Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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SAOIFの61層で早速心が折れかけております。
PoHの隠れ家にネプチューン・スピア作戦をやるしかないか…?


5層-20 守りたかったもの

BEAR Operator”Ryoha"

Aincrad “Hide out”

 

 

 ようやくパーティも終わり、帰ってきたハイドアウトが懐かしくも思える。ベッドに転がると、マットレス直引きよりはマシな寝心地だった。

 年越しをこの地で迎えるというのはまた感慨深い。始まってまだ2ヶ月とかだし、かなりハイペースで進んでいるようにも思えるしな。俺はもーちょいここで生きていてもいいんだけどよ。みんな生き急ぎ過ぎだ。

 

 寝る前にもう一杯飲んでおこうか。どうせ酔わねえし。そう思ってウォッカに手を伸ばすと、ハイドアウトのドアが耳障りな金属音を響かせた。

 はて、レイジの野郎はコハルとイチャついてる頃合いだし、わざわざ俺を訪ねる物好きもおるまい。誰が来た?

 

「リョーハ、起きてる?」

 

「シノンか?」

 

 この気まぐれ猫は何をしに来たのだろうかと思えば、プレートキャリアを脱ぎ捨ててソファーに腰掛けた。俺のハイドアウトなのに、自分の家のようにくつろいでるな。あんま無防備なところを見せるな。コンバットシャツが体にぴっちり貼り付いてるぞ。

 こんな時間に何をしに来たんだろう。ボス攻略直後のパーティだし、いい加減疲れて寝てると思ったのだが。

 

「ええ。まだ言ってなかったでしょう」

 

 何をだ、そういう前にウィスキーの瓶が差し出され、俺はそれを受け取る。はて、どういう意味かと理解するより先に、彼女はテーブルのウォッカを手に取った。嗚呼、そういうことか。

 

「明けましておめでとう」

 

「おめでとう。あと乾杯」

 

 キン、と軽く瓶を重ね、一気に呷る。どうせ酔わないのだからいくら飲んでも問題あるまい。現実なら、少なくともシノンはアウトな年齢だろうけど。

 

「圏内ならデバフも気にならなくていいわね」

 

「そもそも、圏外で飲む奴いるか? 鎮痛剤代わりに使うのも稀だろ」

 

 鎮痛効果があるとはいえ、デバフが酷すぎる。フィールドで飲む奴なんで見たことない。あ、ウォッカに即死効果がつくイベントの時、飲んで遊んだ仲間がいたな。5%のはずの即死確率を引き当ててたっけ。

 

「だから、こういう息抜き用ってわけね」

 

「まともにタルコフだった頃は考えもつかねーような使い道だな」

 

「本当よ。どうしてこうなったのかしらね」

 

 シノンはクスリと笑って俺を見ている。いつもはクールに無表情を貫いているのに、今日はどうしたって言うんだ。

 そう思っていたら、シノンはさりげなく俺の隣に移動してきた。おい、本当にどうしちまったんだ。酔っ払ってるのか?

 

「これはこれで楽しいけどな。ずっとここにいてもいいかも、なんて思ってるくらいだぜ?」

 

「そんなこと言ってていいの? リアルの時間が少しずつ削れてるのよ」

 

「ゲーマーとしては願ったり叶ったりだろ。それに、どーせクリアしても学業は遅れ、社会に出れば腫れ物扱いになるだろうさ。そんくらいならここで死ぬまで生きていたいね」

 

 どうせ大学は休学扱いか退学だろうし、もういっぺん受験戦争に飛び込むのはごめんだぜ。レイジの野郎もそう言っていたしな。

 そんな事をボヤいてみたら、シノンがキョトンとした顔で俺を見ていた。本当に今日は表情がよく変わるな。可愛いとこあるじゃねーか。

 

「大学生だったの……って、リアルの詮索はマナー違反よね。忘れて」

 

「構わねえよ。たまにはそんな昔話もいいだろ?」

 

 正直、キャラネームが本名のアナグラムじゃなければ、今頃自分の名前もわからなくなっていた頃だろうな。俺はBEAR所属のPMCオペレーターで、ずっと昔からこの地に生きてきたとさえ思っていたかもしれない。

 

「……ねえ、リョーハはどんな風に生きてきたの?」

 

「どうもこうも、平々凡々な大学生だよ。親の言うまま勉強して受験受けて、時折ゲームとかサバゲーやってたよ。鬱憤払しにちょうど良かったし、非日常が味わえたからな」

 

「人を撃つことに抵抗はないの?」

 

「実弾じゃないし」

 

 正直、タルコフをやっているうちに人を撃つことへの抵抗をなくしていったような気がする。俺がトリガーを引くと血飛沫が舞い散り、人が倒れていく。

 リアルの殺しとなんら変わらない。それを繰り返して、俺はきっと麻痺してしまったのかもしれない。もしかしたら、オレンジプレイヤーくらい躊躇なく撃てるのかもな。

 

