Escape from Aincrad   作:リンクス二等兵

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11層-0 憤怒の目覚め

 俺は言われるままに生きてきた。それが正しいのだと、親の言う道が正解の道で、自らの意思は必要ないのだと信じ込まされてきた。

 全てを切り捨てて、そして辿り着いた先に待つは空虚だった。自分は何が好きで、何をして喜ぶのかさえ分からなくなってしまっていた。

 

 あれだけ好きだったものがそう思えなくなった。まるで、自分を後ろから見つめているかのように思えた。

 そこで笑っている人たちを、ガラスの壁を隔てて眺めているかのような気さえした。

 

 そんな空虚を、欠落を埋め合わせようとした。自分を壊して、空虚ごと消し去ろうとした。少し過激な思想に傾倒しかけて、それでも埋められなかった。

 

 何も残らない、何も感じない。何もない。

 進学校は周りみんな敵で、塾だなんだとバイトも禁止で、思い描いていた高校生活なんて夢のようだった。友情なんてなかった。

 

 勉強はみんなやっている、やって当然だ。点が取れないで、お前は何になれるんだと怒鳴られた。

 やってもやらなくても罵声が待つ。いい点を取ったと言ったら、周りからは何の自慢だと白い目を向けられる。敬意なんて誰からも得られなかった。

 

 そして、恋人なんているわけもなかった。両親さえ、見ていたのは俺じゃなくて俺の点数とか、将来の身分だったんだろう。俺のためじゃない、自分のためだったのだろう。そんな中に、愛情なんてなかった。

 

 そんな世界に生きていたからこそ、この世界が心地よく感じるんだ。死ぬ事がなんだ、体が死ぬか心が死ぬかの差でしかないんだから構うものか。

 

 何度も繰り返してきた生と死。撃たれ、爆発に身を引き裂かれ、血を失ってゆっくりと緩慢な死を迎えるのでさえも、俺には心地よかった。

 

 そうして死をくぐり抜けて戦い抜いた果て、そこに俺の欲しかったものがあった。

 

 確か、Reservだったな。ソロでキルムーブしに行った時に出会った。激しい銃撃戦の果てに、乱入してきたボス集団を相手に共に戦うことになった。

 さっきまで殺し合っていたのに、その時は背中合わせになって、一緒に戦利品を担いで脱出したっけな。

 

 その時に名前を知った。それこそリョーハだった。今でこそ組む事が減ってしまったが、俺の最高の相棒。

 他の誰かをパートナーと呼ぶことはあっても、相棒と呼ぶのはこいつだけだ。気心知れた友達というのが、初めて出来た気がした。

 

 それからは奴と一緒に暴れ回った。チーターを疑われたこともあったけど、ただ作戦勝ちしただけだ。

 SNSを通じて、タルコフのプレイヤーたちに名前が知れていった。いつしかデアデビルの名と共に、多くの人たちからの敬意をこの身に受けた。

 

 愛情は……そうだと信じていいのだろうか。戦いの中で死んでいきたいと、最前線へと走っていこうとする俺の手を握って、あるいは側で守ろうとする少女が俺に向ける感情をそうだと思っていいのだろうか。

 結局言えずにきてしまったこの場所で、信じてもいいのかいまだに迷っている。

 

「レイジ」

 

 ふと、聞こえた呼び声に目を覚ます。暗い洞窟を照らすランタンが、ぼんやりと彼女の顔を浮かび上がらせた。

 優しく微笑むコハルは、俺の寝顔をずっと見つめていたのだろうか。それに、コハルの笑顔がすぐそこにあるだけで嬉しい。いてくれるだけでいいとさえ思える。

 

「交代の時間か?」

 

「うん。起こしちゃってごめんね」

 

「そういう約束だからな。2時間後に起こすから、ゆっくり休んでくれ」

 

 11層は砂漠で、砂嵐がひどい。そんな砂嵐に阻まれて、俺たちは主街区に辿り着けなかった。だからこうして、洞窟の中で一夜を明かすことになったのだ。

 

 安全地帯だが、念のために交代で見張りにつくわけだが、話し相手がいないとやはり暇だ。俺の横で無防備にもスヤスヤ眠るコハルの顔を見たり、銃をガチャガチャ弄るしかやる事がない。

 

 グローブを外してそっと頭を撫でると、コハルは心地良さそうに微笑んだ。ずっと一緒に戦ってきたパートナー。最初は依存のようにも思えたが、今は彼女も対等か、それ以上に戦っている。

 

 もう、俺なんて必要ないよね。そう思ったことは何度もあった。だからこそ、俺は俺らしく戦いたくてボスに斬り込みを仕掛けていた。それなのに、彼女は俺の生還を願い続ける。

 走りたいのに、重りでも括り付けられたような気分がする。思うように動けないことへ不満は募るけれども、それ以上に心地よくさえ思っていた。いつしか、コハルと行き着く先まで生きていたいと思える程に。

 

 コハルとならば、あの地獄のように思えたリアルさえもが楽しくなるのだろうか。色の消えたあの世界に再び色が戻るのだろうか。

 

 そう考えながら暗闇に目をやると、その向こうに人影が浮かび上がって見えた。PMCでも何でもない、何の変哲もない大学生。リアルでの俺が、悲しそうな顔で立っている。

 俺は静かに、それで確実に銃口を自分へ向ける。安全装置はまだ解かないが、俺にその意思があるとだけ理解したらしい。俺が少しだけ笑っているように見えた。

 

 安心しろ。何がどう転ぼうと、いつかお前を殺してやるからな。

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