたのだろう。

 ボスは攻撃のために動いていた。その動きを読んで、弱点に立った一撃。針の穴を通すような狙撃を繰り出し、トドメを刺してみせたのだ。今日の大金星だろう。

 

「当たり前じゃない。私が外したことあるかしら?」

 

「俺は見たことねーな。ずっとスポッターやってる俺でそうなんだ。レイジが見たことあるわけねーだろ?」

 

 ははは、と笑うリョーハに釣られて笑ってしまう。どうやら、俺たちは今回も死神に見放されたらしいな。

 

「レイジ」

 

 今度はキリトだ。神妙な顔をしているあたり、俺と同じことを考えているのだろう。

 

「PMCの損耗はなし。SAO隊は?」

 

「1名行方不明。死者はなし」

 

「ディアベル……こっちの部隊を出して捜索、救難に当たる。あの人は死なせちゃならないからな」

 

 あの落とし穴があった場所は跡形もなく消えてしまった。転がるレイダーの死体にはPMCが群がり、山分けが始まっていた。俺は、あの中に混ざる気にはなれずにいる。

 

「そうだな……それと、フラッグはどうする?」

 

「考えがある。他の連中は先に戻らせて、俺とキリトだけ残ろう。上の層の転移碑から5層に戻らせれば、ALS とは鉢合わせずに済むはずだ」

 

 さーて、ここからは苦手な政治の時間と行こうじゃないか。一応、考えはあるからな。




・ジャム
ジャミング、弾詰まり。銃は精密機器である以上、汚れや摩耗、弾の不良など、様々な理由で射撃サイクルに影響が出て詰まってしまうこと。タルコフでも一定確率で発生するほか、耐久値が減った銃は詰まりやすくなってしまう。

・前回のリョーハ
実は、盾になるシーンには元ネタがある。気になる人は「エスケイプ・フロム・イラク」の予告編、または本編を見てください!
ちなみに、死体など人体を盾にするというのは本当に有効な手段だったりする。
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