 すると、シノンが俺の肩に頭を乗せてきた。本当にどうしたんだか。随分可愛らしくなったじゃないか。

 

「……気をつけなさい。人を一度撃ったら最後、戻れなくなるわ。後悔するわよ」

 

「ああ。でもその時は撃つぞ」

 

「苦しむわよ。人を殺すのは、思ってる以上に辛いことだから」

 

 まるで、知っているとでも言わんばかりだな。トカレフの件と言い、点が繋がるような感じがする。でも、詮索はしなくていい。彼女の心配は受け取っておくとしよう。

 

「ありがとよ。でもさ、仲間が殺されるくらいなら俺は殺す。きっと、それはそれで苦しむだろうさ。だから」

 

 言葉を切った。少しだけシノンの顔を見ると、次の言葉を待つように、覚悟を決めた目で俺を見ていた。

 

「その時は、俺の手を握ってくれるか?」

 

「……ええ。リョーハは私のスポッターでしょう? 最後まで一緒よ」

 

 スナイパーとペアであるスポッターは、スナイパーの罪悪感を共に担うという。俺が背負わなきゃならないのに、シノンに背負わせちまうのは心苦しいもんだ。

 でも、どこか安心できる。レイジと背中合わせに戦うのとは違って、戻ってくる場所があると言うような、そんな感覚だった。

 

「明日から、ここに引っ越すわ。危なっかしいからそばで見ていてあげる」

 

「おいマジかよ、俺のプライバシーはどこ行った?」

 

「風に吹かれて飛んでいったわよ。弾って意外と横風で逸れるんだから」

 

「俺のプライバシーは10グラムしかねえのかよ」

 

 まあでも、シノンが側にいる生活も悪くないような気がする。この気まぐれ猫みたいな彼女がいるだけで、少し楽しくなるだろう。

 コハルと共同生活しているレイジも、そんな気分なのかななんて思ってみる。あの野郎、どうしてまだ正式に付き合ってねえんだ。あ、さっきタチャンカが邪魔したからか。

 

「ほら、これあげるから機嫌直しなさい」

 

「機嫌悪くねえ……っておい、これまさか」

 

 シノンが差し出してきたのは銃。やけにぶっとい銃身に、全体がほっそりというかなんだか歪な印象がする。AKに似たようでなんか違うと違和感さえ覚えるそれは、俺が探し求めていた代物だった。

 

「AS-VALじゃねーか!? どこで拾った!?」

 

「ラストアタックボーナスの一つよ。使わないからあげるわ。ベータの時、それ使っていたでしょう?」

 

 覚えていてくれたのかよ。シノンさんマジ女神。

 

「マジかよ、新品価格10万コルは下らねえと思うぜ……何かお礼したいんだけど」

 

 AS-VALを受け取ろうと手を伸ばすけども、シノンはヒョイとそれを高く掲げてしまった。無理矢理取るには取れるけれども、そんな真似ができるわけがないだろう。

 

「ならば、約束して」

 

 一体どんなお願いをされるんだ。シノンのことだから無茶振りをかまされるのも覚悟の上だ。

 

「この銃を撃つたび、私の事を思い出して」

 

 差し出された銃と、真剣なシノンの顔に気圧された。まるで告白のような言い方だが、原因は俺が死にかけたことにあるのだろう。

 私を思い出せ、死んで欲しくないと思う人間がいる事を忘れるな、そう言われているように感じたのは俺の思い上がりだろうか。

 

 銃を握る。すると、シノンは一度手を離して、包み込むように手を重ねる。俺の手よりも小さい手なのに、どうしてこんなにも大きく感じるのか。

 

「約束する。このゲームが終わるまで、俺は忘れないさ」

 

 もし壊れて使えなくなったとしても、パーツを移植して使い続けるだろう。銃のスペックは変わらない。やろうと思えば、こいつで最後まで戦い抜けるだろう。

 

 微笑むシノンを前にして、俺は頷いた。




・AS-VAL
 VSS Vintorezと同時期に開発された特殊消音小銃。銃身のほとんどを覆うサプレッサーが特徴的で、VSSと共通の専用弾9×39mm弾を使用する。
 ほとんど銃声がしない上に、高い発射レートと威力、貫通力を併せ持ち、あまりにも猛威を振るったためナーフされた。それでも強武器であることには変わりない。
 デメリットはコスパの悪さ、マガジン容量の少なさ、亜音速弾ゆえに弾道落下の大きさにある。
(レイジはこの銃の扱いが苦手であり、使い手に辛酸を舐めさせられたのでVSS共々毛嫌いしている)
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